悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ

文字の大きさ
上 下
23 / 147
やっと6歳

8

しおりを挟む
 庭園の、あたりに人気のないベンチでオニキスをもふもふしていたら、背後に人の気配がしました。5メートルくらい離れた木に隠れるようにして、こちらを伺っています。
 見えてますけどね。ヘンリー・モノクロード殿下。

『あれで隠れているつもりか? どうやら興味が畏怖に勝ったようだな』

 オニキスも気づいていたようです。秋口の花の少ない庭園に、彼のふわふわした金茶の髪と、キラキラしい衣装は目立つのですよ。

『どうする?』

 どうもしません。かかわらないのが一番です。あれ以上、近づいてこないようですし。

『それもそうか』

 オニキスが膝の上に頭を戻そうとして、ふと、少し離れたところで地面をつついていた小鳥に目を止めました。
 じっと見つめながら、私を背後にかばうようにベンチから降りて前に出ます。

『何の用だ』

 小鳥が視線をこちらに向けました。しかも私ではなく、オニキスを見ているようです。そして小鳥が2羽、3羽と増えていきます。最終的に十数羽の小鳥が、オニキスをじっと見つめていました。
 恐い。オニキスが唸ります。

和色あえいろたち、我を羨むのはお門違いというものだ。去れ。次は人に寄り添うがいい』

 増えた時のように、1羽、2羽と飛び去って行きました。
 しかし全てではなく6羽残りました。小鳥たちは微動だにせず、じっとオニキスを見つめています。

 一触即発という空気。動いたら、何かが起こる。そんな空気を・・・

「カーラ嬢!」

 読まないヘンリー・モノクロード殿下。勝手に「嬢」呼ばわりですし。

『下がれ! カーラ!』

 ごめんなさい。ベンチの後ろは生垣なのですよ。立ち上がったものの、どうしようか迷っていたら、横からタックルされました。

「カーラ嬢、あぶない!」
「ぐはっ」

 体格はあまり変わらないものの、同じ年の男の子に押しつぶされて、肺から空気が抜けました。ふいに「きゃっ」なんて言えるほど、女子力高くないので。
 でもなんとか、乙女の唇は死守しました。ハプニングキスというのですかね? 迫る唇を顔を背けて回避した結果、頬を犠牲にしましたが。
 これですか?! カーラの初恋の原因は!!

『大丈夫か?!』

 オニキスの焦った声に、大丈夫と答えようとして、反射的にヘンリー殿下を抱きしめて横へ転がりました。

「ひいっ」

 ヘンリー殿下が慌てて生垣の陰に隠れました。先ほどまでいた場所に、子供の背丈ほどの羽が突き刺さっているのに驚いたようです。
 どうしようか迷っていたときに、闇魔法で「危険予知」と「傷害無効」を付与した甲斐がありました。抱きしめた時に、こっそりヘンリー殿下にも「傷害無効」を付与してあります。

『3羽は強制転移したが、まだ3羽いる。大きさの割に動きが早い!』

 オニキスの前には、クマほどの大きさの小鳥じゃなくなった鳥がいました。魔物です!
 何度か「カーライル」の時に見たことがありますが、魔物に変わる瞬間は初めて見ました。しかも同時に複数体現れるなんて。

 1羽はドラゴンか! という勢いで火を吐き、もう1羽は風魔法で勢いよく羽を飛ばしてきました。横にステップを踏んで避けます。もう1羽は・・・

「きゃあぁぁぁ!」

 ヘンリー殿下が生垣に絡まって・・・じゃない、絡みつかれていました。もう1羽は植物魔法が使えるのですね。
 あー。体には「傷害無効」を付与しましたが、服にはつけませんでしたからね。なんかエロ本の表紙みたいになっています。私にショタ趣味はないので、萌えませんけど。

「殿下! 護衛は?!」
「撒いた!」

 思わず舌打ちしそうになりましたが、その前に足元に忍び寄っていた生垣に気づき、風魔法で切り刻みます。あ、そうか。殿下にも「傷害無効」を付与したんでした。
 先ほどの要領で、殿下に絡みついている生垣を魔物ごと、風魔法で切り刻みます。

「や~ん!!」

 解放された殿下が、座り込んで自身をかき抱きました。無駄に女子力高いですね。
 衣装はなるべく傷つけないように気を付けましたが、ごめんなさい。

『カーラ! それは火も使うぞ!』

 オニキスは火を吹く1羽を倒したか強制転移したようで、羽を飛ばす方の魔物と対峙しています。
 先ほどまで植物を操っていた魔物が、くわっと口を開けました。「傷害無効」で火傷はしないのですが、服は燃えるんですよね。

「殿下! 伏せてください!」

 狙われた殿下の前に走り出て、半径3メートルほどの「炎無効」空間を展開します。熱を感じてしまうのは、術としてまだ未完成だから。

「さて、反撃しますか」

 ブレスが終わる前に、土魔法で得物を作成します。闇魔法で「カーラの切りたいものが抵抗なく切れる」と「羽のように軽い」を付与しました。小心者なので「なんでも切れる」は恐いんですよ。
 右手にあるのは、私に一番適性のあった武器、薙刀です。
 ほんとは悪役っぽく、大鎌にしたかったのですが、思ったより射程が短くて断念しました。投げたら投げたで、戻ってきた鎌を怖くてキャッチできなかったのもあります。
 薙刀を両手で持ち直し、上段に構えました。
 じつは高校、大学では薙刀部だったんですよ。戦国アニメのわき役に憧れて、ついでに痩せればと思ったのに、所詮動けるデ・・・ぽっちゃりでした!

「はっ」

 ブレスの終わりを待たず、空間に「足場」を付与して魔物の上に飛びます。そのまま重力に従って、魔物の中心をなぞるように薙刀を振り下ろしました。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

処理中です...