上 下
4 / 7

4.襲撃・スープクラッシャー!

しおりを挟む

「へいお待ち! ブリティッシュアサルト一丁!」
「ふふっ、もうすっかりラーメン屋さんですね」

 私の名は田中=ブラックシャドー=源三郎。
かつては世界を救う正義のヒーロー組織相手に激戦を繰り広げ悪の女幹部のピンチに駆けつけたりひと時の恋に落ちたりもしたしがない元改造人間だが、ある日組織との戦いに敗れ女幹部を守る為自爆し、気が付けばこの異世界に居た。
元改造人間としてのノウハウを活かし、戦場で槍働きを見せたり戦顧問として各国を渡り歩き蓄財をしていたが、ある日愛した女幹部に似た村娘と出会い、ラーメン屋となった。

 今、客として嬉しそうにラーメン丼を受け取っているのはその村娘である。
かつて恋に落ちた女と似た顔をした娘を前に、つい照れてしまい、無言になるが。
美味しそうにラーメンを口にするこの娘を見て、不覚にも口元が綻んでしまった。

「んん? このスープ、ちょっと変わった味がしますね? 何か違う材料とか使いました?」
「ええ、まあ……変わった素材が手に入りやしてね。試しに、といった感じで」
「なるほど、つまり試作品? 試作品を食べてるんですねー私! うわあ~♪」

 彼女だからこそ、という訳ではなく、今日の店にきた常連客皆に出しているものではあるが。
ぱあ、と眩い笑顔になるこの娘の顔を見て、そんな事を言えるほど私は女性慣れしていなかった。
恋人であった女幹部とすら口吸い程度しかしなかったのだ。
ひたすら闇に生きた元改造人間には、春の陽射しのような乙女の笑顔はまぶしすぎる。

「えへへ、得した気分ですねぇ」
「そう言ってもらえれば」

 今回はスープの材料に、ドラゴンの血を混ぜてみた。
ドラゴンは単独で軍隊を蹴散らすと言われる程凶悪な存在らしいが、改造人間としての力を使えば一瞬で輪切りである。
今はまだできていないが、肉も新作チャーシューの具材として漬け込んでいる。
このドラゴンの血というのは中々面白い素材で、混ぜる事で濃い油の食味が一瞬で爽やかに感じるようになり、胸焼けなどもなくなり、HPが3倍になり、ついでに寿命も100年ほど伸びるらしい。
スープの材料としてはまずまずの追加効果である。
ドリアードの樹液も悪くないが、これからはドラゴンの時代と言えよう。

「た、大変だっ、村に帝国軍がぁっ」
「きゃぁぁぁぁっ、誰か、誰かぁぁぁっ」

 遠くから誰かの悲鳴が聞こえるが、ラーメン屋台は動じない。
お客がラーメンを食べきるまでの間、屋台は動いてはならぬのだ。

「ど、どうしましょう? と、とりあえずラーメンをっ、あ、で、でもっ」
「大丈夫さ」

 |戦場(いくさば)のにおいがした。
こきり、肩の骨を鳴らし、エプロンを近くの椅子に掛ける。

「……任せな」

――彼女のラーメンタイムを妨害する輩は、撃滅する。


本日の営業地点:帝国と公国の緩衝地帯にある村
本日の主な客:村娘(実は女幹部の孫娘)
本日の稼ぎ:1ゴールドと攻めてきた帝国軍全軍の命
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔王様は聖女の異世界アロママッサージがお気に入り★

唯緒シズサ
ファンタジー
「年をとったほうは殺せ」  女子高生と共に異世界に召喚された宇田麗良は「瘴気に侵される大地を癒す聖女についてきた邪魔な人間」として召喚主から殺されそうになる。  逃げる途中で瀕死の重傷を負ったレイラを助けたのは無表情で冷酷無慈悲な魔王だった。  レイラは魔王から自分の方に聖女の力がそなわっていることを教えられる。  聖女の力を魔王に貸し、瘴気の穴を浄化することを条件に元の世界に戻してもらう約束を交わす。  魔王ははっきりと言わないが、瘴気の穴をあけてまわっているのは魔女で、魔王と何か関係があるようだった。  ある日、瘴気と激務で疲れのたまっている魔王を「聖女の癒しの力」と「アロママッサージ」で癒す。  魔王はレイラの「アロママッサージ」の気持ちよさを非常に気に入り、毎夜、催促するように。  魔王の部下には毎夜、ベッドで「聖女が魔王を気持ちよくさせている」という噂も広がっているようで……魔王のお気に入りになっていくレイラは、元の世界に帰れるのか?  アロママッサージが得意な異世界から来た聖女と、マッサージで気持ちよくなっていく魔王の「健全な」恋愛物語です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

Go to the Frontier(new)

鼓太朗
ファンタジー
「Go to the Frontier」改訂版 運命の渦に導かれて、さぁ行こう。 神秘の世界へ♪ 第一章~ アラベスク王国編 第三章~ ラプラドル島編

異世界でお金を使わないといけません。

りんご飴
ファンタジー
石川 舞華、22歳。  事故で人生を終えたマイカは、地球リスペクトな神様にスカウトされて、異世界で生きるように言われる。  異世界でのマイカの役割は、50年前の転生者が溜め込んだ埋蔵金を、ジャンジャン使うことだった。  高級品に一切興味はないのに、突然、有り余るお金を手にいれちゃったよ。  ありがた迷惑な『強運』で、何度も命の危険を乗り越えます。  右も左も分からない異世界で、家やら、訳あり奴隷やらをどんどん購入。  旅行に行ったり、貴族に接触しちゃったり、チートなアイテムを手に入れたりしながら、異世界の経済や流通に足を突っ込みます。  のんびりほのぼの、時々危険な異世界事情を、ブルジョア満載な生活で、何とか楽しく生きていきます。 お金は稼ぐより使いたい。人の金ならなおさらジャンジャン使いたい。そんな作者の願望が込められたお話です。 しばらくは 月、木 更新でいこうと思います。 小説家になろうさんにもお邪魔しています。

処理中です...