101 / 147
もう15歳
27
しおりを挟む
やってきました。イベント日。
雲ひとつない、絶好の遠足日和にございます。
本日は1限目の授業開始時間に森の手前にある、王都へ最も近い監視塔に集合。ですから各自の家の馬車を呼んだり、学園が用意した乗り合い馬車を利用したりして、それぞれ向かいます。
私はヘンリー殿下とゼノベルト皇子殿下から、それぞれ一緒に行こうと誘われましたが、当然のように断りました。
「私、これでも侯爵家の娘ですので、夜会のエスコートでもない、婚約者でもない殿方と同じ馬車へは乗れませんの」
と、今更そんなこと気にするの? 的な空気の中で、言い切って逃げましたよ。醜聞なんて気にしませんが、嫌なものは嫌なので、常識を盾にしてやりました。
最近、王族2人は競うように私の気を惹こうとしてくるのですが、悪趣味な賭け事でもしているのでしょうか。迷惑この上ないので、巻き込まないでいただきたい。
そんなわけで、私はルーカス、クラウドと一緒にテトラディル侯爵家所有の馬車で向かいましたよ。
んで、目立ちたがりのゼノベルト皇子殿下が引いたクジにより、チーム「濃ゆい」――勝手に命名――は大トリを務めることとなったのでございます。つまり、一番最後に出発するという事ですよ。
「しかしクジ運が悪いな。最後に出発するのでは、魔物が狩つくされていて、俺様が活躍できぬではないか」
そんな面倒なことを言いながら、ダリア様と共に先頭を歩くゼノベルト皇子殿下の背を、ジト目で見つめます。
くじを引いたのは、貴方です。それに先生の手を借りずに森を抜ければいいだけなのですから、普通の遠足で終われば御の字ではないですか。
まあ、最終組でなくても、レオンがいる限り魔物は襲ってきませんけどね。オニキスによると、レオンの精霊トゥバーンに喧嘩を売るような精霊は、まずいないらしいのです。
やったね! イージーモード確定ですよ。
「ゼノ。油断していると、獣の糞を踏むよ」
「おわっ?! ・・・脅すな。そんなものないぞ?」
読めもしないのに地図を持っているゼノベルト皇子殿下に代わり、その隣を歩くダリア様がさりげなく方向を修正しています。さすが幼少期からの付き合いだけあって、手慣れたものですね。
大丈夫なのかと言う意味を込めて、私の隣を歩くクラウドを見上げると、しっかり頷いてくれました。どうやら道は合っているようです。
「ルーカス、生徒会の方は慣れましたか?」
「はい、姉上。急だったフランツ王子殿下からの引継ぎも、無事に終わりました。クラブ活動費の配当も決まりましたし、来月の臨時生徒会長選挙の準備も、もう済んでいます。それに今年は生徒会主催の春の舞踏会がありませんでしたから、楽みたいですね。秋にある武闘大会は学園主催ですから支援するのみですし、冬の卒業パーティーにはまだ間がありますし、おおむね順調です」
「そうですか。それは良かった」
どのクラブへ入るか散々迷った挙げ句、ルーカスは強制的に所属する事になったレオンと共に、生徒会へ入ったのです。学年が違いますが、そこはゲーム通りになりましたね。
「ルークはさすが「藍天の才人」と言われるだけあるね。あっという間に仕事を覚えて、即戦力になってくれた。生徒会長代理も評価していたよ」
ルーカスの前を歩いていたヘンリー殿下が、私を振り返りながら言いました。
その右横で、アレクシス様が頷いています。話に加わりたいそぶりを見せながらも、先頭の帝国組2人を気にして口をつぐんだままのレオンは、ヘンリー殿下の前、ゼノベルト皇子殿下の後ろを歩いています。
ヘンリー殿下の左隣を守るのは、ツヴァイク様ですね。彼だけは、真面目にあたりへ気を配りながら歩いています。
そして引率の先生は殿を歩く私とクラウドの後ろの、会話が聞きとりにくい程度に離れた所にちゃんといますよ。
「先輩はさすが「艶陽の猛獣使い」とも言っていたぞ?」
ほんの少し笑いを含んだような声音で、アレクシス様が言いました。ヘンリー殿下が苦々しい表情をしたことから、からかわれたようです。
ヘンリー殿下の二つ名である「艶陽」は、春の日差しの事らしいですよ。外面の無邪気で可愛らしいところからきているようですが、それに続く「猛獣使い」というところに実は本性がバレかけているのではないかと、思わないでもありません。
「うるさいな、「凍空の貴公子」。猛獣にはアレクも含まれているのだからね!」
ヘンリー殿下が可愛らしく頬を膨らませています。
アレクシス様の方はその二つ名も、猛獣呼ばわりも満更ではないようで、わずかに口角を上げただけでした。まあ、彼の場合「凍空」は瞳の色そのままですし、「貴公子」も貴族の子というそのままの意味ですからね。猛獣呼ばわりは・・・男子なら気にしないのかな?
