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もう15歳
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元部員たちがいなくなった部室には、入部希望届が何枚か置いてありました。そこで私とクラウドはそれに記名し、新部長欄へ渋るクラウドをおだてつつ名前を書かせて、計6枚となった書類を事務へ提出しました。
もちろん私は先ほどのベンチで待っていましたよ。今度は向かいのベンチには誰もいなかったので、周りを気にすることなくぼーっと待ちました。
そうして書類は特に何の問題もなく受理され、私とクラウドは無事に裁縫部部員となりました。
結果としては棚ぼたでしたが、若干の疲れを感じましたので寮へもどり、早めの夕食をとることにします。
夕食は学食で食べる生徒がほとんどですが、だからこそ私がそこへ行くのは避けるべきで。クラウドに頼んで寮まで運んでもらい、1階の談話室で食べることにしました。ここならクラウドが食事の席に同席していても、誰かの目を気にする必要もありませんし。
「先ほど、ルーカス様とレオンハルト様にお会いしました。お二人とも夕食は食堂でとられるそうです」
ルーカスとレオンはなんだかんだ仲がいいのですよね。
レオンに寄生している新しい精霊、トゥバーンをクラウドの精霊であるモリオンが怖がっていましたから、また以前のように忌避されるのかと思いましたが、その心配はいらないそうです。何でも若い精霊はトゥバーンを怖がっていることが多いらしいのですが、ほとんどの精霊は彼の役割を容認していて、好いてはいなくとも嫌ってもいないんだとか。
まあ、要するに精霊の影響はなく、普通ってことでございますよ。
「そう。ではクラウドと二人きりの夕食ですね」
「は・・・い」
そわそわしながら向かいへ腰かける、クラウド。彼がしっかり座ったことを確認してから、手を合わせて軽く頭を下げました。
今日の夕食は生ハムとオリーブっぽい何かの実、彩を添える程度のサラダに、たぶんトマトとチーズと思われる塊が乗った、前菜。
きっとかぼちゃのスープ。
謎の赤いソースの上に横たわる白身魚と、可愛らしく野菜が飾られた、魚料理。
薄い黄色のゆずだと思いたい、口直しのソルベ。
いろんな色のカブっぽい質感の野菜の上に乗った、肉料理。
最後にベリーであろう紫色のパイ。
つまりフルコースですね。順番通り一つずつ出そうとしたクラウドを制し、全部テーブルへ並べさせたので圧巻です。
ところどころ「たぶん」なのは、この世界では呼び名が違うものが時々あるからです。そんな面倒なことをしなくても、乙女ゲームの世界なのですから単純に前世と同じ名前にしておけばいいのに。
まあ、食卓に並ぶ物の姿形に対する味は、だいたい前世と変わりませんから、例えば「辛いイチゴ」なんてものもなく、安心していただけます。
そうでない、野にある物は注意が必要ですが。
「美味しい」
「学園の食堂は王家や高位貴族のお抱え料理人への登竜門と言われているため、実力者が揃っています。今年は王族が2人もおみえですから、気合が入っているようですね」
クラウドはたまに残念な子ですが、作法は完璧です。貴族の子女に負けない優雅さで、夕食を口にしています。もちろん私も完璧・・・なはずです。
美味しいものを食べている時って、つい夢中になって無言になってしまうのですよね。父にも「カーラは食べている時が一番大人しいな」とか言われた事がありますよ。
「ごちそうさまでした」
急いでいたようには見えなかったクラウドが私より少し先に食べ終わり、食後の紅茶を出してくれました。ありがたくいただいている間に、クラウドが手際よく片付けていきます。
食器はこの別館の調理場に置いておけば、後で学園側の給仕が取りに来てくれるそうです。洗濯物も指定の籠に入れて洗濯場に置いておけば、持って行ってくれて、終われば持ってきてくれるとのこと。
楽ちんですね。
「カーラ様、湯あみはいつになさいますか?」
「あ、そうそう。浴室はまだ見ていませんでしたね。今から見に行ってもいいですか?」
「はい。ちょうど片付けが終わりましたので、お供いたします」
うん。言うと思いました。
そう心配しなくても、この学園内で危険な目にあうことなどありまんよ。どうせこの別館にはオニキスが結界だか、防御壁だかを張っているでしょうし。
