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第十八章 VS傀儡君主

第210話 チュートリアル:後輩ラブコメ

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 ――ッギュイン!!

 ――ッドババババババ!!!!

 放たれた極太のビームが砂浜を溶かし、コンクリートを崩壊させ、山の天辺を消滅、空を切り雲を割った。

 地響きが唸り地形が変わる。挨拶と言わんばかりに傀儡の使徒ジャイアントドールが放ったビーム攻撃に、その場に居合わせた人間たちに絶望を与えた。

「たったの一撃で……」

「無理だろ……こんなの相手なんて……」

 ダンジョンで様々なモンスターと戦った攻略者だからこそ、集合合体したこのジャイアントドールの圧倒的攻撃力と異常さに慄き、後ずさるのも仕方がなかった。

 視界の端には自分と同じく後ずさる者。悲鳴にも近い怯えの声。それを肌で感じているが故に、たった一体の巨大モンスターがより大きく、越えられない壁に見えてしまった。

 ――ッザバン!! ――ッザバン!!

 重量感を思わせる海の飛沫。巨体相応のスピード、ゆっくりだが黒い巨体が沖から歩いて来る。

「ふぁ、ファイアボール!!」

「エレキボルト!!」

「エアカッター!!」

 ――ッドド!!

 ジャイアントドールは海にいる故に近接攻撃は当然不可能。遠距離攻撃が可能な術師や弓を携えた攻略者が一斉に攻撃するも、まるで効いていないと様々な攻撃が合わさった煙から姿を現わすジャイアントドールの歩みは止まらない。

 細く線を残して消えた額からのビーム攻撃。それがいつまた発射されるか分からず、直撃すればひとたまりもない状況に焦りを額の汗として現した。

 しかし怖気づいてしまう攻略者たちを他所に、遠距離攻撃にびくともしない使徒――ジャイアントドールに果敢に立ち向かう一団が居た。

「発射よーい!!」

 電流がバチバチと迸る。

 そして今こそ。

 全員の心を。

 一つに。

 放て!!

「「「サスマタ!!!」」」

「「「コレダアアアアアアアアアア!!!!!!」」」

 ――ドワオッッ!!

 正式名称:エレキテル・ショックウェーブ・ジェネレイティング・ヴォルテージ。

 極太ビーム相手には極太ビーム。海面を蒸発させながらジャイアントドールに着弾。図体を覆いきれないビームが脇ち肩から迸り、明らかにバランスを崩し、腕を前にして嫌がる素振りをするジャイアントドール。

「おおお!!」

「き、効いてるぞ!!」

 思わずガッツポーズする攻略者。

「「「はああああああああ!!!!」」」

 声を発し気合いと根性でビームを放ち続ける本村まこと率いる免許持ち。

 勇気と無謀は違う。それは攻略者たちの意見だが、実戦経験が今日初めての彼彼女たには関係のない事。

「「「うおおおおおおおお!!!!」」」

 徐々にだが少しずつ後退する使徒に明らかに有効打だと歓喜した。このまま押し切れるか。

 しかし。

 ――ッバン!!

「うお!?」

 ――ッバン! バン!

「きゃ!?」

 群れるモンスター相手に何度も何度もサスマタコレダーを使用した結果、サスマタ自体が限界を迎え一つ、また一つと小さく爆発し煙を上げた。したがい押していたビームも弱くなり線を残して消滅。攻撃が納まったと体を焦がしたジャイアントドールがこれ見よがしに進軍してきた。

「ああもう!! こんな時に壊れるなんて……!!」

「まこと姉ちゃんもみなさんも避難してください!!」

「進太郎……」

 悲しきかな。いくら免許持ちとは言え携帯を許されたサスマタは一つ。それが壊れたとなると戦力として期待すらできずむしろ避難させる対象となる。

「悔しいけど、足手まといになるのはごめんだわ」

「足手まといなんて……」

「いいの進太郎。私もみんなと一緒に非難するから」

 足手まといは嫌だ。だから素直に非難する。勿体を付け無意味に威張るよりも潔く去る。

 進太郎はまことを思いそう促したが、本人が一番引き際を分っていた。

 そして。

「――んん」

「――!?」

 去り際に進太郎の唇が奪われた。

「――男見せろなんて言わない。無茶するななんて言わない。……絶対帰ってきて」

「まこと姉ちゃん……」

 真っ直ぐ瞳を見つめてくるまこと。いつもの様に姉御肌を見せ気丈に振舞うも、その眼には涙を浮かべていた。

 初めて見る彼女の涙。

 俺は想われているんだと、進太郎は嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。

「大丈夫。俺は絶対にまこと姉ちゃんのもとに帰るよ。勝利の報告をしにね」

「ふふ。わかった。じゃあ、待ってるからね!」

「うん……」

 非難する人に紛れて想い人が去っていく。

 ――絶対帰って来て。

(俺は生きて帰る。絶対に……!!)

