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第1章・・・旅立ち

15話・・・エルド・エマーソン

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エルド・エマーソン。マルペルト国、国王の第二子であり、第二王子。父である国王の下で政治、経済、帝王学を学び、国を豊かにしたいと願い尽力してきた。国王の息子というプレッシャーにも負けず、輝き続けた。
剣術、魔法操作にも長けていた。魔力もAクラス。文武両道、眉目秀麗。時期国民という夢と期待を一身に背負った男だった。
これは父からも、国民からも理想の息子、理想の王として尊敬と敬愛を向けられていた男が転落していく、哀れな昔話。

・・・
夜。過去の偉人が遺した書籍を読み終え、就寝の準備をしようとソファーから立ち上がった時だった。ドン!と乱暴に足蹴りされ扉が開かれる。そこには兄、タナスの親衛隊が揃い、エルドを鬼の形相で睨んでいた。

「部屋に入る時はノックをしなさい。王族に対し、無礼極まりないぞ!」

「黙れ、反逆者!エルド・エマーソン。貴様が謀った国王陛下暗殺の陰謀は暴かれた。観念するんだな。連れていけ!」

「はっ!」

親衛隊隊長が号令をかけると、二名の隊員がエルドの両脇を押さえつけ無理矢理連れ出そうとする。

「やめろ!父の暗殺?何をふざけたことをほざいている!お前達、騙されているのではないか?!誰に唆された!」

すると隊員の一人が警棒でエルドの後頭部を殴打した。

「うっ!」

もう彼等は自分を王子として扱うことは無いらしい。手加減無しの本気で、殴ってきた。そのせいで額から血が少量垂れていく。眩暈もする。

「黙れ、この犯罪者が!この情報はタナス様が慎重に捜査し、掴んだ確かな情報なのだ!我々は騙されていない。騙しているのはお前のほうだ!」

「にいさま、が…?」

時間差でダメージが追ってくる。目の前が白くなっていく。意識が遠のく中、親衛隊の連ねる言葉がぼんやりと耳に届く。

「ふん。今まで気に入らなかったんだ。第二王子のくせに賢くなりやがって…お高く留まっているお前に暴力振るっても許されるなんて最高だな」


それが先程起きた出来事だ。
エルドは現在、警察署の牢に入れられていた。コンクリートと鉄で作られた部屋はとても寒い。幸いなのは、寝間着に着替える前だったことだろうか。まだ服を着ているから、寒さは凌げる。エルドは体育座りをし、体を密着させ暖を取る。

(私が父様を暗殺…?そんなことする訳がない。父を尊敬し、愛していたのだぞ。国のために、頑張ってきた…。大好きな父の国をさらに良くしたいだけなのに。…なのに、なんだこの仕打ちは!)

ギリギリと歯を食いしばる。

(兄様の仕業か?自分が時期国王になりたいから?いや…何かの間違いだ。私達は兄弟なんだ。力を合わせていけば、もっと!)

エルドは膝に顔を埋める。

(ヘスティアとマーガレットは無事だろうか。ヘスティアは私を慕っていてくれている。その流れで冤罪をかけられていなければいいのだが…。マーガレットはまだ子供だ。罪を被せようとはしないだろう。私一人だけなら、なんとか冤罪であることを証明できる。大丈夫だ…何とか無実だと証明出来る算段を考えろ)


「起きろ、エルド・エマーソン」

看守の声でエルドは眼が覚めた。昨夜、考えているうちに寝落ちてしまったらしい。

「私は、無実の罪を…」

「黙れ。これから申し開きの時間だ。国王と親族の前での発言を許す。では歩け」

「誤解だ、何かの間違いだ!」

エルドは縄で両手首を縛られ腹にも縄が巻かれる。足枷を装着され、完全に逃げられないようにされる。抵抗しても無理矢理引っ張られていく。

「足掻いても無駄だ。ふっ、まるで犬の散歩だな」

「…ッ?!」

冤罪を科せられ、挙句の果てには犬扱い。こんな屈辱、生まれて初めてだった。
護送車で王宮に戻ってくると、そのまま連行され国王の間に通される。玉座には体調が悪いのに無理をして座っている国王。その横にタナス、ヘスティアが並び立っているが、マーガレットはいなかった。そして側近が並び、最後にアスクが立っていた。

