上 下
166 / 218
第十五章 階段を上る

第166話 チュートリアル:赤い糸

しおりを挟む
「仙人になるための手っ取り早い方法は『内丹術』。つまり人体に内在する根源的生命力である『気』を凝集・活性化して心身を正していくのが一般的だネ☆」

 落ち着きを取り戻した俺たちは、モノホンの仙人からご教授を受けていた。

 人差し指を立てたリャンリャンがそう説明する。

「修行方法に歩行法や呼吸法があル☆ まぁ色々複雑な話に成るけど、要は仙道と呼ばれル☆」

「ふーん」

 俺と瀬那はコーヒーを飲みながら聞く。リャンリャンの繰り返しになるけど、仙人になるには仙道をしなきゃならないのね。俺って頭悪いから繰り返して覚えないと……。

「私が仙気を循環してるのも内丹術になるんですか?」

 ここで瀬那、俺が思っていたことをツッコんだ。

 瀬那の質問が嬉しいのか、リャンリャンは白い歯を見せてこう言った。

「そうだヨ☆」

 元気よく言ったリャンリャンに、思わず俺もコーヒーを吹きかけた。

「は!? 瀬那が強くなるために教えた修行方法が仙道だったて知ってて驚いたのかよ!? お前矛盾してるだろ!!」

「確かに瀬那ちゃんに教えた修行方法は仙道だけド、たかだか百年そこらしか生きれない人間には到底至れなイ☆ そもそも仙女になれる心身の地盤が整ってなイ☆」

「じゃ、じゃあ何で私が仙女に成りかけてるんですか?」

 そうだよ(大先輩風)。仙女になるための地盤やら寿命がーとか言ってるけど、そもそも仙女に成れない話なのに因果関係おかしいだろ。

「……はぁ」

 わざとらしく片手で頭を抱えるリャンリャン。大きなため息で少しイラついたのは内緒だ。瀬那の質問に答えるのが嫌では無いんだろうけど、言葉に詰まってる様子だ。

 一秒二秒、沈黙した後、リャンリャンは重い口を動かした。

「――大哥。前に修行方法の一つとして、ある事を教えたの覚えてるかイ」

「……ある事?」

 なんだろう。何なんだろう。何だっただろう。腕を組んで思い出そうとしてる俺を、心配そうに瀬那が見つめてくる。

 巷で話題を呼んでいる犬系彼女みたいにウーウー唸って思い出して見ると――

「――はぁ……」

 完全に思い出して溜息をついた。

「え、な、何なの? 怖いんですケド」

「いや、怖くない。あ、でもある意味怖いかも」

「どっち……」

 困惑する瀬那の気持ちは当然だろう。俺もリャンリャンも大きなため息を付いたし。

「瀬那。やっぱスゲーわ。瀬那って凄い」

「マジで怖いんですけど……」

「あれだろリャンリャン。房中術だろ」

「そうだネ☆」

「ぼうちゅうじゅつ?」

「修行方法の一つだってさ」

 房中術。互いのを漏らさず男女の気を交えることで体内の陰陽の気の調和をうんたらかんたら。要は性行為で修行する立派な道らしい。

 その昔、仙界である一人のヤリ○ンクソビッチ仙女が男共を食い散らかす事件が起きたらしい。リャンリャンの創作者であるリャンも襲われたらしいけど、撃退したそうだ。

 しかし、頭の悪い俺でも分かる矛盾がある。

「そもそも房中術てさ、仙人同士でセックスするから意味あるんじゃないの?」

「せ、せっくす……」ボフッ

 リャンリャンの前だからか、顔を赤くして頭から煙を出す瀬那さん。可愛い。

「俺仙人じゃないし瀬那も仙女じゃないじゃん。っていうかリャンリャン直々に仙気宿す才能無いって言われてるし、才能無さすぎてナメクジって言われてるじゃん」

「そこまで言ってないヨ☆」

 さいですか。

「確かに二人とも仙人じゃないシ、そこら中に残留してる瀬那ちゃんの仙気の痕跡を見ても大哥の気は混じってなイ☆」

「だろうな」

「ハ、ハズカシイィィ……」

 ますます赤くなる瀬那。可愛い。

 つか開眼して家中の床と壁見てたのって瀬那の仙気を見てたのか。クイックルワイパーで拭いたりソファにファブリーズしたけど、そういった物は残るのか。

「結論から言うト、瀬那ちゃんの才能は私が見てきた中でずば抜けて輝いてル☆」

「うん」

「そして房中術という修行方法は瀬那ちゃんと相性抜群☆ 瀬那ちゃんの才能に房中術、そして常人離れした大哥の生命力が加わるとあら不思議、仙女になりかけてるネ☆」

「……!?!? 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――」

「萌!? どうしたの!?」

 リャンリャンの一言で、俺は脳を破壊された。隣の瀬那が頭を抱える俺を心配してくれた。

「房中術が相性抜群ってアレかぁ……!! 同人誌みたいに知らない奴が瀬那を襲っても相性抜群ってことだよなあ!! そうだよなあリャンリャン!! 俺の心を壊さないでくれええええええええ!!!!」

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 瀬那がNTRれて俺にNYR報告の動画を送って来るなんて絶対に嫌だ!! 

 ムチムチ豊満ギャル人妻の瀬那が旦那の俺が留守の時に宅配に来たおやぢに襲われて俺に見せたアへ顔ダブルピースするのは嫌だ!!

 攻略者の俺がヘマして左遷されてしまうのを瀬那に話した国連のクソ野郎が無罪放免の交渉に瀬那の体を求めて仕方なく俺のためと体を許すも段々快感が勝って最終的には完堕ちして帰ってきた俺の目の前でNTR報告してくるのは嫌だ!!

 抜けるけど身に降りかかると心底嫌な例がこれだよ!!

「バカげた事妄想してるようけド、大哥が妄想してることは無意味だヨ☆」

 俺は瀬那を見る。

「瀬那監禁していいイイよね瀬那は俺だけの女性だし他の人間なんてどうでもいいよね俺だけいれば幸せだよね俺さえいれば――」

「萌が壊れた……。目にハイライト無いんですケド……。病んでるってやつですよね、コレ」

「大哥バカだかラ☆」

 俺を無視して話が続く。

「んーー。まぁ言葉を選ぶとすれば――」

 瀬那大好き瀬那大好き瀬那大好き瀬那大好き瀬那大好き――

「運命の赤い糸。かナ☆」

「運命の……赤い糸……!!」

「好☆ 既に大哥無しじゃ生きれない体に成ってるネ☆」

「私と萌って運命で結ばれてるんですね!!」

「目がキラキラしてるネ☆」

「ロマンチックです!!」

「身に宿した膨大な仙気だけで仙女に昇華するなんて私の常識には無かったけど、そういった言葉でしか片付けられないヨ☆ 仙女に成らせる気で修行させた私だけど勢いだけそもそも無理だったしネ☆ まぁこのまま修行すると間違いなく仙女に成るから、仙女のいい所でも話していこうかナ☆」

 好き好き大好き好き大好き好き好き大好き――

(もっとも大哥に宿ったが影響してる可能性もあるネ☆ さて、どうなることやラ☆)

 ――この後、瀬那にキスされて正気に戻った俺は、ここが最寄り駅だと気づいた。

「また明日ね!!」

「うん!! 明日!!」

 姿が見えなくなるまで手を振った。

 俺の隣の仙人も手を振っていた。

「アイヤー☆ 才能が有りすぎるのも考え物だネ☆」

「ポジティブに捉えよう。瀬那はもっと強くなる!」

 明日はゴールデンウィーク明けの登校日だ。

 ゴールデンウィークから朝のトレーニングチュートリアルをサボってたから、明日の朝は五時起きだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

序盤で殺される悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう〜主人公がキレてるけど気にしません

そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役貴族に転生した俺。 貴族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な公爵家の令息。 序盤で王国から追放されてしまうざまぁ対象。 だがどうやら前世でプレイしていたスキルが引き継がれているようで、最強な件。 そんで王国の為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインは渡さないぞ!?」 「俺は別に構わないぞ? 王国の為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「すまないが、俺には勝てないぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング40位入り。1300スター、3800フォロワーを達成!

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

最弱の職業【弱体術師】となった俺は弱いと言う理由でクラスメイトに裏切られ大多数から笑われてしまったのでこの力を使いクラスメイトを見返します!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
俺は高坂和希。 普通の高校生だ。 ある日ひょんなことから異世界に繋がるゲートが出来て俺はその中に巻き込まれてしまった。 そこで覚醒し得た職業がなんと【弱体術師】とかいう雑魚職だった。 それを見ていた当たり職業を引いた連中にボコボコにされた俺はダンジョンに置いていかれてしまう。 クラスメイト達も全員その当たり職業を引いた連中について行ってしまったので俺は1人で出口を探索するしかなくなった。 しかもその最中にゴブリンに襲われてしまい足を滑らせて地下の奥深くへと落ちてしまうのだった。

処理中です...