祓え 溝口華南

斉藤 延廣

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妖の使いと死の呪い

20話

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『 見えない証人は語る 』


 夜の道を走る車が一台。


 前に何かを見つけると寸前で止まり、倒れた老人。
 青年(タイチ)は駆け寄る。
「大丈夫ですか!? 息をしてない・・・

 そうだ、救急車。」
 PHSを取り出してかける。

「もしもし!! もしもし!!  電波が悪いな・・・」
 その場を離れる。

 通りかかったOLの女性。
 車を見た後で離れると少し歩いたところにある公衆電話を使う。


 連絡がついた後で現場に戻り、タイチの近くに警官二人が来る。
「あの、人が倒れて 」

ガチャッ

「?」
「轢いたのはお前だろ。」
「通報があったんだ、車だってあるんだからな。」
「ちょっと、待ってください!」





[ 一審、二審  “ 有罪 ”  ]



 まわりから人殺しとささやかれる。



「うわあああ!! ボクじゃな~~~いッッッ!!!」





 白い和服に頭に三角をつけたメガネの少女。
 道の隅に曲がった柵の前に花や飲食物などのお供えものが置いてある。
「もったいない、こんなふうにしたところであとは処分されるだけなのに。」

 手に取ると近くの段に座って果物や飲み物を食べる。

 果物を手から落ちると散歩していた犬が食らう。
飼い主「コラ、やめろ汚い!」
 犬は近くでマーキングすると少女は足を上げて避ける。
 少女は犬に持っていた空き缶を投げつけ、犬は吠える。
飼い主「ほら行くぞ。」
 引っ張られていくがそれでも吠え続ける。

 その後で目の前を自転車が速く走る。
 少女はそれを目で追う。


 自転車を漕ぎながらケータイで話す少年。
「この前は楽しかったね。 また今度もやろうよ。
 あとそれとさ 」
 途中で異変が起きる。
「あれ? なんかつながりが・・・」


「  走りながら電話かけてたら危ないよ  」
(怖そうな口調で)


「わああぁぁっっ!!?」
 驚いて足はつくが自転車は転げる。

「 どうしたの? 」
「いまなにか言ってた? “走りながら” なんとかって。」
「 知らないよ。 」



 華南は歩いているときに小言を言う青年(タイチ)とぶつかる。

タイチ「来ないでくれ! どうせキミ達もボクが人殺しだって罵るんだろ。」
華南「?」
メタモ「何のことかよくわかんないんだけど。」


華南「濡れ衣を着せられた!?」
タイチ「ボクはただ通りかかっただけなんだ。 来たときにはすでに意識がなかったし。
 でもまわりにはボクしかいなかったし、これという証拠だって見つかってない。」
メタモ「まあしょうがないよね、人って自分が見たわけでもないのに不確かなことでもすぐ決めつけるんだから。」
華南「そんな言い方!! 」
タイチ「次の裁判は二日後なんだ。
 でももうどうすれば・・・」



 幽霊の少女は歩きながら供えてあった花を挿していく。
「前々から思ったけど、頭のこれってなんか地味なんだよなあ。
 これで少しは可愛く。」

 通学中の小学生の男子は振り向く。
「どうしたショウヤ?」
「いやなんでもない、 気のせいか。」



 現場に来る。

華南「ここで人が倒れていた。」
メタモ「証拠なんてどこにもないね。」
華南「その時の車は?」
タイチ「それが、押収されちゃって。」
 三人は去っていき、その後で来る人。

 華南とメタモだけになる。

メタモ「もしかして疑ってるの?」
華南「そんなことは・・・、
 ただ、これは普通に起きた事件だろうか。 その前に車が通ったとしてもらしいものは。」
メタモ「妖が起こしたってこと?」
華南「まだ確証はできん。」


 墓地、あまり日の当たらないところでくつろぐ少女。
 近くのお供え物をつまみ食いする。


 次の日、塀の上に座る少女。
 小学生くらいの少女が来ると幽霊の少女に気づく。
 幽霊の少女は手を振る。



華南「やはりおかしいな、タイヤの跡がなければ血の痕だって。」
メタモ「肝心のタイチも恐怖のあまり家から出られないって。」


 タイチは部屋で震える。
 出入口のドアやポスト部分に生ごみや汚物を入れられ、引っ掻いたような跡で“ 自首しろ ”の文字。


 華南は証拠を捜そうとするとメタモは足を止めて何かを気にする。
メタモ「この道の近くに簡単に作った花瓶のようなものがあったはずなんだけど。」
華南「ん? そんなのどこかに転がったんだろ。」

「ねえ、これ何してるの?」
華南「今取り込んでるんだ、邪魔しないでくれ。」
メタモ「ねえ華南。


 華南ってば!」
華南「だからなんだ!?」
メタモ「よく見てよ。」


 華南はしばらくジッと見る。


華南「わあっ!!」 本物!?
メタモ「やっと気づいてくれた。」
華南「早く言えって。」
メタモ「さっきから言ってるよ。」

幽霊少女「何か探し物?」
華南「この辺でひき逃げ事故が起きたんだ。
 それで タイチ って若い男の人に疑いがかけられて、でも本人はやってないって。」
メタモ「それで今 証拠を探してるけどなにもなくて。」
幽霊少女「交通事故? ああ、それなら知ってるよ。
 あのお兄さんは轢いてない。」
華南「本当か!?」
メタモ「じゃあさ、明日の裁判で目撃者として来てよ。」
華南「ちょっと待て。 私達はともかく、普通の人には声だって聞こえないんだぞ。」

