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帝都貴族護衛任務 後編

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「さぁ!」
「その馬車を!」
「我々に!」

「渡してもらおうかぁー!」

 掛け声とともに三人の男がクロスするようにジャンプして、空中で一回転すると、見事な着地を決めた。
対してユウは呆れ顔だ。

「ふっ、まさか女が一人で護衛しているとはな!」

 一番左の、長髪で、なんだか変な髪形をした男が髪をサラリと手でかき上げながら言った。

(うわぁ…)

 そのある意味気障ったらしい髪に似合わず、顔はというとお世辞にもかっこいいとはいえない。

「き、きさま、今俺をみて笑わなかったか!?」

 その男がユウを指差して怒りの表情をみせている。

「我ら、イケメン盗賊団、"薔薇の花束"を相手にいい度胸だ!!」

 ダン! ダン! と地面を踏み鳴らしながら長髪の男が叫ぶ。

(イケ……? イケメンの定義ってなんだっけ。それに薔薇の花束って……)

 ユウとしては微妙な表情で困惑するしか術がない。
 ユウだって一人の女性だから、男性の好みなんかもないではない。
 とはいえ、これまで交際をした男性はいなかったが。
 交際を申し込まれたのは、唯一あの男だけだったが。

「だ、大体なんだ、お前、そんな勇者の格好なんかしやがって!!」

 長髪の隣にいた、これはまた対照的に髪を丁寧に剃ってあるスキンヘッドの男が長髪の男同様に地面を踏み鳴らしながらユウを指差す。
 こっちは本当に対照的に中々に整った顔立ちである。
 といっても、ユウの好みなどではない。
 別に好みであっても、こうまで人間的におかしな盗賊を前にすればユウの呆れ顔も納得できるのであるが。
 盗賊という時点で道を踏み外しているわけだから、人間的におかしな、というのも変な話だ。

 護衛任務にあたるのだから、とユウは昔の動きやすい服、チュニック、中に帷子を、下はパンツスタイルと、申し訳程度ではあるが頭を守るための厚めの金属製のカチューシャ。
 武器はというと馬車の御者をやることにもなったので、大仰な剣ではなくて腰に短剣をさげているだけだ。
 が、これら全てが魔法の力が込められた魔法道具であり、同時によく知られた今代の勇者の姿であった。
 今はレプリカなどが販売されているらしくて、ファッションの一部になっていたりするらしい。

「まぁ、なんでもいいからよ、その貴族みてぇな馬車をよ、こっちへ渡せよ」

 さらにスキンヘッドの隣にいる、すごい髭面の男が先の二人に続いてユウを指差す。
鼻から下は髭で埋まってるほどの髭だ。

 不細工気障、ハゲ、髭が中心となってこの盗賊団”薔薇の花束”をやっているようだった。
どの辺りに薔薇とか花束とかの要素があるのかは、ユウにはわからなかったが。

「お前らは客車を囲め!」

 そんな色物三人の後ろで、精悍な顔つきで、見るからに鍛えていますといった感じの男が盗賊たちに指示を出していた。
どうやらこいつが実質団を動かしているように見える。
男の指示で盗賊たちが俊敏に配置を終えていた。

(マズ…)

 盗賊団はぱっと見て二十人ほどいるだろうか。
 対してこっちはユウ一人であるし、殲滅するのは難しくないにせよ、相手の数が多いからどうしても時間がかかる事を考えれば、客車の中の二人が心配になる。
 少なくとも客車への被害があろうとも、中の二人は絶対に守りきろう、ユウはそう決意して腰の短剣に手をそえた。





 少し時間はさかのぼる。
 初日の宿から出て間もなく、疲れが抜けきらずに客車で寝ていた二人だったが、先に目を覚ましたのはアイナの方だった。
 肩に何か重いものを感じて振り向くと、目の前に美少女の顔がある。
 まるで名工の手で作られた美しい人形のような顔は思わず見とれて赤面してしまいそうになるほどだ。
 いや、同性の顔に見とれていたことに気付いたアイナは、その事自体に重ねて赤面してしまう。

