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7章 女王

#Ex4-2.親の心他人知らず

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「う……あたま、いたい」
そのまま意識を失ってしまった彼女は、自室のベッドの中で目を醒ました。
可憐な紫の花が活けられた花瓶。
余計なものは置かれていないが、だからこそ落ち着く、質素な部屋であった。
「大丈夫ですか?」
傍で見守っていたのは、妖精族の娘。
初めて彼女がここに来たときに案内してくれた、あの娘であった。
この城砦に戻ってからは、身の回りの世話をするメイドとして、彼女がよく話す相手にもなっていたのだが。
「……大丈夫じゃない。お水頂戴」
痛む頭に苦しみながら、手を伸ばして助けを求める。
「やれやれ、あんまり無理しないでくださいよ。貴方がたは陛下よりこの城に預けられた大切なお客様です。自棄酒で死なれでもしたら私達が怒られるんですから……」
困った人です、と、眉を下げながらに、その小さな身体をちょこちょこと動かして水差しとコップを持ってくる。
「はい、どうぞ」
コップへと注ぎ、手渡し。
小さな指先が魔術師長の手に触れ、コップが伝わる。
「ん……」
横を向きながら、そのままこくこくとゆっくり飲み下す。
時間を掛けて全て飲み干し、少しだけ落ち着いた様子でコップを差し出す。
「ありがと」
「はい」
そうしてまた、メイドの手へと戻る。
静かな時間であった。

「――私ね、子供の頃から憧れてた人がいたのよ」
「なんですか突然に」
間が空いて、特に話す事も無く。
メイドもメイドでだんまりのままじーっと見ていて、なんとなく居心地が悪かったので、彼女はぽそぽそと語り始めた。
「憧れてた人の話。暇だから、聞いて頂戴」
「私はあんまり暇じゃないです。貴方のお世話だけでも色々大変なんですよ?」
とても迷惑そうに眉をひそめるメイド。
なりは小さいのに、なんともはっきりと言う娘であった。
「聞いて頂戴」
でも、それを押し通す。じ、と、眼を見ながら。
「……はあ」
眉を下げたまま、メイドは大人しく近くの椅子へと腰掛けた。
丁度、視線が合わさるように。
「ありがと」
「話すなら早くお願いしますね」
にや、と、口元を緩めると、メイドの釘刺し。
解ってるわ、とばかりに、魔術師長は言葉を紡いでいった。


「私は、没落した貴族の出で、だけど、親が見栄っ張りでね。なんとか良い学校に行かせようと、宮廷の魔術学校に入れられたの。子供の頃から親元を離れて、一人ぼっちで暮らして。金持ちや大物貴族や王族の子息令嬢が通う中、一人だけ貧しくって。惨めだったわ」
思い出しながらに、「あれは辛かった」と、苦笑いしてしまう。
「だけどね、そんな中、私なんかに普通に話しかけてくれる人がいたのよ。すっごくぶっさいくだったから最初は怖かったけど、話してみたら良い人でね」
「その人に憧れたんですか?」
「ええ、そう。その人は、私と五つも離れてたし、その頃にはもう、婚約者がいたのだけれど。子供だった私は、その人に憧れて、役に立ちたくて、真面目に勉強し続けたの。卒業する頃には主席になってたわ」
すごいでしょ、と、にやけるが、メイドはよく解ってないのか、首をかしげたり視線を彷徨わせたりしていた。

 魔界には、学校というものは存在していない。
大体が種族単位でまとめられ一つの領土として数えられ、その領土内で領主やその配下の者が、これと見た者を教育するのが習わし。
領主でなくとも軍事の家系だとか名門だとかに生まれれば当然相応の教育は受けられるが、多くの場合、学の無い家に生まれれば学の無いまま育つのが当たり前であった。

 そんな事情は彼女には解らなかったが、妖精族という種族がそんなに知性の高い相手ではないのは、この城で暮らしていてなんとなく察してきていたため、彼女は「きっと解ってないんだろうなあ」位には考えていた。
それでも、話したかったのだ。

「その人はやがて、私の国の王様になった。王族だったの。しかも第一王子で。私の憧れは、初恋は、初めから届かないものだった――」
聞いていようといまいと関係ないのだ。
こんなのはただの独白。辛さを紛らわしたくて語る慰めでしかない。
「だけど、忘れられなかったの。学校を卒業後、宮廷魔術師として登用された後も、あの方は、私の事は忘れてなかったわ。それが嬉しかった。大人になった私に、あの方は子供の頃と何の違いも無く、笑いかけてくれたから」
少し声が震えていた。喉が詰まる。鼻が鳴ってしまう。
「――いけない事だって解ってたけど、止められなかったの。好きな人に見てもらいたいって。愛して欲しいって。そう願い始めたら、もう我慢なんて出来なくて――受け入れてもらった時は、嬉しかったわ」
メイドは余計な事を言わない。口を挟まない。ただ黙って、彼女の言葉を聞いていた。
それしかできなかったのだろう。何かを言えた雰囲気ではなかったのだ。
人と比べてもあまり賢いとは言えない彼女たちだが、空気を読む位はできるのだ。

「でもね、あの方と密会を続けて、やがてお腹が大きくなっていく事に気付いて――そこで『もう終わりだ』って思ったの。これはもう続かないんだって。せめてこの子だけ産んで、子供と二人、どこかで暮らそうと思って。最後の別れを言おうとしたのよ?」
もう、彼女もメイドの事など見ていなかった。見えていなかった。景色が歪んでよく見えないのだ。
「なのにあの方は、認めるって――お腹の子を、自分の娘として認めるって……そんなの、通る訳ないじゃない。王妃だって元気なのに、許されるはず無いのに」
そのまま、言葉は止まってしまう。しばし、すすり泣きの声が部屋を静まり返らせ、間が空いた。