「罪状を読み上げろ」国王が命令する。

側近が一歩前で出て、マジックウォッチに記入された罪状を読み上げる。

「はっ。エルド第二王子は、国王暗殺未遂、マフィアとの共謀、マーガレット第二王女強姦、これからの罪により裁判にかけられます」

「何を言っている?!私は父を暗殺しようなどとはこれっぽっちも考えていない!それに、マーガレットを暴行しただと…?私達は兄妹なのだぞ!そんなこと、ありえない!」

エルドは暗殺の他に、実の妹を犯した罪も被せられている事実に激怒し、声を荒げる。

「実の妹とは云え、腹違いの妹…ましてや、庶民から王宮に入ったマーガレットの立場が弱く、声を上げにくいことを承知で暴行したのではないか?」

タナスが白い目で見下してくる。

「兄様、そんなことしていません!」

「ふん。順を追って裁いていこうじゃないか。エルド。まずは国王陛下暗殺についてだ。一体、何で暗殺を謀った?」

「謀ったって…。私はそんなこと企んでいません。殺すも何もありません」

タナスはわざとらしく額を手で多い、残念だと言わんばかりの溜息を吐く。

「しらばっくれるか、エルド。お前には失望した…。アスク医師。証言を」


「はっ、タナス様」
エルドは、僅かに違和感を覚えた。なんと言えばいいのだろうか。いつも自分と話すときの声とは違う。怯えているとも違う。媚びを売る…そう、タナスに媚びを売るような声で、ありもしない証言を発言していく。

「国王を殺したい、だからこの毒薬を毎日少しずつ入れるよう指示されました。断れば、ありもしない罪をでっちあげ、私を極刑にすることもできると脅されました…!」

「私はそんなことを命令していない!純粋に、父の治療を任せたいと相談しただけだ!」

「エルド様、もう観念なさってはどうですか?私はエルド様から渡された毒薬を保管しております…」

すると親衛隊が、毒薬の入った薬包紙がビニール袋を証拠として持って皆に見せつける。

「そんな薬渡してない…信じてくれ!アスク、お前は一体どうしたのだ!」

アスクに訴えても、そっぽを向かれてしまう。ここでやっと主治医に裏切られたことを理解したエルドは、助けを求めるようにヘスティアを見た。しかし、眼が合うとヘスティアは青ざめ、顔を俯きエルドから眼を逸らした。

(ヘスティア…?どういうことだ、お前も、アスクの言い分を信じるのか…?)

体の中から、パキッと罅が入る音がする。
側近が続け、エルドの指紋が出たことも説明された。もう全てが嘘で、冤罪なのに、誰一人として自分を庇う者がいない。

「それに、エルド。お前は犯罪組織の撲滅を推進していたが、結局黒いお仲間と仲良くしていたのはお前のほうだったな」

タナスが、マフィアとエルドが親しくしている写真を見せる。エルドにとっては身に覚えのない人物達。
エルドは確かにマフィア撲滅に動いていた。しかし彼等は親衛隊に入り足を洗うもの、今では借金や慰謝料、養育費の取り立て業務を任せ被害者、あるいは弱い立場になってしまった人達にちゃんと支払われるように仕事を与えた。現在ではすっかり落ち着き、暫くすれば自然解体となるはずだった。
だが、こいつ等は知らない。顔を見たことも無い男と、自分が笑いあっている写真だ。

「誰ですかそれは…!その写真は捏造です!マフィアから足を洗い親衛隊に所属した者に証言させます!彼はマルペルトに根付いていたマフィアではありません!」

「何を言っている。今のご時世、合成写真と合成映像は精密過ぎて真偽が判断出来ないから製作禁止、作ったら犯罪になる。それは法学を学んでいたエルドならすぐ解ることだろう。誰がそんなリスクを犯して一国の王子とマフィアの写真を偽造するんだ。それに、身内で証言をされると嘘を吐かれる可能性がある。信用できん」

