オメガ学級委員長はド変態

明帆

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第2章

第38話 Let's continue where we left off last time

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 交わる視線が離れた後、コート内の空気が一瞬にして変わった。佐野は15得点、6リバウンドと好成績を収め、87-62で佐野の所属する大学が逆転勝利した。

 スポーツを観戦する習慣のない優心や俺でも、立ち上がって声を張り上げるほどに熱くなる試合だった。試合終了後、優心には先に駐車場に行ってもらい、アリーナ外で佐野が出て来るのを待つことにした。

 少し経つと、ひとしずくの雨が頬を叩いた。暗い空から、いつもの冷たい雨が降り注ぐ。急いでエントランスの屋根の下に潜り込んだ。

 暗闇を照らす細かな針のような雨を、じっと見つめて佐野を待つ。どんどん気温が下がってきて、ぬれた髪や肩から冷え込んできた。それでも、いつもの憂鬱さは1mmもない。

“Are you meeting someone?”
(誰かと待ち合わせ?)
 振り返ると、コートで見かけたような大柄な男が立っていた。
“Well….”
(えっと……)

“He has met up with me”
(俺と待ち合わせしてるんだよ)
「佐野!」
 返答に詰まっていると、会場の裏口から出てきたのか、目の前に佐野が現れた。気づいた時には走り出していて、佐野の胸に飛び込んでいた。

 雨で少しぬれた、佐野のにおい。懐かしくて、温かい佐野の体温。俺の背中に回す手が大きくて、穏やかな呼吸が耳を刺激する。

 雨の中、互いの体温を確認し合うだけで言葉が出てこない。言いたいことも聞きたいこともありすぎるのに、感情の大波が喉につかえて、ただ内部に蓄積されていくだけだ。

「わっ!や、やめろ佐野!」
「りょうだ!本物?本物だよね?」
 両脇に手を入れ、佐野は軽々と俺を抱き上げた。見下ろす佐野の笑顔はあのときと変わらず、雨にぬれたひまわりのようだ。

 俺を降ろすと、佐野は俺の後頭部に左手を回し、右手で肩を抱く。2度目の抱擁で実感した。一生無理だと思っていた、佐野との邂逅を果たしたのだ。

 2人とも微かに震えている。寒いから、いやそうじゃない。雨粒に塩分が混じって、頬を伝う。雨が降っていて良かったと思う。

 同じ空間に2人で立っている奇跡を、全身で感じる。
「りょうが来てくれたから、勝てたんだね」
 雨と一緒に佐野の声が降り注いで、目を開けた。
「佐野が活躍したからだ」
「違うよ、りょうが居てくれたからだよ。もう絶対に、絶対に離さない」

 しばらくこうして居たかったが、雨脚が強くなってきた。優心が待つ駐車場へ佐野を連れて行くと、優心は佐野が戸惑うほどにわんわんと泣いた。その姿を見ていると、俺と佐野は感傷的な気持ちが引っ込んで、破顔した。

 当たり前のように、シアトルの自宅に佐野を連れて帰った。遅めの夕食を頬張りながら、武も混ざって全員が饒舌になった。沈黙なんて1秒もなく、離れていた2年間を埋め尽くすように話が途絶えることはなかった。

 2人で寝室に移動しても、お喋りは結界したダムのように止まらない。離れていたのは、たったの2年間。けれど、一晩では語り尽くせないほどの2年間だった。

 高校生のときは、会えばセックスして楽しんで、話すべきことを話していなかった。知るべきことを知ろうともしていなかった。

 俺はド変態だ。佐野とセックスがしたいに決まっている。けれど、絶対に必要なわけじゃないことも分かっている。

 俺はオメガで、佐野はアルファで、もしかしたら番になれるかもしれなかった。あの2年間、「佐野と番になっておけば良かった」と何度思ったことか。でも今はどちらでも構わないと思う。

 なぜか分からないけれど、俺と佐野の関係は運命だと確信しているから。

「ねえ、もしかして、アメリカにもあの卑猥なグッズたちは持ってきてる?」
「ああ、当たり前だ」
「さすがすぎるな、りょう」

 1人用のベッドに2人寝転んで、互いの瞳に映る自分を見つめた。出し尽くした感情の波が、静かに眠りについた。

「りょう、あのときの続きをしよう」
 先ほどまで忙しなく動き回っていた互いの唇が、2年ぶりに交わった。



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