上 下
212 / 218
第十八章 VS傀儡君主

第212話 チュートリアル:巨大人形、粉砕

しおりを挟む
 世界の交差点――タイムズスクエア。ニューヨークらしい光景と言えば、何十にも及ぶLEDディスプレイに無数の文字、映像が映し出される光景に加え、世界の交差点の名に相応しい人の往来だろう。

 しかし今、そんな眠らない街には火災が起き、建物からは黒煙が昇り、ビルが砕け瓦解したコンクリートが辺り一面に広がっていた。

「ファック!!」

「とんでもねえ強さだ!!」

「避けろ避けろ!!」

 ――ッドガ!!

 黄色のタクシーが後ろ足で蹴られ電光掲示板に激突。そこからスパークが発生し、煙を上げたタクシーがボムッ!! と爆発した。

 牛の頭蓋を思わせる顔。その黒く開いた眼球部分が発光。そして。

 ――ッビュン! ――ッドガ!!

 高威力により首を曲げて発射された光弾。それは高層ビルの中層に着弾し破裂。誰しもが高層ビルの崩壊を思考するも、奇跡的に骨格は無事であったのか倒壊はしなかった。

 しかし。

 ――ッビュン! ――ッビュンビュン!!

 破壊力のある光弾が幾度も発射され、ニューヨークの街並みが破壊される。

「ヒ●●ギイイィイ!!」

 球関節の集合体である傀儡の使徒――キメラドール。

 レオドールと同じく十八メートル強の体躯で暴れ回り、威嚇するように前脚を上げていななく。

「ッへへ!!」

 体を形成する球にも人形の手足が付いておりゾワゾワと蠢く。その姿を見たグラサンをかけた屈強な攻略者の一人が自前の武器を引っ提げた。
 それは複数の砲身を環状にまとめた重火器だった。

「HAHAHA!!! これでも喰らいな!」
 
 モーターが作動し環状の砲身が徐々に回転。

「Fuck!!」

 ――ッドゥゥバガガガガガ!!

「●●!!」

 ゲームにもお馴染みであるミニガン。しかしただのミニガンではなく、背負うタンクに内臓された攻略者の魔力が弾丸となり威力も申し分ない。その圧倒的連射力により体中を撃たれたキメラドールは馬の様な甲高い悲鳴をあげて嫌がった。

「おお! 押してるぞ!!」

「やっぱり銃が最強だ!!」

 軽モンスター撃退用携帯式の武器は、その国の法に乗っ取り様々。日本ではサスマタを採用されているが、銃社会のアメリカでは様々な携帯用武器を選択でき、無論拳銃も用いられた。

 今回この攻略者が持ち出したミニガンは彼が改造したモンスター撃退用武器だった。

「Fuck On!!」

 砲身が赤くなるも撃ち続けるミニガン。トリガーを押す指が幸せなトリガーハッピー。

「いけいけ!!」

「俺たちも続けえええ!!」

 嫌がるキメラドールを見た攻略者たちが一斉に中遠距離の攻撃を開始。たちまち爆風の中に消えた。

 様々な爆裂音が鳴り響き、今も尚ミニガンは止めどなく発射された。

 その時だった。

「ブル●●オオオ!!」

 煙の後ろから牛の頭蓋が現れすぐに全体像が現れた。そして黒い眼球がミニガンはを撃つ攻略者に向けられると、うっとおしいと前脚を大きく上げられた。

「――オーマイガー」

 グラサンに前脚の影を落とされる。

 ――ッズン!!

 グラサン男。ミンチより酷くなる。

 ――ことは無かった。

「What!?」

 前脚により砕かれた場所より少し離れた所で彼は無事だった。

「間に合ってよかった!」

「あ、あなたは!?」

 破壊しつくされたタイムズスクエアの暗がりに、ひときは輝くアポロンの様な眩しい笑顔。

「ッハハ!」

 アメリカ最強サークル――エクストラス。そのサークル長であるエッジ・エクストラス。登場。

「それ面白そう! ちょっと借りるね!」

「え、ちょ!?」

 グラサンが背負っていたタンクと担いだミニガンを拝借。同じようにタンクを背負い、同じようにミニガンを構えた。

 そして全身にキラキラと光る粒子を纏いフワッと地上から少し浮遊。

「ロロ●●」

 睨んでくるキメラドールに銃口を向けて、いざ。

「ふぁ~っく♪」

 ――ッズド!!