会話が二つ名の話題になったあたりから気配を消している、レオンの二つ名「払暁の守護者」は、「払暁」が夜明けという意味の髪色由来で、「守護者」が無言で護衛に徹する姿からきているのだとか。前半はともかく、後半が本来の彼からかけ離れているために、居たたまれないのでしょう。ゲームどおりの「愚者」よりはいいと思うのですがね。
「そういえば、ツヴァイク様にはないのですか?」
彼は正確にはヘンリー殿下の護衛ですが、この「ヘンリー殿下とりまき隊」と行動を共にしていることが多い・・・というか、いつも一緒なのですから、あってもおかしくないと思うのです。
するとヘンリー殿下がニヤニヤしながら教えてくれました。
「あるよ。「緋炎の苦労人」だってさ」
「ぐっ・・・ふ・・・ふぅ・・・そうですか。」
よし。耐えきりました。
かっこいい系の前半と、残念な後半のコラボレーションで生まれた笑いを、なんとか飲み込んで、私は何とも言えない表情のツヴァイク様へ同情の視線を送ります。
それに気付いた彼は、茶の瞳を伏せて悲壮感を漂わせ始めました。そんな「魔女に同情されるなんて俺も堕ちたものだな。笑うなら笑え!」というような顔をしないでくださいよ。
「おい、俺に二つ名はないのか?!」
クラスでも確実に悪目立ちしているゼノベルト皇子殿下が、振り向きざまに言いました。
いちいち大声を出さなくても聞こえますよ。それに貴方は「残念エルフ」で十分です。
勝手に付けたゼノベルト皇子殿下の二つ名に満足して悦に入っていたら、ダリア様が長い指を顎に当てて、考えるしぐさをしました。
「そういえば、聞いたことがないな。ゼノは十分、目立っていると思うのだが」
そう言いつつ、自然な感じで進行方向を修正する、ダリア様。
しかもクラウドによるとゼノベルト皇子殿下が嫌がりそうな沼地や、岩場、低木が密集しているような所を避けながら、比較的歩きやすい所を行くように誘導しているのだとか。かなり優秀な護衛ですね。
「ダリア嬢のはあるよ。「異国の麗人」だって」
ほうほう。そのまんまですな。
すでに「嬢」呼ばわりのヘンリー殿下の言葉に、首を傾げる動作さえ麗しいダリア様が言いました。
「・・・ではゼノは「異国の皇子」かな?」
「あぁ。そうですね。ピッタリです。」
深く頷いて同意を表した私と一緒に、ゼノベルト皇子殿下以外の全員が頷きました。その表情から「面倒だからそれでいいんじゃない?」と思っているのが、ありありと読み取れます。
その空気を読んでしまったのか、ゼノベルト皇子殿下が薄い肩をわななかせながら吠えました。
「そんな! なんのひねりもないではないか!! 俺ももっと格好いいのが欲しい!!」
うえー。じゃあ、ご自分で考えてくださいよ。
たぶん、皆そう思ったに違いない。しかし相手は隣国の皇族。しかも第一帝位継承者です。皆であーでもない、こーは嫌だと言われながら、暇つぶしに考えながら進むこと暫し。
「狙いはどっちだと思う? アレク」
「わからん。とりあえず切り抜けて、後で考えよう」
魔物には遭遇しませんでしたが、黒装束の人間に囲まれました。
野営予定地に着いて、暗くなる前にテントを張ろうとした矢先の事です。いっそのこと夜中に襲ってくれれば、闇に乗じて一気に眠らせることができたのに。
「標的と予測される、お2人は真中へ。トリステンとテトラディル姉弟はその周りを固めなさい。護衛たちは・・・わかっているな?」
チーム「濃ゆい」担当である武術の先生が、最前へ出て剣を構えました。その指示通りに円陣を組み、外周を護衛組が囲みます。