「うぅうう゛うぅ」

アイナがリンの顔に見とれていると、視線を感じ取ったのだろうか、リンが薄目をあけて呻いた。
と同時に馬車が丁度小さく跳ねて、リンの呻き声は変なうねりを乗せて発せられてしまった。

「ぷっ、あはははっ」

 絶世の美少女の変なうめき声、そのギャップにアイナは思わず噴出してしまう。
 そして、それが切欠だった。

 リンが寝ぼけ眼で見た光景は目の前にいる少女が噴出すところからだったが、何故彼女が笑っているのかわからず、最初は首をかしげていた。
 よほど何かのツボに入ってしまったのか、アイナは笑い続ける。さすがに貴族の令嬢ともあろうものが大口を開けて笑い続けるわけにもいかないし、リンの手前失礼になるかと思いながら必死でこらえようとしているが、肩をぷるぷると小刻みに震わせて、目に涙をためてなお、「ふふっ、ふひっ、ひーっ」などとこらえきれない声が漏れる。それこそ貴族令嬢としてあるまじき声が出ていることには気がつかないようだ。

「ねえ! アイナ!」
「ふひっ、ひっ、ひー、え?ん?」

 客車の中から大きな声が上がって、ユウは思わず振り向いて半開きにしてあった窓から客車を覗き込む。

(あれ……ふふっ)

 中をみて、二人が寄り添って寝ていた所を見た時とは、また違った微笑を浮かべるユウ。
客車の中で、二人は向かい合ってニコニコ顔で話をしていた。
 主にリンが喋って、アイナが聞き、アイナが時々歓声のような笑い声をあげる。リンもそんなアイナの反応が嬉しいのか、話しに熱が入るようだった。

 そしてそれから、二人はずっとくっついている。
 客車の中にいるときも、休憩を取るときも、ご飯を食べるときも。

 ある湖畔に差し掛かったとき、リンが「海だ!」と叫んで、アイナが湖と海の違いを説明するのに苦労していたりもした。思いのほかアイナは博識で、リンよりもずっと色んな物事を知っているようだった。
 例えば、先の湖畔についても、そこは帝都から南に馬車で二日といった近くにあるのだが、実は初代神託勇者の戦闘跡だという伝説がある。それについてもアイナはより詳しく話をしていた。
 アイナは自分の知っていることを、リンは自分がこれまで見てきたことをお互いに話し合って、すっかりうちとけていた。

 リンとアイナを会わせて、本当によかったとユウは思う。
 少なくとも、ユウにとってはリンが同年代の少女であるアイナから何か新しい刺激を受け取ってくれればそれでよいと思っていたが、子供の引き合う力とでも言うのだろうか。
最初こそ喋りもしなかったのだが、仲良くなるときはあっという間だ。
 そしてリンが笑っているその笑顔は、ユウも見たことがないほど屈託のない笑顔だった。
そしてアイナも、初日の微動だにしなかったのが嘘のように自然な笑顔をこぼしているし、振る舞いもとても自然だ。
人見知りです、と言われても誰も信じないであろうほどに自然な振る舞いをするアイナは、少女でありながら気品があって、魅力的に思える。

 ユウが一番驚いたのは、二日目の宿でいざ就寝とランプの灯を落としたあとすぐに、向かいのベッドに向かったはずのアイナが踵を返してユウとリンのベッドの側に立って、

「あ、あああ、あのユウ様、リンちゃん。えっと、その……いいい、一緒に寝てもいいですか?」

と枕をぎゅっと握り締めながら、暗くて顔もよく見えなかったが、きっと蒸気が出るほど顔を真っ赤にしながらも、言ってきたことだった。

 その後はリンを真ん中にして三人で川の字になって、眠くなるまでおしゃべり。
 アール本家についた後も、アイナと彼女の祖父である大家長との二人の時間を除いては、アイナは常にリンと一緒に、家を案内したり、使用人を交えてお茶をしたり、食事を取ったり。
 気づけば、昔から交流のある友達のようにお互いに振舞っているようだった。

