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第1章・・・旅立ち

18話・・・ヴェネトラ6

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エルドは「お兄様」と呼ばれたことが酷く不愉快だった。反吐が出そうで、精神衛生的にも害だった。まるでデカいミミズに身体を這われているような感覚だった。気持ち悪くて気色悪い。

「コアさん。今だけなら貴方の気分に乗ってあげてもいいかもしれませんね」

エルドは眼を見開くと、銃を天高く突き上げた。その姿にヘスティアは悪夢が蘇る。

「エアル、下がって!」

ヘスティアが阻止しようと銃を撃つ前にエルドが先に引き金を引いた。その瞬間、おどろおどろしい焔が巻き起こり、竜巻の如く空へと昇っていく。

「うあああああああ!」

「っきゃあああああああ!」

逃げようとするが火災旋風に巻き上げられ、足が地面から離れ飲み込まれた。
エアルは死んだと確信した。灼熱地獄に焼かれ一瞬で体が灰になると思うと恐ろしかった。だが違った。淡い炎が体を包み、この地獄から守っている。

「この炎…ヘスティア?!大丈夫か!」

「火は火でも防げます!」

間一髪のところで命拾いした。だが、ヘスティアの魔力ではそう長くは持たない。エアルはヘスティアに向かい腕を伸ばし、ヘスティアもエアルの考えに気づき手を差し出した。巻き込まれた瓦礫を土台替わりに使い数メートル離れていたお互いの手をなんとか掴む。

「行くぞ!」

ヘスティアを投げ飛ばし、遠心力で焔の竜巻から飛び出す。外に出られたが、随分高所にまで飛ばされていた。肺が燃えそうなほどの熱風がエアル達を襲う。

「息がっ」

「ハァッ!落下するぞ、掴まってろ!」

エアルは銃を下に向け魔弾を打ち衝撃を和らげようとタイミングを見計らう。

「エアル、あれ!」

今度は地鳴りを上げながら巨大な樹の幹が螺旋を描きながら急成長し、エアル達に衝突する。エアルは咄嗟にヘスティアを抱きこんだ。

「ッカハ!」

「エアル!」

叩きつけられ、大木とは言えバランスが取れなければ落下する。転がり落ちそうになるのをヘスティアが樹皮を掴もうと指を立て、何とか止まった。エアルは咳き込みながらも起き上がった。

「大丈夫?」

「わりぃ…助かった。んだよ、この人間離れした技はよぉ」

「お褒め預かり光栄です」

銃弾が飛び、エアルはヘスティアを突き飛ばし、自分も避けるが左肩を掠める。

「痛ッ!」

「あぁ、失礼しました。エンチャントモードではありませんでしたね。無駄に痛い思いをさせてしましました」

太い幹の横から生えた中太の枝に乗り楽しそうに登場したエルドはニコリと微笑む。

「お兄さんもしかして銃の扱いは不慣れ?それとも甚振るのがお好きとか?それとも妹の仲間を殺すのが忍びなくてわざと外した?」

エアルの挑発に、エルドの目元がピクリと引きつる。

「私は家族もいなければ、マルペルトに散々な目に合された身なんですよ。赤髪を見るだけでも腸が煮えくり返る」

エンチャントモードへ変わると、銃口を再び向ける。

「もうお前の顔など二度と見たくない」

憎悪を見せたその表情は、エアルではなくヘスティアへ向けられていた。
魔弾が放たれた。目を見て、真っ直ぐ憎悪に満ちた言葉を刺されたヘスティアは一瞬喪失し、反応が遅れた。

「ボッとすんな!」

エアルが素早く魔弾を二発撃ち、火属性魔弾を相殺した。

「…流石無属性」

実際、エルドも無属性と戦うのは初めてだった。どう戦うか、何が弱点なのか。これからじっくりと探っていけばいい。

「いいかヘスティア。ショックなのは解る。だけどな、いちいち兄貴の言葉一つで左右されていたら守りたいものも助けたいものも全部パーになるぞ。お前の命もな。覚悟が出来ないなら、死んで詫びてやったほうが兄貴のためなんじゃないか」

かなりキツイ言葉を投げつけた。でも、それくらい言わないとヘスティアがエルドに情緒を乱されるだけで足手纏いになり、彼女自身の命も危険を及ぼす。それなら、発破をかけて、一か八か試した。ここで折れる様なら…エアルの答えは決まっていた。

