俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮

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第十八章 VS傀儡君主

第218話 チュートリアル:舐めてる

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「……」

 暗い。

 暗い世界。

 しかし暗黒と言う程の暗さではなく、常人が夜目を利かせば何となく見える程度の暗さ。

 そんな中でも、被るフード付近に金色の玉が浮いていた。

(大丈夫か萌くん)

「ああ、大丈夫だ」

 金色から発せられたエルドラドの声。これは以前マーメイドレイドの時に津波に飲まれた時のやつだ。まるで脳に直接語ってくる感覚。

(そいつの位置情報だと俺たちが見ていたデカ物の中だ。行きつく先は同じだったんだ、俺も連れて行って欲しかったよ)

「無茶言うな。俺は気が気じゃないんだぞ」

 ヘラヘラと笑う息遣いなエルドラドに対し、俺は苛立ちを覚えるも声を小さくしていた。

 フードの奥でファントム・アイを使用し辺りを見渡すと、ここは広い広い広場。しかもかなり高い壁に覆われ、上には人形がずらりと並んでいる。

(俺もぼちぼ―むか―から――)

「? エルドラド」

(様―がおか――い――気を――けろ――アーウ――ング――――)

 段々と光が弱くなった黄金の玉。脳に語り掛けるエルドラドの声が途切れ途切れになり、玉が消滅するとエルドラドの声も聞こえなくなった。明らかに妨害を受けている。

(嫌な予感……)

 そう思っていると。

 ――ッパ! ッパパ!!

 予感的中。眩しすぎる幾つものスポットライトが俺に向けられ、複数の薄い影が生まれた。一気に明るくなった世界と、ワーワーと騒音どころじゃない大きな歓声が俺を包む。攻略者トーナメントを思い出したのはここだけの話。

 高い壁の上には満席御礼で賑わうマリオネットの観客が。口をカクカクと動かしてステレオの歓声を声にしている。その無機質な目が見下すのは、広すぎる場内の中にポツンと立つ俺を見ていた。

 そして吊るされた四つの中央大画面にはこのダンジョンの支配人であるカルーディの姿が映し出された。

《レディース&ジェントルメェェェェン!!》

 小粋なハットを手に取りお辞儀。

《ボクの名前はカルーディ!! 皆様、ご機嫌麗しゅうございます!!》

 ロッドをクルクルと回しながらハットを被り直す。
 
《はてさてはてさて。御来客の皆様方、お手元にはエール! そしてコーンの用意は万端でしょうか! 熱が入りドリンクを握り潰さないでくださいね!!》

 ワーワーとマリオネットたちが騒ぐ中に、コップと大きなカップを持った人形たちがチラホラ見えている。

《今日のビッグイベントはそう! 儚い願いを粉砕する様ないつもとは一味も二味も違う格別!!》

 ロッドを俺に向けた途端、色味を帯びたスポットライトのシャワーが俺を包む。

幻霊君主ファントムルーラーのオバケくんが参戦!!》

「……」

 カルーディの気配を探るもここには居ない。あのディスプレイに写るカルーディは本当に録画されたものなのだろう。まぁ録画というかそれっぽい力なんだろうけど……。

《さてぇ、小さくなって震えている彼の相手は誰なのかぁ……。こいつらだあああああああああ!!》

 瞬間――側面の巨大な檻が開門。ドシンドシンと耳にうるさい重い何かが歩いて来る。しかもそれは一つではなく、二つ三つ、複数。

 ――ガシィ!!

 檻を握って姿を現わしたのはマッシブな巨大人形。紅い顔が特徴で不気味に笑っている。

「ギギィイイ●●イ!!」

 その姿を見た俺。視界のメッセージ画面には『傀儡の使徒ギガンテスドール』とそいつを指していた。

 逆サイドからは巨体に似付かわしくない速度で現れた。それは当然だろうさ。奴は馬なんだから。

「ヒヒ●●●●!!」

『傀儡の使徒キメラドール』

 牛の髑髏みたいな顔が俺を睨んでいる。

 ギガンテスドールの後ろからはライオンの顔が現れた。

「ガ●オオ●●!!」

『傀儡の使徒レオドール』

 武器は腰まである大きな剣だろう。それを振り回して暴れてくるのは明白だ。

 そして最後に洗われたのは黒く頑丈そうな無骨なボディを持つ巨人。

「……」

『傀儡の使徒ジャイアントドール』

 胴体と同じ大きさの腕を振り回し、無機質な目が俺を射貫く。

 《さあ登場しました我らがスター!! 全長十八メートル強の巨体を見上げるオバケくん! 臆せずヤル気満々だと言わんばかりですがしかし! 前君主とは違い実力が伴っていない事実!! 果たして、彼の運命や如何に!!》

 テンションの上がったカルーディが会場を沸かせてくれる。悔しいけど映像の中で体全体を使って表現する演技は支配人として流石だと思う。

 性格とか態度とかあとイケメンなのが腹立つけど、エンターテイナーとしては認めざるを得ない。

 そして俺を睨んでくる四体のデカブツ。髑髏の顔、ライオンの顔、無表情の顔、そして一番腹立つ赤い顔。みんな小さな俺に殺意を向けている。

《さあ間も無くSHOWの始まりです!!》

 ――――ワアアアアアアアアア!!!!

