44 / 81
2.5章
43話 師
しおりを挟む和歌太郎は今、目の前の筋肉隆々の武人"里石"と対峙していた。
(対峙すると分かる。存在感的なものがとてつもなく重い……この人は強い)
和歌太郎の肌がピリつく。
「いい面構えだ。命懸けの闘いを乗り越えた男の顔だ。面白いぞ!やはり人との闘いは血が湧くわ、ガハハハ」
豪快に笑う里石
しかし、目は血に飢えた獣の如く鋭い
(スキルを持っていないのならスピードは確実に俺の方が上だよね。一瞬にして背後に回り、首に剣を当てる)
これしかないと和歌太郎は作戦を決める。
ちなみに高速で背後に回り、一撃を入れるのは和歌太郎の最も得意とする攻め方であった。
遺跡の魔物の大半はその攻め方で倒して来た。
そのため和歌太郎は速度には絶対的な自信を持っていた。
右手に剣を構え、和歌太郎が里石に向けて疾駆する。
里石は一切反応していない。
(いけるっ!)
和歌太郎が確信した時、目の前に巨大な拳が迫って来ていた。
(ヤバいっ!!死ぬ)
和歌太郎は緊急停止を行い、後方へと大きく距離を取る。
和歌太郎の額には尋常ではない汗が流れる。
「ふっ、どうした?全然動いてないぞ」
「えっ」
里石は一切動いていなかった。和歌太郎は困惑する。
「でも拳が……」
和歌太郎には里石の拳が視えていた。
眼前に迫る巨大な拳が
「それは我の殺気だ」
「殺気?」
「そなたが視た拳は我の殺気が見せた幻影だ。真に恐ろしい攻撃には殺気が宿る。故に我はお主の今の攻撃に恐怖は感じぬ。むしろ命をかえりみず一撃にかける農民の攻撃の方が怖いくらいだ。例えそれが遅くとも、型がなっていなくとも殺気が籠った一撃は脅威となる。」
「でも、どうやって…」
戸惑う和歌太郎。
「まぁいい、まずは試合おうぞ」
その試合、和歌太郎は負けた。
一撃も与えられずに
里石の圧倒的な武の前に和歌太郎の全ては通用しなかった。
「そなたの攻撃は軽く、単純。何より優しすぎる。その優しさが攻撃の自由を制限している。今のままではスキルで上回られた時、身体能力で上回られた時、必ずそなたは負ける。優しさを捨てろとは言わん。だが強さの無い優しさなどただの臆病だ。優しさの中に強さを持て」
「………」
沈黙の和歌太郎。
里石の言葉は和歌太郎の胸に痛いほど突き刺さっていた。
(俺は強くなりたかった。だからこのダンジョンでも闘いに闘った。だけど里石さんには負けた。それも手も足も出なかった。)
和歌太郎の積み上げた自信は完全に崩れ去っていた。
「まぁ落ち込むな。我よりは弱いとは言え普通よりは強い。後は先に行こうが戻ろうが自由にするがよい」
そういうと里石は座禅を組みその場で瞑想を始めた。
和歌太郎は若干の沈黙の後、口を開いた。
「よし!決めたよ!」
和歌太郎は里石の前に歩いて行く。
そして、里石の前で止まり
「里石さん。俺に修行をつけてください!」
和歌太郎は頭を深く下げた。
「んん?いきなりなんだ?」
「俺は強くならないとダメなんです。無力な自分はもう嫌なんです!だからお願いします!」
和歌太郎はその場で土下座し頼み込む。
その表情には鬼気迫るものがある。
「頭を上げろ。よいぞ我が鍛えてやろう。だが我の修行は生半可ではないぞ。厳しさのあまり死ぬ可能性もある。それでもよいか?」
「はい、望む所です師匠」
「ならば我がそなたを一端の武人に仕立ててやる。覚悟しろ」
「はい!」
こうして和歌太郎は里石のもとで修行を行うことになった。
また、和歌太郎の師となった武人"里石 タオ"
彼は元の世界では知る人ぞ知る武人であり傭兵であった。
ありとあらゆる武術を極め、様々な戦争に傭兵として参加し戦績を収めて来た。
もはや地上において里石に勝てる生き物はいないとすら言われている。
まさに"生ける伝説"
その事実を和歌太郎は知る由も無かった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説


『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪

憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?
果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。
王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。
類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。
『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』
何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。
そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。
「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」
その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。
英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?
これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。
※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。
異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女
かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!?
もふもふに妖精に…神まで!?
しかも、愛し子‼︎
これは異世界に突然やってきた幼女の話
ゆっくりやってきますー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる