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5章 『勇者に勝ってしまった魔王』のその後

#12-3.出立

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 翌日早朝。村のディオミス側の門では、ここで足止めを受けていた商人や旅人達が集まり、こぞって出立しようとしていた。
昨日まで村をにぎやかしていた者達が居なくなり、寂しくなるのを惜しんだ村の者が見送りにきたりしていた。
中には恋人との別れを惜しむように抱きしめあう若い男女も居り、この野盗アクシデントも、時にはこのようなドラマが生まれるのか、と、魔王は苦笑する。
「では旦那様、私は一旦戻りますが……」
これから出ようとする魔王らを、アリスは見送る側であった。
「ああ、必要があればコールの魔法で呼ぶ。その時の為、いつでも来られるようにしておいてくれたまえ」
「はい。どうぞお気をつけて――」
昨日までと変わらぬ冒険者風の出で立ちながら、やはり商人や冒険者の群れの中では目立つ、楚々とした仕草であった。

「ふわぁ……」
「あー……」
それをやや遠巻きに見守るはコニーとレナスである。この門で合流する約束だった。
「レナス、やっぱり私もメイド欲しい……」
「何が『やっぱり』よ、あたしらの稼ぎじゃ無理だって。どっかの王様のお嫁さんにでもなるんだねー」
「勇者エリーシャくらい美人ならそれも可能なんだろうけどねぇ」
「まああんたじゃ無理だね」
苦笑するレナス。別にコニーも器量が悪い訳ではないが、レナス的に、「そんなどこにでもいるレベルの顔では無理だわ」と思っていたのだ。
「あたしは昔、用事でシナモンに行った時にエリーシャの顔みたことあるけど、あれは別格よ。村娘の格好してたって顔立ちからしてぜんぜん違うもん。髪なんかもうすっごいサラサラで綺麗で輝いてたし、背もあたしらより高めだし、あれはモデル体型って奴ね。すらっとしてて女のあたしでも見惚れる位だったわ」
サラッサラよ、と、自分の茶髪をいじりながら力説する。よほど印象に残ったらしい。
「そっかあ、やっぱそうだよねぇ。私みたいなちんちくりんじゃ、普通の人のお嫁さんになって子供二人位に囲まれながら平凡に暮らすのがせいぜいだよねぇ」
「めっちゃ幸せな人生じゃない」
何夢見てんのよ、と、レナスはにやにや笑う。
「勇者やってる間は無理だって。無骨な男どもに囲まれながら魔物やら盗賊やらを倒したり村々のお使い事を済ませるだけで終わる人生よ」
「何それ夢がない。無さ過ぎるよ」
「そう思っとけば平凡な人と巡り会った時にすごく幸せになれるでしょ。『ああきっとこの人と出会う為に生まれてきたんだわ』みたいな」
「レナスってリアリストっぽいけど実際は結構ロマンチストだよね」
「うっさい」
コニーの突っ込みにばつが悪そうにそっぽを向くレナス。
なんとも愉快なコンビであった。

「やあコニー、レナス。おはよう。またよろしく頼むよ」
ある程度話の区切りがついたようなので、と、魔王は二人に話しかける。
「あ、公爵様。こちらから挨拶しようとしてたのに、すみません、なんか話し込んじゃってて。おはようございます」
「おはようございます!」
二人して元気よく挨拶し、魔王らの元に歩いてくる。
「あれ、そういえばアンナさんは……?」
見ないなあ、と額に手を当て探す仕草をするコニー。
黒竜姫は特に隠れていた訳でもなく、魔王の後ろに立っていたのだが、コニーはそれに気づかない様子であった。
「いやいやずっと公爵様の後ろにいるじゃない」
そんなコニーの肩にぽん、と手を置き、レナスが魔王の後ろを掌で指す。
「え? あれ、あ、本当だ!! アンナさんおはようございます」
「……えぇ、おはよう」
「おはようございます。すみません、その服、ぜんぜん雰囲気が違ってたから、この子本気で気づかなかったみたいで……悪気はないんです」
「まあ、いいけどね」
必死に取り繕おうとするレナス。小さくため息をつく黒竜姫。
こんな扱いを受けたのは初めてだとばかりに、ちょっとしたショックだったらしいが、それを問い詰める気も起きない様子だった。
「サラァン姿も良く似合ってると思いますよ。アンナさんって黒系の服よく着てるけど、そういう明るい色の服も合うじゃないですかー」
「ん、まあ、ね……」
「私もそう思う。アンナは元がいいからどんな服でも合うが、やはりこういう清楚な感じだと普段と様子が違っていいね」
「そ、そうですか……?」
コニーに褒められてもあまり納得のいかない様子であったが、魔王が褒めると途端にテレテレと俯いてしまう。
「いいなあアンナさん」
「あんたは本当に羨ましがりっ子だねぇ」
ニマニマと二人のやりとりを見ながらほう、と息をつくコニー。
レナスはそんなコニーを見て苦笑いしていた。


「ここからは山道になりますから、ちょっと足元が悪くなってきます。気をつけて進みましょうね」
村から出て少しばかり歩くと、先導するコニーが不意に足を止め、くるりと振り向き説明を始めた。
村からの道は広かったが、丁度ここを境にまた狭くなっていき、急な坂となっていた。
コニーいわく、ここからが山の入り口らしい。
「うむ。足止めを喰ってしまったが、だからと無理に急ぐのは危険、という事だね」
「はい、ディオミス本山と比べればぜんぜん低い山ですが、それでも油断は大敵ですから」
「半日も登ればてっぺんですよ。そこから先はまた少し下って、そこでようやくディオミスの麓に着くんです」
そこからが本当に長いんですけどねー、と、コニーは笑う。
「まあ、ともあれ登り始めなければ何も始まらん。気をつけながら行こう」
「そうですね」
「はい」
テトラまでの道のりと違い、今回は前後に他の商人や冒険者らの姿が見え、旅の道もにぎやかなものだった。
わずか半日ばかりの山登り。数日後には山頂に着くだろう、と。
あまり時間は無いながら、それなりに魔王は楽しんで、この山登りに挑むことにした。
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