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やっと6歳
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まずは湯あみをして着替えなさいと父に言われ、王都のテトラディル邸の自室へ戻りました。葉や土や煤を落としてすっきりし、膝の上に頭を乗せたオニキスをもふもふしていた私に、不満そうなクラウドが近づいてきました。
「ひどいです。カーラ様」
14歳の男子が頬を膨らませても、かわいくないですよ。
庭園での魔物との戦いに、クラウドを呼ばなかったことを責めているようです。
「だって貴方の転移は目立つでしょう?」
誰も周りにいなかったならともかく、ヘンリー王子がいましたからね。王城へ従者として連れて行っていましたので、庭園にいてもおかしくないとはいえ、主人を抱擁して現れる従者とか見られたくありません。
「もう普通の転移もできます!」
クラウドが憤慨しながら口走りました。
ん? 今聞き捨てならないことを言いましたね。
『ク~ラ~ウ~ド~!!!』
オニキスが毛を逆立ててクラウドに迫ります。クラウドはそこで自分の失言に気づいたのか、あっと言う顔をしましたが、すぐふてくされたように唇を尖らせました。
「オニキス様は毎晩、カーラ様と添い寝しているでしょう? 私にも多少の癒しがあってもいいではないですか」
元平民の私には窮屈だったので、セバス族兄妹に誰もいない時は気安くするようお願いしたのですが、失敗だったかもしれません。態度はともかく、気安く異性の主人に触れるのはどうかと思うのです。
『いいわけあるか! お前はカーラに仕える従者であろう?』
「仕える立場なのは、オニキス様だって一緒でしょう?」
『む。いや、我はカーラの精霊だから・・・』
チェリがため息をつきました。彼女にも見えて、聞こえているということは、オニキスが興奮しているということです。
最近、このようなやり取りが割と頻繁にあるのですよね。人形を没収したのがいけなかったでしょうか。
「喧嘩なら砂漠でお願いします」
物を壊されては困るので、くぎを刺しました。
クラウドは普段こんなですが、いろいろな武器が使いこなせて、魔法も使えるようになってきたのでそれなりに強いです。オニキスは精神生命体だからか接近戦はあまりしませんが、様々な魔法を使いこなすのでかなり強いと思います。庭園では物を壊さないように気を使っていましたが、以前見た砂漠での二人の喧嘩はかなり壮絶でした。魔法って、剣で打ち返せるんですね。
じりじりと距離を詰めようとするオニキスと、少しずつ後退するクラウド。モリオンはクラウドの足元でオロオロしています。
『砂漠でやるっす! 主! その高価そうな戸棚から離れるっす!』
壊されても直せるのですが、面倒です。仕方ないので喧嘩を止めようとしたら、すっとオニキスが私の傍らに転移してきました。クラウドは何事もなかったかのように、扉の横に控えます。
誰か来たようですね。父でしょうけど。
「いいかい? カーラ」
ノックの後に入ってきたのは、やはり父でした。立ち上がってソファを勧めます。先ほどよりずいぶんましになっていますが、まだ顔が青いですね。酔い止めを飲まなかったのでしょうか。
『帰りの分しか残っていないようだな。余分にもらえばよかったと後悔している』
そういえば、行き帰りに必要な分しかあげませんでしたね。
チェリに目くばせすると、ティーカップを直接テーブルに置かず、私に手渡してくれました。受け取った紅茶に「状態異常解除」の効果を持たせて、父の前に置きます。チェリは本当に優秀な侍女ですね!
『主。妹様に負けてるっすよ』
モリオンががっくりとうなだれました。
クラウドの残念な成長は、放置した私にも責任があるような気がします。いえ、面倒だったからではない、わけではなく・・・。だって人に注意するのって、気をつかうではないですか。
それに仲がいいのか、悪いのかわかりませんが、オニキスが楽しそうな時があるので、多少のことは目をつむることにしたのもあります。人前では優秀な従者を装っていますし、私に仕えている限りは大丈夫でしょう。
「それで? 何があった?」
紅茶を一口飲み、父は腕を組んだ姿勢でじっとこちらを見つめてきます。思わず視線を逸らしたくなりましたが、頑張って耐えました。下手な反応をすると父にいろいろばれる気がするので、私も父を見つめたまま動かないように努めます。
あ、ちなみに先ほどの紅茶は、飲めば飲むほど徐々に効果が出るよう、調整してあります。ちょっと気分が悪いくらいの方が、メンタリスト父をごまかせるかなと思いまして。
「庭園で休んでいたら、魔物が現れました」
正直に言います。隠すことでもありませんからね。
「ヘンリー・モノクロード殿下とはいつから一緒だった?」
「魔物に襲われたときに助けていただきました。いつから近くにいらしたのかはわかりません」
これも本当です。助けようと押し倒されたのは余計なお世話で、遠巻きにこちらを見ていたのは知っていましたけど。
「カーラが握っていた黒い得物はなんだ」
おっと。父、あの距離からしっかり見ていましたね。「薙刀」ってこの世界にもあるのでしょうか?