じりじりと包囲網が狭まる中、ルーカスが放った矢を敵が弾いた音をきっかけに、一斉に切り込んできました。その数、ざっと30人前後。
事前にこちらの戦力を測ってきたのか、クラウドと先生にはそれぞれ手練れらしいのが2人ずつと、さらに数人が付いています。レオンは今回の遠足が森の中で行われるため、いつもの大剣ではなく一般的な長さの剣を持ってきていました。ですから、いつもよりちまちまと戦っています。ツヴァイク様とダリア様は、正規の騎士らしい無駄のない動きですね。
時折、円陣の中へ入ってこようとするのを、ルーカスは矢で、私は制服に仕込んである苦無を使って牽制します。
先生と帝国組がいなければ、魔法を乱用してやるのですけれど。念のため、持ってきた武器すべてに闇魔法で「刃先に触れると即寝」を、付与しておいて良かった。
敵の矢はアレクシス様とヘンリー殿下が、必要ないけれどもカモフラージュの為に詠唱をしながら防いでくれますので、無視で大丈夫ですね。
徐々に敵が数を減らしていく中、相手を瞬殺するかと思っていたクラウドが、予想外にも手こずっています。
あ、でも両脇のダリア様とツヴァイク様をフォローしながらなので、手こずっているのとはちょっと違うのかな?
「ルーカス! 南東、木の上!」
「了解!」
地獄耳がルーカスへ指示を出しました。どうやら魔法の詠唱を耳にしたようですね。
威力がある魔法ほど、詠唱は長い。ですから発動される前に阻害してしまえばいいのです。示されたところをルーカスが射れば、そこから人が落ちてきました。うまく連携が取れていますね。
「ダリア!!」
疲れてきたらしいダリア様が、左の袖部分を浅く切られました。追撃しようとダリア様を狙った者へ、苦無を投げて牽制します。
そしてそちらへ向かおうとするゼノベルト皇子殿下を止めたアレクシス様を狙って、切り込んできた者を苦無で仕留めました。
「カーラ様!」
2人を同時にフォーローした隙をつかれて、わずかに剣がとどくだろう間合いまで、敵に踏み込まれてしまいました。振り下ろされる剣の軌道からして、肩口を切られるけれど、命の危険はないと判断します。最悪、オニキスがこっそり何とかしてくれるでしょう。
でも私に気をとられているクラウドの、背後から突き出されようとしている剣はアカン軌道でした。
しまったな。魔物避けを当てにしきって、「障害無効」を付与しなかった事が悔やまれます。
一瞬にも満たない間でそんな事を思考し、自分へ振り下ろされる剣を無視して、持っていた苦無をクラウドの背後にいた敵の喉元へ放ちます。そしてそのまま、来るかもしれない痛みに構えました。
雲ひとつない、絶好の遠足日和にございます。
本日は1限目の授業開始時間に森の手前にある、王都へ最も近い監視塔に集合。ですから各自の家の馬車を呼んだり、学園が用意した乗り合い馬車を利用したりして、それぞれ向かいます。
私はヘンリー殿下とゼノベルト皇子殿下から、それぞれ一緒に行こうと誘われましたが、当然のように断りました。
「私、これでも侯爵家の娘ですので、夜会のエスコートでもない、婚約者でもない殿方と同じ馬車へは乗れませんの」
と、今更そんなこと気にするの? 的な空気の中で、言い切って逃げましたよ。醜聞なんて気にしませんが、嫌なものは嫌なので、常識を盾にしてやりました。
最近、王族2人は競うように私の気を惹こうとしてくるのですが、悪趣味な賭け事でもしているのでしょうか。迷惑この上ないので、巻き込まないでいただきたい。
そんなわけで、私はルーカス、クラウドと一緒にテトラディル侯爵家所有の馬車で向かいましたよ。
