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1章 彼女たちとの出会い
#6-3.夏の夕暮れ
しおりを挟むエリーシャと別れを済ませると、一行は帝都中央をぶらぶらと歩いていた。
街の中心部には帝国の中枢機関が集まっており、警備兵も多数見回りする地域だが、魔王達は観光客の群れに紛れ、やすやすとその懐に入り込んだ形となった。
魔王にその気があれば帝都は即座に大混乱の渦に叩き落とせるが、そんなつもりが更々無い一行は人畜無害にあちらみてこちらみてしていた。
ほどなくして大き目の公園に着き、入っていく。
「綺麗な公園ですわね」
アリスが目を伏せ、ぽつりと呟く。美しい金髪が優しくたなびいた。
公園は緑が生い茂り、静かに風の中揺れている。
季節の花がアーチに連なり咲き並び、都会だからこそ見られるリンゴの絵柄入りの道は、手入れが行き届きゴミ一つ落ちていない。
ところどころ長椅子が置かれており、こんな時間でも恋人達や家族連れが幸せそうに時を過ごしていた。
「カルナスとも違う。静かで中々良いところだね」
平和な光景でありながらどこか賑やかさから離れられなかったカルナスと比べ、この帝都中央の公園はそういった雑踏から完全に隔離された、緑の中の密室であった。
一緒に帝都を練り歩いた観光客の群れは、公園の手前辺りで全く違う方向に別れてしまった。
同じく公園に向いた人足は、身なりから見ても観光客というよりは地元の人間がほとんどらしく、やっとこ人の少ない場所に出て安堵したような表情になる者も多い。
「旦那様、お疲れに?」
「いや、ちょっと気になるものがあってね。この公園はその為にきたのだ」
「はあ……」
ちらり、と、アリスはエルゼの顔を心配そうに見た。
「アリスちゃん、エルゼが少し気分が悪そうだから、椅子に座らせてやってくれ」
エルゼの顔色は真っ青だった。魔王もそれは解っていたのか、ちゃんと気遣う。
「かしこまりました。エルゼさん、どうぞこちらに」
「すみません、まさかあんなに人が多いなんて……」
普段人の群れに紛れた事などないエルゼは、沢山の人の熱気や、その中にいるというプレッシャーに圧し負け、くったりとしていた。
流石にその様は魔王にも可哀想に感じて、観光の大半は諦めて最後にこの公園にきたのだった。
アリスがそっとだしたハンカチーフの上に腰掛けると、エルゼは「ふぅ」と可愛らしく息をつく。
「もうあたりも暗くなる。気分も落ち着くだろう」
「はい。夜になれば、大分違ってくると思います」
吸血族は種族特有のバイオリズムの都合上、暗くなるほどその力を増し、夜が深まると肉体的にも精神的にも万全の状態となる。
昼間は常に弱ってる状態で、更にエルゼは箱入り育ちの為に色々と未経験な事が多く、感受性が強い所為で些細な事が原因でカルチャーショックを受けてしまう。
だが、そんな精神ダメージも夜になれば幾ばくか和らぐのか、時間の経過と共にエルゼの顔色もよくなっていく。
「まあ、もう少し休めば歩けるようになるだろう。アリスちゃん、私は先に行ってるから。エルゼの調子が戻ってきたらきてくれ」
「かしこまりました」
「すみません、師匠……」
落ち込んでしまったのか、折角色を取り戻した顔が、また暗く沈んでしまう。
「謝る事は無い。あんな人ごみの中連れ出した私に責任があるからね」
魔王は自分の悪癖に弟子を巻き込んでしまった事をいたく後悔していた。
娘どころか孫と言っても差し支えないこの少女に、なんともむごい仕打ちをしてしまったと。
気をつけなければいけないと自戒しながら、魔王は静かに歩いていった。
少し歩くと、そこには小さな泉があった。
申し訳程度の小さな噴水がいくつも並んでいた。
水が出たり引いたりを繰り返し、魔法によるライトアップが為され、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。
周りのベンチにはもう家族連れの姿はなく、そこは恋人達が甘い詩を囁きあう場所となっていた。
その場違い感に胃のむかつきを感じながらも、魔王はコツ、コツ、と、一人目的の場所へと向かう。
「やあ、これか」
辿り着いた先は、大きな石像が立っていた。
戦時において非常に高価であるはずの銀細工で髪を飾られ、黒檀の杖を持った美しい女性の像。
公園の隅で静かに佇むその美貌の微笑みは、青白い照明魔法でうっすらと輝いていた。
アプリコットに古くから伝わる『大賢者の像』である。
魔王が戴冠するより遥か昔にこの地方に現れた彼女は、深い慈悲を人々に与え、弱き者達の心を大いに救ったのだという。
そんな人間が本当にいたかはともかく、魔王はどこか懐かしげに、この石の美女をじっと眺めていた。
「お母様に似ていますわ」
――どれくらい経っただろうか。
ふと、後ろからエルゼの声がして、魔王は振り向く。
それから気づいたが、既に辺りは真っ暗になっていた。
いつの間にそこにいたのか、アリスとエルゼは、魔王からそう遠く無い場所で、魔王の邪魔にならないように像を眺めていたらしい。
だが、そんな事はどうでもよく、エルゼの口から出た感想が、魔王の耳に残った。
「君の、母親に似ていると?」
「はい、あまりよく覚えていませんが、目元も口元も、お母様とよく似てらっしゃるなあって思いました」
調子が戻ったのか血色もよく、にこにこと、素直に笑っていた。とても懐かしげに。
「そうか。まあ、そういうこともあるのかもしれんな」
「ですが不思議ですわ。お母様は、間違いなく魔族のはずなのですが……」
「だろうね、吸血王ほどの男が、人間の女と子をなすとは思えない」
あいつはプライドばかり高いからな、と。魔王は苦笑する。どこか辛そうに。
「でも、よく似ているのです。何故でしょうか」
「さて、何故だろうなぁ」
考えるフリなどもする。エルゼは本気で考え込んでいるが、答えなど出ようはずもない。
「この石像の女性は、大賢者エルフィリースという、人間の希望そのものの存在だったらしい」
いつまでも考えていそうなエルゼをごまかす為に、台座に書かれている説明書きを読みはじめる。
「戦にまみれ荒んだ人々の心を癒し、戦災で傷ついた弱き者達をその叡智で救い、少しでも皆が幸せなように、平和なように……」
読みながら、ふと、魔王はばかばかしくなって読むのをやめてしまった。
「……?」
不思議そうに魔王を見るエルゼ。
だが、はっとし、すぐに顔を背けた。魔王は気にしない。何より、腹が立っていた。
「ふん、馬鹿らしい。何が平和の為だ。戦争が嫌いなだけだろうに」
捨て台詞を吐き、魔王は立ち去る。
最後に一言、「だが、確かに似ている」と、一人ごちながら。
少し前の話である。
「吸血族の姫君……ですか?」
「そうよ、どんな娘なのか教えて頂戴」
ここは魔王城の中庭。
気まぐれでラミアの見舞いに訪れた黒竜姫は、池の中で平和そうな顔をして気絶していたラミアを見て馬鹿らしくなり、中庭でお茶をしていた。
髪の色とは正反対の白のショートドレス。
普段隠されているすらりとした傷一つない脚が露になっていて色気もある。
艶深い黒髪もストレートだったのが青色の髪留めでまとめられ、ポニーテール。
姫君のクールビズは装いも涼しげに、上品にまとめられていた。