 ユウが大家長に誘われて、二人でテラスでお茶を飲んでいると、広大な庭にリンとアイナが駆け回ってるのが見えた。
 思わず目を細めて微笑む二人。慈しみすら覚える笑顔で二人の子供を見守る二人に、側で控えていた使用人は、思わず感嘆の息をもらしてしまう。
 主にユウの笑顔をみて、だが。
 同時に、年齢も性別も、おそらくは性格もまるで違うユウが、そして大家長にくらべ格段に若者であり、自分から見てもはるかに若いユウが、どうしてこの貫禄のある自分の主と同じような雰囲気を持って、そしてそれを人に感じさせることが出来るのか、と不思議に思う。
 こんな顔して実は齢百を超える、なんていわれてもこの使用人はむしろ納得したであろう。

 さて、本家での滞在も終え、もうすっかり仲良くなってしまった二人。
 アイナといるリンは素直な子供らしい表情をみせるようになっていた。
 アイナもまたそうで、本家から出立する際、ユウは大家長に深く礼を言われていた。彼もまた、アイナの引っ込み思案を心配していたようだったが、まるで違う雰囲気を持ちはじめた孫娘にいたく上機嫌だった。

 祖父の姿が見えなくなるまで、馬車の窓越しに元気に手を振っているアイナ。
 一緒にリンも手を振る。
 やがて見えなくなって、窓を閉めると、二人は微笑みあっておしゃべりを始める。
 肩越しに二人の気配を感じて、ユウも嬉しくなって、自然と笑顔になるのであった。


「ちょっと寄り道していこっか?」

 帝都の外壁を遠くにみながらユウは二人に提案する。
アール本家邸を出てから三日、スケジュールに遅れはなく、むしろこのままだと少し早くつきそうだと思ったユウの考えだった。
 寄り道、という言葉には何かの魔力がこもっているのかもしれない。ユウの言葉に二人は満面の笑みで大賛成。一緒にいられる時間が長くなるから、それが嬉しいのかもしれない。
 来る途中にみた初代勇者の戦闘跡といわれている湖畔の見える丘がある事をユウは知っていたから、そこへ寄り道していくことにした。

 とは言っても、アイナは帝都有力貴族のご令嬢。なるべくスケジュールを遅らせぬようにはしたい。
 そこでユウは近道を使うことを決めたのだったが、それがよくなかった。少し狭い道を飛ばしていると、目の前に三つの人影が飛び出してきた。

 その三人こそが、盗賊団”薔薇の花束”の三人だったのである。


「こいつ、剣をもってやがる!」
「俺達とやりおうなんてよ……命知らずな女だなよ!」

 二人を守るために短剣を抜き放ち、正眼に構えたユウは精神を集中し始める。

「な、な、なんだ? こ、こいつ、雰囲気が……」

 ユウが薄目を開けて精神を集中し始めると、まるで薄い白いもやがユウの体を覆うようにどこからともなく集まってくるのをその場にいる誰もが見ることが出来た。
ユウがちらりと客車の中をみると、すっかりおびえた表情のアイナと、それを守るかのように立ち上がっているリンの姿が見えた。
 気のせいか紅色の目の輝きが増しているような気がする。感情が昂ぶっているからだろうか?
なんだかユウはいやな予感がして、早めに終わらせねばならないという思いで、力をより高めていく。
 たとえ敵が何十人いようが一瞬で全てを戦闘不能にできるように。
 ユウの力は高まっていく――

(あ、これはなんかやべえ!)

 それを感じとったのは、盗賊団”薔薇の花束”の色物三人の後ろに控えていた、ユウから実質この団をまとめていると評された男である。

 実際、彼の目に狂いはない。
 このままバカ三人につきあって、この人物、あの馬車に手を出せば怪我どころではすまないだろうという予感が男の脳裏をよぎる。

「やばい、兄貴! あれはやばい!」

 男は今にも襲い掛かりそうな三人の盗賊たちを止めるために走りだした――





帰りの馬車で、アイナとリンは一言も口を聞かなかった。
最終的には、リンをユウの隣に乗せて、客車にはアイナ一人で乗ることになった。
唯一救いだったのが、それから間もなくして帝都に到着し、そこまでアール家の使いものが来ていたこと。