「いいぞ…いいぞ、エアル!女を守り、エルドの魔弾さえも相殺させる!俺はお前ともっと戦いたい、本気の殺し合いをしたい」

尖端にいたコアがのしのしと下りてきて、歓喜に満ちた顔でエアル達を見下ろしていた。エルドはコアが邪魔に入ったのを少し不機嫌そうに横目で見た。
エアルは思わず苦笑いする。

「ハハ、アハハハ!お前達、ヤバイって!こんな魔法攻撃使うとか頭どうかしてんじゃねーのか?」

「そんなことは無い。お前も頂点に立てば出来る」

コアは銃を構えると撃ち始める。エアルが対抗するも相殺され肝心のコアまで届かない。

「クソッ、本当お前って厄介だよな!」

連続して撃つもコアが幹に向けて撃った魔弾が根を生やし、枝を生やし無属性魔法を吸収し相殺していく。


――エアルの言う通りだ。
何度兄を救うと誓っても、いざ目の前に現れたら何も出来ず、一言一言に傷ついて…。それ以上にお兄様は苦しんだのに。私は一体何をしているのだろうか。
エアルの言う通りだ。
命をもって詫びたほうが兄のためだ。
だけどそれは、私が望んだ未来じゃない――


「エアルだけじゃないわよ!」

目つきが変わったヘスティアが火属性魔法の火球をコアに向け発砲する。

「女は出てくるな!下がっていろ!今俺はエアルと戦っているんだ!」

コアは余程神経を逆なでされたのか、荊の球体の魔弾を撃ち、ヘスティアの体を掠めていく。

「くっ!」思った以上の痛みが走り膝をつく。

荊の球体はヘスティアの太ももを掠ったが、棘のせいで無数の傷が出来、血が滲みタラタラと流れている。

「ヘスティア!」

「女の心配をしている場合か?」コアが不機嫌に問う。

「テメェ…」

「エアル、覚えているか?俺は銃が苦手だということを」

「…それが?」

エアルは手で逃げろとヘスティアに合図する。ヘスティアはよろめきながらも立ち上がり、警戒しながら後退る。
コアの背負っている物体がエアルは不気味で仕方なかった。予想していた。銃が不得意だとしたら、残るは剣だと。しかし背負っているケースの大きさを見る限り、予想が当たっているとしたら…
それは本物なら怪物もいいところだ。

「さあ!始めよう!俺達だけの時間を!!」

「走れ、ヘスティア!」

ヘスティアは坂になっている幹を今出せる全力で駆け降りて行く。
コアは背負っていた高さ百五十センチメートル、幅は三十センチ程の剣を持ち出すと、銃の柄を取り外し、変形させ、剣をはめ込みジョイントさせる。

『ジョイントカンリョウ。ソードモードカンリョウ』

「貴方が剣を使うほどの相手では、」

エルドの小言を無視し、コアは飛躍し待ち構えていたエアル目がけて剣を振り下ろす。エアルは避けるが、コアの脚力なのか、剣の豪快さなのか、幹が耐え切れずバギン!と割れる。

「ほんっと、こんゴリラ!」

エアルは足を踏み外し、下の幹に落下し転がる。

「エアル?!大丈夫なの?!」ヘスティアが思わず立ち止まる。

「振り返るな、走れ!」

後ろ髪を引かれるが、ヘスティアはエアルの言葉を信じ再び走り出す。

「まだまだぁ!逃がさんぞ、エアル!」

コアはまた剣を振り下ろし、幹をぶった切っていく。荒く割れた破片が落下するエアルを傷つけていく。

「あと三段で地上だ!誰の邪魔も無く戦おう!」

「誰が戦うかボケェ!」

エアルは魔弾を三連発で撃つが、コアが弾き返してしまう。

「クソ!」

その時だった。上に逃げ遅れたヘスティアがいたのだ。幹が割れたせいで道が閉ざされ立往生している。ここでヘスティアにブーストを使わせて逃がすか?だが本当にこのタイミングで大丈夫か?もし使い時を間違えたら自分は兎も角、ヘスティアは殺される。
エアルが一瞬迷った時だった。

