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第十五章 階段を上る

第150話 チュートリアル:動け! 何故動かん!!

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 ――ブン!

「――ッ」

 振り下ろされた如意金箍棒《にょいきんこぼう》。風を切る棒の先端。オーラ剣でいなそうと俺も迎え撃つが――

 ッピタ――ブンッ!

「!?」

 俺のタイミングに合わせて金箍棒が急停止。オーラ剣を振り切った俺に対し、下からの振り上げが俺を襲うも背中を反って避け大きく跳躍して距離を取った。

(振る速度が速い!)

 棒を巧みに使うのは鍛錬し強くなった結果だ。

「――伸びろ!」

「――え?」

 一声聞いた瞬間、俺の眼前に金箍棒の先端が一瞬にして伸びてきた。

 瞬時に顔を逸らすも頬のバリアがパリパリと削られる。

「ッへ!」

「!」

 伸びた如意棒を右手で掴んで捕まえたぞとニヤつく俺。瀬那は驚いた顔をするもすぐに引っ張った。

「っぐ! 動かないんですけどッ!!」

「俺って力持ちだからなーッハッハ―!」

 ぐむむと力いっぱい引っ張る瀬那って可愛い! 俺の彼女可愛い! 

「俺と瀬那は心でも通じ合ってるし、如意棒でも繋がってんだよなぁ」

「その余裕ムカつくー」

「ぐへへこれからどう料理しようかなぁぐへへ!」

「キャー私萌にもてあそばれちゃう~」

 瀬那がぷりぷりと恥ずかしそうに体をくねらせ、ついでに瀬那と俺を繋ぐ如意棒も二人でブランブランした。

「あ、如意棒離すね」

「ん? ――ぅお!?」

 いたずら顔を俺に見せた瀬那。ヒョイと手から離した如意棒を掴んだままでいると、感じたことの無い重さを右手に受け、そのまま床に倒れ込む。

「――ッ」

 如意棒から逃れられないと思考した俺は、体を捻って仰向けに倒れる。

 ――ドンッ!

(何故だ如意棒!! 何故動かん!!)

 仰向けの状態で手を動かそうとするも手の平に如意棒が触れていてすごく重い。アレか。所有者じゃないとクソ重い系か。ソーのムジョルニアと同じで高潔な心の持ち主でなければ持ち上げることが出来ないという高度なセキュリティ系か。

「俺だってムジョルニア持ちたいんだよおおおおおお!!」

 床に背中を付けた状態。

 そう叫びながら駆けてきた瀬那に体を捻って蹴りを放つ。

(これはバトルなんだよお瀬那さん。彼女だからって容赦しない!)

 瀬那の横腹目掛けた俺の意気込みは――

「ハイッ!」

 ――パリッ

 何かの力――仙気を纏った両手の掌底打ちにより軽く跳ね除けられる。

「――ッ」

 驚愕する俺。

「ふふーん♪」

 したり顔の瀬那。

 二人の熱い視線が交差し、これから情熱的な絡みを――

「したいんだよ!!」

 ガシっと瀬那の左脚首を掴む。

 パリパリと瀬那のバリアが俺の握力でヒビが入る。

 ここから俺は瀬那のバランスを崩し、バリアを破壊する一撃をお見舞いするつもりだ。まだまだ勝ってマウントを取りた――

「――ッえい!!」

「おごぉおおお!?!?」

 仙気を纏った瀬那の蹴り。

 それはサッカーボールを蹴る様に俺の局部を捕らえ、ものの見事に俺のバリアを破壊した。

《WINNER!!》

 ちなみに俺のきんのたまも破壊されそうになった。

 生きてた。

 よかった。


「ご、ごめん。大丈夫?」

「大丈夫、です……」

 瀬那が気を使って肩を貸してくれてる。くっ付く事で変形した豊満を感じて嬉しいばかりだけど、正直キツイ。股間からじんわりくる痛みでキツイし、精神的にもキツイ。

 バトルに負けたからじゃない。

 ルーラーズ新顔の俺が氷結界の里に出張ったのがつい一昨日の話。ネクロスさんとの共同作戦だって聞いて先にダンジョンに行ったものの、ヤマトサークルと優星さんたちがピンチだったし、変な虫野郎もいるしで訳わかめだった。