でしょう? オニキス。
『ああ。カーラと弟君と、ついでにクラウドを害する気がある者は、入れないようにしてある』
「さらに外から中の様子が窺いみれないようにできますか?」
『可能だ』
早速実行したのでしょう。私の足元へオニキスが現れました。膝の上に頭を乗せてきたので、そっと撫でます。クラウドの影からモリオンが頭だけ出して言いました。
『この建物の中なら、影から出てもいいっすか?』
「いいですよ」
『やったっす!』
ぴょいっと影から飛び出したモリオンが、その場で尾を追いかけるようにぐるぐる回り始めました。ずっと影の中にいるのは、ストレスがたまるようですね。
回り続けるモリオンを見ながら、オニキスの頭を撫でていると、いつの間に側に来たのかクラウドに手を差し出されました。
ああ。浴室を見に行くのでしたね。
「行きましょうか、クラウド」
「はい」
クラウドの手を取って立ち上がり、談話室を出ます。
1階にも浴室があったなとそちらへ行こうとすると、クラウドが困った顔をして足を止めました。
「そちらにも浴室はありますが・・・おそらく使用人用と思われます。3階へ参りましょう」
「・・・まさか「自分で使うからいいか」とか言って、直していなかったりしませんか?」
「・・・」
図星のようです。クラウドが目を反らしました。
私はため息をひとつつくと、彼の顔を覗き込みます。
「私と同じ浴室を使いなさい。そちらは直してあるのでしょう?」
「しかし・・・」
「わかりましたね?」
クラウドが顔を赤くして、視線を彷徨わせます。私は一緒に入ろうと言っているわけではありませんよ。
エスコートされていたため、私の手は彼の手の上にあります。それにぐっと力を入れて強く握ると、クラウドの視線が私に定まりました。
「・・・はい」
よしよし。いい子です。返事に満足して階段へ足を向けました。
すっかり日が暮れて薄暗くなってしまった階段を、クラウドが私をエスコートするのと、反対の手に持ったろうそくで照らしてくれます。ゆっくり3階まで上がると、クラウドが浴室と思われる方へ歩きながら、壁のろうそくへ明かりを灯していきました。
「こちらでございます」
すでに薄暗い脱衣所だけでも想像していたより広く感じました。壁のろうそくに火が灯ると、脱衣所だけでも8畳ほどあることが分かります。廊下とは二重の戸で隔てられ、そこで靴を脱ぐ仕様になっています。そして壁際に簡易の長椅子と、中央に銭湯にあるような棚が置かれていました。木の香りが漂い、清潔感あふれる、シンプルな部屋ですね。
さあ、いよいよ、浴室を見てみましょう!
「わぁっ!」
素晴らしい!!
真っ先に目に入ったのは南の窓に面した、奥に向かって長細い、一気に4、5人入れそうな湯船です。檜ではありませんが、真新しい木の香りがする湯船で、座って足を延ばせばちょうどよさそうな深さです。
その向かいにはかけ湯用の1メートル四方の湯船があり、洗い場らしい場所には石鹸や香油が置いてある棚と、風呂おけが置いてありました。テンションMAXになった私は、逸る心のままに水魔法を使って二つの湯船に湯を満たします。
「賢者様は水魔法の使い手だったのかもしれませんね」
この世界では水魔法が使えれば、湯も氷も作り出せます。水の状態を変化させれば可能なので。もちろん精霊と契約をしていないのならば、呪文が必要ですが。
ですから水魔法が使える使用人は重宝されます。通常でしたら薪で湯を沸かし、湯殿まで運ばなければならないのが、呪文ひとつで終わりますからね。ただし、その使用人を雇うことができる、もしくは学園に入れて呪文を覚えさせるだけの財力が必要となりますけど。
「カーラ様、もう入浴されるのですか?」
「食後すぐなのに、と言うのでしょう? 長湯しないように気を付けますから、大丈夫ですよ」
心配そうなクラウドの背をぐいぐい押して、脱衣所から廊下へ追い出します。
「オニキスも。」
『・・・ああ』
クラウドの足元へオニキスが移動したことを確認して、扉を閉めようとすると、クラウドが慌てて言いました。
「あの!」
「・・・どうしました?」
言いにくいのか目を泳がせるクラウドに、先を促します。薄暗い廊下でもわかる程度に頬を染めながら、クラウドは言いました。
「後でお着替えをお持ちして脱衣所へ入りますが、よろしいでしょうか?」
「ええ。お願いします」
