上 下
177 / 221
第十六章 強く激しく

第177話 チュートリアル:共通点

しおりを挟む
 七月に入った最初の土曜日の夜。俺は理性を掲げるルーラーズの大将であるホワイト・ディビジョンの主――白鎧ことベアトリーチェに呼びだしをくらった。

 三年の一学期ももうすぐ終わり夏休み直前に迫る俺ら攻略者の卵。他の生徒は夏休みを使って初心者ダンジョンに潜ったり、現役サークルについて行き難易度の高いダンジョンへと足を運ぶ。要は経験値を積みに行きながら自分を売り込んでいくスタイルだ。

 俺や瀬那、大吾と進太郎にダーク=ノワールもそれに習い、夏休みで遊ぶのはほどほどにして他の生徒と同じ経験値、自分の売り込みをしに行く事に決まった。

 どこのサークルへと足を運び同行のお願いをするのかはまぁ簡単な選別。オファーが来ているサークルを転々とし、表面だけでなく込み入った内情を視察しようと思う。まぁ上から目線な表現だけど、俺たちはれっきとした選べる側の卵だ。明らかなゴマすりなんて受けようもんならマイナス百点だな。うん。

 そんな感じの話をグループチャットでメッセージを送り合ってた時に、急に呼びだしを貰った訳だ。

 ティアーウロングに顕現していざホワイト・ディビジョンへ。

 扇状に広がる会議室の俺の椅子隣りにゲートを開いて転移。

 まぁ案の定席には誰もおらず、周りを見渡すと白色の鎧を着こんだ人がいた。

「お待ちしておりました。ティアーウロング様」

「あ、ども」

 BARのテンダーである宰相以外の虚無家臣ヴァニティヴァッサル。会ったのは初めてだけど、声から察するに女性っぽい。

「こちらへ」

 そう言って会議室の正面扉ではなく別の扉へと案内された。何とも広い階段。横一列何人並べるんだと思いながら、窓から一望できる城下町の夜の姿を瞳に映していた。時のオカ○ナのガノン城を彷彿とさせる長い長い階段。真っ白な城だけどオルガンのメロディが聞こえてきそうな雰囲気だ。

「こちらです。中へ入り、どうぞ。紅茶を用意していますので、そちらを召し上がりながらソファでおくつろぎください」

「あ、はい」

 白を基本色とした金色の装飾が施された少し大き目な扉。家臣の彼女はどうぞと軽くお辞儀しながら手を扉に向けている。そっとドアの取っ手を掴み、ゆっくりと開け、中へと入った。

 ――ガチャリ

「……」

 閉まるドア。

 デンデデン♪

『チュートリアル:◆◆◆の部屋に入ろう』

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:技+』

「……白い」

 それがこの部屋の印象。まぁ白いのはこの城にして当然だけど、目に悪い白色じゃなくて陰影がハッキリとした白色の部屋だ。天井は高く半透明のシャンデリアがいくつも吊るされていて何処か幻想的。
 家臣の彼女が言ってた通りテーブルを囲む様にソファがある。もちろんティーポットセットも常備。

 白色の棚には金持ちが持ってそうな酒瓶が並べてあり、中身の減っている瓶もある。白鎧はお酒を嗜む様だ。
 観葉植物として百合の花に似た白いお花が。

 そして一際目を引くのは何とも柔らかそうな白色のベッドが置いてある。しかもデカい。一人で眠るには広すぎるベッドだ。

「寝室かよ……」

 そう。俺が案内されたのは間違いなく寝室。白鎧のプライベートルームだった。

「マジかぁ」

 とりあえず言われた通りにふかふかソファに座ってはみたものの、全然落ち着かない。つかそもそも白鎧はどこだよ。部屋にいないじゃん。

「……ん?」

 妙に落ち着かない俺は内心そう愚痴りながら縮こまって座っていると、どこからか水の流れる音が聞こえてきた。つかシャワーの音だ。

(も、もしかして白鎧、シャワーしてる……?)

 風呂もあんのかよこの部屋。この城には家臣たちや住み込みのお手伝いさんたち用の大浴場があったりする。まぁ俺は入った事ないけど、城主ともなると専用風呂なんて用意するんだな。

「……はぁ」

 来たタイミング悪かったなぁ。シャワー浴びてるなら言ってくれれば外で待ったのに。

 そう思いながらティーポットを傾け紅茶を入れる俺。フードを脱いで紅茶を飲むと、飲んだことある味だった。

「これ……ネクロスさんの……」

 舌に蕩ける紅茶。これは思い出の紅茶だ。知ってか知らずか分からないけど、俺の好きな紅茶を用意したって事なのかも。

 ――キュッ

「!?」

 急いでフードを深く被る。部屋にある扉の向こうから何かが閉まる音が聞こえたからだ。

(来る! きっと来る! きっと来る!)

 平成ホラー映画の主題歌みたいに復唱したけど、まさに来るだ。なんだかドキドキが止まらない。俺は童貞を卒業したけど、精神的童貞は捨てきれていなくて未だに映画でえっちなシーンがあると一人でも気まずくなる。今、そういった心持だ。

 そして一分二分経過。

「ふぅ……。待たせたな、ティアーウロング。……なにをしている」

「え、別に。ただハズカシイからフードを被ってるだけ……」

 俺は紳士。ジェントルマン。女性の柔肌を気安に見るなんてできないぜ。

「頭蓋の形が分るほど引っ張るほどか? 我は貴殿に見られても問題ないが」

「俺が問題あるからこうやってんでしょうが!?」

 おかしな奴だ。そう言って柔らかなカーペットを裸足で歩いて来る音を耳が拾う。

 そして対面のソファに座る音も聞こえてきた。

「いつまでそうしてるつもりだ?」

「いや、アニメとかでこう言ったシチュエーションはだいたい裸で登場するってお決まりがあるんですわ。だからそれを危惧してる」

 中性的で少し低い白鎧の声。凛とした声だ。だけど、御託を並べてフードを深く被るのは他の理由もある。

「アニメ。地球の文化か……。ふふ、裸ではないから大丈夫だ。さぁ、フードを脱いでも構わないぞ」

「……わかった」

 スッとフードを後ろに下げて脱ぐと、青い瞳をした大人びた瀬那――ベアトリーチェの顔がそこにはあった。

 清潔なバスローブを羽織り頭にはタオルが巻かれている。

 吸い込まれそうな青い瞳。すこし目が合っただけで思わず目を逸らしてしまう。

「ふふ、やっぱり慣れんか」

「そりゃそうだろ……。兜を脱いだあんたの顔を見る度に心臓がキュウキュウ締まるんだよ」

「そうか」

 逸らした目の位置が悪い。バスローブ姿で脚を組み直したベアトリーチェの太ももをつい目で追ってしまった。心の中で南無阿弥陀仏と唱えて雑念を捨てる。

「……ふぅ」

 ため息混じりに一呼吸。意を決してベアトリーチェに顔を向けた。

「まぁシャワータイムってのはタイミングが悪かったけど、夜遅くに呼びだすなんてどんな用事だよ」

 ジト目で質問した。ジト目じゃないとまた目を逸らしてしまいそうだから。

「本題へ入る前に聞いておこう。ここの空気には慣れたか」

「ここの空気ぃ?」

 本題へ入れよと思ったけど、ここの空気――つまりはルーラーズに入ってどうだったと聞いている。

「慣れる訳ないじゃん。ネクロスさんは重い話してくるわ、フリードさんは喧嘩しようぜ! とか言って迫ってくるし、エルドラドは相変わらずだし……」

 その他にガスタくんもヴェーラさんも個性的だし、存在が空気のバルムンクさんも何考えてるか分からない。個性派ルーラーどころか家臣も個性派で揃ってる。ベアトリーチェ然り。慣れろとか無理だろ。

「そうか。慣れんか」

「うん。慣れないな。まぁ本能から守る理性の活動ってのは忙しのはわかる。学生生活してる俺を尊重してくれてるのもありがたい。でも慣れないものは慣れない」

 俺はそうキッパリと言った。

「ふふふ」

 俺の正直な答えにベアトリーチェは微笑む。その顔は果てしなく瀬那に似ているどころか本人。俺の心臓が締まる。

「実のところ、我も慣れんのだ」

「なんだよそれ」

「わかるだろ。こうもマイペースが過ぎる連中が集まっているんだ。我と言う旗の下に集まったが……いや、違うな」

「?」

「まぁ貴殿の苦労は分かってるつもりだ」

 そう言っていつの間にか入れていた紅茶を飲むベアトリーチェ。

 静かにソーサーにカップを置く。

 理性の頭領である白鎧にも人並みの苦労は感じるらしい。ここに関しては共感できる。

「ん゛ん。では本題に入ろう」

「いきなりだな」

「ああ。不服か?」

「いやぁ? 速く帰ってゲームしたいし」

 優しみのある顔から一転。真剣な表情になったベアトリーチェ。

 何を言うのかと身構えていると、予想だにしない事を聞いて来た。

「我とは別の魂を持つ、並行世界の同一人物。つまりは貴殿の番である者の話だ」

「……瀬那……か……?」

 俺は唾を飲み込んだ。

「何の因果か、我を含む並行世界の同一人物は必ず大きな壁に遭遇する。我は其れを試練と呼んでいる」

「試練……?」

「そうだ。その様子だとまだ事が起きていないらしい」

 まるで俺を見透かすような瞳。壁、試練。仙気の修行といったものなら壁や試練に当て余るかも知れないけど……。

「どういった形の試練か同一人物の数だけ各々違うが、一つだけ共通点がある」

「共通点?」

「ああ。その試練を乗り越えられなかった我々は、総じて――」

 ――死を遂げている。

「――ッ」

 瀬那の笑顔が、俺の脳裏に過る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...