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第十八章 VS傀儡君主

第199話 チュートリアル:カルーディは笑う

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 それは同時だった。

『レディース&ジェントルメェェェェン!!』

 アメリカ・ニューヨーク。

『ごきげんよう♪』

 東京渋谷。

『ボクの名前はカルーディ♪』

 学園都市ビーチ。

『しがないパペッティア♪』

 中国・上海。

『よろしくね♪』

 ロシア・モスクワ。

『残念だけど♪』

 フランス・パリ。

『この世界は――』

 ナイジェリア・ラゴス。

『破界しまーす♪』

 グリーンランド・ヌーク。

『でもまずは――』

 特別行政区・マカオ。

『選別するよ♪』

 モナコ公国・モナコ。

『マリオネットをね♪』

 シンガポール共和国。

 その他にも全世界の人口密集地にて一斉に出現した

「――なんだ?」

「人が浮いてる!!」

「何かのイベントか?」

 眠らないニューヨークの街。

 なんだなんだと物珍しさに端末のカメラを向ける一般人。その様子を宙に浮く彼は笑顔でお出迎え。声援に応えられ一般人は一層にカメラを向けるが、覚醒した彼彼女たちは青ざめた。

傀儡君主マリオネットルーラー カルーディ』

『警告:レイドボス出現』

 始めて見る赤いメッセージ画面。

 去年以来に見た赤いメッセージ画面。

「――ッッ~~!!」

 小粋なハットを手に取り軽くお辞儀。そして天を仰ぐ。

『さあ!!』

『阿鼻叫喚ショーの!!』

『開幕だ!!』

 息が詰まる。そして。

「ルウウウウラアアアアアアだああああああ!!??」

 ――ブウオオオオオオ!!!!

 攻略者の決死の叫びと共に警告を意味するブザー放送が世界中で鳴り響く。

「きゃああああああ!!」

「うわああああああああ!!」

 蜘蛛の子の様にカルーディから逃げ回る一般市民。

「指定の避難所に向かえ!!」

 泡沫事件やマーメイドレイドもあり、一部の避難所、サークル事務所にはモンスターブレイクを想定した撃退用のビーム兵器が設置されている。

「サークル事務所でもいい!! とにかく避難だ!!」

 一部の攻略者は一般市民の避難誘導。

 足が竦む者、武器を生成し勇敢にもカルーディを睨む者。建物から、街角から続々と現れる攻略者たち。

「う~ん悲鳴が堪んないや♪」

 空中で浮いている、否、糸の上で座っているカルーディは耳を澄ませて愉悦に浸る。

 ――ッドゴン!!

 突然カルーディ目掛けて火球が襲う。着弾し火球が破裂したが、着ている奇抜な服が汚れただけでそれを手で掃った。

「まったく、この都会の景色を目に焼き付けようと思ったけど、手が早いならもういいや♪」

 ――パチン!

 フィンガースナップ。

 同時に空に開いたゲートから無数のナニカが出現。それがボトリボトリと地面に落ちると、カラカラと音を立てて立ち上がった。

「ぐにょ」

 体は白、顔は赤。姿はずんぐりむっくりの顔と胴体が同化したもの。胴と同じ長さの腕、短い脚。関節部分は球体でできており、カルーディと同じ小粋なハットを被っていた。

『傀儡の使徒 ハンプティダンプティ』

 ずんぐりむっくりだけではない。

 ――ッスタ!

「……」

 カールした髪の毛が生えた緑色の卵。手足が生えた卵は綺麗に着地し、感情の無い眼で人々を見る。

『傀儡の使徒 グリーンエッグ』

 ――ッバ!!