そんな彼女は、わざわざ自分に魔王の不在を告げた哀れなウィッチを無理矢理同席させ、戻るまでの間のひと時をおしゃべりで過ごす事にしたのだった。
「えっと、リスカレス家のエリザベーチェ様ですね。銀髪碧眼の、お人形のようなお嬢さんです」
「エリザベーチェねぇ。なんか気障ったらしい名前だわ。吸血族らしいといえばらしいけど」
ビクビクと怯えながら、相手の機嫌を損ねないように知識を搾り出すウィッチを他所に、黒竜姫は魔王と一緒にいなくなったという吸血族の姫君に早速ケチをつける。
「それで、強いの?」
グラスの中、静かに揺れる冷たいライチティーを少しずつ飲みながら、黒竜姫は続ける。
「間違いなく強いはずです。幼い娘さんですが、その身体に宿る魔力は既に完成されていると言っても過言では……」
「私とどっちが強そう?」
「それは、きっと――」
機嫌よく笑って見せる黒竜姫に、ウィッチはつい釣られて素直に言いそうになる。
だが、はっとし、ブレーキをかける。間に合った。
「きっと、何よ?」
ざらり、と、鋭くにらみ付けられる。間に合わなかった。ウィッチは間に合ってなかった。
「いえ、あの、えっと……き、きっと、戦ったら決着がつかないと……」
逃げられない事を悟り、半ば諦めムードで続きを漏らすウィッチ。
「でしょうね」
だがその予想とは裏腹に、黒竜姫はさもつまらなさそうにそっぽを向いて一言返すだけだった。
「私ね」
「はい……?」
「なんとなくだけど、昔、その子に会ったかもしれない気がするのよね」
話題が変わる瞬間だった。
黒竜姫は、どこか遠くに思い馳せるように虚空を眺める。
ウィッチはどこに視線を向ければ良いか解らず、とりあえずこの、黒髪の姫君を見つめていた。
その美貌に、いいなあ、なんて思いながら。
「そうなのですか?」
「えぇ」
そっぽを向いたまま、短く返す。
「でも、それがいつなのか思い出せないの。私、記憶力は結構良い方なのよ?」
普段短気短絡で脳筋なイメージの強い黒竜族だが、その知力記憶力は魔族の中でも群を抜いており、当然黒竜姫も魔族で指折りの知恵者である。
だが、その黒竜姫にも、思い出せないことがいくらかあり、それが自分でも不思議でならないのだった。
「あの、そんなに昔と言うなら、子供の頃の話とかでは……」
「そうかもしれないけど、でも、おかしいでしょそれって」
「何がですか?」
「黒竜族と吸血族は犬猿の仲よ。その姫が二人、会う機会なんてあると思う?」
「あ、そういう事ですか。確かにそうですね、ありえないですよね」
うんうん、と、ウィッチは素直に迎合しておく。
今の黒竜姫が反論なんて望んでないのは見て解るからである。
「だからね、そんなありえない環境のはずなのに、なんでその子の事を知ってる気がしたのか、不思議で仕方ないのよ」
結局答えは出ないのだ。出るはずもなく、黒竜姫は終わりなく考え続ける。
その疑問に答えが出る日が来るかはともかく、その疑問が存在する事が気になって仕方ない内は、ずっとそうなるのだ。
黒竜姫がウィッチ相手にああでもないこうでもないと無意味なお喋りに花を咲かせている中、いつの間に復活したのか、突然ラミアが現れた。
「ちょっと黒竜姫、うちの副官をお茶会なんかに連れ出さないでくれるかしら!?」
激昂しており、半ば暴走しているようにも見えた。珍しく。
「あらラミアじゃない。何よ、もう生き返ったの?」
にやにやと冷たく笑いながら、黒竜姫は驚くでもなくそんなラミアを迎えた。
「あっ、その、ラミア様、申し訳……」
「貴方は良いのよ。悪いのはこのラミアだから」
等と目の前の蛇女を指差し、ウィッチを擁護する黒竜姫。
「うぇっ!?」
それを予想していなかったのか、まさかの擁護発言で逆に震え上がるウィッチ。
「いやいや、勝手に連れ出した貴方のほうが問題でしょうよ」
ラミアもそんな扱いの悪さに負けておらず、人も殺さんばかりの眼光で黒竜姫を睨み付ける。
「ウィッチ、さっさと参謀本部に戻るわよ。全く、暑さの所為で今日一日分全軍の進捗予定がずれてしまったじゃない!!」
「は、はい、ただいまっ」
「確かに今年はやけに暑いけど、こんな時まで暑苦しい密室にこもるのはどうなの……?」
黒竜姫はそんなラミア達をみてあくまでも冷ややかである。
参謀本部は魔王城内の広間の一つを改装して作られたのだが、ここは城の中央に位置する為、換気が上手く働かず、熱がこもりやすいという欠点があった。
冬はその分暖かいし、そもそもここまで暑くなる事など滅多に無いのだが、今年はその例外が発生してしまったのだ。
夏の湿度の高さと相俟って殺人的な暑さが更に増幅されており、ラミア以下参謀本部詰めの者の多くが暑さでダウンする始末。
まともに動ける者も多くはあまりの暑さに薄着になったり、露出が増えたりと色々怪しい事になっている。
現にウィッチも短めのワンピース姿で、この状態で箒に跨るのは色々と危険が多い。
「仕方ないじゃない。ここまで暑くなるなんて何百年ぶりか……」
「億単位で生きてる癖になんで前の経験を活かさないのよ」
じとっと冷たくラミアを睨む黒竜姫は、普段の横暴さとは関係なしに、はっきりと正論で責める。
「うぐっ……わ、私だって忘れる事くらいあるわよ」
目に見えて明らかに動揺して視線をそらすラミア。
情けないなあと思ったのは黒竜姫だけではなかった。
「そんな事より、早く行くわよウィッチ。黒竜姫なんかとお喋りしてる暇なんてないのよ!!」
「あらそう、ならさっさと行きなさいよ暑苦しい奴ねぇ」
話を逸らす為か、より語気を強めてウィッチを引っ張っていくラミア。
黒竜姫はそんな友人の様を見て、いつもどおり罵倒を浴びせながらも、それ以上は深追いしない事にした。友人なので。
「……暑苦しいは流石に傷つくんだけど?」
「うるさいわねぇ、蛇女に生まれた事を恨みなさい」
言われてびくりとして、恨みがましそうにじっとりと柱の影から呟くラミアに、黒竜姫は本当に鬱陶しそうに暴言を吐き捨てた。
そのまま、ラミアが涙目になりながら静かに立ち去ったのを見届け、黒竜姫ははっとする。
「……あいつに聞けばよかったのよね」
ぽん、と、可愛らしく手を打ち、それまで出なかった疑問への答えが、意外にも自分のすぐ近くに転がっていた事に気づく。
「まあ、暇な時にでも聞けば良いかしら」
しかし、簡単に手に入るものほどぞんざいに扱われるものである。
黒竜姫も、折角答えを手に入れられる機会だったというのに、それを面倒の一言で放り投げ、自分の城へと帰っていってしまった。
そうして入れ違いで魔王達が戻って来た時には、魔王城はもう、元の静けさに戻っていた。
陳情地獄だった玉座の間は参謀本部に回された女官たちが戻り対応し、魔王の平和な日常は取り戻されたように見えた。
しかし、魔王はいささか不機嫌なまま、自室に戻っても尚、一つの事を考え続けていた。
『旦那様、お疲れのご様子ですが……』
人形サイズに戻ったアリスが、心配そうに魔王の側に控える。
他の人形達も、戻ってきた主の難しそうな顔にハラハラとしながら、少し離れた位置で魔王達を見ていた。
「……あぁ、なに、過ぎた事だ、気にしなくて良いことのはずなんだがな」
忘れ去っていた。何もかも忘れていた。
何を頼りにそんな事を思い出そうとしたのかは魔王本人ですら解らないが、自分では間違いなく、それを忘れているようだった。
見覚えのある顔だった。しかしそれが誰に似ていたのかが思い出せない。