んで、目立ちたがりのゼノベルト皇子殿下が引いたクジにより、チーム「濃ゆい」――勝手に命名――は大トリを務めることとなったのでございます。つまり、一番最後に出発するという事ですよ。
「しかしクジ運が悪いな。最後に出発するのでは、魔物が狩つくされていて、俺様が活躍できぬではないか」
そんな面倒なことを言いながら、ダリア様と共に先頭を歩くゼノベルト皇子殿下の背を、ジト目で見つめます。
くじを引いたのは、貴方です。それに先生の手を借りずに森を抜ければいいだけなのですから、普通の遠足で終われば御の字ではないですか。
まあ、最終組でなくても、レオンがいる限り魔物は襲ってきませんけどね。オニキスによると、レオンの精霊トゥバーンに喧嘩を売るような精霊は、まずいないらしいのです。
やったね! イージーモード確定ですよ。
「ゼノ。油断していると、獣の糞を踏むよ」
「おわっ?! ・・・脅すな。そんなものないぞ?」
読めもしないのに地図を持っているゼノベルト皇子殿下に代わり、その隣を歩くダリア様がさりげなく方向を修正しています。さすが幼少期からの付き合いだけあって、手慣れたものですね。
大丈夫なのかと言う意味を込めて、私の隣を歩くクラウドを見上げると、しっかり頷いてくれました。どうやら道は合っているようです。
「ルーカス、生徒会の方は慣れましたか?」
「はい、姉上。急だったフランツ王子殿下からの引継ぎも、無事に終わりました。クラブ活動費の配当も決まりましたし、来月の臨時生徒会長選挙の準備も、もう済んでいます。それに今年は生徒会主催の春の舞踏会がありませんでしたから、楽みたいですね。秋にある武闘大会は学園主催ですから支援するのみですし、冬の卒業パーティーにはまだ間がありますし、おおむね順調です」
「そうですか。それは良かった」
どのクラブへ入るか散々迷った挙げ句、ルーカスは強制的に所属する事になったレオンと共に、生徒会へ入ったのです。学年が違いますが、そこはゲーム通りになりましたね。
「ルークはさすが「藍天の才人」と言われるだけあるね。あっという間に仕事を覚えて、即戦力になってくれた。生徒会長代理も評価していたよ」
ルーカスの前を歩いていたヘンリー殿下が、私を振り返りながら言いました。
その右横で、アレクシス様が頷いています。話に加わりたいそぶりを見せながらも、先頭の帝国組2人を気にして口をつぐんだままのレオンは、ヘンリー殿下の前、ゼノベルト皇子殿下の後ろを歩いています。
ヘンリー殿下の左隣を守るのは、ツヴァイク様ですね。彼だけは、真面目にあたりへ気を配りながら歩いています。
そして引率の先生は殿を歩く私とクラウドの後ろの、会話が聞きとりにくい程度に離れた所にちゃんといますよ。
「先輩はさすが「艶陽の猛獣使い」とも言っていたぞ?」
ほんの少し笑いを含んだような声音で、アレクシス様が言いました。ヘンリー殿下が苦々しい表情をしたことから、からかわれたようです。
ヘンリー殿下の二つ名である「艶陽」は、春の日差しの事らしいですよ。外面の無邪気で可愛らしいところからきているようですが、それに続く「猛獣使い」というところに実は本性がバレかけているのではないかと、思わないでもありません。
「うるさいな、「凍空の貴公子」。猛獣にはアレクも含まれているのだからね!」
ヘンリー殿下が可愛らしく頬を膨らませています。
アレクシス様の方はその二つ名も、猛獣呼ばわりも満更ではないようで、わずかに口角を上げただけでした。まあ、彼の場合「凍空」は瞳の色そのままですし、「貴公子」も貴族の子というそのままの意味ですからね。猛獣呼ばわりは・・・男子なら気にしないのかな?
