オメガ学級委員長はド変態

明帆

文字の大きさ
上 下
31 / 53
第1章

第30話 コッペパンと嫉妬

しおりを挟む
 体育の授業中にバスケットボールが頭に当たり、鼻血も出たので保健室で休んでいた。幸い怪我は大したことなく、次の授業から通常通り受けることができた。

 体育の授業中に、自身の中に仕込んだローターのことばかり考えていたから、このようなことになったのだ。次の授業からは反省し、ローターは外して授業を受けた。

「りょう、ごめん。今日は部活終わるの遅いから、家まで送れない…」
「問題ない。佐野は部活に集中してくれ」
「ごめんね…あ、優心さんに迎えに来てもらう?」
「いや、大丈夫だ。少し自習室へ寄ってから帰るから」
 名残惜しそうな佐野を見送ってから、少し勉強をして帰路に就いた。

「寒い……」
 夕方になるとぐっと冷え込み、耳が冷たくなっていくのが分かる。
「あ……」
 校門に寄りかかって、誰かを待っているような井沢がいた。

「井沢、もう遅いから早く帰った方がいいぞ。誰か待っているのか?」
「委員長のこと待ってた。今日は家まで送る」
「……今日のことはもう何ともないから、気にしなくていい」
 今日の体育の授業中に、俺にバスケットボールをぶつけたのは井沢だ。ただ、井沢はわざとではないし、俺が呆けていたのも悪い。

「それでも、俺が納得できないから、家まで送らせて欲しい」
「……分かった、ありがとう」
 人の好意を無下にするのは良くないし、一緒に帰るだけなら問題ないだろう。

 ただ、やはり井沢と2人きりというのは気まずい。何を話せばいいのだろう。佐野と2人きりだと、こんなふうに困ったことがないことに、今更ながら気付いた。

「あ…あの……井沢は、バスケやってるのか?」
「え、なんでそう思うの?」
「いや、今日の体育で活躍してただろ?バスケ経験者なのかと思って」
「……中3までは、バスケ部だったよ」
「え、そうなのか…」

 ということは、井沢は少し前まで佐野と同じ部活だったのか。井沢は今、何の部活にも所属していないはずだ。なぜバスケ部を辞めたのだろうか。気になるが、訊いても井沢は答えてくれないだろう。

「あのさ、これ。食べたことある?」
 井沢が差し出したのは、コッペパンだった。
「いや、一度も買えたことがないな」

 このコッペパンは、安くて美味いと学内で人気No.1の学食だ。昼食時はもちろん、夕刻も販売されているが、いつもすぐに売り切れるので購入できたことがなかった。

「あげる。今日たまたま買えたから」
「え!いいのか?」
「いいよ」
「……ありがとう!」
 実は結構食べてみたかったのだ。井沢のおかげで、人気のコッペパンに初めてありつけそうだ。

 コッペパンはそっとバッグにしまって、井沢と自宅へ向かった。その道中は、新しい担任のことやこの間の期末テストのことで、会話が弾んだ。単純だが、コッペパンをもらえて俺のテンションは少し上がっていた。

 体育祭の接吻事件から井沢に苦手意識があったが、話してみると落ち着きのある声や態度が安心できると感じた。陽キャの苦手なノリがないのも良い。

「今日はありがとう」
「いや……じゃあ、また」
「ああ、また明日」
 井沢との時間は思った以上に楽しく、あっという間に自宅に着いた。帰宅すると優心が夕食の支度をしていたので、手伝いながら今日の出来事を話す。

「そのコッペパン、父さんも一口欲しい!」
「ああ、半分にしよう」
 井沢からもらったコッペパンは、ふんわりとしていて軽い。半分に切ると、中には白いクリームが入っていた。

 頬張ると、焼き立てのようにふんわりとしていて、クリームがほんのり甘く素朴な美味しさがある。
「おいしいね」
「ああ」
 井沢は俺への謝罪のつもりでコッペパンをくれたのだろうか。ここまでしてもらうとは、逆に申し訳ない。何かお礼をしなければ。

