2 / 7
2.ナルトを喰らいし者
しおりを挟む「へいお待ち! ブリティッシュミラクル一丁!」
「おー、待っとったぞい。ほほ……」
私の名は田中=ゴンザレス=源三郎。
かつては世界を脅かす悪の組織相手に瀕死の重傷を負った魔法少女をかくまったりひと時の恋に落ちたりもしたしがないサラリーマンだが、ある日組織に目を付けられ誘拐され、気が付けばこの異世界に居た。
元々ラーメン屋になるという夢をかなえるべく脱サラするつもりだったが、都合がいいので一念発起し、今ではひとかどのラーメン屋台の親父として暮らしている。
今、客として美味そうにラーメンを啜っているのは、常連のご老輩である。
去年までは年若い娘と一緒に来ていたのだが、最近では一人だけで来るようになった。
このご老輩は大体酒を頼み、ある程度酔いが回ってからラーメンを食べる。
「ふぅ……やはりこの豚骨味がたまらんのう……それに、なんと言ったか? チャースー?」
「チャーシュー」
「おうそうじゃそうじゃ! これが中々いい味を出していてなあ……豚骨味もたまらんし、このチャースーも」
「チャーシュー」
「そうじゃった……ふぅ、歳を取ると色々忘れてしまっていかん。ブリティッシュミラクルはまだかのう?」
「チャーシュー」
「ほほ、冗談じゃよ。それにしても……この、ぶよぶよした星型の奴、こいつはなんと言ったか……」
「チャー……ああいえ、ナルトですかね」
一人になって寂しいのか、ご老輩は時々このようなジョークを口走るが、まだまだ正気である。
箸先で白と赤のぶよぶよを指しながら、不思議そうに笑っていた。
「ナルトか……いやはや、不思議な食感じゃ。以前は入っとらんかったな?」
「伸びない麺を作る途中で、なんとなくそれに使った『あるモノ』を別のものに混ぜてみたら……再現できちまいましてね」
「ほほう、という事は、これも『あちら』製の品なのか」
「そうなりやすね」
「ほー……大将、お前さんも中々のやり手じゃのう?」
「どうも」
元々はビジネスマンなりの口の利き方もできるのだが、ラーメン屋の店主というなりきりスタイルの為、こんな口調になっている。
因みに異世界版ナルトの材料はスライムである。
チャーシューもスライムで作った。スライムは万能である。
もう全部スライムでいいんじゃないかなと思い始めている。
「しかしなんというか……この店でラーメンを食べていると、昔を思い出すのう……」
「はあ」
ご老輩の昔語りが始まったので、適当に聞き流しながらお|銚子(ちょうし)を洗い始める。
異世界で生活していく中で知り合ったドワーフに依頼して作ってもらった特別品である。
ヒヒイロカネがどうとか言っていたが、よく解らない。
「ワシもこれで昔は美男子で通ったプレイボーイでなあ。若い頃は世話係の目を盗んで何度も城を抜け出し、街娘と恋に落ちたものよ……」
「そうですか」
「今は亡き妃もそうして出会った娘の一人で……いやあ、あの頃は毎日が楽しかったんじゃ。街娘を妃にするという事で、国中で大騒ぎになってのう!」
「そうでしたか」
「妃の忘れ形見の娘とも、こうしてラーメンを共に啜ったが、今ではもう会う事もままならぬ……『勇者になる!』とか言いながら姿を消して、もう何年になるか……方々で活躍の話は聞くが、ワシはもう心配で心配でたまらぬ!」
「チャーシュー」
ご老輩は腹が満たされると大体このように意味の無い独り言を呟き泣き出すので適当に聞き流すに限る。
酔っ払いの相手は無視しても不味いし構いすぎてもいけないのだ。
その内勝手に満足して帰ってくれるので、適当に受け答えしていればいい。
因みに魔王城でその娘の顔を見ているのだが、本人から「内緒にしてください」と頼まれたので黙っている。
「うぅっ……ぐすっ……すまぬ、すまぬなあ。ワシとしたことが、弱気になってしもうた。効くのう、この酒は。ラーメンと合わさって、まるで幻覚でも見たように目の前が揺らいでおるわ……」
どうやら今回ラーメンに使ったスライムは幻覚能力を持っていたらしい。
やはりスライムはダメだった。次からはドリアードの樹液を使う事にしよう。