盗賊団"薔薇の花束"は、四男を名乗る男がユウの力を見抜き、必死に

「あれは、本物だ」

と三人の兄を説得したことで、何事もなく引いていった。

いや何事もなかったわけではない。
その事が原因で、リンとアイナはついさっきまでが嘘の様によそよそしくなってしまっていた。

盗賊から囲まれた時、アイナは盗賊の風体や動きを見て、酷くおびえてしまった。
そしてその時、リンはユウと時を同じくして自分の力の高まりを感じていた。

初めて出来た友達、それが今酷くおびえている。
自分の友人を害すものを許しておけなかったのだ。無意識にリンは力を少しずつ解放してしまっていた。

目はより赤く輝き、その小さな角にわずかに紫電が走る。

――オーガの力

目の前の少女に何か大変な事がおきている、とアイナはひしひしと感じていた。

「大丈夫、アイナは私が守る」

そう言い放ったリンの言葉にアイナは一瞬安堵を覚え――

「ひっ」

その目を見たとき、えもいわれぬ恐ろしさが背筋を走り抜けていった。
安堵はどこかへ吹き飛び、得体の知れない力の奔流を見せる少女に、アイナはただおびえるしかなかった。
ガチガチと唇を震わせて歯がぶつかる音をさせる。
もはやアイナは自分たちを取り囲んでいる盗賊にではなく、目の前の異形の少女への怯えに支配されてしまった。

「大丈夫!?」

扉を勢いよく開けてユウが入ってきた。
気がつくと、周りを囲んでいた盗賊たちは影も形もない。

「リン、大丈夫、落ち着いて。」

力の高まりを見せているリンに、ユウは優しい声を掛けながら両肩をぽんぽんとゆっくり叩いた。

「う……」

次の瞬間、リンは膝から崩れ落ち、それを咄嗟にユウが抱き上げていた。

「頑張ったね、リン」

抱きすくめたリンの背中をさすりながらユウは優しく声を掛けていた。

「アイナちゃんも、怖い思いをさせてごめんなさい」

しばらくして、リンもアイナも落ち着きを取り戻した頃、ユウはアイナの前にひざまづいて頭を下げた。

「……」

なんといえばいいのか、アイナは言葉が出てこない。
なきながら抱きついてもいいのか、それとも貴族然とした態度をとるべきなのか。
アイナは、父アールの前で色んな人間が頭を垂れるのをなんどか見たことがある。
その時の父のような態度をとればいいのだろうか。

目の前のユウ、後ろで息を整えているリン、そしてさっきリンから感じた恐ろしさ。盗賊たち。
色んな事が頭の中でぐるぐると回ってどうすればいいのか一向に答えは出なかった。

ユウの後ろではリンがアイナを見つめている。
さきほどリンから感じた恐ろしい気配は今は全くない。だが――

「アイナ?」
「ひっ――」

リンが近づいてきた時、思わず身を縮めてしまった。

「あ……」

リンの差し出した手に、アイナは身を縮めるばかり。

「ごめん……」

リンは一言そういうと、酷く悲しい顔をして、後ろを向いた。


ガラガラと音を立てて馬車が走る。
どことなくその足取りが重い気がするのは本当に気のせいだろうか。

アイナは客車の隅っこで下を向いたまま微動だにしない。
リンはリンで御者台のユウの隣で頭をユウに預けて口をへの字に結んでいる。
その目には涙が溜まっていた。

(逆戻り、か……)

思えばアイナには短い間に二度も怖い思いをさせてしまったのかもしれない。
一度目はユウのミス、だが、二度目のは…
リンはただ自分の隣の友人を守ろうとしただけなのだ。
自分の持てる力、全てを使って――