ぴしゃりと戸を閉めて、私は鼻歌を歌いながら服を脱ぎ、丁寧にたたみます。私以外に誰もいないのですから、素っ裸のまま堂々と浴室へ向かいました。
もちろん私は先ほどのベンチで待っていましたよ。今度は向かいのベンチには誰もいなかったので、周りを気にすることなくぼーっと待ちました。
そうして書類は特に何の問題もなく受理され、私とクラウドは無事に裁縫部部員となりました。
結果としては棚ぼたでしたが、若干の疲れを感じましたので寮へもどり、早めの夕食をとることにします。
夕食は学食で食べる生徒がほとんどですが、だからこそ私がそこへ行くのは避けるべきで。クラウドに頼んで寮まで運んでもらい、1階の談話室で食べることにしました。ここならクラウドが食事の席に同席していても、誰かの目を気にする必要もありませんし。
「先ほど、ルーカス様とレオンハルト様にお会いしました。お二人とも夕食は食堂でとられるそうです」
ルーカスとレオンはなんだかんだ仲がいいのですよね。
レオンに寄生している新しい精霊、トゥバーンをクラウドの精霊であるモリオンが怖がっていましたから、また以前のように忌避されるのかと思いましたが、その心配はいらないそうです。何でも若い精霊はトゥバーンを怖がっていることが多いらしいのですが、ほとんどの精霊は彼の役割を容認していて、好いてはいなくとも嫌ってもいないんだとか。
まあ、要するに精霊の影響はなく、普通ってことでございますよ。
「そう。ではクラウドと二人きりの夕食ですね」
「は・・・い」
そわそわしながら向かいへ腰かける、クラウド。彼がしっかり座ったことを確認してから、手を合わせて軽く頭を下げました。
今日の夕食は生ハムとオリーブっぽい何かの実、彩を添える程度のサラダに、たぶんトマトとチーズと思われる塊が乗った、前菜。
きっとかぼちゃのスープ。
謎の赤いソースの上に横たわる白身魚と、可愛らしく野菜が飾られた、魚料理。
薄い黄色のゆずだと思いたい、口直しのソルベ。
いろんな色のカブっぽい質感の野菜の上に乗った、肉料理。
最後にベリーであろう紫色のパイ。
つまりフルコースですね。順番通り一つずつ出そうとしたクラウドを制し、全部テーブルへ並べさせたので圧巻です。
ところどころ「たぶん」なのは、この世界では呼び名が違うものが時々あるからです。そんな面倒なことをしなくても、乙女ゲームの世界なのですから単純に前世と同じ名前にしておけばいいのに。
まあ、食卓に並ぶ物の姿形に対する味は、だいたい前世と変わりませんから、例えば「辛いイチゴ」なんてものもなく、安心していただけます。
そうでない、野にある物は注意が必要ですが。
「美味しい」
「学園の食堂は王家や高位貴族のお抱え料理人への登竜門と言われているため、実力者が揃っています。今年は王族が2人もおみえですから、気合が入っているようですね」
クラウドはたまに残念な子ですが、作法は完璧です。貴族の子女に負けない優雅さで、夕食を口にしています。もちろん私も完璧・・・なはずです。
美味しいものを食べている時って、つい夢中になって無言になってしまうのですよね。父にも「カーラは食べている時が一番大人しいな」とか言われた事がありますよ。
「ごちそうさまでした」
急いでいたようには見えなかったクラウドが私より少し先に食べ終わり、食後の紅茶を出してくれました。ありがたくいただいている間に、クラウドが手際よく片付けていきます。
食器はこの別館の調理場に置いておけば、後で学園側の給仕が取りに来てくれるそうです。洗濯物も指定の籠に入れて洗濯場に置いておけば、持って行ってくれて、終われば持ってきてくれるとのこと。
楽ちんですね。
「カーラ様、湯あみはいつになさいますか?」
「あ、そうそう。浴室はまだ見ていませんでしたね。今から見に行ってもいいですか?」
「はい。ちょうど片付けが終わりましたので、お供いたします」
うん。言うと思いました。
そう心配しなくても、この学園内で危険な目にあうことなどありまんよ。どうせこの別館にはオニキスが結界だか、防御壁だかを張っているでしょうし。
でしょう? オニキス。
『ああ。カーラと弟君と、ついでにクラウドを害する気がある者は、入れないようにしてある』
「さらに外から中の様子が窺いみれないようにできますか?」
『可能だ』
早速実行したのでしょう。私の足元へオニキスが現れました。膝の上に頭を乗せてきたので、そっと撫でます。クラウドの影からモリオンが頭だけ出して言いました。