 三人は考えると幽霊少女はひらめく。
「そうだ。」
 華南とメタモにそれぞれ耳打ちする。





 裁判、タイチは緊張した表情。


裁判官「弁護側は意見があれば述べてください。」
弁護人「はい、今回は事故が起きた現場で目撃したという方をお呼びしました。」

 法廷台の横に来る。

華南「私は目撃した証人の補佐を務める者です。
 皆さんの目にはなにも見えないと思いますがこちらの法廷台には確かに人がいます。 その証拠に・・・」
 白い粉を振りかけると幽霊少女の姿が現れる。
 確認が取れた後で粉を払う。

「この方は声を出すことができません。 なのでこの小さな太鼓を使い 」
 手渡しする。
「一回叩くと“ はい ”。 二回叩くと“ いいえ ”という意味です。

 それではお聞きします。
 あなたは事故が起きた現場に、いましたか?」


ドンッ


「被告人の彼は、人を轢きましたか?」


ドンッ


ドンッ


検察官「異議あり!!
 そんな目に見えないものを果たして証言と言っていいのでしょうか?」

 裁判官はしばらく考える。

裁判官「弁護側の意見を続けてください。」
華南「はい。 ではひき逃げした犯人は他にいるということでしょうか?」


ドンッ


「あなたはその犯人を見てますか?」


ドンッ


「ではよろしければ似顔絵で描いてもらえますか。」


 スケッチブックと鉛筆が渡される。

 しばらくして似顔絵が出される。
「 誰だ? 」
 明らかにタイチとは違う。
 傍聴席から逃げる人物。

「あいつだ!!」
 気づいたメタモは後を追う。

 華南も追う。
「気をつけて退魔師ちゃん、あいつ人間じゃないから。」



― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


〔 暴れ車 〕

火の輪車種の妖。
攻撃的な性格で邪魔するものはどんなものでも蹴散らす。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



 回想、夜の山道を走る車。

「ここは人も誰もいねえからな。 そうだ、ブレーキを踏まないで走ってみよう。」
 車は全速力で走りだす。
 道を野生のタヌキが横切ろうとすると車に驚いて引き返す。

「ワッハッハッハッハッハッハッハッハッ  おもしれえ!!」

 走ってる途中で急カーブに差し掛かる。
 ただし曲がり切れずにガードレールを突き破って転落、爆発する。


 まわりが燃えている中で車から投げ出された男は頭から血を出して倒れている。
 動かない男の近くにダークマンが来ると黒い影が出てきて男の体内に入ると不気味に目が光る。


幽霊少女「 私もあいつを止めようとしたんだけど、やつには実態があって。
 おそらく憑りついてるんだと思う。 」



「せっかくこっちに出て来れたんだ、退魔師なんかに祓われてたまるか!
 それにジジイがモタモタしてるのがいけないんだ!!」

 男は妖(暴れ車)の姿に変わると走り出す。
 華南とメタモもそれを追う。


 幽霊少女は離れた場所で植え込みに座ってバナナを食べる。


 自動車道を走る暴れ車、ほかの走ってる車が気づくと避ける。


 途中で小馬に変装していたメタモも勢いが止まる。

華南「もっと速く走れないのか?」
メタモ「無茶言わないでよね! こんな姿めったになったことないんだから。」

 途中で立ちはだかる人物(ドッペル3号)。

ドッペル3号「ここから先は行かせん。」
華南「お前に今構ってる場合じゃないんだ!」


 二人で戦い、ドッペル3号は消滅する。
「!!」
 華南の体に激痛が走る。

メタモ「!?」
華南「問題ない、とにかく先を急ぐぞ。」



 暴れ車はいろいろ蹴散らしながら走る。

「誰にも俺は止められねえ!!」



 幽霊少女は路上にバナナの皮を投げるとそこに暴れ車が走って来ると勢いよく転ぶ。

幽霊少女「いい加減にしろ。」
暴れ車「何しやがるこの死にぞこないが!!」

 少女に襲い掛かろうとするとそこに華南とメタモが来て弾かれる。



 戦いの末に車部分がズタズタにされる。



暴れ車「俺はただ思うがままに走ってるだけだ・・・、
 邪魔するやつらがいけねえんだ!!」
メタモ「呆れたもの言いだね。」
華南「お前に道を走る資格はない。」
 二人に切られると切り込みが入り、暴れ車は悲鳴を挙げながら消滅する。
 その後で息をつく。





 数日後、タイチは逆転して無罪。

 華南とメタモは町を去ろうとするとタイチが来る。

タイチ「二人とも本当にありがとう! 無実を証明してくれて。
 それからあの幽霊さんにもお礼を言いたいんだけど、いまどこ?」
華南「それが・・・ 」
メタモ「もう成仏しちゃった。」


 小回想。

幽霊少女「私もそろそろこの生活に飽きてきたし、もうさよならしようかな。」
華南「タイチさんはもういいのか?」
幽霊少女「いいんだよ。 どうせ私の気まぐれなんだから。」



タイチ「そんな・・・ 」
メタモ「でもまあ、正しい行いをしていたんだから助けてもらえたんだと思う。
 その心を忘れないでいればまたいつかどこかで会えるんじゃない?」



 遠く離れたところで幽霊少女は頷く。





 ‐  つづく  ‐

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