 ミニガンの環状の砲身が回転し弾丸をばら撒いた。

「――●●! ヒヒ●!!」

 再びチクチクと撃たれるキメラドール。鬱陶しいと体をくねらせるも、今度は執拗に顔面が狙われる始末。

「アッハッハッハ!!」

 性格の悪さが滲み出たエッジの狙いに、キメラドールは甲高い声を上げて激怒した。

 ――ッズン!!

 脚で小粒をばら撒くエッジを潰そうにも、ヒョイと躱されまたもや執拗に顔面を狙われた。

「こっちだよ!」

「ブル●●!!」

 徐々に離れながら撃ち続け、あまりにもウザい戦法にキメラドールは必死に踏み潰そうとした。しかしまたも避けて、避けて、避けられ続け、遂には後退しながら撃ち続けるエッジに対し人形の体でできた脚で走り出すのだった。

(こんな楽しいイベントにエルフェルトもノブヒコもダンジョン攻略中……。パパラッチから逃げるのにダンジョンは最適だから仕方ないかぁ)

 走りながらも顔面を撃たれ、光を集束しエッジに向けて光弾を発射。ミニガンをドールに向け、後ろ向きで浮きながら後退するエッジは光弾を難なく回避。瓦礫だろうが車だろうが障害物は何のその。一定の浮遊で滑るように移動した。

 ドカンドカンと街中を破壊しながら辿り着いたのは、大都市にあるオアシス『セントラルパーク』

「あ、弾丸が切れたか。ちょうどいいや」

 緑豊かなこの場所がエッジの目的地。ここでなら暴れても被害は最小限にできると踏み、文字通りキメラドールを誘導したのだった。

「よっと」

 背負ったタンクとミニガンを乱暴に捨て去ると、エッジは笑顔でキメラドールを見た。

「●●●●……」

「おっと! そんなに怒っちゃってさ。もうミニガンは無いよ」

 馬鹿にするようにそう言って纏った粒子を両手に集約させた。

 そして形成されたのは二振りの振動する棒――

 ――ブオン!

「光線剣だけど、ライトセーバーって言ったら怒られるかな?」

「ヒヒーン●●●●!!」

 右手のライトセーバーをキメラドールに向けたのだった。


 場所は変わって日本・渋谷。スクランブル交差点。

 ニューヨークと同じく建物が一部崩壊し火災に黒煙。数あるディスプレイもスパークして破壊されていた。

『傀儡の使徒ジャイアントドール』

 学園島ビーチと同じ種のモンスターである。しかしビーチの個体とは違う要因があった。それは……。

 ――ブオン!!

「腕で掃いに来るぞ!!」

 ――ッズン!!

「足元に近寄るな!!」

 腕を振るえば建物が破壊。脚を踏みしめばコンクリートを陥没。地上に仁王立ちし、思う存分暴れていた。

 だがしかし、スクランブル交差点で暴れさせ、渋谷の被害をこの辺りだけに留まらせたのは選りすぐりの実力を持つ攻略者たち、そして国連部隊、双方力を合わせた即興のヒットアンドアウェイ連携によるものだった。

 生半可な攻撃ではびくともしないかなり頑丈な装甲。しかし同じ個所に攻撃を当て続けた結果、亀裂といった目に見えるダメージを負わせることに成功。

「攻撃が外れてもいい!! 一発だけ放って戻れ!!」

「波状攻撃を止めるな!! 正念場だぞ!!」

 攻略者たちの魔法、呪術、法術等々に加え、国連の重火器攻撃。中遠距離による様々な攻撃で確実にダメージを与えていた。

「●●●●●●!!!!」

 そんな中、ジャイアントドールの額に光が集まっていた。

「マズい!! あれが来るぞ!!」

 ――ビーム攻撃。

 ビーチの個体も撃った攻撃だが、幸い山が削れただけで被害は抑えられていた。しかし渋谷の街中で既に一発放たれ、ビルが破壊、蒸発し、高所から見ると代々木公園が顔を覗かせる程の被害だった。

 警戒していたジャイアントドール最大の攻撃。絶対に撃たせる訳にはいかない。

「攻撃しろおおおおお!!」

「うおおおおおおお!!」

 額に向けてあらゆる攻撃が集中。

 しかし煙から姿を現わしたのは多少ダメージを負った顔だった。

 今度向けられるのは建物ではなく、この場にいる攻略者たち。

「クソ!!」

「ダメなのか!!」

 攻略者、国連部隊。チャージされるビームに絶望する。

 ――――ッドバン!!