「ああ、しかし、いい気分じゃ……はー。落ち着いたわい。馳走になったの。ほれ、受け取れ」
「毎度」
ふらつきながらも丼をこちらに手渡し、金貨を一枚、渡してくる。
「はーっ、美味かった……余は幸せじゃー!」
酔いどれ腹をさすり、幸せそうに去ってゆくご老輩。
そうしてその姿が見えなくなると共に、黒服を着た白髭の男が、部下を伴って現れる。
「――お疲れさまでした。こちら、出張代金と報酬にございます。どうぞお収めを」
「毎度」
ご老輩から渡された金貨一枚でも十分元は取れるのだが、こうしてご老輩の部下から渡される金額のおかげで新たな食材の確保が容易になるので、ありがたくいただくことにしている。
※その後のご老輩
「ひっぐ……ぐすっ、ひ、酷いんじゃよ。ずっと姿を見せなかった娘が、急に手紙をよこしてきて……っ」
「はあ」
「なんて書いてあったと思う? なんて書いてあったと思う!? 『私達結婚します』って、魔王と二人の幸せそうな絵を送ってきおったんじゃ! 魔王じゃぞ!? ああもう、ワシ、どうしたらええんじゃ……」
「そうですなあ」
「義理の息子が……魔王か……人間世界、魔王軍と戦争の真っただ中なんじゃ……ワシはどうしたら……」
「チャーシュー」
「うぅっ……あんまりじゃと思わんか? ずっと姿を見せなかった娘が、急に手紙を送ってきて――」
本日の営業地点:どこかのお城
本日の主なお客:国王
本日の稼ぎ:大体20万ゴールド+旧時代の金貨1枚(50万ゴールド相当)
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
アニメ監督を追い出されたおっさんが異世界でラーメン屋台をはじめるようです
Giovenassi
ファンタジー
元いた世界のアニメ業界にあきれ果て異世界に転移したおっさん、新天地でラーメン屋として一念発起する
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
きっとこの世はニャンだふる♪
Ete
ファンタジー
『そして兄は猫になる』の続編!
今回の物語はフィクションで、クロになった「兄」の視点で展開していきますよ。
さあ!クロ(兄か?)と一緒に、旅に出かけましょう!
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
異世界ラーメン
さいとう みさき
ファンタジー
その噂は酒場でささやかれていた。
迷宮の奥深くに、森の奥深くに、そして遺跡の奥深くにその屋台店はあると言う。
異世界人がこの世界に召喚され、何故かそんな辺鄙な所で屋台店を開いていると言う。
しかし、その屋台店に数々の冒険者は救われ、そしてそこで食べた「らーめん」なる摩訶不思議なシチューに長細い何かが入った食べ物に魅了される。
「もう一度あの味を!」
そう言って冒険者たちはまたその屋台店を探して冒険に出るのだった。
拝啓、無人島でスローライフはじめました
うみ
ファンタジー
病弱な青年ビャクヤは点滴を受けに病院にいたはず……だった。
突然、砂浜に転移した彼は混乱するものの、自分が健康体になっていることが分かる。
ここは絶海の孤島で、小屋と井戸があったが他には三冊の本と竹竿、寝そべるカピバラしかいなかった。
喰うに困らぬ採集と釣りの特性、ささやかな道具が手に入るデイリーガチャ、ちょっとしたものが自作できるクラフトの力を使い島で生活をしていくビャクヤ。
強烈なチートもなく、たった一人であるが、ビャクヤは無人島生活を満喫していた。
そんな折、釣りをしていると貝殻に紐を通した人工物を発見する。
自分だけじゃなく、他にも人間がいるかもしれない!
と喜んだ彼だったが、貝殻は人魚のブラジャーだった。
地味ながらも着々と島での生活を整えていくのんびりとした物語。実は島に秘密があり――。
※ざまあ展開、ストレス展開はありません。
※全部で31話と短めで完結いたします。完結まで書けておりますので完結保障です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる