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第十八章 VS傀儡君主

第208話 チュートリアル:超電磁

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「ぐにょ」

「……」

「カラ」

 リズムよくステップを踏む使徒――ハンプティダンプティ。

 真顔を絶やさない使徒――グリーンエッグ。

 手の指を忙しなく動かして進む使徒――レッグハンドール。

 暑い夏日の今日。コンクリートジャングルである日本都市。靴を履いている人と違い素足の彼ら。太陽燦々と降る注ぎ、実は熱すぎるコンクリートによって足底からのスリップダメージを受けていた。

 しかしそんな事は何のその。ハンプティダンプティたちは意気揚々と主であるカルーディの命令に従い、人々を攫う方向性から一転、殺戮を行使しようとした。

「ぐにょ」

 突然、ハンプティダンプティの一体が横転しながらもゴロンと座った。

「……」

「カラ」

 それを感じた両サイドのグリーンエッグとレッグハンドール。おもわず何事かと近寄った。

「ぐにょぉ」

 渋い表情を見せるハンプティダンプティ。両足の底を見て見ると、焦げているわけではなく、ただれたように溶けていた。

 ――なんと痛々しい。

「……」ッス

 無表情ながらもグリーンエッグはそう思い、ハンプティダンプティの体を倒してコロコロと転がした。

 他のモンスターたちが一斉に行進する中、芝生の生えた木の下に移動。熱いコンクリートから脱出したのだ。

「ぐにょ」

「……」ッニコ

 笑顔を向けるダンプティ。無表情だったグリーンエッグが少しだけほくそ笑んだ。

「カラカラ」

 ここでレッグハンドール、あべこべだった手足の足を分離。ダンプティの足と癒着するように合体した。

「ぐにょ!」

 これにはハンプティダンプティ、笑顔が咲く。

「……」ッニコ

「カラカラ!」

 エッグとハンドール、共にサムズアップ。

 強張りながらも合体した足で立つダンプティ。

 ――これで歩ける!!

「ぐにょおおおお!!」

 両手を挙げて歓喜に震えた。

 ――ッッズバアァ!!!!

 次の瞬間には三体とも二枚におろされた。

 否、正確には一帯のモンスターが須らく攻撃を受け、露と消滅した。

「……何か変なの居たわね」

 握っていた線を千切りながら花房有栖は言った。

「ぐにょ」

「ッハ!!」

 地下にある観測室から外に出てきた有栖。その身一つで向かうはアドバイザーが居るであろうBAR。しかし外に出て見ると、映像で見るよりモンスターがひしめき合っていた印象。少しでも数を減らそうと走りながら薙ぎ倒していった。

「ッフ!!」

 太陽の光を反射するピアノ線の様な攻撃。有栖が一払いするといくつもの線が伸び等しく斬り刻んだ。

 数ブロック先に攻略者たちが奮闘していた。ケガも無く順調そうな様子。

 近くにも攻略者たちと免許持ちのチームが健闘している。

(臆せず攻め続ける。頼もしい限りだわ)

 称賛を思いながら、五階建てのビルの天井を見た。

「ッフ!!」

 手から放った線がビルの屋上付近にピタッとくっついた。

 放射した直線を沿うように線を巻いて地上からビルへ。

 ――ッシュタ!

 勢いをつけて一回転。屋上へ着地した。

(屋上から降りてくるモンスターは居たけど、やっぱり数は少ない様ね)

 屋上で歩いているモンスターを蹴散らしながら屋上から別の屋上へとジャンプし、時折線をワイヤーの様に使い移動する有栖。
 地上で移動するより圧倒的に早く移動でき、目当ての地区へと早々に着いた。

「おいそっち行ったぞ!!」

「任せろ!!」

「ぐにょ」

 どこもかしこもモンスターだらけ。しかし攻略者たちのおかげで徐々に数を減らせている。

 そんな中、有栖は気配を消し路地に入り階段を降り地下へ。

「ッ」

 背筋に感じる緊張感。この先は魔物の巣窟だと取手を握る手が強張る。有栖は以前合い収まりがついたのは翌日だった。その経験と、生きた心地がしなかった空気に胸が締め付けられる思いもした。

 しかしながらこの先の人物に用があるのは事実。

「……ふー」

『BAR~黄金の風~』

 意を決し、その扉を開けた。

 ――カラン

 扉についている鈴が鳴る。

「ッ!?!?」

 瞬間、有栖は潰される感覚に陥った。

 可視化した重力がこのBARを支配したかのように感じた有栖。

 BARの中はカウンターに座る頼り人である黄金君主ゴールドルーラーエルドラド、そして一つ奥の席に座っているのは以前仲良く話し、そして有栖をひどい目に合わした女性――ヴェーラ。

 有栖に近い一番端のカウンター席には青髪の君主ネクロスが。テーブル席には赤髪のルーラーと、見慣れない緑髪の少年。そして端の方に灰色の髪をした人物も。全員が有栖を見た。

 圧し潰された感覚に陥った有栖は戦慄した。

 ――全員がルーラーなのだ、と。

 驚きつつも違和感を覚えた。まるで仲間内で殺気を押しつけ合う様な感覚。明らかに空気がおかしいと感じた有栖。何事かと思いつつも詮索せず、コツコツとBARに入りエルドラドの側に辿り着いた。

「こりゃいいタイミングで登場したなぁ有栖くん」

「エルドラド。いえ、アドバイザーエルさん。連絡が取れなかった事は不問にするけど、今は緊急事態なのは当然知ってるのよね」

「――ンク。ああ知ってる。東京の街どころか全世界にカルーディが現れ、ゲートを開きモンスターを放って人間を襲ってる。他に何かあるか?」

「いえ。知っているならば幸いだわ……」

 ここに来て有栖は焦った。

 何故ならば具体的な要望を細かく決めていなかったからだ。

 秘密裏にとはいえ協力関係を結んでいる混血派と理性たち。そもそも事態を知っているならばすでに動いていても可笑しくはない状況。だが実際にはいつも通り小皺がある中年の男が酒を煽っていただけだった。

 ――何故動いていない。

 ――どう言って協力を仰ぐのか。

 ――こちらの手札を切る必要がある。

 頭に血が上り正気では無かったと内心叱咤。そんな様々な思考をした有栖だが、額に脂汗をかきながらエルドラドを見た。

「――実は指揮権を剥奪されたの。私には部隊を動かす力は無い」

「ンク」

「だからお願い!! あなた達の力を貸して!!」

 勢いよく頭を下げる有栖。かいた汗が床に飛び散った。

(純血派になんて任せてられない!! 使える手はすべ使う!!)

 何とも曖昧でストレートな懇願。そう思いながらも、人類の命運がかかった一大事だからと自分の身を奉げる覚悟すらあった。

「ンク」

 頭を下げ続ける有栖。その様子を見る事も無くひたすら酒を煽るエルドラド。

 不意に有栖のイヤホンに着信。ツーツーと何度も呼び出し音。まわりに微かに聞こえる着信音に、しつこいながらも無視できず思わず顔を上げて対応した。

「有栖よ。――ええ。純血派が動いたのね」

 それは観測室からの着信だった。

 緑髪の少年――ガスタがアラカルトであるポテトをサクサクと食べていると。

「――ッ!? 超電磁スナイパーによる狙撃!?」

 これから数秒後、ほぼ同じタイミングで全世界のカルーディは撃ち抜かれた。
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