祓え 溝口華南

斉藤 延廣

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1章 妖を祓え

10話

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『 戦場の迷い子 』



 海岸、迷彩服を着た人が流れつく。
 岸に打ち上げられると意識を戻し起き上がる、それと同時にヘルメットが外れる。
「?」
 見た目は華南より少し下くらいの少女でわけが分からないまま辺りを見る。
 足元に落ちているペットボトルのゴミを拾いラベルには日本語表記された文字。
「ここは・・・、 日本・・・・・・・・・?

 やったー! 帰ってきた~!!」



 少女は軽やかに歩きまわる。

 町中、ショーウィンドウの前に立ち止まり、髪を触りながら身だしなみを整える女子。
 迷彩の少女が横切る。
「?」
 女子は振り向くがそこには誰もいない。



 宿舎、華南は机で書類整理をしている。


~ 回想 ~


 戦場で武器を持って戦う華南と少女。

華南「そっちは!?」
少女「あと30、いや40くらいかな!?」


 戦いに勝利して歓喜の声が挙がる。

少女「やったね!」
華南「ああ!」
 ハイタッチする。

 戦いのない日に二人は部屋で休む。
 それでも華南は簡単にトレーニングする。

少女「ねえ華南。」
華南「?」
少女「私達ってさ、いいコンビだよね。 戦ってばかりのこんな日々いつまで続くんだろ。」
華南「そうだな、でもリサと一緒ならどこまでもいける気がする。」
少女(リサ)「私もだよ、これからもよろしく。」
華南「うん。」


~ 回想終わり ~


 華南は仕事の途中でウトウトして目覚める。
「・・・いけない。」



 少女は青年二人を見かける。
「ねえちょっと君たち!」
 しかし青年は反応もなく通りすぎる。
「あれ、聞いてないのかな?」

 他の人にも呼びかけるが無反応。

 少女は歩いてくる女子の前に立つ。 
「ねえ!」
 女子は少女の体をすり抜ける。
「え? ちょっと!」
 女子の肩を叩こうとしても手は通り抜ける。
「・・・どうなってんの?」



 華南は外を歩く。
「(どうして今さらあんなことを・・・)」

 町が見渡せる丘で少女は座っている。
「帰ってこれたのに誰も気づいてくれないし、なんかおかしい。
 誰なら分かってくれるんだろ。」

 少女はお尻をはたいて立ち上がる。
 その近くを偶然 華南は通りかかる。

少女「あ。」 華南「あ。」

 少女は華南をじっと見る。

少女「もしかして、溝口兵長?」
華南「ということは、リサ?」
少女(リサ)「久しぶりだね~。 こうやって日本にも帰ってこれたよ。
 次はどこで戦うの?」
華南「いや、それがね 」
 服をよく見る。
リサ「ねえ、どうして伍長の服着てるの?」
華南「ウソだ。 だってリサは・・・ 」

 脳裏にはリサを華南が刀で刺す姿が浮かぶ。

リサ「私の意識がなくなるときに華南がいた。 なんで?」
華南「それは・・・」
リサ「どうして!? どうして何も教えてくれないの!?」

 華南は近寄ろうとするとリサは銃を構える。

リサ「華南なんて大嫌い!! 隠し事はなしっていったのに!! 」
 華南は歩み寄る。
リサ「来ないで!」

 華南はリサを抱く。


華南「私だって辛かったんだ! あんなふうにするつもりなんてなかったのに!」

 華南は離れると両手を広げて目をつむる。
「私のことが憎いか、リサにならどうなっても構わない。
 撃とうが切ろうが好きにしてくれ。」
 グッとこらえた表情。
 リサは華南に近寄る。



ギュッ



 リサは両手で華南の頬をつねる。

華南「!?」
リサ「そうやって、どうして簡単に絶つことばかり考えるの。」

~ 小回想 ~

 華南とリサは足を拘束され動けない。

「もうここまでか。」
 不本意な表情で刀をのど元に突きつける。
「あんなやつらの捕虜になるくらいなら・・・。」
 リサは刀を取り上げて華南の頬をたたく。

華南「?」
リサ「ばか!! そんな粗末にしていいものじゃないでしょ!
 生きていればまだどうにかできるから、この状況を打開することだって。
 だから、そう簡単に諦めないで。」
華南「・・・・・・ご、ごめん。」