「――」

 突然、横からの攻撃を額に受けたジャイアントドールがバランスを崩した。

 ――何が起こった。

 その答えは、被害が比較的少なかった閑静な場所。そこの一番高い建物の屋上に彼はいた。

「♰――♰」

 漆黒と暗黒の魔術師――ダーク=ノワールこと戸島司。

 背後に魔術陣を展開し、遠くのジャイアントドールに向けて幾つもの魔術陣を一列に配置。砲身を作り、ありったけの魔力を注ぎ込み超遠距離のアルテミット・スレイズを撃ったのだった。

 しかし。

「♰まだ届かないか!!♰」

 ダメージを負うも依然としてチャージが続く。

 ――キュピーン☆

 彼女の目が光る。

「伸びろおおおおおおお!!」

 長い一直線の道路に沿って如意棒がぐんぐんと伸び先端が大きくなる。

 彼女――朝比奈瀬那は伸びる如意棒を担ぐように持つ。

「ぐぬぬぬう!! 仙雲鎮低神珍鉄せんうんちんていじんちんてつ!!」

 そして体を捻り――

「――如意金箍棒おおおおおおおお!!」

 ――ドワオ!!

 巨大化した如意棒が勢いよくしなる。

 ――ッガイン!!

 見事額に直撃する。

 大きくバランスを崩したモンスター。

 しかし。

「●●●!!」

「まだ壊れないの!?」

 特大級な攻撃に大きな亀裂が入るも砕けた様子は無くチャージが続けられた。

 ――――っパ!

 不意にジャイアントドールに影が差す。

 この場の全員が空を見上げた。

 そして見た。ビルから飛び降りた人影を。

「――うおおおおおおおおおお!!!!」

 半透明な機械の腕を纏い、拳を突き出した。

 無防備に晒される額。

 誰しもが直撃を確信し見守る中、それは起こった。

「――――ッ!!」

 ――ッガイン!!

「ッな!?」

 今まで明確な防御していなかったジャイアントドールが、額を守る様に腕をクロスして頭をガードしたのだ。

 半透明の拳が強固な腕にぶつかり合い、火花と半透明の欠片がジリジリと発生。

 あの硬すぎる腕に適うはずがない。半透明の拳が威力を消費し薄くなっていく。

 しかし諦めない。

「集いし力が拳に宿り――」

 彼は諦めない!

「敵を砕く意思と化す――」

 この男は諦めない!!

「光差す道となれ!!」

 不動優星は諦めない!!!!

「打ち砕け!!」

 半透明の機械の拳に力が戻り、形作っていた装甲が新たに加わり巨大化。

「スターダスト・フィストオオオオオオオオオ!!!!」

 鋼鉄の腕が砕け、星屑のきらめきが額を粉砕した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

序盤で殺される悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう〜主人公がキレてるけど気にしません

そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役貴族に転生した俺。 貴族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な公爵家の令息。 序盤で王国から追放されてしまうざまぁ対象。 だがどうやら前世でプレイしていたスキルが引き継がれているようで、最強な件。 そんで王国の為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインは渡さないぞ!?」 「俺は別に構わないぞ? 王国の為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「すまないが、俺には勝てないぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング40位入り。1300スター、3800フォロワーを達成!

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

最弱の職業【弱体術師】となった俺は弱いと言う理由でクラスメイトに裏切られ大多数から笑われてしまったのでこの力を使いクラスメイトを見返します!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
俺は高坂和希。 普通の高校生だ。 ある日ひょんなことから異世界に繋がるゲートが出来て俺はその中に巻き込まれてしまった。 そこで覚醒し得た職業がなんと【弱体術師】とかいう雑魚職だった。 それを見ていた当たり職業を引いた連中にボコボコにされた俺はダンジョンに置いていかれてしまう。 クラスメイト達も全員その当たり職業を引いた連中について行ってしまったので俺は1人で出口を探索するしかなくなった。 しかもその最中にゴブリンに襲われてしまい足を滑らせて地下の奥深くへと落ちてしまうのだった。

処理中です...