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第十七章 傀儡の影

第186話 チュートリアル:竜の霊廟

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 ダンジョンのモンスターは、そのダンジョンの趣旨にあった形態がほとんど。例をあげれば萌たちが潜った初心者ダンジョン――『グリーングリーン』。そこにはまごう事なき初心者用モンスターのク○ボーが。
 去年の夏に起こった泡沫事件のダンジョン『泡沫の同胞』には魚モンスターが。『氷結界の里』には氷の蜘蛛型モンスターと言った具合。

 萌と黄龍仙、並びにアンドロイドのリャンリャンが出会ったダンジョン『機仙の仙山』には別の例としてモンスターでは無いが原生生物――帝江や何羅魚からぎょと言ったモノもある。

「なかなか強そうだな」

『Dragon Shrine』日本語に訳すと『竜の霊廟』

 ニューヨーク郊外に出現したダンジョン。それが『竜の霊廟』だ。

 ダンジョンの中は大草原が広がっており、そこを活動拠点としたダンジョン攻略の足掛かりを国連は設けた。
 平均気温は20℃前後。活動するには問題ないが、それは草原に限った話。草原を下れば密林が待ち構え、上れば険しい山々が攻略者たちに苦しい悲鳴を吐かせる。

 どこまでも続く広い広いダンジョン。一つの山を越えればさらに険しい道のりが続き、密林も奥へ向かえば向かう程、熱帯の熱さが攻略者の脚を阻む。

 さらにこのダンジョンは初心者どころか並の攻略者でも苦戦を強いられる強力なモンスターが跋扈している。
 その例が今、山を登る西田の目の前に現れた。

「バリバリバリバリ!!」

 電翼竜エレキ・ワイバーン。体長およそ二メートル。両翼を合わせると四メートル強にも及ぶ大型のモンスター。
 このダンジョンのモンスターは翼竜ワイバーンが主で、少数だが昆虫型や獣型のモンスターも居る。

 その中で一際強いモンスターは炎や水、緑といった属性に由来するモンスターだ。

「俺と同じでバリバリか。アメリカのダンジョンはバラエティー豊富だな」

 臆しない西田。彼の後ろ隣りで様子を伺う同行者――エルフェルト・エクストラス。

(エレキ・ワイバーンはフレイム・ワイバーンやウォーター・ワイバーンと違い獰猛で攻撃的。電気で構成された体に触れれば感電する恐れもある。ノブヒコ・ニシダ。どうする)

 エルフェルトの期待を知らず物珍しさを観察する西田。警戒するエレキ・ワイバーンは西田とエルフェルトの二人を睨みつける。

 数秒後。

「バリバリィィ!!」

 痺れを切らしたモンスターが西田に襲いかかるのだった。

「お」

 少しだけ驚く西田。既にエレキ・ワイバーンは迫っている。

「ッ」

 ――バチィ

 一瞬雷を纏った西田。それを認識したエルフェルトが見た光景は、襲い来るエレキ・ワイバーンの体内に入り込み一瞬で体を抜け着地した西田だった。

「っへへ」

 したり顔で振り向く西田。指で挟んだ黄色の玉をエルフェルトに見せるのだった。

「ピョー――」

 エレキ・ワイバーンは消える様に消滅していく。

「ノブヒコ・ニシダ。初見でよくエレキ・ワイバーンの弱点であるコアを見極めたな」

「ああいったモンスターは弱点がコアだったり何だったりって相場が決まってんだよ」

「流石はヤマトサークルの隊長だ。一瞬とはいえ綺麗な身のこなしだ」

「おだてても何も出ねーよ」

 今回でエンカウントしたモンスターはこれで四回目。どれも日本のダンジョンにはあまり見ないモンスターばかりで西田はいい刺激を受けていた。

「そろそろ休憩地点か?」

「まだだ。もう少しだけ歩く」

「へーい」

 歩幅を合わせて移動する西田とエルフェルト。

 西田は無言で周囲を警戒しながら歩くが、エルフェルトも周囲を警戒しながらも思考していた。

(果たしてノブヒコ・ニシダと同じスキルを持っていたとして、エレキ・ワイバーンに対し同じ対処を取る事が可能か……)

 エルフェルトは先ほどの戦闘を思い出し、西田を自分と仮定して脳内シミュレーションしていた。

(エレキ・ワイバーンの弱点は体の中心にあるコア。基本的にはそのコアを狙って攻撃を加え続け、一定のダメージを与えるとコアが露出し止めをさせる)

 電気で構成された体を持つエレキ・ワイバーン。金属製の武器を突き立てると電気が逆流し感電する恐れがある。故に遠距離攻撃を基本とする戦法だが、西田がやってみせたコアを手に取って倒す戦法は未聞。エルフェルトは冷静を装っていたが、軽々やってのけた西田の神業に少なくない驚きを感じていた。

(エレキ・ワイバーンの体を貫通できたのはノブヒコ・ニシダのスキルがワイバーンとの相性が良かった……。のだが、それだけじゃない……)

「――おおいい眺めじゃん」

 目を細めるエルフェルト。

(スキルのレベルも高く、ノブヒコ・ニシダの培ったテクニックにも称賛に値する……。とされる日本のダンジョンだけでは経験できない要因がある……それは――)

「ッ!!」

 歩きながら深く思考していたエルフェルトだが、ここで西田が声を荒げた。

「――エルフェルト!!」

「――えッ」

 西田の声と肩を掴まれ深い思考から意識を取り戻したエルフェルト。気づけばあと一歩で崖から転落するところだった。

「あんた正気かよ!! 考え事してると思って放っておいたが考えすぎだろ!! 死ぬところだったんだぞ!!」

「あ、ああ。すまない……。助けてくれたこと、感謝する」

「頼むぜまったく……。案内役なんだから、しっかりしてくれ……」

「……わかっている」

 エルフェルトは自分が嫌になる。

 彼女は考え事をすると周りが見えなくなる性格。一度考えだすと思考の海に沈み、話しかけられても気づかない時もある。それが彼女の弱点だった。

「ん゛ん! それにしてもいい眺めだな。広い空に白い雲。滝も流れててここの下は滝つぼだ」

 深呼吸する西田。

「滝の水は密林を通り絶壁の湖に辿り着く」

「絶壁?」

「ああ。このダンジョンは広いと言えど触れられない絶壁にて阻まれている。つまりは行き止まりだ。今尚調査されているが、このダンジョンは絶壁の中に作り出された箱庭と言う論が通説だ」

「へぇ~」

 首を縦に振って興味深いと西田は思った。

「竜の霊廟は他国が有するダンジョンに比べあまりにも広い。強力なモンスターが跋扈する故にドロップアイテムの特産品を狙う輩は少ない。本当の実力者でないと調査すら困難なんだ」

「だからエクストラスでも調査が難航してるのか」

 人手不足が問題ではない。人手があっても実力が無ければ死人が増えるだけ。そういったダンジョンは世界各国にあり、ゆりすぐりの者たちが少しづつだが結果を残しているのが現状。

「そろそろセーフティスペースの休憩地点に向かおう」

「案内よろしく」

 そう言って崖端のエルフェルトに背を向ける西田。

 ――ッピン

 音。

 嫌な予感がした。

 ――ガラッ

「――」

 乾いた音より先に振り向いた西田。

 彼が見た目にしたのは、崖の先端が崩れまさに落ちていくエルフェルトの姿。

 突然のことで目を見開き何とか西田に手を差し伸べるエルフェルト。

「ッッッ」

 重力を感じながらもエルフェルトの手を握った西田だった。
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