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二人なら作れる

大学生と未来人の合作

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 そこからはひたすら同じ日々の反復だった。まず起きたら二人で近所のカフェにモーニングを食べに行く。落ち着いた雰囲気で、なおかつ朝の日差しも差し込み、これから始まる一日を前に活を入れてくれる。こんなカフェが近所にあって良かったと心から思う。







 朝食をとり終えたら、次は二人でストーリーについて話し合う。キャラクターや背景含め、細かな部分まで掘りさげて決めていく。そして大体十七時位になったら晩ご飯を食べて、風呂に入り各自情報収集に励む。そんな生活を一、二週間ほど続けて二人で作り上げたストーリーはこんな感じだった。















 ある平凡な高校生が主人公のましろ。彼は今まで近所の学校に通い続け、特別高学歴とは言わずとも、一般的な学力を蓄えていた。それと同時に中学では部活もバレー部に所属し、県大会で優秀な成績を残す活躍をしている。高校でもバレー部に所属して切磋琢磨しながらも、同時に恋愛なども経験し長く付き合っている楓かえでという彼女もいた。







 こんなましろの家庭事情はというと、これも一般的といった感じである。父親は工場を経営していて、その工場では国を挙げて推進している産業関連の部品を作っており、会社内の空気も良かった。母はというと、忙しい父のサポートをしながらも、家事は完璧にこなし、ましろをここまで育て上げた縁の下の力持ちである。







 この一見幸せな家族に悲劇が訪れるのは、あるニュースが日本中を駆け巡った瞬間だった。ある日国は、先ほどの産業が他国に大幅に遅れを取っているとして方針を大きく変更するとした。つまり、今までの機械からとは全く異なる、新たな機器の開発に力を入れ、今までの機器に関しては支援を取りやめる方向で検討しているというのだ。これは、専門家からすると、愚策も愚策だった。第一、新しい機器、とはいっても既に先を見越してその分野に力を入れている国は既にある。この状況で今まで日本の強みであった産業を手放すような決定をして、他国に追いつけるはずがない、と。







 そしてこの余波はあの家族をダイレクトに襲った。父の工場は当然、倒産した。上の企業などが一気に不景気になった影響で、面倒を見てもらえなくなったのだ。そして以前よりそこまで裕福でもなかった一家が崩壊するのは時間の問題だった。父親は前の工場などの影響で借金を抱えることになり、その責任の重さや自分がやってきたことが一瞬で崩れ去ったことへのショックから、工場内で首を吊っているところが目撃された。しかもそれを見つけたのは、工場にこもりきりの父を心配して声をかけに行った、ましろだった。







 その情報を聞いた母は、一気に耄碌したように力を失ってしまった。今まで家事などをテキパキしていた姿が嘘のように、常に天井を見つめている姿が目立つようになる。当然ましろの精神も健全とはいえない。父の亡骸を目にしたことで余裕がない彼に、母を元気づけることなどできるはずなかった。そしてある日、母が突然父の遺産や保険金で父の借金を返済した後、姿を消した。



それとほぼ同時期に彼女にも別れを告げられることになる。部活にもでられていない上に、学校にすら顔を出さなくなったましろに、魅力を感じなくなったのだろう。楓がましろに求めていたのは、皆に羨ましがられる彼氏だったのだ。







 そしてましろは父の遺産で高校を卒業し、大学に入ることを目指すことになる。政治家になって、例の決定をした人間を見つけるために、誰にも頼らず、己の憎しみだけをエネルギーに変えて。ここまでが俺たちが考えた、起承転結の起と承の部分である。















 「そこからましろは勉強を始めるんです。法律や行政の仕組みについて―――」と揚羽が目を血走らせながらアイデアを語っているところを、俺はいったんとめるように言った。一緒に製作しようと言ったのは俺だし、アイデアを必死に考えてくれるのはとても嬉しい。でもこれは、熱くなるとかの次元じゃなかった。それは一言で表すなら―――狂気。こんなにも自分たちの考えた世界に入り込める人間がいるとは思わなかった。俺なんかより揚羽の方がよっぽど作家に向いている気がする。







 「なんですか、せっかくこっからの話も流れで思いつきそうだったのに」







と揚羽が邪魔ものを見るかのように見つめてくる。良かった、いつも通りの揚羽だ。







 「いやほら、もうそろそろ晩飯の時間じゃんか。今日で大枠は決まったし、いったん休憩しようぜ、みたいな」



 「話の転換点と結末はどうするんですか、まだましろが復讐に燃えた経緯しか決めてませんよ」と揚羽がたしなめるように言う。



 「まあそれに関しても後で話すよ。とりあえず疲れたろ、揚羽何が食べたい?」



 「カレーとかですかね。―――前から思ってたんですけど、有栖川さんってバイトもしてないのに割とお金ありますよね、どうしてですか」







 「真面目だった大学生が一気に何もしなくなると、こんなクリーチャーが生まれるんだよ」と余計なことを聞く揚羽にいつもの調子で答える。大学生を経験していない揚羽はなんのことやら分かってなさそうだったが、とりあえず話が逸れていってくれたようで良かった。実は俺はこの作品を通して、自分が自分でなくなってしまったかのような感覚に襲われている。それ故に、この先を思いついているけれど、書きたくないんだ。
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