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第十六章 強く激しく

第174話 チュートリアル:白菜かけますね

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『チュートリアル:ランニングマシンで一番長く走ろう!』

「ッフッフッフ」

「――ックハ! もう限界だッ」

 隣の黒鵜さんがランニングマシンからずり落ちるように走るのを止めた。両手を太ももで支える姿勢。肩で大きく空気を吸い息も絶え絶えで汗をかきすぎて顔テカテカしている。

「まったく体力の無い男だ」

「はあッはあッくそ言っとけ惹句ッ」

「ッフッフッフ――」

「ほらドンドン距離が離されてるぞッ!」

「俺ならすぐに追いついてみせるさ」

「なら見せてくれよッ。ほら」

「仕方あるまい。ッフ――」

 ランニングマシンに乗った惹句さん。最初はスローで走っていたけど、徐々に速度を上げて行き全力ダッシュになった。

「ッフ! 学生の花房には負けられんな! このキングがすぐに追いついてみせるぞ!!」

 体力に自信があるのか、全速力で走りながらもニヒルな顔を俺に向けてくる惹句さん。

 俺は毎朝走り込んでるいつものペースで走ってる。

「うおおおおおおお!! キングは一人!! この俺だああああああ!!」

 絶叫しながら全速力。メーターの数値が物凄い速さで距離を稼いでいた。

 迸る汗。鈍く鳴る靴音。ランニングマシンの駆動音。

 一緒にトレーニングを開始し小一時間弱。

 ディフェンスに定評のある池上以上に筋力と持久力に定評のある俺。筋肉に負荷をかけるため重しを重ねに重ねたダンベルを持ち上げる俺を見たファイブドラゴンの面々。
 高校生の俺に負けてられないと黒鵜さんを始めとした惹句さん、流美さんが俺以上の重りを重ね対抗して来たことから、この競い合いは始まった。

 まぁ三人が勝手に始めた事だけど。俺と優星さんは危ないから張り合ってはいけない旨を伝えたけど、どうやら煽りに聞こえたらしくさらにムキになる始末。

「三人とも無理はダメよ?」

 ライダースーツ姿から普段着に着替えたアキラさんの忠言に耳を貸さず無理をする三人。

 案の定筋力では勝ち目がないと断念した結果、体力勝負なら自信があると言って俺に挑戦状を叩きつけてきた。

 ここにはランニングマシンが三台あって、真ん中に俺、右に優星さん、左に今走る惹句さんの並び。

「ふぅー。花房くん体力オバケかよ!! インチキ体力もいい加減にしろ!!」

「黒鵜体力無いね」

「一番体力の無い流美に言われたかねぇよ!?」

 会話の通り、先鋒の流美さん。中堅の黒鵜さん。大将の惹句さんと続き連投。隣の優星さんは無理のないペースで走ってる印象だ。

「うおおおおおおお!!」

 まぁムキになってるのはもう仕方ないとして、惹句さんは大丈夫なのだろうか。確かに全速力で走り続けメーターに刻まれる俺との距離をグングン縮めてるけど、明らかにオーバーな速度だ。心なしかマシンの軋む音も聞こえている。

 そんなことを思っていると――

 ――ッガタ!!

「うお――」

 ランニングマシンが少し変な挙動をし、全速力で走っていた惹句さんがバランスを崩した。

 そして。

 ――ドンガラガッシャン!!

 カタパルトタートルと化したランニングマシンに射出された惹句さん。ショートムービーで見た事のある顔面強打の仕打ちに俺含む全員が驚いた。

「惹句!!」

 無理のないペースで走ってた優星さんが項垂れる惹句さんにすぐさま駆け寄った。

 デンデデ♪

『チュートリアル:ランニングマシンで一番長く走ろう!』

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:速+』

 ランニングマシンで長く走ろうと言うのは距離なのか時間なのか曖昧だったからひたすら走ったけど、どちらにせよ優星さんが中断したおかげでチュートリアルをクリアした。

「ふぅ」

 ゆっくりスピードを落としてランニングマシンを止めた。

 俺も心配をして惹句さんに寄ろうかと思ったけど、振り向いたらすでに立っていた。

 強打した鼻を赤くさせて。

「フン! アクシデントが起きなければ俺が勝っていた!!」

「この分だと大丈夫そうね」

「惹句は頑丈だからな」

「心配して損した」

「コーヒー飲ませたら回復するだろ」

「……」

 なんだろうこの投げやり感。これがチームファイブドラゴンのいつものやり取り感なのか……。

「……惹句さんが無事で何よりです」

「気を遣わせたな花房!」

 腕を組んで仁王立ちする惹句さん。元キングと同じくキングらしい風格を感じた。

 少しだけ。

 場所は変わり事務所にある浴場前の脱衣所。

「――ぬわああああん疲れたもおおおおん」

「チカレタ」

「今日はッすげーキツカッタぞ~」

 上から黒鵜さん、惹句さん、流美さん。

「……」

 ネットミームでお馴染みな迫真空手部を彷彿とさせる言動だ。

 三人がグチグチ言いながら汗まみれのジャージを脱ぐ。優星さんと俺は静かに脱ぐ。

「脱ぐの早いなぁ」

「気持ち悪いからな」

「……」

 割れた腹筋。盛り上がる筋肉。露わになっていく鍛え抜かれた肉体。別に野郎の裸に興味は無いけど、みんなでシャワーとか修学旅行ぶりでなんだかワクワクしてしまう。

「花房くん、早くしろよ」

「あ、はい」

 もたもたしてるのを見かねたのか、黒鵜さんが心配を口にして先にシャワーを浴びに行った。その後ろにファイブドラゴンの面々も連なる。

 遅れて俺のシャワー室に入った。

 中はそこそこ広く、シャワーヘッドが五つ。俺もシャワーを浴びる。

「白菜かけますね」

 シャワーを浴びる流美さんがなぜそう言ったのか分からない。きっと空耳だろう。

「シャワールーム広いだろ?」

「そ、そうスね」

 シャワーを被り蟹頭を忘却の彼方へ追いやった優星さんが俺に声を掛けてきた。

「俺たちは元々バイク仲間で、地方の温泉巡りをするバイカーなんだ。だから浴槽の増築は厳しかったから、シャワーだけでも増築したんだ」

「そうだったんですね」

 やっぱシャワーが気持ちいいのは世界共通なんだよなぁ。疲れた体や、トレーニング後の汗まみれの体を流すのは最適だ。

「……?」

 ふと、ファイブドラゴンの面々が俺に注目してるのに気づいた。俺はどうしたんだと顔に表す。

「……凄いカラダだな」

「!?」

 優星さんの言葉で俺は自分の体を隠す様に縮こまる。

「アレだね。芸術的ってやつ」

「無駄な筋肉は付いていない。ダビデ像を思わせる黄金長方形だ」

「インチキ筋肉」

「う、ウス」

 喜んでいいのか尻すぼみするのかどっちなんだ。

 そんなことを思っていると、不意に惹句さんが腰に手を当て堂々の出で立ち。

「しかし!! 俺がキングなのは間違いないッッ!!」

「!?」

 思わず凝視してしまうぶらぶらと揺れるアレ。

「どれほど美しい筋肉であろうと! 俺のスカーライトに比べれば造作もないことッ!!」

「!?」

 筋力、持久力、体力、自信があるそれらを鑑みても明らかに決着は明白だ。

 さすがは欧米の血を受け継いだ人。νガ○ダム以上に伊達じゃない。

「それでマウント取るのはインチキだろうが!!」

「すまない。それと同じ小さい声で聞き取れない」

「お前ぶっ殺すぞ!?」

 黒鵜さん。キレる。

 不本意ながら、勝手にランキングを付けようと思う。

 一位 惹句さん。

 同率二位(たぶん) 優星さん。俺。

 四位 流美さん。

 五位 黒鵜さん。

 ナニとは言わないがナニだからナニだ。

 大きさうんぬんが目立つけど、大きさより愛が勝ると俺は信じてる。
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