『エアル!』

マジックウォッチからジョンの声がすると、轟音を立て、エアロバイクがエアルの横切ろうとしていた。

「おやっさん、本当にくいねぇ!」

エアルはエアロバイクに飛び乗り大きくUターンをすると上昇しヘスティアを救出し走り出す。


「エアル、大丈夫ですか?!」

「あぁ、なんとかな!おやっさんのお陰だ、反撃行くぞ!」

「えぇ!」


…数分前。マスタング商会でも戦いが始まっていた。黄昏の正義が攻め込んできていたのだ。従業員と戦える住民で迎え撃っていた。

「兄貴!エアル達が危ねぇ!」

双眼鏡を覗いていたジルが叫ぶ。

「あぁ?!こっちも今手が離せんぞ!」

「エアルが殺されそうだしヘスティアの嬢ちゃんがピンチだ!」

「ジョーイ達はまだ着かんのか…!」

「それがなんか変な小娘共に絡まれてる!」

ジョンは唸り声をあげ、苛立ちを露わにした。ただでさえエアル達がピンチなのに、ジョーイ達はまた別の厄介者に絡まれているとなると、もうひっちゃかめっちゃか、てんやわんやだ。

「しょうがねぇ、あんま我が子同然のコイツ等を手荒な真似をさせたくはねぇが」

ジョンは一台のエアロバイクを蒸かし、壊れた壁に向ける。浮上しいつでも発進できる状態のバイクに、魔法発動用の手袋をしたジョンは、魔力を込める。

「頼む、エアル達を助けてやってくれ。反発魔法!」

そう叫ぶと、手袋とバイクは磁石が反発するように弾かれた。バイクは猛スピードで巨大な焔と大樹の元へ飛んでいった。


ジョンの願い通りエアル達を助けたエアロバイクに乗った二人は、コアの攻撃をかわし、反撃しながら今後を考えていた。

「どうするの、これから」

「逃げた所でマスタング商会に乗り込まれたら虐殺されるだろうな…」

「なら、決まりね」

「あぁ。捕まってろよ、ヘスティア!」

エアルは銃を構えるとエルドとコアに向かい魔弾を撃つ。

「空中戦か!受けてたつぞ、エアル!」

コアは黒い球体を真っ二つに斬ると、銃の部分のトリガーを一発引き、剣が緑の光りに溢れるとエンチャント・マジックソードモードに切り替わる。マジックソードは更に木の如く成長し、全長二百五十センチ、三十五センチの幅、そして厚みも加わった。

「さあ、来い!」

「仕留めてやらぁ!!リロード!」

エアルの銃に銃弾が補充される。そして銃は息を吹き返したように黒い光を放つ。
本格的な戦闘が幕を下ろしてしまった。
エルドは当初予定していた仕事は完遂しており、もうここに用は無かった。後は黄昏と四姉妹が始末する手筈だったのに。

「コアさん…コア!ダメだ、聞こえていない…。もう私達の仕事は終わったのだから、後は四姉妹に任せて帰還しましょうよ。…おい、コア!…ハァ。自分の身くらいは自分で守りますか」

エルドはエアルの攻撃に魔弾を放ち応戦する。
エアルとヘスティアは空中であることを活かし、三百六十度利用して魔弾を撃ち放ちコアを攻めていく。
縦横無尽から無属性と火属性の攻撃を受けるも、剣をぶん回し全ての魔弾を相殺させていく。

「ハハハハハ!楽しい、楽しいぞ!エアル!二人きりでならもっと楽しくなるぞ!その足手纏いを捨ててしまったらどうだ?!」

コアは剣を幹に刺すと、幹から枝が生えヘスティアに向かい襲い掛かる。
ハンドルを切り返そうとしたエアルに、ヘスティアがそっと肩に手を置いた。

「エアル、逃げなくていいわ…私だって、戦える。もう目を逸らさないわ!」

ヘスティアは背負っていたケースから剣を取り出す。そして銃を切り離し、剣と銃をジョイントさせる。線の細い剣は、紅く煌めくと刃に美しい炎が走る。
ヘスティアは構えると、襲い掛かる枝の芯を捉え、真二つに裂いていく。斬られた枝は相殺の影響で枯れ枝となりポキポキと折れていく。