 覚悟完了した後押しされた言葉に、ガントレットの手を握りこむ進太郎。背を向けて、ジャイアントドールを見た。

「彼女さんですか?」

「うお!? 氷室くん!?」

 一度は共に群れるモンスターと戦い、しだいにはぐれた二年最強の男――氷室雹がいつの間にか進太郎の隣に居た。

 突然現れた氷室に驚く進太郎だが、氷室の周りには他にも。

「先輩って真面目そうなのに彼女がいるのニャー」

「まぁ不思議ではないかな」

「れ、恋愛は自由だし……」

 氷室と同じく攻略者トーナメントに出場した面々。

 スキル・オーバーソウルを持つ女子――加納順子。

 槍を主体にしたオーソドックスな戦闘スタイルに定評のある――佐藤太郎。

 暗黒と漆黒の魔導士と双璧を成す魔術師――東美玖。

 優秀な成績を残した二年のピカ一たちが氷室と同じ水着姿で登場。

 そして。

「月野くんも隅に置けないわね」

「あんたは、吉明音!?」

「ふん!」

 進太郎と同じ三年生であり、トーナメント予選で瀬那と共に相打ちになった女子、吉明音も水着姿で登場した。

「……」

 二年生組に混じり三年の吉が混じっている。何故だと不思議を顔に出てたのか、それを察した吉が戸惑った。

「ひょ、雹とは家が近くの幼馴染なの! 一応年上だしみんなの引率って感じ!」

「そ、そうか」

「明音とは家族ぐるみの付き合いなんです。小さい頃からホントの姉の様に慕ってます」

「そうそう! そうなの!」

 氷室のクールなイケメンボイスで説明された進太郎。得意げに威張る吉を不思議に思うと、加納と東、つまりは二年の女子がぐぬぬと悔しそうな顔をしているのを見た。そして進太郎は思った。

(……これはアレか。萌で言うところのハーレムメンバーと言うものか)

 クール系イケメン主人公の氷室に加え親友ポジションの佐藤、そしてあざとい妹系ヒロインの加納にメガネ系ヒロインの東。姉ポジヒロインの吉と言ったところ。

 進太郎の予想は的を射ていた。

 しかし悲しきかな。進太郎は吉を憐れんだ。

「でも明音さんっておっぱい無いから包容力が無いニャー」

「そ、そうです!」

「っぐ!?」

 そう。二年女子の攻撃。吉は胸を張って威張ったが、張る胸が無かった。妹系猫女子の加納ですら実っているのにこの始末。

「雹はおっぱい大きい方が好きニャー?」

「いや、別に大きさは……」

「無いよりあった方がいいですよね!」

「えーと……」

「キー!!」

(なんなんだこの空気……)

 すぐ側に使徒であるジャイアントドールが迫っているにも関わらず、この場の空気は完全にラブコメ。おもわず白目を向いた。

「雹って毎日こんな感じなんですよ」

「佐藤くんも苦労してるんだな」

 不意に声をかけてきた親友ポジの佐藤。困った様な顔をする佐藤に、進太郎は労いの言葉を送った。

 そんな空気を感じていても、現実は変わらず。

「――おいどんどん近づいて来るぞ!!」

 悲鳴にも似た攻略者の叫び。進太郎と雹たちもジャイアントドールを見た。

「センパイ。このビーチの中で最大の攻撃力を誇るのはセンパイの涅槃装甲《ニルヴァーナアーマー》だと思ってます」

 横目で氷室を見た。

「だから俺があいつの動きを封じるので、ひたすら攻撃してもらっていいですか」

「そもそも俺は殴る蹴るしかできない。君の提案は飲むとして、どうやってあの巨体の動きを封じる?」

 そう攻略者たちの遠距離攻撃に加え、バスターコレダーでも少し押す程度。生半可な付け焼き刃ではどうにもならない。

 そんな事を思っていると、不意に。

「――アイスニードル」

 空中に氷の棘を生成。それがジャイアントドールに向かう、のではなく、海水に直撃。

 ――ッパリィ!!

 海面が広く広く凍った。

氷靴グラスヒール

 凍った海水に氷の靴でトンと叩くと、バリバリと氷塊が隆起するように生成。

「――!?!?」

 瞬く間にジャイアントドールの腰回りまで氷漬けにした。

「――!! ――!!??」

 忙しなく上半身を動かして進もうとするも、海水に浸る下半身が完全に凍っているのか、その場から微動だにできないジャイアントドール。
 氷塊を破壊するも次から次へと隆起。止まらない。

「おおおお!!」

「凍ったぞ!!」

 周りの攻略者たちは歓喜。

「センパイ。これ維持するのに集中するんで、後はまかせても?」

 後輩のクールな視線が進太郎を見た。

「――任せとけ」

 四肢のブースターを轟々と噴かし、拳を握るのだった。
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