 マリオネットのオーディエンスたちがこれでもかと沸く。

《スリー!!》

 拳が握られる。

《トゥー!!》

 鞘から剣が抜けられ。

《ワン!!》

 不敵に笑い続ける。

 そして。

《スタアアアアトオオオ!!!!》

 ――――瞬間。

「ヒヒィイイイイイ!!!!」

 髑髏の顔から光弾が発射。

 無防備な俺はまともに受け一瞬して爆炎の中に消えた。

 それだけじゃない。

「……」

 両こぶしを合わせた瞬間、額から極太ビームが発射され爆炎の中に直撃。光弾の爆炎と共にビームの余波が迸った。

「ガオオオオオイオオ!!!!」

 その爆風を穿つように投擲された大剣が突き刺さり。

「キヒイイイイイイイイ!!!!」

 仲間の攻撃などなんのそのとキチガイフェイスが突進してきた。

 爆ぜに爆ぜたその場所に更なる一撃が加わり、天高く爆風が聳《そび》え立った。

《ああっと!! 特別性の個体たちの攻撃により、幻霊のオバケくんは一溜りもありません!! これは心配だあああああああああ!!》

 巨大ディスプレイに写るのは心配を装ったカルーディの顔面アップ。口元の右側が少しだけ吊り上げられ楽しさを隠しきれていない。

 そして徐々に爆風が収まり姿を現わしたのは他でもない。

 ――霧纏う巨椀が拳を見せ、ロケットの様に発射。

 体積と同じ大きさの『ファントム・アーム』がジャイアントドールに着弾し、重い一撃が鳴り響きドールの顔面を破壊。硬い装甲の破片が散り、霧も細かく散る。

「ッッッ~~~!?!?!?」

 それだけで止まらず頭が潰れようが関係ないと、拳が脳天を砕きながら胴体にまで迫っていた。それはもう別れたはずの彼氏みたいに粘着質。

「――ギギ!?」

 体をビクつかせるギガンテスドール。

 瞬間、体の内側からバリバリと黒い棘が貫いた。

「ギギギギイイイイイイ!?!?!?!?」

 赤い自慢の顔諸共『ファントム・ニードル』で破壊。マッシブなドールの体は無残にも破裂した。

 爆風の煙から霧を纏うエネルギー弾がドンと射出。

 そのままキメラドールの髑髏の顔面を捕らえ――

「――ヒ――――」

 小さな断末摩を残して顔が消滅。しかし顔面を消滅させた『ファントム・ブラスター』は消えることなく一瞬静止し、今度は首、脚、胴体と踊る様にドールに穴を開けさせた。

 そして。

幻霊斬衝ファントムインパクト――」

 飛ぶ黒色の斬撃がレオドールの首を落とす。

「――――」

 声を出す暇すらなく落ちた首に向かう様にゆっくりと大きな胴体が倒れた。

「こんなもんか」

 傀儡の使徒であるキメラドール、ギガンテスドール、レオドール、ジャイアントドール。

 すべて粉砕。

 気品あるコートをはためかせる俺は一切の無傷。あいつらの攻撃はすべて

《……バカな》

 ディスプレイには信じられないとわなわなするカルーディの姿が。

「確かにこいつらの攻撃は相応の力が込められた一級品だろうな」

《……》

 そう。余裕綽々な態度だったのはドールたちにある程度の力が込められていたからだ。しかしそれで倒せたのは以前の俺、『漣人魚マーメイド哀唱サリーク』で対峙した時の俺だ。

 ファントムルーラーとしての力は日々培ってるんだよ。

「お前、俺のこと舐めすぎだろ」

 終始舐めくさった態度にいい加減俺も我慢の限界だ。

「こんな茶番、すべてぶっ壊して――」

 瞬間、俺はひやりと悪寒を感じ言葉を止めた。

《すまないオバケくん。君の頑張りにボクも応えるとするよ》

 ディスプレイに写る顔は無表情。

 そして、この広場の奥にある牢屋が開き、黄金のライオンが顔を覗かせた。

「……」

 どうやらこっからがショーの本番らしい。
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