 落ちてきたのはマリオネットの腕と脚。地面に激突するとすぐさま人形の手と足が動き、共に合体。脚に腕が生えたよな奇妙なモンスター。もとい気色の悪いモンスターが現れた。

『傀儡の使徒 レッグハンドール』

 計三種類のモンスターがゲートから大量に出現。

 一体一体丁寧に糸が伸びており、その先はカルーディの手の中に繋がっていた。

 そして、カルーディの号令と共に。

「殺っちゃえ♪」

「「「――」」」

 一斉に襲い掛かる。

「来るぞ!!」

 シールドとソードを構える彼はオーソドックスに定評のある攻略者だ。そんな彼にとってはスピードが遅く、盾で防いだ衝撃を体感。目の前から襲ってくるモンスター三種は脅威ではないと判断。

 そう。一体ずつならば。

 ――ガッガガッガガガッ!!!

(数が多すぎるッ!!)

 盾に感じる三つの衝撃。連携を取っている訳でもない。ただただ数に物を言わせ物量で圧し潰されそうになる。

「ハアアアア!!」

 ――ッドバ!!

 ソードによる横一閃。

 使徒たちは一撃で破壊され消える様に消滅。同時に繋がれた糸がプツリと切れる。

(いける!!)

 一撃を入れた彼はそう思った。

 周りを見れば攻略者が同じようにモンスターを蹴散らしていた。

「いい気になれるのは今だけだよ? どんどん出てくるよーほら~♪」

 同じセリフを吐いたカルーディの個体はフランスのパリ。

 パリの名所の一つであるエッフェル塔の頭上に開いたゲート。塔の天辺に腰かけたカルーディはご機嫌に笑う。

 それは何故か。

「きゃああああああ!?」

 ――ッボム!!

 逃げ遅れた一般人に使徒のグリーンエッグが突撃。近づかれるとエッグが破裂し煙に覆われた女性。

「――」

 煙から姿を見せたのは女性ではなく、木製でできた女性型の人形マリオネットだった。

 人が人形に変わる。

「……マジかよ」

 一目見ただけで分かるその受け入れがたい事実に動揺が広がる。

 しかし絶対に爆発する訳でもないとも判断できる。基準は分からないが、光明が灯るまでひたすらモンスターを倒していくしかないと思った攻略者たち。
 
 それは学園都市のビーチでも同様だった。

「フン!!」

 ――バキィ!!

「ふにょ――」

 ガントレットの一撃により粉砕。使徒のハンプティダンプティは顔面を殴打されダメージにより消滅。

「ッフ!!」

 ――ッド!!

 ソルレットにより蹴り上げられたグリーンエッグ。空中で消滅。

「ブースト!!」

 ――ッドワオ!!

 噴射されたガントレットのパンチ。カラカラと軽い音を立てて粉砕された使徒レッグハンドール。消滅。

「クソ、数が多すぎる!!」

 戻って来たガントレットを腕に装着する進太郎。

 突然のルーラー襲来。

 空中で座りあまつさえビーチパラソルを糸の上に乗せて陰りの中で阿鼻叫喚を楽しむルーラー。それを睨みながら横のハンプティダンプティを裏拳で粉砕。進太郎は握り拳を作る。

(これではトラウマが深まるばかりだな)

 去年の同じ時期にビーチで泡沫事件が発生。それを彷彿とさせる現状に、後ろで攫われた友人の恋人の悲鳴が脳裏によみがえる。

 ――そんなことさせない。

 進太郎は決意を胸に空中で楽しんでいる奴を睨みつける。

 いざ空へ。

 ガントレットとソルレットの噴射口にエネルギーを溜める。が。

「ッ!!」

 探していた想い人が血相をかいてこちらに向かって逃げていた。

「まこと姉!!」

 彼女の後ろには三種のモンスター。

 ――ッド!!

 轟々と噴射させ低空飛行を実行。一気に距離を詰め、拳を握る。

「オラアアアアア!!!!」

 ――ッドワオ!!

 渾身の一撃が衝撃波を生み、まことを追いかけていたモンスターを蹴散らすのだった。

 戦いはまだ、始まったばかり……。
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