『この建物の中なら、影から出てもいいっすか?』
「いいですよ」
『やったっす!』
ぴょいっと影から飛び出したモリオンが、その場で尾を追いかけるようにぐるぐる回り始めました。ずっと影の中にいるのは、ストレスがたまるようですね。
回り続けるモリオンを見ながら、オニキスの頭を撫でていると、いつの間に側に来たのかクラウドに手を差し出されました。
ああ。浴室を見に行くのでしたね。
「行きましょうか、クラウド」
「はい」
クラウドの手を取って立ち上がり、談話室を出ます。
1階にも浴室があったなとそちらへ行こうとすると、クラウドが困った顔をして足を止めました。
「そちらにも浴室はありますが・・・おそらく使用人用と思われます。3階へ参りましょう」
「・・・まさか「自分で使うからいいか」とか言って、直していなかったりしませんか?」
「・・・」
図星のようです。クラウドが目を反らしました。
私はため息をひとつつくと、彼の顔を覗き込みます。
「私と同じ浴室を使いなさい。そちらは直してあるのでしょう?」
「しかし・・・」
「わかりましたね?」
クラウドが顔を赤くして、視線を彷徨わせます。私は一緒に入ろうと言っているわけではありませんよ。
エスコートされていたため、私の手は彼の手の上にあります。それにぐっと力を入れて強く握ると、クラウドの視線が私に定まりました。
「・・・はい」
よしよし。いい子です。返事に満足して階段へ足を向けました。
すっかり日が暮れて薄暗くなってしまった階段を、クラウドが私をエスコートするのと、反対の手に持ったろうそくで照らしてくれます。ゆっくり3階まで上がると、クラウドが浴室と思われる方へ歩きながら、壁のろうそくへ明かりを灯していきました。
「こちらでございます」
すでに薄暗い脱衣所だけでも想像していたより広く感じました。壁のろうそくに火が灯ると、脱衣所だけでも8畳ほどあることが分かります。廊下とは二重の戸で隔てられ、そこで靴を脱ぐ仕様になっています。そして壁際に簡易の長椅子と、中央に銭湯にあるような棚が置かれていました。木の香りが漂い、清潔感あふれる、シンプルな部屋ですね。
さあ、いよいよ、浴室を見てみましょう!
「わぁっ!」
素晴らしい!!
真っ先に目に入ったのは南の窓に面した、奥に向かって長細い、一気に4、5人入れそうな湯船です。檜ではありませんが、真新しい木の香りがする湯船で、座って足を延ばせばちょうどよさそうな深さです。
その向かいにはかけ湯用の1メートル四方の湯船があり、洗い場らしい場所には石鹸や香油が置いてある棚と、風呂おけが置いてありました。テンションMAXになった私は、逸る心のままに水魔法を使って二つの湯船に湯を満たします。
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この世界では水魔法が使えれば、湯も氷も作り出せます。水の状態を変化させれば可能なので。もちろん精霊と契約をしていないのならば、呪文が必要ですが。
ですから水魔法が使える使用人は重宝されます。通常でしたら薪で湯を沸かし、湯殿まで運ばなければならないのが、呪文ひとつで終わりますからね。ただし、その使用人を雇うことができる、もしくは学園に入れて呪文を覚えさせるだけの財力が必要となりますけど。
「カーラ様、もう入浴されるのですか?」
「食後すぐなのに、と言うのでしょう? 長湯しないように気を付けますから、大丈夫ですよ」
心配そうなクラウドの背をぐいぐい押して、脱衣所から廊下へ追い出します。
「オニキスも。」
『・・・ああ』
クラウドの足元へオニキスが移動したことを確認して、扉を閉めようとすると、クラウドが慌てて言いました。
「あの!」
「・・・どうしました?」
言いにくいのか目を泳がせるクラウドに、先を促します。薄暗い廊下でもわかる程度に頬を染めながら、クラウドは言いました。
「後でお着替えをお持ちして脱衣所へ入りますが、よろしいでしょうか?」
「ええ。お願いします」
ぴしゃりと戸を閉めて、私は鼻歌を歌いながら服を脱ぎ、丁寧にたたみます。私以外に誰もいないのですから、素っ裸のまま堂々と浴室へ向かいました。
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