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5章 『勇者に勝ってしまった魔王』のその後
#4-3.策謀のラミア
しおりを挟む第二セットはノアールがゲーム進行に代わり、プレイヤーは魔王、エルゼ、アリス、エリーセル、そして何故かラミアの五人だった。
「……何故ラミアが」
仕事したまえよ、とツッコミを入れそうになるが、ちっちっち、と指を振る。
「実は、部下達から『こんな時位お休み下さい』と参謀本部を追い出されまして」
「ああ……まあ、今は暇だからねぇ」
魔王もあまり直接指示することがなくなった為忘れていたが、戦況は全面的に魔王軍の圧倒的優位にあり、そしてその状況のまま次の作戦までの下準備の期間となっている為、参謀本部はここの所することがあまりないらしい。
「私自身、余暇など必要無いと思っていたのですが、あの子達が折角気を遣ってくれたものですから……まあ、報告がてら、陛下と今後のことについてお話しようと思っていたのです」
つまり暇なのだ。する事がないのだろう。
「まあ、いいがね……」
暇つぶしに上司を使うのはどうなのかと思いもしたが、そもそも魔王自身も暇でこんなゲームを作って遊んでいる位なのだ。
珍しい事ながら、それにラミアが加わるというのも味があるのではないかと思い直し、それ以上は突っ込まない事にした。
「では皆さん、振ったダイスの結果をどうぞ~」
間延びした声で進行するノアール。結構大味な進行であった。
「私は……また1か」
魔王は連続して1だった。
「旦那様、私も1でしたから、お先にどうぞ」
「おお、すまないねアリスちゃん」
同じ数字を引いたアリスは、主に順番を譲った。
「ふふん、私は4でした」
そして例によってドヤ顔のエリーセル。
「あの、また6です……」
エルゼは問答無用の最大値。第一セットといい、運が良いのだろうか。
「えーっと……5ですわ。半端ですわねぇ」
最後にラミアが確認。これによりエルゼ、ラミア、エリーセル、魔王、アリスという順番になった。
「むぐぐぐ……」
心なし、エリーセルは悔しげであった。素人二人に出目で負けたのが悔しかったのかもしれない。
……そして。
「おいおいおい……ここで逆転とはな」
「まさかの展開ですね」
第二セットも佳境に入っていた。ゴール目前でのラミアとエルゼのトップ争い。
更にそれをアリスとエリーセルが追い上げ、魔王は最後の最後で振り出しに戻されていたので半ば傍観者気取りであった。
そして、もう間も無くエルゼのゴールかといった所でラミアがイベントマスによって渡り人と三回目の遭遇。これによりトップが確定した。
「いやぁ、まさか私が勝つとは。では皆さま、一抜けさせていただきますわね」
悠々とボード上からいなくなるラミアの駒。
のんびりとカップに唇をつけながら、紅茶を啜る。
「5、5さえでればイベントマスだから私にもチャンスがっ」
エリーセルも既に二回渡り人と遭遇していたので、この辺りリーチがかかってはいたのだが、生憎と出たのは3だった。
「とほほ……」
何もない空白マス。辛い時には安堵するマスだが、今の彼女には虚しさばかりが募っていた。
「えーっと……私は、3が出ればいいのかしらね」
アリスはカード五枚。
エリーセルとは逆にイベントマスを踏みたくないので、空白マスを目指しダイスを振る。
コロコロと転がり出た数字は4。
「あらら……」
「ふふん、アリス様、世の中はそんなに上手く行かないのですよ」
自分と同じ目を見るであろうアリスに、胸を張って偉そうな事を言うエリーセル。
「な、なんか貴方、このゲーム始まってから性格変わってない……?」
少し困り顔でエリーセルを見やりながら、駒を進めていく。
「えーっと、移動系のイベントマスですので、ダイスをもう一度振ってくださいな。それで結果が変わりますわぁ」
「解ったわ」
ノアールの指示の元、アリスはもう一度ダイスを振る。
「6ね」
「はい、おめでとうございますぅ。3以上ですので、出た目の数だけ前に進んでくださいませぇ」
にこにこと微笑みながら手をぱん、と小さく叩く。
「ちなみに3未満だったらどうなるの?」
「振り出しに戻されますわぁ」
魔王と同じく地獄にまっ逆さまだったらしい。
「アリスちゃんは運がいいね」
「そ、そんな……ただの偶然ですわ」
「またまたご謙遜を~」
魔王とノアールからの賛美にテレテレと可愛らしく困った顔をするアリス。
「むぐぐぐ……」
そしてまたしても、エリーセルは悔しそうにハンカチーフを噛むのであった。
「けっかはっぴょ~♪」
ゲームセット。
とても楽しそうに小さくぱん、と手を叩くノアールと、それにあわせてわーわーと声をあげてくれる小さな人形達。
「はいっ、今回のトップはラミアさん。二位はアリス様、三位はエルゼさんです。負け組は旦那様とエリーセルでした~」
「ふむ。まあ、意外な結末でしたわ。運が絡むゲームでしたし、どうなるかと思いましたが」
感想を話すラミア。どこからか取り出した眼鏡をかけ、くいっと指で整える。
「毎度だが、君は目が悪いわけでもないのになんで眼鏡を持ってるんだ?」
「イメージですわ。頭よさそうに見えますでしょう?」
ひどくロクデモない理由だった。
技術者の少ない魔界において、眼鏡はかなり高価なアイテムだというのに。
「それはそうと、勝者のラミアよ、私達敗者に何を求めるね?」
「そうですわねぇ……」
敗者二人は既にチョッピングボードの上に転がっているようなもので、ラミアの銀色の瞳にざらざらと見つめられていた。
どうなるのか解らないためか、エリーセルはびくびくと震えている。
「そっちのお人形をひん剥いて全裸のまま城内を歩かせるというのも楽しそうですが」
「ひぃっ!?」
想像を絶する外道さにエリーセルは涙目になっていた。さっきまでのどや顔はどこに行ったというのか。
「まあ、陛下が怒りそうですし、それは冗談ですが」
「冗談に聞こえなかったぞ」
魔王は魔王で自分の大切な人形が露出プレイの憂き目に遭うか否かの瀬戸際だったので、ラミアの発言は聞き捨てならないものがあった。
というか怒らなければやるつもりだったのだろうか。
「陛下、今度黒竜姫と二人でハイキングでも行ってきてください」
「私か。ハイキングって……」
「それだけで結構ですわ。ただハイキングに行くだけでも良いですし、解放的な気持ちになってあの娘に襲い掛かっても良いですし」
またしても危ない発言であった。この蛇女、自重する気がサラサラないらしい。
「まあ、襲い掛かる事はしないと思うが、ハイキング位なら――」
そこまで問題あるまいと、魔王はラミアの要求を飲む。
「よろしいですわ。では以上で」
「……ふぅ」
ラミアの要求も終わり、ほっと一息をつくエリーセル。全裸徘徊の恐怖はとりあえずは免れたのだ。
「ちょっと待ってください……そういうのも良いのですか?」
しかしそれだけでは終わらなかった。エルゼが待ったをかける。
「そういうの、というと……?」
「師匠と遊びに行くのとか、そういうのです」
「まあ、いいんじゃないかな」
別に何かが磨り減る訳でもないし、と、魔王は暢気に構える。
「解りました」
何故か急にやる気を出したエルゼは、頬を引き締め、ダイスを強くぎゅっと握っていた。
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