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第十六章 強く激しく

第180話 チュートリアル:ギャル危機一髪

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「はあぁぁ……。バイトだりぃ……」

 しがない個人経営のカラオケ店。今大きく溜息をついた彼はバイトリーダーである。
 彼は大学に通っている傍ら、叔父がオーナーをしているカラオケ店でアルバイトをし、小金を稼いでいた。ちなみに彼がバイトリーダーを任せられているのは仕事が出来るからではなく、完全身内びいき。

 個人経営のカラオケ店は広く、そして清潔。意外と客の入れ替わりが激しいカラオケ店で、そのおかげか最新の設備が揃っている。

「ふぁあー。眠む……」

 叔父がオーナーなのをかこつけて他のバイトを顎で使い、彼は自由気ままにバイトと言う名の時間つぶしを日がな一日過ごしていた。

(今日は客もそこそこ。シフトも気を遣う奴らは居ないし、俺はスマホでもいじって監視カメラで警戒中~~)

 デスクに両足を置き、裏の事務所で暇を持て余していた。

 その時だった。

「……ん?」

 受付の監視カメラに映るのは五人組の来客。受付の者が対応している中、バイトリーダーの彼は半目の瞼を大きく開かせた。

「はは! とんでもねぇギャル軍団じゃん!!」

 スレンダーギャルからぶかぶかなファッションギャル。そして巨乳のギャルと目白押し。上半身や下半身、皆が皆肌の露出が大きい服装。

「いいじゃんいいじゃん!」

 バイトリーダーは唇をぺろりと舐め、受付で対応している者に無線を繋げた。

 受付の者が片耳に着けたイヤホンに触れる姿が監視カメラに映る。

「おい。そのギャルたちをあの部屋に案内しろ」

《……はい》

 無線が切れると再びデスクに足を置くバイトリーダー。スマホを操作し、何処かへ電話をかける。

 呼び出し鈴が数回鳴ってから繋がる。

《お疲れちゃ~~ん》

「お疲れッス先輩」

《どったん? 飯でも誘いに来たのか? 牛丼は勘弁だぜー》

 通話相手は男。

「いやぁ久しぶりに上玉が来てましてね~」

《上玉ぁ? ……なるほどぉ》

 バイトリーダーはニヤニヤして話す。

《いやぁマジで久しぶりだなぁ。俺にした借金の事忘れちゃってるんだと思ったわ~~》

「い、嫌だな先輩ぃ……。俺が忘れる訳無いでしょ?」

《前のお仕置きで懲りた?》

「ッ」

 バイトリーダーは息を飲んだ。彼の脳裏にお仕置きと言う名の暴力を思い出させる。

「と、とにかく! 例のあの部屋に案内させたんで、先輩これから来ますか?」

《イクイクぅ!! いつメンも居るし今からイクよ~》

「わかりました~~。じゃあ待ってますね~~」

《はいよ~》

 プツリと切れる通話。

 監視カメラに映るいくつもの小窓の映像。その内の一つを拡大。操作して音をも拾わせる

《へーおすすめって言うだけあって結構広いじゃん。なんかいい匂いするし》

《これ倒すとベッドに変わるソファ?》

 ――ガタ

《おおぉぉ! 変形!》

もえが好きそうな言葉ぁ》

《つっくんも変形好きだよ》

 ドアを開け今し方あの部屋と言われた曰くつきのルームに入ってきたギャル集団。各々の感想や特別感あるソファに興奮気味の様子。

「ふーん高校生か。いいねJK」

 舌を出しながら登録された情報を端末で閲覧するバイトリーダー。

「よっと」

 操作して画面を切り替える。

「うほぉーきわどい下着履いてんねぇー」

 群がる様に端末を操作するギャル集団。完全個室で気が緩むのか、脚を広げて座るツヤコ。それを見越して隠しカメラに切り替えてバイトリーダーは楽しむのだった。

《――バイトリーダー》

「なに」

 厨房から連絡が入った。

《あの部屋からアラカルトやらジュースの注文来たんですけど、まさか久しぶりにアレですか?》

「ああそうだ。しかもかなりの上玉で現役JK集団!!」

《……俺たちもあやかれますか?》

「もちろんだ」

《……じゃあ多めに入れときますね》

 プツリと切れる。

《粉あああああ雪いいいいいねえ♪》

《イエーイ!》

 監視カメラに映るのは熱唱するギャルとそれを見守るギャル。くっ付いてスマホカメラで撮影するギャルたち。

「っはは、バカじゃん」