「――ぶっさいくばっかりの子供たちの中で、一人だけ可愛いの。私の娘だけ。誇らしかったけど、ずっと心配で。だけど、虐められたりとかはしなくてね。すごくまっすぐに育ってくれたの」
ひとしきりぐずった後、また言葉が紡がれていく。
侍女も、膝の上に置いた手をきゅ、と握り、その先を待っていた。
「才能に恵まれないとか、何やっても中途半端とか、そういうので悩んでたのも聞いてたわ。助けになってあげたいと思ってたけど、あの娘の師匠についてたリットルっていう勇者から『あいつはあんたのこと毛嫌いしてるぞ』って言われて――仕方ないのよね。だって、あの娘から見たら私って、自分の父親たぶらかしてる悪い女なんだもの」

「……私は」
そこまで話したところで、ずっと黙っていたメイドが、突然、ぽつり、言葉を挟む。
「……?」
それが不思議で、少し驚きながらも、彼女は待った。
「私は、貴方のおかれた事情は何にも解りません。その、恋した人との間に生まれた娘に嫌われるのは、辛いんでしょうけど……でも、貴方にとっては、その娘が善い娘に育ったのは、嬉しいのですよね?」
「ええ。嬉しいわ。誇らしい。だから、悩む事もあるだろうけど、腐らないで欲しいと思ったのよ。望む方向に、憧れた方向に才能が恵まれてる人なんて、ほとんどいやしないんだから」
望んだ方向に才能がない自分を否定して歪んでしまうのではなく、肯定してまっすぐに伸びて欲しい。
母としての彼女は、そう願っていた。
「でしたら、そう言えば良いのでは? 母である事は言えないのでしょうが、自分が思っているアドバイスをする事くらい、母を名乗らずともできるでしょう?」
「でも、だめよ――実際、拒絶もされてるのよ。『貴方に人生の先輩みたいな事言われたくない』とか、すごく全力で拒絶された」
あれはきつかったわ、と、ちょっと年甲斐も無く涙ぐんでしまう。
「反抗期なだけでは?」
「いや、そうかもしれないけど……ううん、でもなあ。そうなのかしら?」
「知りませんよそんなこと。というか、貴方は自分の娘の事すらよく知らないんですね。人間って皆そうなんですか?」
「うぐ……」
呆れたようにじと眼で見てくるメイドに、魔術師長はどこか居心地の悪さを感じてそっぽを向いてしまう。
「べ、別に人間が皆そうって訳じゃないわよ? ただ、私がひねくれてて、あの人の愛を独占したいと思っちゃってたのが悪かったんだろうし。あの娘の事を知らなかったのだって、知れば知るほど辛くなってしまう気がしたから、距離を置いてしまったのが原因だし――」
「面倒くさいんですね人間って。私なら、自分の娘が私の事嫌いって言ってきたらほっぺた叩いて『この親不孝がーっ、ご飯抜きにするよ!!』って怒って聞かせてるところです」
人間、複雑すぎ、と、妖精族ならではの価値観での意見であった。
「面倒くさいのよ人間って。ああもう、嫌になる。嫌な気分になってるから聞いてもらおうと思ったのに、聞いてもらった所為で余計に辛くなっちゃったじゃないのよー」
ベッドに横たわったまま、ぐるぐると転がり行ったり来たり。
まるで駄々っ子のような仕草に、メイドは深くため息をついた。
「そんなの知らないですよ。聞かされた私も特に楽しくもないし。人間って、なんでこんな意味のないことをするんですか?」
意味わかんないですよ、と、心底飽き飽きした様子で椅子から下りる。
「……そうしないと、いられないのよ。人間は複雑すぎるから、自分でもよくわかんないの。よくわかんないけど、自分の言葉を聞いてくれる誰かが欲しくなる事があるのよ」
「誰でもいいんですか? 魔族でも?」
「誰でもいいのよ。例え魔族でもね。そうやって人間は、複雑な自分の心に、なんとか押さえを付けたり平穏を取り戻したりするの」
ぴた、と、止まって、椅子から降りたメイドの顔を見る。
幼い顔。だけれど、どこか不思議そうな、興味がそそられたような顔をしていた。

「人間の話、気になるの?」
その顔がどこか可愛く見えて、そして、好奇心旺盛な子供のようにも映り、先ほどまでの涙はどこへやら、にんまりとした顔で上身を起こして見つめる。
「……さっきの話よりは。まあ、今の話のおかげで、『人間ってこんなに変なのか』って改めて解った訳ですし」
なんとなく、そのまま認めるのは気に入らないのか、回りくどく返してくる。
「あんたも大概、ひねくれてるわよね。妖精ってあんたみたいなのばかりなの?」
「えっ? ひねくれて……ません、よ?」
途端にしどろもどろになる。まさか自分が言った事を返されるとは思っても見なかったのだろう。
「なるほどなるほど……」
顎に手をやり、考え込む。
この娘は自分に似ているのかもしれない、と考えると、こんな小さな異種族のメイドでも妙な親近感というか、近しさを感じてしまっていたのだ。
そうなると、なんとなくただの客とメイドという関係は、もったいないようにも感じてしまい。
「いいわ。沢山聞かせてあげる。ひねくれ者同士、仲良くしましょ?」
そうしてひねくれ者の元悪女は、自分の同胞相手に、自分達の種族の色んな事を、細かに話して聞かせたのであった――
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