「あれは槍というか・・・」
言いよどむと、チェリが礼をしてから口をはさみました。
「侯爵様、差し出がましいようですが、発言の許可をいただけますか?」
父はチェリに視線を移すと、軽く頷いて先を促します。
「海の向こうの小さな島国「大和」にあります、女性が用いる槍のような武器を「薙刀」と言います。カーラ様は最近、好んで鍛錬に使用されております」
あ、あるんですね。大和の国は日本のような国なのでしょうか。一度行ってみていものです。やはりチェリは優秀ですね!!
「それは、どこへやった?」
「はい?」
薙刀の出どころが問題なくてほっとしてしまって、油断しました。えっと。土に返すのを見られたということですかね?
「魔法で魔物を仕留めたのも、カーラか?」
ふむ。ここは「夜の女神再来計画」のためにも、無詠唱で魔法を使えることを明かしてしまいましょう。実際戦っていたのはオニキスですが、オニキスの存在をばらすより、あの魔法の数々も私の仕業にした方がよさそうです。
「お父様、まずは紅茶をお召し上がりください。お父様が落ち着いたら、お話いたします」
父は眉間にしわを寄せましたが、素直に紅茶を飲み干しました。顔色がよくなりましたね。
私は手のひらを下にして右手を前に出します。父が不審そうに私を見、ついで私の手に視線を移しました。
さぁ、瞬き禁止ですよ!
「お父様、実は私・・・」
イメージ通りに出来上がった、漆黒の薙刀をつかみます。父の目がこれでもかと見開かれました。
「詠唱なしで魔法が使用できるのです。そして、これがお父様の見た薙刀ですね」
片手ではさすがに重いので、闇魔法を使って「羽のように軽い」を付与します。そして「カーラにしか使えない」も付与して父に差し出します。
父は恐る恐る、両手で受け取りましたが、薙刀はただの土に返り父の手をすり抜けました。
「見ての通り、元は土でできています」
絨毯の上に落ちた土を風魔法で手元へ集め、もう一度薙刀にします。私もオニキスも、まだ作り出したものを消去することができませんから、オニキスの異空間収納にしまってもらいます。
ありがとう、オニキス。
「ご理解いただけましたか?」
父はしばらく固まっていましたが、やがて天井を仰ぎ見ると両手で顔を覆いました。肩が震えています。
泣いているのですか? ついに私が怖くなったのですかね。
『違う。悪感情は何もない』
と、言うことは・・・。
「くっくく・・・」
笑っているようです。
父は声を押し殺してしばらく笑うと、すっきりした顔で私に微笑みかけます。
「後始末は父に任せなさい」
そう言って、部屋を出ていきました。
「ひどいです。カーラ様」
14歳の男子が頬を膨らませても、かわいくないですよ。
庭園での魔物との戦いに、クラウドを呼ばなかったことを責めているようです。
「だって貴方の転移は目立つでしょう?」
誰も周りにいなかったならともかく、ヘンリー王子がいましたからね。王城へ従者として連れて行っていましたので、庭園にいてもおかしくないとはいえ、主人を抱擁して現れる従者とか見られたくありません。
「もう普通の転移もできます!」
クラウドが憤慨しながら口走りました。
ん? 今聞き捨てならないことを言いましたね。
『ク~ラ~ウ~ド~!!!』
オニキスが毛を逆立ててクラウドに迫ります。クラウドはそこで自分の失言に気づいたのか、あっと言う顔をしましたが、すぐふてくされたように唇を尖らせました。
「オニキス様は毎晩、カーラ様と添い寝しているでしょう? 私にも多少の癒しがあってもいいではないですか」
元平民の私には窮屈だったので、セバス族兄妹に誰もいない時は気安くするようお願いしたのですが、失敗だったかもしれません。態度はともかく、気安く異性の主人に触れるのはどうかと思うのです。
『いいわけあるか! お前はカーラに仕える従者であろう?』
「仕える立場なのは、オニキス様だって一緒でしょう?」
『む。いや、我はカーラの精霊だから・・・』
チェリがため息をつきました。彼女にも見えて、聞こえているということは、オニキスが興奮しているということです。
最近、このようなやり取りが割と頻繁にあるのですよね。人形を没収したのがいけなかったでしょうか。
「喧嘩なら砂漠でお願いします」
物を壊されては困るので、くぎを刺しました。
クラウドは普段こんなですが、いろいろな武器が使いこなせて、魔法も使えるようになってきたのでそれなりに強いです。オニキスは精神生命体だからか接近戦はあまりしませんが、様々な魔法を使いこなすのでかなり強いと思います。庭園では物を壊さないように気を使っていましたが、以前見た砂漠での二人の喧嘩はかなり壮絶でした。魔法って、剣で打ち返せるんですね。
じりじりと距離を詰めようとするオニキスと、少しずつ後退するクラウド。モリオンはクラウドの足元でオロオロしています。
『砂漠でやるっす! 主! その高価そうな戸棚から離れるっす!』
壊されても直せるのですが、面倒です。仕方ないので喧嘩を止めようとしたら、すっとオニキスが私の傍らに転移してきました。クラウドは何事もなかったかのように、扉の横に控えます。
誰か来たようですね。父でしょうけど。
「いいかい? カーラ」
ノックの後に入ってきたのは、やはり父でした。立ち上がってソファを勧めます。先ほどよりずいぶんましになっていますが、まだ顔が青いですね。酔い止めを飲まなかったのでしょうか。
『帰りの分しか残っていないようだな。余分にもらえばよかったと後悔している』
そういえば、行き帰りに必要な分しかあげませんでしたね。
チェリに目くばせすると、ティーカップを直接テーブルに置かず、私に手渡してくれました。受け取った紅茶に「状態異常解除」の効果を持たせて、父の前に置きます。チェリは本当に優秀な侍女ですね!