 バイトリーダーはこれから起こる事を知らないバカなギャルたちに冷笑を向けた。

 ここでギャルたちが扉を見た。

《――お待たせしましたー。こちらポテトとオニオンフライとぉ、ジュースですぅ》

《おお一気に来た!》

《ありがとうございまーす》

 カートを引く店員からトレーを受け取るJK。そそくさとテーブルにアラカルトを置くと、待ってましたと言わんばかりに一斉にポテトをつまむ。

《桜ああああ吹雪のおおおおおお、サライいいいいい♪》

 歌う二巡目に差し掛かる頃にはドリンクもおかわりに入りる。

《どうしたの瀬那。ジュースなんか見つめて》

《うーーん。なんか変……?》

《味が濃いだけじゃね?》

《……そうかも》

 あまりにも自己主張の激しい胸部を持つギャル。

「で、デケェ(戦慄)」

 夏場とも相まってへそ出し脚出しの高露出。褐色肌で長い谷間が嫌でも目に付く。バイトリーダーは彼女に夢中だった。

「……へへへ」

 思わず出た涎を啜るバイトリーダー。

 彼は我慢する。否。これからもっと我慢する事になる。

《……なんか眠いんですけど》

《ふぁああッ、確かに眠い~》

《時間になったら誰か起こして~》

「効いてきた効いてきた!」

 ギャルたちの欠伸の音声を拾った監視カメラ。強烈な眠気に歌うのを止め、一休みしている間に一人、また一人と、ぐったりとしたりソファベッドで寝息を立てる者も現れ始めた。

 そしてバイトリーダーのお気に入りのギャルも、例に漏れずソファに座って顔を下向きに首をガクンとさせた。

《――リーダー》

「!!」

 そのタイミングで受付から連絡が入る。

 受付のカメラには如何にも遊び惚けている複数の男たちがこちらに手を振って挨拶していた。

「ちょうど薬で眠った所だ。先輩たちを案内してやれ」

《了解》

 受付の者が男たちに説明し、迷いなく移動を開始する惚けたち。

 タトゥーを入れた筋肉質の男が監視カメラに向けてサムズアップに加え出した舌をひらひらさせる。

「先輩って俺の趣味と似てるからなぁ。もう何回兄弟になったかわかんねぇや」

 我慢を体現する腕組み。

 そう。バイトリーダーが画策する事柄。

 それは。

《――マジで上玉じゃん!!》

《ヤリ放題開幕だなぁ!!》

《たまんねぇ!!》

 だ。

 バイトリーダーは成人した折に風俗にハマり高校からのこの先輩に借金してまで通い詰めた。次第に首が回らなくなり、良心からバイトさせた叔父を裏切る行為と分かりながらも、一回数万としてこの方法で借金返済を企てる。

《おいおいメッチャ巨乳も居るじゃん!!》

 魂の殺人を行使し、あまつさえ写真を取り脅しの材料として恐喝。表沙汰にしない事を強制。堕胎させたこともしばしば。

 最初の頃は人の人生を潰す最悪な行為だと思いながらも虫唾が走ったバイトリーダーだったが、それはもう慣れたもの。何回も繰り返すうちに感覚がマヒしてしまった。

 これから行われるのは筆舌し難い行為。

《じゃあ早速――》

 瀬那に手を伸される。

 ――瞬間

 ――パシッ

《――?》

「――あ?」

 バイトリーダーは見た。うつむく様に眠るお気に入りのギャル。それに手を伸ばす先輩の手を、彼女が手で跳ねのけた。

 ――寝ているはず。

 しかし。

《――さいっってい。最低だよ》

 起き上がった彼女の言葉がバイトリーダーにどっしり乗る。

《ッチ。効き目が甘かったか》

 舌打ちする先輩。

《まぁ寝てようが起きてようがどっちにしろヤルだけだ。俺たちは攻略者だから逃げられると思うなよ?》

《……》

《あれ? 攻略者て聞いて怖くなった? 俺Sだかたそう言うの興奮するんだよねぇ》

「っへへ」

 そう。先輩なる者は攻略者。普通の一般人ではない。そもそも現役攻略者に勝てる高校生など殆どいない。だからこそ、バイトリーダーは安心していた。

 今までは。

《――ぎゃあああああああああああああああ!?!?!?!?》

「!?!?」

 監視カメラから伝わる先輩の悲鳴。

 映像には先輩の手を握るギャル。

 しかし、握りすぎて手の骨が露出するほど。

《――みんなに酷い事する悪い人は……お仕置きしなくちゃ》

 そういうギャルは監視カメラを見た。

 怒りを通り越した執念。無表情で無機質な瞳を覗かせながら。
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