「それは…!でも私はそんな奴等知りません!」

「お前がしらを切っても、マフィア共はお前と連絡を取り合っていたと認めたぞ」

「は…?」

どういうことだ。一体、誰が自分を嵌めようとしているんだ。
混乱するエルドをよそに、側近が次の罪状を読み上げる。

「次に、マーガレット王女を強姦した罪についてです」

「そんなことしていない!マーガレットは私に犯されたと誤解しているのではないか?!それか、違う誰かに脅され、私を落とし入れたい誰かに嘘を言わされているのではないのか?!!!!」

「これについて、マーガレット王女から証言を得る予定でしたが…王女は?」

側近が尋ねると、マーガレットの侍女が手を上げ、発言の許可を求める。側近が発言を許すと、侍女は振り絞り声を上げる。

「マーガレット王女は、被害に負けたくないとここで発言をする予定でございました。ですが、直前になり、やはり…怖かったのか、過呼吸と震えが起き、王の間へ行ける状態ではないと判断し、今はお部屋で休んでおります」

女中達が、ヒソヒソと声を上げる。マーガレットを同情する声、勇気ある王女だと称える声、そして、エルドが最低な男だと蔑む声…。
一体、何が起きているのか解らなかった。エルドは、マーガレットを可愛がっていた。それは妹として、ヘスティアと同じように大好きだった。剣術の稽古を見学しにきたり、自分とヘスティアにくっついてきたり、良好な関係を築いていたと思っていた。だが、なんだ。彼女は、何故自分に犯されたと嘘を吐くのだろうか。

「マーガレットの代弁として、私が発言をしてもよろしいでしょうか」

手を上げたのは、ヘスティアだった。側近が許可を出すと、ヘスティアは静かに話し始めた。

「昨夜、マーガレットがエルドお兄様に暴行を受けていた事実を話してくれました…最初、私は信じられませんでした。でも、決定的な証拠を見たのです」

「ヘスティア…?なにを」

「マーガレットの尊厳のために、お見せすることは出来ませんが。マーガレットは私にだけ見せてくれたのです。いつか告発するときのために隠し撮りした映像を」

・・・
…深夜。父の部屋から帰りに付いたヘスティアは中庭で星空を見上げていた。子供の頃、よくエルドと星空を見上げ、星座を見つけて遊んでいた。当時まだ生きていた母が、風邪を引きますよ、とカーディガンとホットミルクを用意して来てくれた。三人で星空を見上げた。

「ヘスティアお姉さま…さっきは、助けてくれてありがとう」

「!マーガレット…大丈夫なの?部屋に戻らなくて。明日から、私のケアも担当してくれている産婦人科の女医と医者が来てくれるから…メンタルケアは、お父様が手配してくれる。マーガレットが安全に過ごせるように、私達も尽力するから」

「お姉さま…!」

マーガレットはヘスティアに抱き付いた。ヘスティアも、力一杯彼女を抱きしめ返した。

「…あのね、お姉さま。お姉さまは、きっとエルドお兄さまのこと、まだ信じてると思うの。わかるわ、大好きな人が犯罪者だなんて、思いたくないもの…」

「マーガレット…」

「でもね、お姉さまだからこそ、見てほしいの。いつか告発するときに役立つと思って隠し撮りしていたの。でも、私のこんな姿、皆に見せることになるって思ったら…辱めに合うんだと思うと、耐え切れなくて」

マーガレットがマジックウォッチで映像を見せる。そこには、全裸の男女。マーガレットに覆いかぶさるエルドと、屈辱に耐え、涙するしかないマーガレットが写っていた。
信じたいと思っていた細い糸が、プチンと完全に切れた。

「う、ォエエエ」

ヘスティアは思わず吐いた。

「お姉さま!」

「だ、大丈夫…ごめんね、マーガレット。ごめんね…」

・・・
王の間が静まり返る。確固たる証言と、証拠が出てしまったのだ。もう女中達は喋ることなく、ただエルドを睨みつけていた。女の敵だと。

「エルドお兄様…一体、どういうことですか?!」

「どうもこうも、私はマーガレットを犯してなどいない!ヘスティア、君は一体何を見せられたんだ!!私達は兄妹なんだぞ!ありえないだろう!」

その言葉は、ヘスティアの心に残酷な矢として串刺した。

「貴方が妹を犯している映像です!!声も、顔も、お兄様でした!私がどんな政策に力を入れてきていたか知っているでしょう!」

「知っている、だから!!」

「両者静かに!」

側近の制止に、二人は黙った。

「エルド、最期、父上に話すことはあるか?」

タナスの言葉に、エルドは睨む。

「お父様…お父様なら、私のことを信じてくださいますよね…?傍に、傍で私の事を見ていてくれたお父様なら、私が今断罪されているのは冤罪だと!」

もうエルドの心は限界だった。ヘスティアは完全にマーガレットの証言を信じている。アスクにも裏切られた。罅が入った心が、ボロボロと破片が落ちていく。
エルドの最後の乞いに、国王の眼差しは、もう息子として、人として見ていない…人間以下を見るような眼差しだった。

「エルド。お前がアスクを紹介してくれた日から、体調が良かったのは確かだ…。だがそれが、毒の成分のお陰だったとはなぁ。飲み続けていたら、違法薬物と同じようにハイになり死んでいたと言われたぞ。毒薬を飲むのをすぐ辞めてから、身体が怠く仕方ない。ここに座っているのも辛い。よくも私を謀ったな。そして、マーガレットをよくも犯したな!」

「違う…違う!私は無実だ!これは冤罪だ!嵌められたのは私のほうだ!」

暴れるエルドを親衛隊が取り押さえ、床に押し付ける。

「エルド…優秀な弟で、俺の誇りだったよ」

見下ろしてくるタナスが、顔を歪ませ嬉々を見せる。
その瞬間、エルドはタナスに嵌められたと気がついた。全てタナスが仕組んだのだと。アスクを唆したのも、マーガレットをどうにかして手玉に収めたのも。父の考えを誘導したのも。ヘスティアを引き入れたのも。

「タナス、貴様あぁあ!!」

「おぉ怖い!父の次は兄を殺そうとするのか?!早く牢へ連れていけ。刑は後日発表する」

引きずられ、王の間を後にするエルドは叫ぶ。

「お前達、絶対に許さない!信じていたのに!許さない!愚かだったのは私の方だった!お前達を信じたために、こんな目にあったんだ!許さない、絶対にだ!」

連行され、扉が閉まると静かに戻る。
タナスは、国王に今後の方針を尋ねる。

「父上、エルドの刑に関してはどうしましょうか」

「…保留にする。だいぶ疲れた。早く横になりたい」

「国王陛下を寝室へ」

タナスの命令で、召使達が国王を車いすに乗せ、足早に去って行く。次にタナスは、ヘスティアを労った。

「ヘスティア。よくぞマーガレットの代弁をしてくれた。これであの子も少しは安心して過ごせるだろう」

「…えぇ、そうだといいのですが」

ヘスティアは、最後のエルドの表情と言葉が忘れられなかった。今まで見たことの無い激怒した顔。まるで復讐を誓ったような発言。本当に、兄は罪を犯したのだろうか。

「疲れただろう。お前も部屋へ戻るといい」

「はい、タナスお兄様」


数日後。国王が崩御した。公表は持病の悪化とされたが、裏ではタナスとアスクが毒薬を飲ませ、命を奪った。葬儀が行われたのは雨が降る日だった。国民は泣き、王族も涙した。牢にいたエルドも涙を浮かべていたが、それが悲しみからなのか、憎しみからなのかは本人にしか解らない。
そして、さらに数日後、タナスとマーガレットが国営放送で事件のことを告発した。エルドの暗殺計画、そしてマフィアと共謀してエマーソン家の断絶、マルペルト国滅亡を企てたことを発表。そして、マーガレットは、性被害を受けながらも、屈せず、犯人である兄を許さないと奮い立った。

『性被害にあった皆さん。もう泣き寝入りする時代ではありません。一人ではありません。私達がいます。勇気を出し、どれだけ苦しんでいるのか訴えるのです。そして性犯罪者への厳罰化を進めていこうではありませんか!』

