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過去編

第18話 エレンを虐める奴は絶対俺が許さない

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 机の中から篠原さんのキーホルダーが出てきたあの日から今日でちょうど1週間が経過したわけだが、私に対する虐めは明らかに激化していった。階段で後ろから突き飛ばされたり、トイレのホースで水をかけられたり、上履きの中に画鋲を入れられたりと以前とは比べ物にならないほど悪質になっている。
 そんな事ばかりが続くせいで私は精神的にかなり追い詰められ、学校を休みがちになってしまったのだ。ちなみにあの日結局学校を早退してしまった私は放課後家に帰ってきたアランになぜあんな事を言ったのか激昂しながら問い詰めたわけだが、彼はちょっと信じられないような理由を話してくれた。

「……僕はお姉ちゃんが犯人とは思ってなかったよ。でもあの場はとりあえず謝っておかないと収拾がつかなくなると思ったからああ言っただけで、あれは全部お姉ちゃんを守るためだったんだよ」

 なんと私を深く傷付け、絶望の淵に追い込んだあの発言は、アランの認識としては私を守るためのものだったらしいのだ。私はアランが味方になってくれるのを望んでいたのであって、そんな事を言って欲しいとは全く思っていなかった。
 もしあの時アランが味方さえしてくれていれば例えどんな酷い目に遭わされたとしても私は耐えられていたに違いない。だが残念ながら現実はそうはならず、私達姉弟の絆が修復ができないほど完全に壊れてしまうという結果だけが残った。
 そんな絶望的な状況に陥って本気で死にたいと思い始めるようになった私だったが、幼馴染である快斗君の手によって救われる事になる。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「お前ら、いい加減にしろよ。皆んなで寄ってたかってエレンばっかりそんなに虐めて何が楽しいんだ」

 昼休みに私が周りから嘲笑われながら机に書かれていた大量の悪口を消しゴムで消していると突然クラスに快斗君が現れ、教室中に響き渡るような大きな声でそう言い放った。するとクラスメイトである男子の一人が快斗君に詰め寄る。

「おい、お前はあのガイジンの味方をするのか? そいつはランドセルについてた篠原さんのキーホルダーを盗んだ悪い泥棒なんだぞ」

「エレンがそんな事するわけないだろ。お前はアホか」

 その言葉を聞いた私は嬉しさのあまり泣き出してしまう。なぜなら快斗君の口から出た言葉が私にとって今一番誰かに言って欲しかった言葉だったからだ。
 快斗君からお前はアホと言われて完全に頭に血が上った男子は彼に殴り掛かろうとする。だが快斗君はパンチを手のひらで受け止めると、反撃で思いっきり相手の股間を蹴り上げた。
 悶絶の声をあげて床の上で苦しむ男子をよそに快斗君はクラスメイト達に対して怒気を含んだ声で話しかける。

「エレンを虐める奴は絶対俺が許さない。もしそんな奴がいたら床に転がってるこいつと同じ目に遭わせてやるからな、覚悟しろよ」

 そう言い残すと快斗君は私の手を取って教室を出ていく。そのまま人気のない校舎裏まで移動すると快斗君は申し訳なさそうな顔で口を開く。

「苦しんでたのに気付いてあげるのが遅くなって本当ごめん」

「……えっ?」

 まさか謝られるとは思ってなかった私は間抜けな声を出してしまった。それから快斗君は私に向かって一方的に話し始める。

「エレンが早退した次の日から様子があまりにも変だったから何かおかしいと思ってたんだよ。今週は学校も半分くらいは休んでたし、一緒に過ごすのも嫌だって言い始めたからさ」

 信じていたアランに見捨てられて人間不信に陥ってしまった私は快斗君とも距離を取っていた。ただでさえアランに裏切られて辛い思いをしているというのに、快斗君にまで見捨てられてしまったら私は壊れてしまうと思ったからだ。

「最初はエレンもたまには一人になりたい気分なのかなって思ってた。俺達3人は昔からずっと一緒だったし」

 そう、私と快斗君、アランの3人は幼稚園児の頃からずっと一緒に過ごしており、小学生になってからもその関係は変わらなかった。だから登下校やお昼休みの時間も3人ずっと一緒だったのだ。

「でも学校で見かけるたびに一人で苦しそうな顔をしてたからまさかと思って今日エレンのクラスを覗いてみたんだよ。そしたらエレンが泣きそうな顔で机に書かれた悪口を消しゴムで消してる姿を見て馬鹿な俺でも流石に気付いたよ、クラスで酷い虐めを受けてるって事に」

 どうして快斗君が私の前に突然現れたのか不思議に思っていたが、どうやらそういった経緯があったかららしい。

「エレンの事は何があっても必ず俺が守ってみせる、だから元気を出してくれ」

「……快斗君、ありがとう」

 優しい笑顔をした快斗君からそう声をかけられた瞬間、私の胸は激しく高鳴り始めた。もしかしたら顔も赤くなっているかもしれない。
 今まで快斗君に対して持っていなかった不思議な感情が現れ戸惑い始める私だったが、この感情の正体が一体なんなのかは分からなかった。
 とにかく快斗君を見るとさっきから心臓がドキドキして全く落ち着きそうにない。この感情の正体が恋であると私が知るのは当分先の事だ。
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