エルゼの母親に似ているという人間の賢者だが、本当に何の関わりも無いのか。
このあたりの事、吸血王にでも訊ねれば答えが返ってくるかもしれないが、それは魔王的に面白くなかった。
何せ、忘れているのは自分だけではない。
自身の母親の事をよく思い出せないと言ったエルゼ。
間違いなく魔族らしいその母親は、本当にエルゼの母親なのか。
だとしたら、これは本当に偶然に、その女魔族と人間の女賢者が似ているだけだったのか。
そもそものところ、女賢者とは実在した人物なのか。
だとしたら、何故彼女は奉られていたのか。彼女は奉られるほどの人物だったのだろうか。
墓標の如く足元の台座に彫られていた説明書きを読めば、なるほど確かにそれらしく感じられる、納得の行く生い立ちだ。
だが魔王は、どうにもそれが馬鹿らしく思えてしまい、腹が立っていた。
その聖人君子そのものの生き様にではなく、それがどこか、何かに塗り替えられたもののように感じられたからだ。
魔王とて、長く生きて色々汚い物は見てきたつもりだ。
魔族同士の戦いとて生易しいものではなく、時として卑劣極まりない策を弄する者も出てくる。
人間だって、それこそエリーシャが見れば目を曇らせかねないくらいに底意地の汚い人間は腐るほどにいた。
では、一体魔王は何に対して嫌悪を抱き、怒りを感じたのか。
それが今一思い出せない。解らないのではなく、思い出せないのだ。
そしてその思い出せない何かは、エルゼの母親の件についても繋がっているように感じていた。
勘の鋭い魔族だからこそ、その勘を前提に考えるならば、やはりそれは、そこに帰結するのではないかと思えてしまうのだ。
一体何があったというのか。一体何故そうなっているのか。
ただの観光でいっただけのつもりだったが、果たしてそれは、本当に気まぐれだったのか。
懐かしい何かに惹かれたような気もして、魔王は複雑な思考の鎖に取り込まれていく。
がんじがらめに繋がれ、完全に身動きが取れなくなった感じだ。
記憶喪失というにはあまりにも短期的な、わずかな時間の隙間。
魔族として考えるなら、それこそなかった事になっても差し支えない程度の記憶の空白が魔王を悩ませていた。
「アリスちゃん」
『はい、こちらに』
疲れた表情で愛する人形の名を呼ぶ。
それに応えるアリスはすぐに主の前に進み出る。
「すまないが、少しの間眠りたい。頭の中身を整理しなくては」
『起きて頂けるのでしたら』
「起きるさ。ほんの半年ほどだ。目が覚めたらキスをしてくれ。すぐに飛び起きる」
『かしこまりました。後の事はお任せ下さい』
可愛らしく微笑んでそう主に返しながら、アリスは他の人形達に目配せする。
今までベッドの上を居場所としていた人形達は、すぐさまベッドから降り、疲れている主に明け渡す。
「もし何かあったら遠慮せず起こしてくれ。それ以外では、ラミアであっても通さないでくれ」
『勿論ですわ。旦那様の安眠は、誰であろうと邪魔させません』
「頼んだ。少し、眠りたいのだ……」
よろよろと歩きベッドに腰掛け、静かに倒れる。
目を隠すように右手を当て、そのまま……魔王は静かに眠りに就いた。
実に数百年ぶりの眠りであった。久方ぶりの記憶のデフラグである。
『どうか、ごゆっくりおやすみなさいませ』
アリスたちが静かに送り、そっと薄掛けで主の身体を労わると、どこか嬉しそうに口元が笑った。
こうして、魔王が眠りについている間、しばらくは特に何か問題が起きるでもなく。
魔界はそこそこ平和に時が流れていった。
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