 コッペパンを食べ終わると、玄関のチャイムが鳴った。
「あれ、武が鍵でも忘れたか?」
「あ、そうだ!今日佐野くんが来るんだった」
「え?佐野が?」
 佐野は今日家に来るなんて言ってなかったが、何かあったのだろうか。優心が急いで玄関扉を開けに行った。

「佐野!どうしたんだ?」
「会いたかったから、会いに来ただけ」
 ニカっと破顔した佐野の顔は、部活動での疲れを感じさせない清々しさがあった。

 慣れたもので、佐野は我が家の食卓に家族のように参加している。
「佐野くんは、学校のコッペパン食べたことある?」
 優心は、先ほどのコッペパンがやけに気に入ったようだ。佐野にもコッペパンのことを訪ねている。

「コッペパン…?ああ、あの人気の。何度かありますよ」
「今日りょうが持って帰ってきてくれてさ、初めて食べたんだけど。めちゃくちゃ美味しいね!」
「りょう、コッペパン買えたんだ!」
「いや、買えたというか……もらった……」

 別にやましいことは何もないが、なぜか小声になってしまう。

「もらったんだ。へぇー…」
 ニヤニヤしながらこちらを見るだけで、佐野はそれ以上何も訊いてこない。

 俺のフェロモンの微かなにおいにも気づく、野性的な感を持ち合わせている佐野のことだ。いろいろと察していることがあるだろうが、何も言ってこないのが逆に怖い。

「デザートにイチゴがあるんだけど、部屋に持ってく?」
「はい、ありがとうございます!」
 優心が洗ってくれたイチゴを持って、佐野はさも当然のように俺の部屋に向かっている。その後ろ姿に付いて部屋に入ると、扉を背に右肩を押さえつけられた。

「さっき優心さんが言ってたコッペパン、美味しかった?」
「えっ……あ、ああ。美味しかった……」
「誰にもらったの?」
「その……井沢に……」
「ふーん。もしかして、家まで来た?」

 何か分からないが、恐怖で声が出てこない。別に佐野に隠す必要もないのだろうが、これ以上何も言ってはいけない気がする。

「…………」
「なんで黙ってるの?」
「……来た。でも玄関前までだし、家の中には入っていない」
「そうなんだ」

 佐野は部屋の中央にあるテーブルにイチゴを置いて、座った。
「今日、りょうに一緒に帰れないって言ったとき、寂しそうだったのが気になって家に来たんだよね」
「そう、か……」
「でも、春久と一緒に帰ったってことは、寂しくなかったんだよね。なら良かった」

 佐野は破顔しながら、手招きをした。
「一緒に食べよう」
 井沢と一緒に帰ったことを、佐野に咎められるかと思っていたが、大丈夫そうだ。
「ああ」
 俺は安堵して佐野の隣に腰を下ろした。その途端、今度は両肩を掴まれ床に押し倒された。

「…って、俺がそんな大人な対応できると思った?俺16歳だもん。りょうの言う通り子供だから、めちゃくちゃ怒ってるよ」
「……佐野を怒らせるつもりはなかったんだ、申し訳ない」
「俺の嫉妬心を舐めてもらっちゃ困るよ、りょう」
 すごい力で佐野に押さえつけられ、身動きが取れない。そのまま佐野は猛々しい口付けを始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

初恋の実が落ちたら

ゆれ
BL
オメガバースの存在する世界。スキャンダルが原因でアイドルを辞め、ついでに何故かヒートも止まって、今は社会人として元気に働く千鶴。お相手である獅勇は何事もなかったかのように活動を続けており、いちファンとしてそれを遠くから見守っていた。そしておなじグループで活動する月翔もまた新しい運命と出会い、虎次と慶はすぐ傍にあった奇跡に気づく。第二性に振り回されながらも幸せを模索する彼らの三つの物語。※さまざまな設定が出てきますがこの話はそうという程度に捉えていただけると嬉しいです。他サイトにも投稿済。

処理中です...