けれど、その結果は…

帝都について、アール家の使いとともにノールもきていた。
やはり一人娘の遠出には肝を潰していたらしい、馬車が来るなり客車に飛び込んで愛娘を抱きしめていた。
俯いたままのアイナは父に抱きしめられて、それでも泣く訳でもなく、喜ぶわけでもなく。
しかし、ユウとリンからはその表情を見ることが出来なかった。
ノールに事情を説明したが、むしろ良くぞ無傷で守ってくれたと賞賛されるばかり。
ユウとしては怖い思いをさせてしまった事を謝りたかったのだが、ノールはノールで「それも貴重な経験です」と言い張る。
そして、あれからすっかり元気がなくなってしまったリン。
その様子をみてユウは、やはり間違っていたのではないか、という思いに囚われていた。
依頼を受けた事、リンを連れてきたこと、寄り道をしてしまったこと…
そんな後悔にも似た念がユウを支配していく。
しかし――

やがて、ノールとアイナを乗せた馬車が出発し、ユウとリンはそれを見送る。
リンは目に涙を浮かべながら、手を振った。
けれど、馬車は無常にもいってしまう。

手を振り続けるリン。
ついにリンにも馬車が見えなくなったところで、リンはユウの足にしがみついた。
けれど、いつかの老夫婦の時のように泣くわけでもなく、口をへの字に結んだまま、ただユウの足に頭をこすり付けるばかり。

「いつか、わかってもらえるよ。」
「……いつ?」
「そのうち、かな?」

思わぬリンの問いかけに困惑の笑顔のユウ。

「今わかってほしい」
「……そっか。」
「いま…じゃない、と……もう…」
「大丈夫だよ、また会えるよ」

頭をこすりつけてくるリンをそっと撫でる。

「あえても……だめ……」
「そうかな?」
「……」

ユウはアイナの行動を見逃してはいない。
父が馬車の窓越しにユウに一礼したとき、その背後のアイナは、何かを決意したような目でユウを見つめていた。
リンからはそれを見ることが出来なかっただろう。

きっとリンが手を振っている時も、アイナはそれをわかっていたと思う。10歳にして、強い決意の瞳を見せた少女は、きっとまたこの今にも泣き出しそうで、それを必死でこらえている少女の前に現れる。
その時は、またきっと素敵な友達に戻れる。
この七日間を、笑いあいながら過ごしたように。

リンは自分の感情がわからないでいるのだろう。
友達というものがなんなのか、まだわかっていないのだと思える。
けれど、アイナは既にリンを友達としてみてくれてるんじゃないだろうか?
あの少女の決意が何なのか、それはわからなかったけれど、一つだけわかる事は、既にアイナはおびえるだけの少女ではないのだろう、とリンの頭を撫でながらユウは思った。

間もなく夜の帳が降りてくる。
星たちが輝くステージが始まる。

空を飛んで行くユウの腕の中で、そんな夜空をみるでもなく、リンはずっと俯いている。

(なんだか、最初の頃のアイナちゃんみたい)

ユウの腕の中で、俯いたまま微動だにしないリンはまるで最初に出会った頃のアイナを思い起こさせた。

けれど――

けれど、ユウとリンが7日ぶりに自分たちの家『小道』に帰ってきて、玄関を開けようとしたとき、リンがユウのズボンの裾を引っ張った。
振り返るユウを見上げるリンの目もまた、あの時のアイナと同じように何かを決意したような力を秘めていた。

「いつか、わかってもらえるよ?」
「うん」
「その時まで……」
「その時まで、強くなる」
「ん……」

強くなる、というのがリンにとってどんな意味を持つのか。
それはユウには計り知れないものがあるのだろう。それほどに、決意を秘めた目の前の少女の赤い瞳は力に満ちていた。
リンの決意には色んなものが含まれているのだろうと思う。
それをリンは「強くなる」という言い方をしたのだろう。

「そっかぁ、そうだね」
「うん」

やはり間違いではなかった。
この依頼を受け、リンを伴っていったのは間違いではなかった。

目の前の新たな決意を秘めた少女を見て、改めてユウはそう思うのであった。


それからしばらくして。

『小道』の常連である、とある貴族の娘が運んできた手紙にユウとリンは驚かされる事になるのだが、その話はまたいつか。

ここは喫茶店『小道』

そこには強い決意を秘めた少女がいる。
その赤い目はやがて過去を知り、未来を見て、そして力強い輝きで現在いまを見つめるだろう。

笑いあえる幸せ、そのための笑顔を見つけるために。
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