「私スポドリ買ってくるね! 萌は座って待ってて!」

「ありがとう瀬那~」

 槍が折れてるってリャンリャンから聞いたからウルアーラさんの遺品であるトライデントを西田メンバーに貸した。まぁ槍使ってたし相性ええやろと思ったら何か覚醒するしでちょっと主人公っぽかった。知らんけど。

 そこからはモンスター軍団をぶっ潰してたらお目当ての龍が出てくるわあのクソ野郎ことカルーディも出てくるわでてんやわんや。

 見事トリシュラを封印したネクロスさん。俺の心情を逆なでしたカルーディを二人でボコって終わった。

 昨日は白鎧たちに報告したりカルーディ――本能たちの動向も気になる一方、国連との密かな連携も気にしたいといけないと、もうしんどかった。

 まぁ俺的にはヤマトサークルのサークル長である大和 撫子さんのサインを貰って嬉しかった。俺ってば年上好きで卒業生の朝田 沙織さん――アサにゃんの様な人がタイプだったりする。

 容姿端麗に加え高身長。目がキリッとしていてつおい女性の象徴って感じの撫子さんはもうドンピシャ。秒でサイン求めたからなぁ。

 あ。あくまでタイプというだけで付き合いたいとかではない。推しなんだよ推し。俺みたいなクソガキでも、お瀬那さんというきゃわたんな彼女がいるんだ。裏ぎれないぜ!

「おまたせー。はいコレ」

「あざ~す」

 ペットボトルのキャップを開けてごくごくと飲む。うん! 美味い!

「萌、ほんとに大丈夫? けっこう本気で蹴っちゃったから……」

「大丈夫。もう痛くない……いや、じんわり痛いけど大丈夫だよ。でも遂に負けてしまったかぁ」

「まぁ勝ちはしたけど勝ち方っていうか……納得できない……」

「急所を突くのも一つの戦法だって。実戦じゃ文句なんて言ってられないし」

「そうだけど……」

 実力がついても心配性なところは変わらないなぁ。あんまり思いつめるのも良くないし、少し話を変えるか。

「今回のバトルのターニングポイントは如意棒だな。今まではオーラ剣でぶつけ合ったのを手で掴んだのが敗因だわ」

「え! どう? 重かった?」

「重いとかじゃないって! 脳裏に過ったね、この重さ、地球だ……って」

「大げさじゃーんふふ! 実は如意棒って意志があるっぽいんだよねー。私が選んだってのじゃない、私が選ばれたって感じ!」

「ハリポタの杖じゃん」

「こっちは棒ですぅー」

 それからは機嫌を良くした瀬那とお話し、プライベートバトルルームの制限時間の許す限りバトルをした。放課後で一汗かいた俺たちはシャワー室で汗を流し、夕食デートをする。ちなみにマック。

「パクパクパクパクパクパク」

「凄い食べるなぁ」

「ンク。萌もいっぱい頼んでるじゃん」

「俺は燃費悪いから……」

 燃費の悪い俺はカロリーを大量に摂取したいけど、俺の同じ量くらいあるハンバーガーを食べる瀬那。もうカービィである。よく太らないなぁと思ったけど、よくよく考えれば食ったもの仙気に変換してるんだったと思い出す。

 ……約三億の俺のアレを飲み込んだ口を見ていると興奮してくる。

 あぁ^~たまらねぇぜ。もう一度やりたいぜ。

「ぐふふー」

 俺が悶々と思い出に浸っていると、瀬那が企んだ顔を俺に向けてきた。

「来週の土曜日は何の日か知ってますか~?」

「……俺のお姫様のお誕生日です」

「正解!」

 嬉しそうな笑顔。気恥ずかしくなったのか、ストローを咥えてジュースを飲んだ。

「チュー、萌は何プレゼントしてくれるのかな~」

「それはお楽しみって事で」

 来週の土曜日は瀬那の誕生日。

 俺より少し早く十八歳になる。
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