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第十八章 VS傀儡君主

第204話 チュートリアル:ホテルの一室

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「――ッ!!」

「ぐにょ――」

 ダーク=ノワールが握る魔法剣ソードオブライトが迸り、ハンプティダンプティが斬られダメージにより消滅。

 ――ザシュ!!

 グリーンエッグ。隙ありと言わんばかりの横からの攻撃。しかしダーク=ノワールの背後に浮かぶソードオブライトの一振りが自動で矛先を向け、グリーンエッグの体を真っ二つにして消滅させた。

「♰これで六体目か……♰」

 ホテルの非常階段を使い、安全を確認した七階から順繰りに降り、六階、五階共にモンスターが侵入。冷静に対処し、今し方何食わぬ顔で非常階段を昇ってきた二体を屠った。

 人二人が並ぶのが精一杯な階段。四階に降りる。

「……」

 スっと静かに角から顔だけ出し四階フロアの様子を伺うダーク=ノワール。

(♰大吾の証言では四階には使用客はいない。それはフロントで見たパネルの点滅で俺にも分かった。……しかし♰)

 一つ奥の扉が半開きになっていた。

 使用上、手や足、つっかえる何かで支えると動かないが、それ以外の要因ではドアが半開きになることは無い。そして自動的に鍵が閉まる。

(♰モンスターによりドアが破壊されたか、……何かの拍子でボタンが押され、そして何かの拍子でカードキーを手に取り、そして何かの拍子で解錠させたか……。それはありえんか♰)

 前述ならともかく、後述は現実的に考え難い。

 ダンディズムなハンプティダンプティと顔を赤らめるグリーンエッグ。その二体が仲良く部屋に入り事に至る。
 想像力豊なダーク=ノワールが考える彼ならではの可能性。あまりにも現実味が無かった。

(♰そもそもそこまでの知性が有るとは思えん♰)

 他に変わった様子は見て取れないと判断。ダーク=ノワールは意を決し、怪しさ塗れの部屋へと足を踏み入れる。

「……」

 ゆっくり歩みを進める。手にはソードオブライト一振り。背後には二振り浮かせ、半開きのドアに近づいた。

 当然と言うべきか、同じ建物であるため扉の先は同じく廊下。廊下には変わった物は無く、ドアを半開きにしているのは用意されたスリッパの芯の部分だった。

(♰スリッパはこのままにしておこう。料金を払わないと扉は開かないし、財布は七階にあるしな♰)

 最悪ドアを破壊すれば出られるが、それは最終手段だと思ったダーク=ノワール。

 静かに入室。ハンプティダンプティの特徴的な声やモンスターの物音はしない。

 中は大吾たちが居る部屋とは違い質素、標準的。ベッドの影に潜んでいるかを確認するも見受けれず、そのままトイレと脱衣所、バスルームに続く扉を見た。

 ――キィィィ

 扉を開ける。

「……」

 薄暗い脱衣所。バスルームの蛇口のボルトが緩いのか、ポチャリポチャリと水が漏れている。

 少し底が深いバスタブ。

 それを覗き込むと突然――!!

「――……」

 飛び出すモンスターは居ない。

 ほっと一安心。

 バスルームの喚起窓から外の様子を伺うダーク=ノワール。モンスターどころか人っ子一人いない。

 何事も無くバスルームから出て脱衣所。

 ふと、彼は脱衣所にある鏡を見た。

 ――――カリ

 彼が映し出される鏡。その彼の後ろに写るカーテンの隙間から、折りたたむ様にゆっくり現れた不気味な指。ベッドの下からは黒い瞳が除かれ、赤い顔がのっそりと鏡に写った。

 ――ゾク

「――ッッ!?」

 ――ドガッ!!

 けたたましい音が何度も鳴り響き、半開きのドアから突進するように出てきたダーク=ノワール。

「フー! フー! フー!」

 肩で息をする。

(いやマジで怖いって!? ホラー映画かよ!?)

 なんとか無傷で生還し、心臓に悪いと内心悪態をつく。

 そしてキレ気味でこう思った。

「♰もう我が暴れた方がモンスターくるくね?♰」

 これより彼は、慎重を捨て去り大胆に行動するのであった。


 フランス・巴里。

 もうすぐ日が変わる深夜の零時前。

「――首尾はどうだい」

「はい。今なお避難者を受け入れており、おおむね予定通りに」

「軽モンスター撃退用ビーム砲もかなり役に立っています」

 ラ・デファンス。パリ西部近郊にある都市再開発地区。シャンゼリゼ通りと凱旋門の延長線上に位置し、パリ市内の伝統的な景観とはかけ離れ、現代的な景観を形成している地区である。

 その一つの高層ビルの屋上。ブロンドの髪を風になびかせ、西園寺財閥もとい西園寺グループの子息、または攻略者学園卒業生の男――西園寺L颯がポッケに手を突っ込みながら大きなゲートを見ていた。

 傍らには同じく卒業生である津田輝樹、上賀澄明弘がスーツ姿で颯を守る様に立っている。

「こら二人とも、他に人は居ないんだしフランクに行こうよ」

 二人に笑顔を向ける颯。

「……いや、それは」

「ほら言ったろ輝樹。雇ってくれたけど颯は颯なんだって。俺からすればむしろ敬語つかう方がむずがゆい」

「そこはしゃんとしろ」

 仕事モードではなくプライベートな雰囲気に変わり、颯は頬を綻ばせる。

「で? あのカルーディってルーラーにカチコミ行かないのか? 準備は万端だぜ?」

 明弘が横目でブロンド髪を見て質問。空中に浮く小粋なハットを被ったカルーディ。ここからだとギリギリ視認でき、メッセージ画面も反応している。

「あそこにいるのは本体じゃない。倒してもまた投下されると思うよ」

「では我々はまだ動く時ではないと……」

「うん」

 真面目な輝樹は敬語が抜けずにいる。それは仕方ないと颯は納得していても、どこか寂しい気持ちを感じていた。

「どうしても手の届かない場所で傀儡に変えられ彼に回収されてるけど、パリの攻略者たちも頑張ってるし、とりあえずは現状維持……」

 カルーディが糸を使いマリオネットに変えた人を回収。その光景を目にし歯がゆい思いをしながらも、まだ動くべきでないと自立する。

「バックの国連は動いてるんだよな?」

「そのように聞いている」

「国連は国連。僕たちは僕たち。僕たちが動くのはカルーディの本体、もしくはかなり危険なモンスターが現れた時だ」

 強かな瞳が、傀儡君主を射貫く。
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