会話が二つ名の話題になったあたりから気配を消している、レオンの二つ名「払暁の守護者」は、「払暁」が夜明けという意味の髪色由来で、「守護者」が無言で護衛に徹する姿からきているのだとか。前半はともかく、後半が本来の彼からかけ離れているために、居たたまれないのでしょう。ゲームどおりの「愚者」よりはいいと思うのですがね。
「そういえば、ツヴァイク様にはないのですか?」
彼は正確にはヘンリー殿下の護衛ですが、この「ヘンリー殿下とりまき隊」と行動を共にしていることが多い・・・というか、いつも一緒なのですから、あってもおかしくないと思うのです。
するとヘンリー殿下がニヤニヤしながら教えてくれました。
「あるよ。「緋炎の苦労人」だってさ」
「ぐっ・・・ふ・・・ふぅ・・・そうですか。」
よし。耐えきりました。
かっこいい系の前半と、残念な後半のコラボレーションで生まれた笑いを、なんとか飲み込んで、私は何とも言えない表情のツヴァイク様へ同情の視線を送ります。
それに気付いた彼は、茶の瞳を伏せて悲壮感を漂わせ始めました。そんな「魔女に同情されるなんて俺も堕ちたものだな。笑うなら笑え!」というような顔をしないでくださいよ。
「おい、俺に二つ名はないのか?!」
クラスでも確実に悪目立ちしているゼノベルト皇子殿下が、振り向きざまに言いました。
いちいち大声を出さなくても聞こえますよ。それに貴方は「残念エルフ」で十分です。
勝手に付けたゼノベルト皇子殿下の二つ名に満足して悦に入っていたら、ダリア様が長い指を顎に当てて、考えるしぐさをしました。
「そういえば、聞いたことがないな。ゼノは十分、目立っていると思うのだが」
そう言いつつ、自然な感じで進行方向を修正する、ダリア様。
しかもクラウドによるとゼノベルト皇子殿下が嫌がりそうな沼地や、岩場、低木が密集しているような所を避けながら、比較的歩きやすい所を行くように誘導しているのだとか。かなり優秀な護衛ですね。
「ダリア嬢のはあるよ。「異国の麗人」だって」
ほうほう。そのまんまですな。
すでに「嬢」呼ばわりのヘンリー殿下の言葉に、首を傾げる動作さえ麗しいダリア様が言いました。
「・・・ではゼノは「異国の皇子」かな?」
「あぁ。そうですね。ピッタリです。」
深く頷いて同意を表した私と一緒に、ゼノベルト皇子殿下以外の全員が頷きました。その表情から「面倒だからそれでいいんじゃない?」と思っているのが、ありありと読み取れます。
その空気を読んでしまったのか、ゼノベルト皇子殿下が薄い肩をわななかせながら吠えました。
「そんな! なんのひねりもないではないか!! 俺ももっと格好いいのが欲しい!!」
うえー。じゃあ、ご自分で考えてくださいよ。
たぶん、皆そう思ったに違いない。しかし相手は隣国の皇族。しかも第一帝位継承者です。皆であーでもない、こーは嫌だと言われながら、暇つぶしに考えながら進むこと暫し。
「狙いはどっちだと思う? アレク」
「わからん。とりあえず切り抜けて、後で考えよう」
魔物には遭遇しませんでしたが、黒装束の人間に囲まれました。
野営予定地に着いて、暗くなる前にテントを張ろうとした矢先の事です。いっそのこと夜中に襲ってくれれば、闇に乗じて一気に眠らせることができたのに。
「標的と予測される、お2人は真中へ。トリステンとテトラディル姉弟はその周りを固めなさい。護衛たちは・・・わかっているな?」
チーム「濃ゆい」担当である武術の先生が、最前へ出て剣を構えました。その指示通りに円陣を組み、外周を護衛組が囲みます。
じりじりと包囲網が狭まる中、ルーカスが放った矢を敵が弾いた音をきっかけに、一斉に切り込んできました。その数、ざっと30人前後。
事前にこちらの戦力を測ってきたのか、クラウドと先生にはそれぞれ手練れらしいのが2人ずつと、さらに数人が付いています。レオンは今回の遠足が森の中で行われるため、いつもの大剣ではなく一般的な長さの剣を持ってきていました。ですから、いつもよりちまちまと戦っています。ツヴァイク様とダリア様は、正規の騎士らしい無駄のない動きですね。
時折、円陣の中へ入ってこようとするのを、ルーカスは矢で、私は制服に仕込んである苦無を使って牽制します。
先生と帝国組がいなければ、魔法を乱用してやるのですけれど。念のため、持ってきた武器すべてに闇魔法で「刃先に触れると即寝」を、付与しておいて良かった。
敵の矢はアレクシス様とヘンリー殿下が、必要ないけれどもカモフラージュの為に詠唱をしながら防いでくれますので、無視で大丈夫ですね。
徐々に敵が数を減らしていく中、相手を瞬殺するかと思っていたクラウドが、予想外にも手こずっています。
あ、でも両脇のダリア様とツヴァイク様をフォローしながらなので、手こずっているのとはちょっと違うのかな?
