上 下
346 / 474
8章 新たな戦いの狼煙

#11-3.グランフォレストの戦いにて(前)

しおりを挟む

 激戦の東部戦線・グランフォレストにて。
ここは本来魔王軍に対し反旗を翻した東部領主らが主だった反乱勢力だったはずだが、現在は黒竜族と吸血族の壮絶な決戦場へと変貌していた。
片や巨大な黒竜ばかりが七十。闇を輝く黒で埋め尽くされていた。
片や吸血族ばかりで構成される軍勢が七百ほど。やはりこちらもマントの色か、黒で埋め尽くされていた。
そして、戦地にはかつてこの戦場で戦っていた魔王軍、反乱軍の将兵の死体が数多。
どちらも両軍の攻撃の巻き添えに晒されたものである。

 幾度目かのぶつかり合いの末、互いに間を置いての再度の戦いが始まろうとしていた。
そうして、そのような時に、それは始まる。
「相変わらず優雅さとは無関係な位置にあるようね、黒竜族は」
黒の中の白。吸血族の姫君アイギスは、先陣の宙空に立ち黒竜の群れに向け声を上げた。
シン、とした空気の中響く、澄んだ、よく通る声であった。
「くくく、だが、吸血族のようにのんびりとしていては、成せる事も成せぬまま堕落するのみよ」
黒の中の黒。黒竜族の長ガラードは、これに対し地上から見上げ、声を張り上げる。
自信に満ちた覇気ある声であった。
「相変わらずの短気短絡、恐れ入るわねガラード」
「相変わらず体面ばかり気にしているのか。わざわざ東部にまで出張るとは、ご苦労な事だなアイギスよ」
互いに互いを挑発する。互いに睨みを利かせ、引き下がらない。
「ふん、父親の事も超えられない男が偉そうに」
「超えたさ。今の俺はもう、かつての軟弱だった俺ではない」
ちゃきり、と、左手に持った曲刀を手に取る。
にやりと口元が歪んでいるのを見て、アイギスは軽い苛立ちを覚えた。
「その自信、なんとも腹立たしい。これだから黒竜族は」
「そう怒るなアイギスよ。美しい顔が台無しだぞ」
「――っ!!」
煽るようなガラードの言葉に、アイギスは眼をぎり、と細めた。


「爺。この場は任せるわ。皆殺しになさい」
「承知」
アイギスの左に控える側近ベテルギロスが、その言葉を最後にその場からばらけ消えていった。
「レェンゲオルグは私に続きなさい。ガラードを――討つわ」
「御意に」
そうして残った歳若い側近の男とともに、アイギスは敵大将へと向かっていった。

 それは、幾たびの戦の末の決戦であった。
これで決着がつくかどうかは解からない。
この決戦地グランフォレストも、既に両軍のぶつかり合いによって地形の大半が崩れ、おびただしい量の毒や血に塗れ、再生は望めないものとなっていた。

「兄貴、ここは俺に任せてくれ。吸血族の軍勢なんざ、あっという間に蹴散らして見せる」
「いや、俺がやる。ダゴン兄ぃはガラード兄ぃの補佐に回るべきだぜ」
黒竜族の陣では、ガラードと二人の弟達がのんびりと構えていた。
何せ久方ぶりの大戦である。
二人の弟も、当然ながらガラードも興奮していたが、総大将であるガラードは冷静に振舞わなくてはならなかった。
「ふっ、別に補佐などいらんよ。アイギスは俺一人で抑えられるだろう。残った雑魚をお前達が殲滅しろ」
敵大将アイギスが自分目指して攻めて来ることなど想定済みであった。

 両者の戦いは大体の場合決着がつかないまま引き分けに終わるのだが、今はいくらか事情が違っていた。
今、ガラードを始め彼の兄弟は『王羅』という力を習得している。
これは、物理でも魔法でもない第三の力とも言えるもので、魔法も物理も効かない吸血族相手に効果的ではないかと思われていた。
アイギスがガラードに向け突っ込んでくるのは、単純に総大将の相手は総大将がするものという古臭い認識が吸血族にあるからなのだろうが、ガラード的にはそれは好都合なのだ。

「相変わらず兄貴は吸血族の姫君がお気に入りのようだな」
「そんなに二人きりで話したいのか。折角の戦地なのに」
次兄と五兄は呆れ顔であった。
「うるさい黙れ。こんな時でもなければ会うことなんて滅多にないのだぞ」
ガラードは少しばかり照れていた。ガラにも無く。
「ソレは知ってるが……なあ?」
「あちらが出張ってきたと知るやわざと正面対決になるように布陣するなんて、どうかしてるぞ兄貴」
まず滅多な事では死なないとはいえ、戦地は彼らにとって神聖なものである。
戦い大好きな戦争至上主義な黒竜族にとって、何より大切なのは目先の敵を殺す事のはずであった。
だが、総大将たるこの長兄はそんな事とは別の場所に眼を向けているのだ。
よりにもよって相手の総大将、アイギスに。
弟達もこれには苦笑するしかなかった。
「そもそも、黒竜族の男が吸血族の女に惚れるかねぇ。しかも姫だろ。吸血王の娘だろ」
「俺、ああいう気障ったらしい髪した女は嫌だなあ。あんなのが義理の姉になるとか耐えられねぇよ」
ぶちぶちと愚痴る始末である。なまじっかガラードと比べて力の差がそこまで大きくない為遠慮も無かった。
「……とにかく、アイギスは俺が黙らせるから、お前らは軍勢の方をなんとかしてくれ。頼むから」
ガラードも弱みを知られているので、情けないながら頼み込むしかなかった。
「まあ、貸し一だな」
「兄ぃ、ここで協力してやるんだ。良い女がいたらその時は兄ぃが協力してくれよな」
どちらが兄なのかもわからぬいかつい顔をにやりと歪ませながら、二人の弟は去っていった。
「……全く、あいつらは」
だが、なんだかんだ言って協力してくれる弟達を、ガラードは悪くない様子で見送っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...