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9章 変容する反乱
#3-3.クロスロード3
しおりを挟む「とにかく、もう一度索敵しましょう。今ので近づいていた敵は一網打尽に出来たと思いますが、波状攻撃がこないとも限りませんし」
幸い館の外から敵の声やら足音やらは聞こえないので、それほど近くまで敵が接近してきている訳ではなさそうだが、それでも油断は出来ないのだ。
ここは戦場。そしていくらいるかも解らない敵に囲まれた状況なのだ。
(サンダーストームは計算上、館への破壊を最低限に抑えた範囲に発動するように狙いましたが……それでも、外壁部はほぼ破壊されてしまっていると考えてよさそうですね)
気を取り直して、二人、また迎撃のポジションへと戻る。
心なし、アーティのホールドが先ほどよりがっちりしているのを感じて、ミーシャは心強さを感じていた。
「そうなると、次に敵が来た時に防げる防壁が完全になくなっちゃったって事かしら?」
(恐らくは。敵もただやられに来ている訳ではありません。というより、今までの襲撃から見ても、悪戯に戦力を消耗しているようにしか見えないのが不気味ですね)
「敵の指揮官がお馬鹿さんなだけなんじゃないの?」
(そうだと助かりますけど、楽観はできません。何か策があるものと思ったほうが良いでしょう)
あるいは、と、思いながら、アーティは言葉にせず、ただ思考する。
もしかしたら、古い考えの魔族が指揮官なのかもしれない。
例えば、今回の襲撃の指揮を執っている魔族が、魔物兵や下級魔族をただの魔法発動の為の駒にしか思っていなかったとしたら。
かつての大規模戦闘の時のように、敵を釘付けにせんが為に投入を繰り返したのだとしたら。
(……まさか)
その為だけに数百の魔物兵や中級魔族まで犠牲にする意味は感じられないと思ったが、敵がもし、戦っているのが自分達ではないと認識していたならどうだろうか。
どこぞへといなくなる前に、父はなんと言っていたか。
『そう掛からず、この館は悪魔王配下の軍勢に囲まれるわ。まあ、元々利用してただけだけど、私の計画に勘付いたようだから』
つまり、この館に襲い掛かっていた敵は、倒すべき目標を父であると認識していた可能性が高い。
なるほど、確かに熟練のウィッチ相手に挑むなら、大規模戦相当の戦力を想定し、戦術もそのように組むのが妥当ではある。
では、この後どうなるのか。もし敵が自分以下の存在を魔法発動の為に生贄と考えていたのなら――
(――いけない。ミーシャさん、復唱を)
「えっ? あ、うんっ」
すぐに思考の海から抜け出す。実行に移さなくてはならない。
不味い事になる。それは直感か経験か、あるいは知識か。
とにかく、急がなくてはならないと、アーティは言葉を紡ぐ。
(1と0を繋げし無色の糸よ、不可視の壁となり、我らを守らん)
「1と0を繋げし無色の糸よ、不可視の壁となり――」
――ミーシャが詠唱を終えるより一瞬早く、『それ』は起きてしまった。
爆風。耳を壊すかのような強烈な音と共に、光が館を飲み込んでゆく。
「きゃぅっ」
「あっ――」
震動に天井は崩れゆき、家物は瓦礫に飲み込まれてしまう。
「くっ――物理障壁っ」
即座にアーティが防御の魔法を展開させ、衝撃に倒れたミーシャに覆いかぶさる。
そのままアーティの上へと瓦礫が落ちてくるが、そのほとんどが魔法の障壁に阻まれ、わずかにずれた位置に転がる。
「ミーシャさん、大丈夫ですか……?」
揺れが収まったところで、周囲を見渡しながら立ち上がる。
瓦礫の山。埋もれずに済んだものの、既にそこは部屋と呼べるものではなくなっていた。
倒れたままのミーシャであったが、うめき声が聞こえ、安堵しながらも。
油断できる状況ではないと、アーティはキッと眼を細める。
「ミーシャさん、起きてください。敵の本隊がきます」
先ほどの魔法の衝撃で、この領主館のほとんどは壊されてしまったと思えた。
既に敵と自分達の間に阻むものはない。ほどなく、敵が襲い掛かってくる。
そう考え、アーティは迎撃のプランを練り直す。
「う……やって、くれたわね――」
額から血を流しながらも、なんとか無事らしく自力で立ち上がるミーシャ。
「許さないっ、倍返しにしてやるんだから!!」
その痛みは、弱まっていたミーシャの心に怒りの炎をつけてくれたらしかった。
(復唱してください。今度の魔法は……二重詠唱になります)
「にじゅっ……ちょ、そんな急にっ」
二重詠唱。言葉に出しつつ、それとは別に心の中でも呟き、同時に複数の魔法を発動させるための詠唱を読み上げる。
魔法の同時発動は非常に難易度が高く、熟練した魔法使いでも容易には実現しえない高度なものと言われていた。
ぶっつけ本番でそれをやれと言われては、ミーシャもとまどってしまう。
(全てを破壊せしめる天獄の門よ、天空へとその天罰の光を見せん[1と0を繋げし無色の糸よ、0と0を結びし不可視の糸よ])
「うぅっ――全てを破壊せしめる天獄の門よ、天空へとその天罰の光を」
構わず文言を囁き始めるアーティに、ミーシャは半ば自棄になりながら復唱していく。
そうして、心の中でも別の詠唱を呟くのだ。当然、その分だけ遅くなる。
(雷は光の束となり、電は光の架となり、大地は我が身とし、その光を我が身より現さん[1と1を結ぶべき無限の鎖よ、我が元にあり、全てを廃絶せよ、全てを拒絶せよ])
「見せん、雷は光の束となり、電は光の架となり、大地は我が身とし、その光を我が……」
「身より現さん」
「身より現さんっ」
噛みそうになり蒼白になっていたミーシャに、アーティが助け舟を出す。ぎりぎり言えた。心の中の詠唱は既に言い終えていた。
「我が身を贄とし、全てを破壊せしめよ。天獄の門は、今解き放たれた――」
「我が身を贄とし、全てを破壊せしめよ。天獄の門は、今解き放たれた――!!」
いつしか、アーティも大きな声でそれを叫ぶ。
ミーシャはそれに負けじと、はっきりとした口調で詠唱を終えた。
『――雷法典レメトゲン!!』
儀式を終えると共に、魔法陣は、ミーシャ自身の身体の表面に複数展開されていった。
「えっ――」
今までに無い状況に、ミーシャは一瞬戸惑いそうになる。
「すぐに発動させなさいっ、斥力フィールドっ」
「あ――」
『斥力フィールドッ』
心の中で呟いていた詠唱が、その瞬間に形となって二人の周囲を無色の鏡となって囲んでいった。
直後、ミーシャの表面に展開されていた魔法陣が、巨大な電撃のフィールドを鏡の外へと発動させていく。
それは秒おかずして十字架の形に広がってゆき――全てを飲み込んでいった。
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