上 下
205 / 221
第十八章 VS傀儡君主

第205話 チュートリアル:ガンガンいこうぜ

しおりを挟む
 東京都、渋谷。

「うわあああ!?」

「ぐにょ」

「この野郎!!」

 ハンプティダンプティを斬る男性。

「……」

「ファイアボール!!」

 ――ッド!!

 グリーンエッグが爆ぜる。

「手足野郎!!」

「カラ」

「くらえ!!」

 ――ッザシュ!

 二人の連携でレッグハンドールが横に斬られ消滅。

 ガラス張りの建物の一階はほぼすべてのガラスが壊され、コンクリートの床に鋭利な破片として残る。
 雰囲気重視のテラスは破壊しつくされ、見るも無残な姿に。

 喫茶店が立ち並ぶこの区画は襲撃してくるモンスターの数が他と比べて多い現状だが、攻略者の奮闘と撃退免許持ちの一般人の結束により、押されるどころか何とかせめぎ合っている。

 傀儡君主《マリオネットルーラー》カルーディ襲来に加えゲートによるモンスター投下。すれから既に一時間強と経っている。

 グリーンエッグによる爆発、それに伴う人間のマリオネット化。あまりにも奇妙で一目でわかる異常。痛々しい悲鳴。すでに攻略者たちが助けられなかった人々がカルーディによって回収された。

「ぐにょ!」

「っく!?」

 どのタイミングは定かではないが。

「……!」

「おわ!!」

 光の無いモンスターたちの目に。

「カラカラ!!」

「きゃ!?」

 明確な殺意が芽生えていた。

 誰かが予想した。

 ――回収から殺戮に変わった、と。

 抱き着こうと、掴もうと襲ってくるのではなく、拳を作り砕く、手刀を作り抉る、踵で蹴抜く。明らかに攻撃の質が変わった。
 消して甘く見ていたわけではない。油断もしていない。それこそ必死で人々を守ろうと動いたが、攻略者たちの焦りは積る一方。

「はあ、はあ!」

「っく!」

 肩で息をする者、額の汗を拭う者、しゃがみこんで息を整える者。普段から鍛えている攻略者たちや、波状攻撃や連携攻撃で撃退していった免許所持者たちの体力は、確実に擦り減っている。

 しかしそんな中、攻撃性を露にしたモンスターたちを物ともせず、果敢に戦う一人の少女がいた。

「っは!!」

「カラ――」

 金箍棒を巧みに扱いレッグハンドールを破壊。

「如意爆炎符!!」

 ――ドワオ!!

「――」

 燃え盛る火球がグリーンエッグに直撃。爆発四散。

「混撃! 閃雷風衝《せんらいふんしょう》――」

 可視化した巨大な緑の風に雷が帯電している。

 焦げる様に消えていく符を持つ人差し指と中指が指さし。

「螺旋撃《らせんげき》ぃいい!!」

 雷を纏う風が螺旋を描き、猛スピードでギャリギャリと削るドリルが形成。唸りながら突き進んでいき群れるハンプティダンプティたちがたちまち消滅。ドリルは風のエフェクトを残滓として残し消えた。

 果敢に戦うのは少女だけではない。

「フー!!」

「フーフー!!」

「ッフー!!」

 短い六本脚に小さな四つの羽。首と顔の無いしなやかな毛並みの獣――帝江。筋肉質の獣たちは突進という単純な攻撃でモンスターを撃破。

「んぱ」

「んぱんぱ」

「ッワン!!」

 ――ッブシイィィィ!!

