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2.5章
43話 師
しおりを挟む和歌太郎は今、目の前の筋肉隆々の武人"里石"と対峙していた。
(対峙すると分かる。存在感的なものがとてつもなく重い……この人は強い)
和歌太郎の肌がピリつく。
「いい面構えだ。命懸けの闘いを乗り越えた男の顔だ。面白いぞ!やはり人との闘いは血が湧くわ、ガハハハ」
豪快に笑う里石
しかし、目は血に飢えた獣の如く鋭い
(スキルを持っていないのならスピードは確実に俺の方が上だよね。一瞬にして背後に回り、首に剣を当てる)
これしかないと和歌太郎は作戦を決める。
ちなみに高速で背後に回り、一撃を入れるのは和歌太郎の最も得意とする攻め方であった。
遺跡の魔物の大半はその攻め方で倒して来た。
そのため和歌太郎は速度には絶対的な自信を持っていた。
右手に剣を構え、和歌太郎が里石に向けて疾駆する。
里石は一切反応していない。
(いけるっ!)
和歌太郎が確信した時、目の前に巨大な拳が迫って来ていた。
(ヤバいっ!!死ぬ)
和歌太郎は緊急停止を行い、後方へと大きく距離を取る。
和歌太郎の額には尋常ではない汗が流れる。
「ふっ、どうした?全然動いてないぞ」
「えっ」
里石は一切動いていなかった。和歌太郎は困惑する。
「でも拳が……」
和歌太郎には里石の拳が視えていた。
眼前に迫る巨大な拳が
「それは我の殺気だ」
「殺気?」
「そなたが視た拳は我の殺気が見せた幻影だ。真に恐ろしい攻撃には殺気が宿る。故に我はお主の今の攻撃に恐怖は感じぬ。むしろ命をかえりみず一撃にかける農民の攻撃の方が怖いくらいだ。例えそれが遅くとも、型がなっていなくとも殺気が籠った一撃は脅威となる。」
「でも、どうやって…」
戸惑う和歌太郎。
「まぁいい、まずは試合おうぞ」
その試合、和歌太郎は負けた。
一撃も与えられずに
里石の圧倒的な武の前に和歌太郎の全ては通用しなかった。
「そなたの攻撃は軽く、単純。何より優しすぎる。その優しさが攻撃の自由を制限している。今のままではスキルで上回られた時、身体能力で上回られた時、必ずそなたは負ける。優しさを捨てろとは言わん。だが強さの無い優しさなどただの臆病だ。優しさの中に強さを持て」
「………」
沈黙の和歌太郎。
里石の言葉は和歌太郎の胸に痛いほど突き刺さっていた。
(俺は強くなりたかった。だからこのダンジョンでも闘いに闘った。だけど里石さんには負けた。それも手も足も出なかった。)
和歌太郎の積み上げた自信は完全に崩れ去っていた。
「まぁ落ち込むな。我よりは弱いとは言え普通よりは強い。後は先に行こうが戻ろうが自由にするがよい」
そういうと里石は座禅を組みその場で瞑想を始めた。
和歌太郎は若干の沈黙の後、口を開いた。
「よし!決めたよ!」
和歌太郎は里石の前に歩いて行く。
そして、里石の前で止まり
「里石さん。俺に修行をつけてください!」
和歌太郎は頭を深く下げた。
「んん?いきなりなんだ?」
「俺は強くならないとダメなんです。無力な自分はもう嫌なんです!だからお願いします!」
和歌太郎はその場で土下座し頼み込む。
その表情には鬼気迫るものがある。
「頭を上げろ。よいぞ我が鍛えてやろう。だが我の修行は生半可ではないぞ。厳しさのあまり死ぬ可能性もある。それでもよいか?」
「はい、望む所です師匠」
「ならば我がそなたを一端の武人に仕立ててやる。覚悟しろ」
「はい!」
こうして和歌太郎は里石のもとで修行を行うことになった。
また、和歌太郎の師となった武人"里石 タオ"
彼は元の世界では知る人ぞ知る武人であり傭兵であった。
ありとあらゆる武術を極め、様々な戦争に傭兵として参加し戦績を収めて来た。
もはや地上において里石に勝てる生き物はいないとすら言われている。
まさに"生ける伝説"
その事実を和歌太郎は知る由も無かった。
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