6 / 81
1章
5話 遭遇
しおりを挟む「えーと、この林を抜ける感じかな」
歩き始めて20分、草原をある程度進んだ先には大きな木が立ち並ぶ林が現れた。
「うわぁ……モンスターが結構いそうだ」
聴覚、嗅覚を研ぎ澄まし、辺りを探る。
実際の犬程ではないが半径300メートル圏内であれば、音や臭いを聞き分けることができる。
すると、気になる反応を察知した。
「うん?これは人……?しかも、こっちに来ている」
人と思わしき反応は狙ってか、偶然か和歌太郎の方へと近づいていた。和歌太郎は剣を抜き、辺りを見回し
(よし、とりあえずあの木に隠れようかな)
近くの木に移動し、身を隠す。
"ドサッ" "ドサッ" "ドサッ"
(足音が近づいてきた。このまま通り過ぎてくれるといいけど)
和歌太郎は息を潜める。
"ドサッ"
足音が止まった。
和歌太郎は違和感を感じつつも息を潜め続ける。
しかし
「おーい、そこの木の影にいる人出ておいでよ。」
和歌太郎の居場所はバレていてようだ。
聞こえるのは優しそうな男性の声音だ。
(どうする?居場所はバレてるみたいだけど……うーん、うん?)
一瞬怪訝な表情を浮かべた後、和歌太郎は剣を構えながら木の影からでる。
そこにいたのは、同じく剣を持った茶髪の青年であった。
「そう警戒しなくてもいいぜ。もしかして君はプレイヤーかな?」
茶髪の青年は剣を地面に置き、柔らかい笑みを浮かべる。
「あぁ、そうだよ。数時間前にここに来たんだ」
剣を置いた茶髪の青年を静かに見つめながらも和歌太郎は剣を手から離さない。
「まぁ警戒するのも仕方ないか!良かったらなんだけどさ。俺と組まない?このゲームを生き残るにはチームを組むのが最善だからさ」
距離はあるものの右手を差し出してくる茶髪の青年。
「なるほど…」
茶髪の青年の提案は最もなものであった。
このゲームは命掛けのデスゲーム。ワールドクエストをクリアするためにも、魔物や他プレイヤーから生き延びるためにも勢力を増やす、徒党を組むことは最善の策と言える。
「ははは、悩むよね。まぁ返答は急がないけどさ。とりあえずは一緒に行動しない?」
茶髪の青年は笑みを浮かべながら和歌太郎に近づいてくる。
しかし、茶髪の青年の歩みは止まった。
止まらざるを得なかったのだ。
なぜなら和歌太郎の抜いた剣が向けられていたからだ。
「……断るよ」
向けられた剣先同様に鋭く放たれた言葉
唖然となる茶髪の青年
「は!?何だって??」
「聞こえなかったかな。その提案は受け入れられない」
「き、君は正気かい!?これは命を賭けたデスゲームだ!一体何を考えてるんだい!」
信じられないとばかりに捲し立てる茶髪の青年。
「君からは血の臭いがする。」
「へ?血の臭い?そ、そりゃあ魔物も結構倒したからな!」
「違うよ。俺が言っているのは人の血の臭いだよ。君の事は信用できない!」
鋭く放つ和歌太郎
すると、茶髪の青年は自らの髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜ、深く息を吐いた。
「はぁ~。お前なんもわかってねぇわ!このゲームは殺すか殺されるかなんだ。魔物だけじゃなくて人だって襲ってくる!生きるためには殺すしかなかったんだ!」
先程まで優しげな表情は一転、感情を爆発させる。
だが和歌太郎の表情に変化はない。
「なるほどね。でもそれは嘘だよね。君からは下衆の臭いがする」
「下衆の臭いだって?」
眉間に血管を浮かばせ、イラ立ちを露わにする茶髪の青年
しかし、和歌太郎は一切怯まない。
「あぁ……この際だから言ってやる。お前はただの強姦野郎だろ?分かってるんだよ」
和歌太郎の嗅覚は捉えていたのだ。
茶髪の青年が放つ血の臭いと濃厚な体液の臭いに。
「はぁ~邪魔クセェ!せっかく生かして上手く使ってやろうと思ったのによ。お前殺すわ」
図星だったのか茶髪の青年の表情、態度が激変した。
優しげな表情は消失し、粗暴で卑劣な本性が表に現れる。
完全に敵対した相手を前にし和歌太郎は
「はっ!やれるもんならやってみなよ!」
鼻で笑い、逆に挑発をした。
和歌太郎は静かにキレていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
<番外編>政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
< 嫁ぎ先の王国を崩壊させたヒロインと仲間たちの始まりとその後の物語 >
前作のヒロイン、レベッカは大暴れして嫁ぎ先の国を崩壊させた後、結婚相手のクズ皇子に別れを告げた。そして生き別れとなった母を探す為の旅に出ることを決意する。そんな彼女のお供をするのが侍女でドラゴンのミラージュ。皇子でありながら国を捨ててレベッカたちについてきたサミュエル皇子。これはそんな3人の始まりと、その後の物語―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる