上 下
29 / 49
第4章 一泊二日の大阪旅行は行く先々でハプニングだらけ

第28話 さっきの場面ではこれが正解だからよく覚えておいてね

しおりを挟む
 二人で大阪観光を続けているうちに気付けば辺りが暗くなり始めていた。そろそろ帰る時間が近づいてきているため、楽しかった今回の旅行もいよいよ終わりが近い。
 俺達は最後の目的地であり大阪で人気な観光地の一つであるハルカス60の展望台から眼下に広がる夜景を眺めている。

「やっぱり高いところから見る夜景は最高だね」

「昨日の観覧車の夜景も良かったけど、ここからの夜景はまた別の良さがあるよな」

 ちなみにハルカス60は日本で二番目に高い超高層ビルであり、運が良ければ京都や神戸の方まで見る事ができるらしい。

「ねえ、拓馬。私に何か言う事があるんじゃないの?」

 俺がスマホで夜景の写真を撮っているとアリスはニヤニヤしながらそんな事を言い始めた。昨日と全く同じ事を言ってくる辺り、どうしても俺にあの台詞を言わせたいようだ。

「……夜景よりアリスの方がずっと綺麗だ、他の誰のものにもしたくない」

「へー、そこまで言うなら証拠を見せてよ?」

 そう言い終わるや否やアリスは自分の唇を一瞬指差し、何かを期待したような顔をして俺の顔を見た後目を閉じる。
 どうやら俺に恥ずかしい台詞を言わせるだけでは飽き足らず、キスまで要求してきているらしい。どうするか迷う俺だったが、このまま放置すると後が怖いため素直に従う事にする。
 ただし口にするのは恥ずかしかったため頬にキスをした。するとアリスは瞼を開けて物足りないと言いたげな顔になる。

「あーあ、せっかくのチャンスだったのに勿体無い事しちゃったね」

「別にいいんだよ、あれで」

 そもそも普通に人が周りにいる状況で大胆にアリスの唇を奪うような勇気なんて俺には無い。

「じゃあ特別に今後の参考って事で私が拓馬に正しい対応のお手本を見せてあげるよ」

「……えっ?」

 アリスは発言の意図が分からず戸惑う俺を力強く抱き寄せると、そのまま強引にキスをしてきた。周りから普通に見られているがそんなのお構い無しで俺の口内に舌まで突っ込んでくる。
 完全にされるがままの俺だったが、満足してくれたのかようやく離してくれた。ほんの少しだけ名残惜しい気持ちになってしまったのは内緒だ。

「さっきの場面ではこれが正解だからよく覚えておいてね」

「……全く参考にならなかったけど一応覚えとくわ」

 それから上機嫌になったアリスとしばらくハルカス60を堪能するのだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「この二日間で色々遊べて楽しかったね」

「ああ、思い出がたくさん出来た」

 ハルカス60を出た後、新大阪駅で帰りの新幹線に乗ってから既に二時間以上が経過している。今回の旅行は色々あったが純粋に楽しかったため良い気分転換になった。
 去年の夏休みは基本的に部屋に引き篭もってゲームばかりしていたため、それと比べると今年は普通の高校生らしい夏休みを過ごせている気がする。

「ベッドに寝転んだら速攻で寝そうな気がするよ」

「今日も朝からあちこち歩き回ったもんな」

 通空閣や大阪城、大阪天満宮、ハルカス60など有名な場所を中心にアリスと二人で色々と足を運んだ。観光するのは楽しかったが、それと同時にめちゃくちゃ疲れてしまった。

「もう夕食も済んでるし、家に帰ったらお風呂に入って寝よう」

「だな、それがいい」

 疲れを取るために明日の昼過ぎくらいまで寝るつもりだ。夏休みはまだ始まったばかりのため少しくらいダラダラ過ごしても別にバチは当たらないだろう。

「あっ、そうだ。明後日なんだけど板橋区の花火大会に行かない?」

「明後日は特に何の予定も入ってないし大丈夫だぞ」

「拓馬の場合は明後日はじゃなくてでしょ」

 アリスはニヤニヤしながらそんな事を言ってきた。あんまりぼっちの俺を虐めないでくれ、ガチで泣いちゃうから。

「じゃあ決まりって事で、よろしく」

「分かったよ」

 何もなかった俺のスケジュールに花火大会という予定が新たに追加された。まだ夏休みが始まったばかりだというのに予定が次々に入ってくるため去年とは凄まじい違いだ。
 まるでリア充になったような気分だが、よくよく考えれば周りから見た俺はアリスという美少女を侍らせてるリア充にしか見えないに違いない。

「……左手薬指に指輪なんかしてればなおさらそう見えるか」

「拓馬、今何か言った?」

 かなり小声でつぶやいたつもりだったが、隣のシートに座っていたアリスには若干聞こえてしまったらしい。

「ただの独り言だ、気にしないでくれ」

「えー、そんな事言われたらめちゃくちゃ気になっちゃうじゃん」

「マジで何でもないから……それよりもうすぐ東京駅に着くぞ」

 食いついてくるアリスに対して俺はそう話を逸らした。さっきの独り言の内容はあまり追求されたくない。

「あっ、もうそんなところまで帰ってきてたんだ」

「だからそろそろ新幹線降りる準備をしといた方がいいかもな」

「うん、荷物もたくさんあるから新幹線の中に忘れ物だけはしないようにしないとね」

 こうして色々あった俺達の一泊二日の大阪旅行は幕を閉じるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

処理中です...