彼女の訴えは、国民…特に多くの女性、そして同性に犯され誰にも言えなかった男性達に大きな勇気を与えた。ヘスティアの力添えも有り、性被害者の保護施設を設立。そして相談所、パートナーからの暴力から逃げる駆け込み寺となる施設も作り、マーガレットの初政策は素晴らしいものだと称えられた。

『怯え苦しんでいた私を助けてくれたのはタナスお兄さまです。そしてヘスティアお姉さまは私を守ってくれました。必ず助けてくれる人はそばにいます。もしいなくて、一人で苦しんでいるなら、王宮の扉を叩いてください。私が味方になります』


王の宝玉から一ヶ月。エルドの刑が決まった。判決は死刑。しかし、マルペルト国の死刑は少し変わっている。古代の意志を引き継ぎ、コロシアム形式での死刑が行われる。死刑囚一人に対し、約五十人の兵士と対決する。そして五十人の兵士を再起不能、または殺害したら死刑囚は生きることを許され、国から追放されるのだ。
ただ、マルペルト国として国が成り立ってから、この死刑方法で生き残り、国から追放された囚人はいない。
エルドは鉄格子の窓から見える外を眺めていると、タナスとマーガレットが訪れた。
面倒臭そうに、エルドは二人を見る。

「やぁ、エルド。父上の葬儀は問題なく終わったよ。最後、毒のお味はどうでした?とお聞きした時のあのお顔、最高だったぞぉ!なんか喋ろうとしていたが、言えずに息を引き取ったよ。お前も父上も、幾分人を信じすぎるようだな」

「エルドお兄さま、私、本当にお兄さまのこと慕っていたのよ。でもね、タナスお兄さまのほうが甘えさせてくれるって解ったの。だから…捏造しちゃってごめんなさいね」

「ふん、どうせそんな事だろうと思っていたよ、クズ共」

「ハハ、そう強がるなよ。ヘスティアは賢い女だよ。この計画を教えた時、どっちに付いた方が得策だとすぐ理解した。それに、アスクや警察を俺側に引き入れるのに協力してくれた。やぁ、皆快く協力してくれたよ。ヘスティアはどんな手を使ったんだろうなぁ」

これは完全なるタナスの嘘だ。だが、その嘘を見抜く力は今のエルドには無い。あんなに可愛がっていた妹が、裏切った女としてただただ憎い。
もう、エルドの心には誰も住んではいなかった。心の中に住んでいた大切な人達を、殺した。だから、ヘスティアのことを教えられても、侮辱されてもなんとも思わない。父が騙され、真実を知ったとしてもどうも思わない。全ては自業自得なのだ。自分を信じなかった彼等の末路なのだから。

「これで合法的にお前の事を殺せる!邪魔者はもういない、これで国王はこの俺だ!」

「とっとと失せろ、汚物兄妹が」

全く興味の無い返答をされ、タナスは青筋を立てた。もっと激怒し、悔しがると思っていたのだ。

「ふ、はははは!おぉ、怖いなぁ。おい、さっさとエルドをコロシアムに連行しろ。エルド、まぁ頑張れ。今じゃ国民は、お前の事、憎しみの対象にしか見ていないからな」

「それじゃあね、元お兄さまぁ」

エルドはッチと舌打ちすると、入れ替わりで看守がエルドを捉え、コロシアムまで護送車で連れていかれる。
コロシアムに入ると、客席に集まっていた大衆がエルドに対し、罵詈雑言を投げ飛ばした。

(あぁ…コイツ等もそうなんだ。王宮の奴等と同じだ。結局は悪い噂に流される。私がどれだけ国に尽くしていても、知ったふうな顔をして、おべっかを使い、媚びを売る。そして罪を問われると、今までの功績や人柄を忘れ攻撃する。人はいつも、攻撃できる人間を探しているんだ)

自分より弱い人、自分より悪い人間。自分より可哀想な人間を、周りは求め、自分がいかに幸せであるか確かめたい。安全な場所にいるか、優位な立場であるか。いかに善人であるかを…。



だったら…



「おら、お前はこれで十分だ」

看守から投げつけられたのは、今にも壊れそうなボロボロの銃と、刃こぼれした柄の無い剣。
エルドは銃を構えると、瞳の奥に復讐の焔を宿した。
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