 中型犬程の大きさで、一つの顔に幾つもの小さな体が生え、忙しなく尾ひれを動かしている。宙を泳ぐこの生物の名は何羅魚《からぎょ》。
 百発百中。頬を膨らませて水鉄砲を噴出す攻撃で見事にモンスターを粉砕。

 ちんちくりんな見た目のモンスターが出てきたと警戒した攻略者たち。しかしながら傀儡の使徒を倒す雄々しき姿や、少女が召喚した獣だと見ていた攻略者たちの伝達により誤解を回避。

 戦う獣。戦う魚。そして戦う少女。

 彼女の名は朝比奈瀬那。

「みんな! ガンガンいこうぜー!!」

「「「フー!!!」」」

「「「ッワン!!!」」」

 攻略者学園に通う、金色の卵であった。

 如意棒を構えて臨戦態勢。

 あまりある体力に加え一歩も怯まないその姿。

「――若いっていいな!!」

「負けらんねぇ!!」

「私たちも踏ん張らないと!!」

 少女の意図せず、彼女の奮闘する姿を見て攻略者たちの士気が上がる。

 しかし、顕著に士気が上がったのは男子陣。

「ッハ!!」

 如意棒を振る。

「如意爆炎符!! 急急如律令!!」

 かざす符。

 符を吹きかけ仕草、激しく動くいて操る如意棒。その一連一連の行動に、瀬那の特徴的な胸部がゆさゆさと揺れる。夏場故に露出も多めで、褐色肌の長い谷間を覗かせ相乗効果。

 ――うおおおおおおおおお!!

 男のサガ。男性陣の勢いが留まる事を知らない。

 意気揚々とモンスターを倒すも、女性陣からの冷ややかな視線は知らなかった彼等。

(みんな頑張ってる。私も頑張らないと!!)

 如意棒を強く握る理由がある。

 それは一瞬チラと見た喫茶店。ガラス窓やテラス席、窓の骨組みが破壊、歪まれたその中には、避難所に非難しきれず、怯え、身動きが取れない人々が居た。

(瀬那……)

(瀬那っち)

(応援してるから!!)

 そしてもちろん、瀬那の友人達であるギャルズもいる。

 脳裏にフラッシュバックするのは去年の夏、泡沫事件。目の前で攫われた彼女の姿、悲鳴。

 あまりにも無力さを感じた。あまりにも悔し涙を流した。

(もう、あんな事やあんな思い……。繰り返さない!!)

 故に瀬那は、大きすぎる胸部に大きな大志を抱くのだった。


「♪~♪~」

 この厄災を振り撒いた元凶、傀儡君主《マリオネットルーラー》カルーディ。ご機嫌なのか空中で口笛を吹き持っている杖を器用に回していた。

(この世界の人間も捨てたものじゃないなぁ~♪)

 傀儡の臀部を思い出しペロリと唇を舐める。

 北米、アジア、ヨーロッパ等々、全世界に傀儡を放ち男女問わず性癖の赴くままマリオネットに変え、彼が楽しめる程に回収した人類。

 抵抗が激しいのは彼にとって予想外だったが、決めていた数を揃えた段階で快楽殺戮に移行した。

「ん~今すぐ快楽に浸りたいけどぉ、先にこの世界を破界してから浸るのもいい……。こうやって欲望を焦らすのも、また一興かな♪」

 笑顔のカルーディ。彼の好みは形のよい胸部、形よいくびれ、形のよい臀部、そして形のよい脚である。大きすぎず小さすぎず、そして細すぎず太すぎず。カルーディの好みに合えば、それは最早男女と言った性別は関係ない。

 ひたすらに性欲を吐露し、汚し続けたいのだ。

 そんなカルーディ。

「――ん?」

「――ッハ!!」

 抵抗の激しい地区を何気なく見て見ると、血気盛んで果敢に戦う少女が建物の影から姿を現した。

「ん~タイプじゃないなぁ」

 尖りすぎている。それがカルーディが下した評価。

 しかしふと、彼はこう思った。

(この世界の人間は尖っているのが好きな傾向があるねぇ♪ ボクからすれば何がいいのかサッパリだけど、ついでだし一つくらい持っとくか♪)

 下賤な目が彼女を見下した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...