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2.ナルトを喰らいし者

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「へいお待ち! ブリティッシュミラクル一丁!」
「おー、待っとったぞい。ほほ……」

 私の名は田中=ゴンザレス=源三郎。
かつては世界を脅かす悪の組織相手に瀕死の重傷を負った魔法少女をかくまったりひと時の恋に落ちたりもしたしがないサラリーマンだが、ある日組織に目を付けられ誘拐され、気が付けばこの異世界に居た。
元々ラーメン屋になるという夢をかなえるべく脱サラするつもりだったが、都合がいいので一念発起し、今ではひとかどのラーメン屋台の親父として暮らしている。

 今、客として美味そうにラーメンを啜っているのは、常連のご老輩である。
去年までは年若い娘と一緒に来ていたのだが、最近では一人だけで来るようになった。
このご老輩は大体酒を頼み、ある程度酔いが回ってからラーメンを食べる。

「ふぅ……やはりこの豚骨味がたまらんのう……それに、なんと言ったか? チャースー?」
「チャーシュー」
「おうそうじゃそうじゃ! これが中々いい味を出していてなあ……豚骨味もたまらんし、このチャースーも」
「チャーシュー」
「そうじゃった……ふぅ、歳を取ると色々忘れてしまっていかん。ブリティッシュミラクルはまだかのう?」
「チャーシュー」
「ほほ、冗談じゃよ。それにしても……この、ぶよぶよした星型の奴、こいつはなんと言ったか……」
「チャー……ああいえ、ナルトですかね」

 一人になって寂しいのか、ご老輩は時々このようなジョークを口走るが、まだまだ正気である。
箸先で白と赤のぶよぶよを指しながら、不思議そうに笑っていた。

「ナルトか……いやはや、不思議な食感じゃ。以前は入っとらんかったな?」
「伸びない麺を作る途中で、なんとなくそれに使った『あるモノ』を別のものに混ぜてみたら……再現できちまいましてね」
「ほほう、という事は、これも『あちら』製の品なのか」
「そうなりやすね」
「ほー……大将、お前さんも中々のやり手じゃのう?」
「どうも」

 元々はビジネスマンなりの口の利き方もできるのだが、ラーメン屋の店主というなりきりスタイルの為、こんな口調になっている。
因みに異世界版ナルトの材料はスライムである。
チャーシューもスライムで作った。スライムは万能である。
もう全部スライムでいいんじゃないかなと思い始めている。

「しかしなんというか……この店でラーメンを食べていると、昔を思い出すのう……」
「はあ」

 ご老輩の昔語りが始まったので、適当に聞き流しながらお|銚子(ちょうし)を洗い始める。
異世界で生活していく中で知り合ったドワーフに依頼して作ってもらった特別品である。
ヒヒイロカネがどうとか言っていたが、よく解らない。

「ワシもこれで昔は美男子で通ったプレイボーイでなあ。若い頃は世話係の目を盗んで何度も城を抜け出し、街娘と恋に落ちたものよ……」
「そうですか」
「今は亡き妃もそうして出会った娘の一人で……いやあ、あの頃は毎日が楽しかったんじゃ。街娘を妃にするという事で、国中で大騒ぎになってのう!」
「そうでしたか」
「妃の忘れ形見の娘とも、こうしてラーメンを共に啜ったが、今ではもう会う事もままならぬ……『勇者になる!』とか言いながら姿を消して、もう何年になるか……方々で活躍の話は聞くが、ワシはもう心配で心配でたまらぬ!」
「チャーシュー」

 ご老輩は腹が満たされると大体このように意味の無い独り言を呟き泣き出すので適当に聞き流すに限る。
酔っ払いの相手は無視しても不味いし構いすぎてもいけないのだ。
その内勝手に満足して帰ってくれるので、適当に受け答えしていればいい。
因みに魔王城でその娘の顔を見ているのだが、本人から「内緒にしてください」と頼まれたので黙っている。

「うぅっ……ぐすっ……すまぬ、すまぬなあ。ワシとしたことが、弱気になってしもうた。効くのう、この酒は。ラーメンと合わさって、まるで幻覚でも見たように目の前が揺らいでおるわ……」

 どうやら今回ラーメンに使ったスライムは幻覚能力を持っていたらしい。
やはりスライムはダメだった。次からはドリアードの樹液を使う事にしよう。

「ああ、しかし、いい気分じゃ……はー。落ち着いたわい。馳走になったの。ほれ、受け取れ」
「毎度」

 ふらつきながらも丼をこちらに手渡し、金貨を一枚、渡してくる。

「はーっ、美味かった……余は幸せじゃー!」


 酔いどれ腹をさすり、幸せそうに去ってゆくご老輩。
そうしてその姿が見えなくなると共に、黒服を着た白髭の男が、部下を伴って現れる。

「――お疲れさまでした。こちら、出張代金と報酬にございます。どうぞお収めを」
「毎度」

 ご老輩から渡された金貨一枚でも十分元は取れるのだが、こうしてご老輩の部下から渡される金額のおかげで新たな食材の確保が容易になるので、ありがたくいただくことにしている。


※その後のご老輩

「ひっぐ……ぐすっ、ひ、酷いんじゃよ。ずっと姿を見せなかった娘が、急に手紙をよこしてきて……っ」
「はあ」
「なんて書いてあったと思う? なんて書いてあったと思う!? 『私達結婚します』って、魔王と二人の幸せそうな絵を送ってきおったんじゃ! 魔王じゃぞ!? ああもう、ワシ、どうしたらええんじゃ……」
「そうですなあ」
「義理の息子が……魔王か……人間世界、魔王軍と戦争の真っただ中なんじゃ……ワシはどうしたら……」
「チャーシュー」
「うぅっ……あんまりじゃと思わんか? ずっと姿を見せなかった娘が、急に手紙を送ってきて――」


本日の営業地点:どこかのお城
本日の主なお客:国王
本日の稼ぎ:大体20万ゴールド+旧時代の金貨1枚(50万ゴールド相当)
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