~ 回想終わり ~


リサ「華南がそうしたのは、なにか理由があるんだよね。」
華南「ああ、それならリサも分かる範囲で教えてくれ。」

~ 回想 ~


 別の戦場で二人は銃や剣を持って戦っている。

リサ「 迎撃も兼ねて探索中に影のようなものを見て、私はそれを追った。 」
華南「 それってどんなもの? 」
リサ「 分からない、最初は敵軍の兵士だと思ったんだけど。 」

 リサは小さな窓からしか光が入らない暗い倉庫に入るが中には誰もいない。
「なにか気配を感じたんだけど、見失ったか。
 あーあ、嫌になっちゃう、こんな戦いなくなってくれないかな。」
 倉庫から出ようとするとリサの首の後ろになにかが入る。
「!?」

 華南は次々と敵の兵士を仕留めながらリサと合流する。

「リサ。」
 異変に気づく。
「どうした?」
 リサはうつ向いたまま小さく笑っていて顔を上げると尋常でないほど目が充血している。

「あははははははははははは・・・・・・!!!」
 
 リサは華南を蹴り、華南は武装でケガは免れるが勢いよく吹き飛ぶ。
 リサは走っていき、華南は態勢を立て直そうとする。


「こんなものが! こんなものがあるから!!」
 リサは敵も見方も関係なくその場で銃を撃ちまくる。
 兵士は次々と倒れる。

 隠れていた華南はリサを見る。

華南「 リサのあり得ないほどの変貌に驚いて見ていたら、黒いオーラみたいなものが出ていて。 」


 華南は銃や攻撃を避けながらリサの近くに来ると刀を抜く。

「!!」 「・・・!!」

華南「 私はなんとかしてリサを正気に戻すために応戦した。
 だけど、気づけば刀は体を貫いていて・・・ 」


 華南は焦りながら見るがリサは目を開けたまま動かなくなる。
 動かなくなったリサを抱き締めて華南は泣く。
「どうしてこんな・・・!!」


華南「 リサを失った戦いの後、私は昇任した。
 だけど、納得なんてできなかった。

 それから数日して軍隊は解体され、残った仲間のみんなは散り散りになった。
 それでもあのショックから立ち直れないときにある手紙が来たんだ。
 目には見えない、科学では解明ができない現象を取り締まり、妖という魔物が関わっていれば祓う、そんな組織から。


 リサの普通じゃない変わりようやそれらが妖に関係するものだと思い、またこれ以上こんな悲劇を起こさせないようにするために私はそれに属して退魔師になった。 」


~ 回想終わり ~


リサ「それじゃあ、私が兵士のみんなを・・・」
華南「違う! 妖がそうさせたんだ!!」
リサ「あ、でもさ、軍隊はもう解体されたんだよね。
 それなのにどうしてこの姿なの?」
 華南の軍服を触る。

華南「私は、死んでいった兵士のみんなの想いを持って生きる。
 それが、せめてもの弔いになるのなら。」
 両手でリサの手を握り自分の胸に当てる。
華南「もちろん、リサも含めて。」

リサ「よかった、帰って来て。
 すべてのことも分かったけど、なにより最後に華南にも会えたから。」

華南「本当にいいんだな。」
リサ「うん。」

 華南は術を組んでリサに当てる。

リサ「ありがとう華南、やっぱりあなたは最高の     」

 リサの体は光りながら消えていく。
「?」
 何かが浮いている。
 華南は両手で赤い石を受け止める。
「・・・・・・リサ・・・・・・」


 華南は歩きながら赤い石を見る。
 石を胸ポケットにしまうと町を去る。





― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


[ 浮遊霊 ]

現世に未練があり、成仏できずにさまよっている存在
生前の感情により普通の人にも妖にも種類は別れる


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