『主。妹様に負けてるっすよ』
モリオンががっくりとうなだれました。
クラウドの残念な成長は、放置した私にも責任があるような気がします。いえ、面倒だったからではない、わけではなく・・・。だって人に注意するのって、気をつかうではないですか。
それに仲がいいのか、悪いのかわかりませんが、オニキスが楽しそうな時があるので、多少のことは目をつむることにしたのもあります。人前では優秀な従者を装っていますし、私に仕えている限りは大丈夫でしょう。
「それで? 何があった?」
紅茶を一口飲み、父は腕を組んだ姿勢でじっとこちらを見つめてきます。思わず視線を逸らしたくなりましたが、頑張って耐えました。下手な反応をすると父にいろいろばれる気がするので、私も父を見つめたまま動かないように努めます。
あ、ちなみに先ほどの紅茶は、飲めば飲むほど徐々に効果が出るよう、調整してあります。ちょっと気分が悪いくらいの方が、メンタリスト父をごまかせるかなと思いまして。
「庭園で休んでいたら、魔物が現れました」
正直に言います。隠すことでもありませんからね。
「ヘンリー・モノクロード殿下とはいつから一緒だった?」
「魔物に襲われたときに助けていただきました。いつから近くにいらしたのかはわかりません」
これも本当です。助けようと押し倒されたのは余計なお世話で、遠巻きにこちらを見ていたのは知っていましたけど。
「カーラが握っていた黒い得物はなんだ」
おっと。父、あの距離からしっかり見ていましたね。「薙刀」ってこの世界にもあるのでしょうか?
「あれは槍というか・・・」
言いよどむと、チェリが礼をしてから口をはさみました。
「侯爵様、差し出がましいようですが、発言の許可をいただけますか?」
父はチェリに視線を移すと、軽く頷いて先を促します。
「海の向こうの小さな島国「大和」にあります、女性が用いる槍のような武器を「薙刀」と言います。カーラ様は最近、好んで鍛錬に使用されております」
あ、あるんですね。大和の国は日本のような国なのでしょうか。一度行ってみていものです。やはりチェリは優秀ですね!!
「それは、どこへやった?」
「はい?」
薙刀の出どころが問題なくてほっとしてしまって、油断しました。えっと。土に返すのを見られたということですかね?
「魔法で魔物を仕留めたのも、カーラか?」
ふむ。ここは「夜の女神再来計画」のためにも、無詠唱で魔法を使えることを明かしてしまいましょう。実際戦っていたのはオニキスですが、オニキスの存在をばらすより、あの魔法の数々も私の仕業にした方がよさそうです。
「お父様、まずは紅茶をお召し上がりください。お父様が落ち着いたら、お話いたします」
父は眉間にしわを寄せましたが、素直に紅茶を飲み干しました。顔色がよくなりましたね。
私は手のひらを下にして右手を前に出します。父が不審そうに私を見、ついで私の手に視線を移しました。
さぁ、瞬き禁止ですよ!
「お父様、実は私・・・」
イメージ通りに出来上がった、漆黒の薙刀をつかみます。父の目がこれでもかと見開かれました。
「詠唱なしで魔法が使用できるのです。そして、これがお父様の見た薙刀ですね」
片手ではさすがに重いので、闇魔法を使って「羽のように軽い」を付与します。そして「カーラにしか使えない」も付与して父に差し出します。
父は恐る恐る、両手で受け取りましたが、薙刀はただの土に返り父の手をすり抜けました。
「見ての通り、元は土でできています」
絨毯の上に落ちた土を風魔法で手元へ集め、もう一度薙刀にします。私もオニキスも、まだ作り出したものを消去することができませんから、オニキスの異空間収納にしまってもらいます。
ありがとう、オニキス。
「ご理解いただけましたか?」
父はしばらく固まっていましたが、やがて天井を仰ぎ見ると両手で顔を覆いました。肩が震えています。
泣いているのですか? ついに私が怖くなったのですかね。
『違う。悪感情は何もない』
と、言うことは・・・。
「くっくく・・・」
笑っているようです。
父は声を押し殺してしばらく笑うと、すっきりした顔で私に微笑みかけます。
「後始末は父に任せなさい」
そう言って、部屋を出ていきました。
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