「ルーカス! 南東、木の上!」
「了解!」
地獄耳がルーカスへ指示を出しました。どうやら魔法の詠唱を耳にしたようですね。
威力がある魔法ほど、詠唱は長い。ですから発動される前に阻害してしまえばいいのです。示されたところをルーカスが射れば、そこから人が落ちてきました。うまく連携が取れていますね。
「ダリア!!」
疲れてきたらしいダリア様が、左の袖部分を浅く切られました。追撃しようとダリア様を狙った者へ、苦無を投げて牽制します。
そしてそちらへ向かおうとするゼノベルト皇子殿下を止めたアレクシス様を狙って、切り込んできた者を苦無で仕留めました。
「カーラ様!」
2人を同時にフォーローした隙をつかれて、わずかに剣がとどくだろう間合いまで、敵に踏み込まれてしまいました。振り下ろされる剣の軌道からして、肩口を切られるけれど、命の危険はないと判断します。最悪、オニキスがこっそり何とかしてくれるでしょう。
でも私に気をとられているクラウドの、背後から突き出されようとしている剣はアカン軌道でした。
しまったな。魔物避けを当てにしきって、「障害無効」を付与しなかった事が悔やまれます。
一瞬にも満たない間でそんな事を思考し、自分へ振り下ろされる剣を無視して、持っていた苦無をクラウドの背後にいた敵の喉元へ放ちます。そしてそのまま、来るかもしれない痛みに構えました。
0
お気に入りに追加
2,783
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる
レラン
恋愛
前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。
すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?
私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!
そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。
⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎
⚠︎誤字多発です⚠︎
⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎
⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎
『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故
ラララキヲ
ファンタジー
ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。
娘の名前はルーニー。
とても可愛い外見をしていた。
彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。
彼女は前世の記憶を持っていたのだ。
そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。
格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。
しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。
乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。
“悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。
怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。
そして物語は動き出した…………──
※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。
※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。
◇テンプレ乙女ゲームの世界。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。
派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。
木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。
彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。
当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。
私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。
だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。
そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。
だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。
彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。
そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。
ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?
ラララキヲ
恋愛
乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。
学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。
でも、ねぇ……?
何故それをわたくしが待たなきゃいけないの?
※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。
◇テンプレ乙女ゲームモノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。
第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~
斯波
恋愛
辺境伯令嬢ウェスパルは王家主催のお茶会で見知らぬ令嬢達に嫌味を言われ、すっかり王都への苦手意識が出来上がってしまった。母に泣きついて予定よりも早く領地に帰ることになったが、五年後、学園入学のために再び王都を訪れなければならないと思うと憂鬱でたまらない。泣き叫ぶ兄を横目に地元へと戻ったウェスパルは新鮮な空気を吸い込むと同時に、自らの中に眠っていた前世の記憶を思い出した。
「やっば、私、悪役令嬢じゃん。しかもブラックサイドの方」
ウェスパル=シルヴェスターは三部作で構成される乙女ゲームの第二部 ブラックsideに登場する悪役令嬢だったのだ。第一部の悪役令嬢とは違い、ウェスパルのラストは断罪ではなく闇落ちである。彼女は辺境伯領に封印された邪神を復活させ、国を滅ぼそうとするのだ。
ヒロインが第一部の攻略者とくっついてくれればウェスパルは確実に闇落ちを免れる。だがプレイヤーの推しに左右されることのないヒロインが六人中誰を選ぶかはその時になってみないと分からない。もしかしたら誰も選ばないかもしれないが、そこまで待っていられるほど気が長くない。
ヒロインの行動に関わらず、絶対に闇落ちを回避する方法はないかと考え、一つの名案? が頭に浮かんだ。
「そうだ、邪神を仲間に引き入れよう」
闇落ちしたくない悪役令嬢が未来の邪神を仲間にしたら、学園入学前からいろいろ変わってしまった話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる