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第十五章 階段を上る

第165話 チュートリアル:やりすぎた結果

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『チュートリアル:朝ご飯を作ろう』

「♪~~」

 小さめなフライパンに薄く油をひき中火。手をかざし、少し熱いと思ったらフライパンに卵を二つ投入。黄身が崩れない様にゆっくりと。このタイミングで用意した濡れ布巾の上にフライパンを移す。フライパンの温度を下げるためだ。

 弱火に変えじっくり五分ほど。イイ感じ(俺の感覚)の頃合いなプルプル加減で火を止めた。

 半熟のトロトロが大好きな俺はそれ一択。二つの広く浅めな木製の皿に盛り付けたタイミングで――

 ――ガシャ

 少し焦げ目がついたイイ感じのトーストが二つトースターから頭を出す。

「あちち」

 熱々なトーストをつまんで盛り付ける。プラスチック製のミニカップにはブロッコリーのマヨネーズ和え。それを皿に添え、瀬那が待つテーブルに運ぶ。

「おおおお!! 美味しそー!」

「ごめん。ジャム切らせてるからバターでいいよね」

「うん!!」

 熱々のトーストの上にブロック状のバターを乗せる。

 簡単にではあるけどインスタントコーヒーを注いだカップも食卓に並べる。ティファールに熱湯がイイ感じに残ってたので二人分のコーンスープもついでに作った。これもインスタント。

 最後に糞おやぢ御用達のコンビニで買ったカットフルーツをガラスのカップに盛り付け、テーブルに並べたら完成。

「タイトルは『ちょっと彼女にいいところ魅せたいから少し頑張った俺の朝食』――完成!!」

「おおおおおおぉぉぉぉ!!」パシャパシャ

 基本的にはリャンリャンが朝食を作ってくれるけど、普段めんどくさくて作らない俺がいきりたいが為に作りましたはい。瀬那も目をキラキラさせてさっそくフォトを撮っている。

 デンデデン♪

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:力+』

 当然チュートリアルクリアだ。

「「いただきます!!」」

 トーストにかぶりつく瀬那。

「ンン~おいし~~」

 ホクホク顔の瀬那をコーヒーを飲みながら見た。

 トースト、目玉焼き、ブロッコリー、、コーンスープ、カットフルーツを全部平らげ、俺と瀬那はごちそうさまでしたを言った。

「食器洗いは私に任せて萌はコーヒー飲んでくつろいでてよ!」

「ありがとー」

 食器洗いは瀬那に任せてテレビを点けてコーヒーを飲む。今日は日曜日で明日はゴールデンウィーク明けの登校日だ。テレビには旅番組が流れている。

 朝日が窓から差し小鳥のさえずりが聞こえ、キッチンからは食器を洗う音が聞こえる。コーヒーを飲み何気ないテレビ番組を見る。

「……ふぅ」

 なんて。なんて充実したひとときなんだろう。

 目を瞑ればまるで瀬那と家庭をもったビジョンが見える見える。きっと子供は三人で年が近く、ここより広い部屋で仲良く遊んでいる。瀬那が食器を洗いながらわんぱくな子供たちを叱ったり、掃除している俺が宥めていたり……。

「……良い」

 幸せな俺の未来予想図が脳内で描かれる。

 立ち上がり、食器を洗う瀬那に堪らず後ろから抱き着いた。腕はお腹に、顔は瀬那の肩にうずめる。

「どうしたのー。息がくすぐったいんだけどー」

「瀬那さんのこと大好きです」

「知ってるーふふ」

 丁度食器洗いが終わったエプロン姿の瀬那。手を拭いた瀬那は振り返り俺を抱きしめてくれた。俺も抱きしめる。これがリア充だと全俺が歓喜の涙を流している。

「私もだーい好き!」

「将来さ、子供何人欲しい?」

「んーーー。十人くらいかなー」

「へ、へー十人かぁ……」

 いや多いな。いやマジで多いな。俺の未来予想図より七人多いんだが……。年一ペースだったら頑張り過ぎだろ。ビッグダディ並にどえらい世帯になるぞ……。

「ウーーー!」

 瀬那が唇を突き出して俺にキスを求めている。俺も乗り気の半面この光景に我が両親を彷彿としたのは絶対に遺伝だと思う。

 しかも目を><にしてるから可愛い。

「ウーーー!」

 俺もノリで同じように唸ってキスしようとした瞬間。

 ――ガチャ

 と玄関ドアが開く音。

「――我回来了(ただいま)☆」

 我が家の仙人が旅行から帰ってきた。

「「!?」」

 廊下を歩いて来る音が聞こえる。すぐさま抱き着いた状態から離れ、何も変な事ないよ、普通ですが、を髪をとかしたり服の皺を広げたりで装う。

 ――ガチャ

 リビングの扉が開いた。

「おかえりーリャンリャン!!」

「師匠おかえりなさい!! 京都のお土産楽しみです!!」

 相変わらずの中華風礼装。両手にはお土産であろう紙袋が何袋も持っていた。

「……你好☆」

 バレたわ。なんか間があったから絶対にバレたわ。こいつら何かしてただろって絶対にバレたわ。もう俺に向けるニビ○ムのタ○シの様な細い眼がそれを物語っている。

「はいコレ☆」

「ありがとうございます!!」

 瀬那が受け取った紙袋。どうやら生八つ橋だそう。他にも洋と和のベストマァッチ!!(ビルド風)の宇治抹茶と京都産豆乳を使った『京バアム』。百年愛される京都の定番和菓子『阿闍梨餅あじゃりもち』といった有名どころを色々買って来たようだ。

 とりあえず京都を満喫したリャンリャンにインスタントコーヒーを淹れた。

「お茶じゃないんだネ☆ 京都菓子だヨ☆」

「痛いとこ突くなぁ。まぁ飲んでよ」

「ガツガツガツ」

 お土産を食べる瀬那。

 俺も鴨サブレを食いながらコーヒーを飲むように催促。

「♪~」

 美味しそうに食べる弟子を見て機嫌がいいリャンリャン。カップを傾けコーヒーを飲む仕草を見ていると、細目が少しだけ開眼。俺の隣に居る瀬那を見た。

 瞬間。

「――ブフォ!?!?」

「――っ!?!?!?」

 正面に居る俺に口に含んだコーヒーを噴射しやがった。

「ちょなんだよ!? あ゛~顔にも服にも!!」

「えええと! タオル! タオル持ってくるね!!」

 キレる俺を無視して、パタパタと洗面所に向かう瀬那を目で追うリャンリャン。

 瀬那がリビングから姿を消すと、開眼したイケメン仙人は俺を見て、すぐさまリビングを見渡す。

「萌、はいこれ」

「ありがとう。もう何なんだよ……」

「あと服脱いで。シミになっちゃう!」

 服を脱いで上半身裸になる。そんな状況なのにリャンリャンは何かを確認しながら廊下へ行き、「アイヤー。アイヤー」と何回も呟きながら俺の部屋から風呂場まで隅々見て行った。

 そしてリビングに戻ってきたリャンリャンが珍しく声を張って――

「――二人とも座りなさイ!!」

「「ハイ!!」」

 俺と瀬那の戸惑いが一気に払拭され言われるがままに椅子に座った。

「色々言いたい事あるけド、先に言っておくヨ」

 語尾に☆を付けていない真剣な表情のリャンリャン。その圧に俺と瀬那は思わず唾を飲み込んだ。

 そして開眼したまま、リャンリャンはこう言った。

「いい、よく聞いテ。このままだと瀬那ちゃん――」

 ――仙女になっちゃうヨ。

「……ほえ?」

 俺たちは大人の階段を上ったけど、どうやら違う階段にも脚をかけていた様だ。
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