「ん?あの構え…」

コアはエルドを見るが、当の本人には無視された。

「素晴らしい…最高だ…エアル。そしてヘスティアといったか。お前の事を過小評価していたらしい。今日は特別だ。どちらかが死ぬまで三人で楽しもう!」

コアは剣を大きく振り回すと、枝や幹が生え二人を襲う。

「落ちるなよ、ヘスティア!」

「エアルこそ、運転ミスしないでくださいよ!」

エアルはエアロバイクを器用に操縦しコアに向かい発進していく。スピードに乗り、枝を避け、そして銃で魔弾を放ち、無属性魔法で木を枯らしていく。

「いい!いいぞ!その調子だ…強い者が戦う、そして勝った者のみが更に強くなれる!弱きものは死ぬ!エアル、ヘスティア!お前達はどっちだ!!」

コアは興奮しだし、幹を生やすとエアル達のバイクに突進していく。エアルは銃で対抗し魔弾を放ち、コアが剣で相殺する。その隙にヘスティアの剣が切りかり、エアルは幹で足場が出来たことを利用し、コアを中心に旋回する。

「傷つけられた分は返します!」

そしてついにヘスティアはコアの左肩、腹、太ももを切りつけた。火のせいか、血は出ず生焼けのように肉が抉れていた。

「あぁ…この痛み、素晴らしい!女が俺に傷をつけるなんて、初めてだ!」

「それは不名誉です。嬉しくありません」

コアは大量の荊をエアル達に向け襲撃する。
ヘステティアは剣を掲げると、目が醒めるような鮮やかな火の鱗粉を舞い上がらせ、荊や木に引火し徐々に燃え広がっていく。

「まだだ!まだ楽しもう!」

コアは枝を生やしエアル達を呑み込んだ。すると呑み込んだ枝の球体が火に呑み込まれ、爆風と共にエアロバイクを運転しているヘスティアが現れる。

「ヘスティアが?」

コアが警戒していると、ヘスティアが銃で火球を放つ。

「まだ甘い!」

魔弾を斬ると、目の前にはまた火属性の魔弾が迫っていた。

(どういう…?まさか?!)

ボン!と火球がコアにぶつかり小爆発を起こす。

「ウガアアア!!」

ヘスティアは空中でバイクを止めると、エアルに呼びかけた。

「急だったけど、一発だけでも魔力供給出来てよかったわね」

「まあな。俺の魔力クラスならコアに少しでも近づけるからな」

あの枝に呑み込まれた時、数秒だけを利用し、エアルのマガジンボックスにヘスティアの魔力を供給した。結果、一発勝負となったわけだが。
今のエアルの実力では、無属性魔法でコアの魔力を減らすことは出来ても、完全に無くせるわけではない。なら、体力を削るため身体ダメージの大きい火属性魔法を使うことを選んだのだ。
顔に集る煙が晴れると、白目を向き気絶しているかのようなコアがいた。が、コアは気絶しているにも関わらず、笑い始める。

「ハハハハ!ガハハハ!!!」

高さは五十メートル以上ある幹から、コアは短い助走をつけた後、強靭な脚力で跳びバイクに乗るエアル達に斬りかかる。
至近を取ったがコアの脚力を甘く見積もっていた。エアルが咄嗟に銃でコアの剣を受け止めようとするが、剣は囮だったようでエアロバイクに蹴りを入れ、エアル達はよろめき突き落とされる。

「ブースト!」

ヘスティアはエアルを掴むと、ブーストを発動させ、その場から瞬時に姿を消し、やっと地上に戻ってきた。
コアはエアロバイクと一緒に落下し、その勢いのまま真下にあった工場ごと破壊した。
降り立っていたエアル達は、あまりの光景に息を飲んだ。

「…化物かよ」

土埃の中から、コアの影が現れる。そして、また瓦礫から降りてくる。

「さぁ、続きをしようか」

エアルは、バイクを蹴られた拍子に足を挫いていた。苦笑いをしつつ、これからどうするか必死で頭を回転させた。


リアム達もピンチを迎えていた。四姉妹に囲まれ、どうするか判断を決断するところだった。
ドーーーン!!!!

「なんだ!」

焔と大樹の柱の向こうから土埃が立ち昇る。

「おっ。コア様が剣を使ってんじゃねーの?全く、自分はご自由でいい御身分だぜ」

エリーニュはキレながら唾を吐く。

「けん…ケン、剣」

メイラがブツブツ言う。
それを見ていたアレークがエリーニュを煽り出す。

「エリーニュ姉さん。お姉さん。早く無属性をコア様の所へやらんと怒られますよ。連れて行ったら、そこでお終い。それまで楽しんでみたらどうですか?」

「あぁ、そうだったなぁ。追い込み漁しないと怒られちまう」

エリーニュはニタニタと笑うと二丁の銃をリアムに向けて乱発する。

「きゃあ!」

「逃げろ!」

建物の陰に隠れ、向こうの様子を窺う。

「おいおい、逃げんなよ!無属性、私の相手しろや!!」

エリーニュがヒステリーを起こし、足で瓦礫をガンガン蹴る。
リアムは舌打ちをすると、持っていたガトリングガンをマノンに渡す。

「こうなったら俺が囮になる。そこで残った相手を倒せ。いいか?マノン、レイラ」

「OK、何とかしてみせるわ。ヘスティアさんとエアルさんの事、よろしくね」

「ねぇ、このガトリング、私が使ってもいいの?」

「あぁ、好きなだけ使え」

そう言うとリアムは飛び出し、エリーニュを挑発する。

「おい、粗暴女!相手してやるからこっち来いよ!」

「おーぉ!いいねぇ、いいねぇ!!殺りあおうじゃん!なぁ!おい、ティーシ!行くぞ!」

「あぁ!待って、待ってよぉ!エリーニュお姉ちゃん!」

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レイラは息を吐き、気合を入れる。
マノンは銃の柄の部分を外し、ガトリングとジョイントさせる。

「おぉ、すご」

「マノン。行くわよ」

レイラとマノンが飛び出すと、アレークが気づき、ニコリと無害そうに笑った。

「よかった。とても気の強そうなお姉さんとお嬢さんが残ってくれて」

「何?もしかして見逃してくれる感じ?それならさぁ、貴女達のボスにお願いしてよ。ヴェネトラから帰ってくれってさ」

アレークは顎に手を添え、首を傾げる。

「ボス。うーん。コア様達はボスではないんですよねぇ…。なので伝言は出来ません。それより、聞いてくださいよ。妹のメイラは、お人形を作るのが得意なんです…いい素材を見つけるのに、一生懸命なんですよ…」

薄ら開いている眼…その奥…。真っ黒でなんの感情も見えない。

「お人形の素材、みっけ」

自身と同じ背丈の大剣を振りかぶったメイラが跳びレイラ達に襲い掛かる。レイラはライフル銃で魔弾を撃ち、金属がへばり付きメイラの大剣を更に加重する。
「あ」ぼんやりしたまま、メイラは重さに耐え切れなかったのか、よろめき、尻もちをつく。

「マノン!」

「オッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

マノンは受け取ったガトリングガンに魔力を供給し、ぶっ放す。マノンはハイになり、ゾーンに入りかける。眼の瞳孔は細くなり、口から冷気が零れ、弾丸は氷の鋭利な魔弾に生まれ変わる。
アレークとメイラに命中したり、外れたり。だがマノンは気にせずぶっ放し続ける。

「あのお嬢さんヤバ…メイラも油断するなよ。ほら、盾作ってくんない?」

「うん、いいよ」

全く反省の色を見せないメイラは剣を地面に刺すと、金属の盾が出来上がる。そこに魔弾が当たり続け蜂の巣になっていく。
シュー…。ガトリングが弾紛れする。

「ハァ…ハァ…なにこれ、楽しい…気分いいわぁ」

マノンはどこか高揚し、頬を赤く染めていた。

(リアム、マノンが変なこと覚えたかもしれない)

レイラが敵方を確認すると、姉妹の反応が無い。

「やった…?」

その時、盾からメイラが跳び出し、マノン目がけて大剣を振り下ろす。
マノンは咄嗟にガトリングを盾にして受ける。しかしメイラが力技でガトリングを破壊する。バキン!と無残な音を立て、二つにばらけたガトリングが散乱する。

「あぁ!折角のガトリングがぁ…!」

そこにレイラが撃った銃弾がマノンとメイラを分断させる。メイラは驚いて距離を取った。

「一旦引くわよ!」

「おおうよ!」

レイラとマノンが路地へ走っていく。
メイラは嬉しそうにクスクスと静かに笑う。

「さ、お人形作り、始めましょうか」

メイラの、光りの無い瞳にはマノンの後ろ姿が焼き付いていた。
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