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第十四章 氷結界
第149話 チュートリアル:報告書
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「ふぅ……」
有栖は自分の執務室でため息を付き、浮き上がった文字列を払う様な仕草で閉じた。
湯気が上がる砂糖いっぱいのカフェラテを口に含み、少し咀嚼して飲み込んだ。
バイカル湖に出現したダンジョン――『氷結界の里』
緩やかにゲートが閉じる間に様々な調査が行われ、随時更新される調査報告書を読む有栖。
頭痛がするほどの情報量に思わず眉間を押さえる有栖だったが、一旦頭中で整理する事にした。
まず、ダンジョンが現れたのは時間未明のロシア――バイカル湖。
湖水面面積は滋賀県の琵琶湖のおよそ46倍。その湖がダンジョン影響で凍結し、『氷結界の里』の脅威は計らずとも予想が付いた。
ロシア部隊、純血派一派の部隊が調査・攻略に向かうも壊滅的な被害を受け帰還した。
有栖の悩みの種である純血派のやり取りと国連とロシア情勢のくだりは置いておく。
ロシアと国連の部隊が壊滅し諸国たちが尻込みする中、日本が誇るサークル――大和 撫子率いるヤマトサークルが声をあげた。氷結モンスターと交戦経験がある実力派のサークル――ファイブドラゴンも特例で参戦。
以降は二つのサークルがダンジョン攻略として『氷結界の里』に入った。
「ふぅ……砂糖入れすぎちゃったかなぁ」
調査班は里の調査に乗り出し、作戦通り大和 撫子・西田 信彦・ファイブドラゴンの面々で一体ずつ確実に倒すはずが、急遽作戦変更。大和 撫子は単身西の龍へと向かい、西田 信彦とファイブドラゴンの面々は予定通り東の龍へ進行。
※ここで大和 撫子は何者かの視線を感じた模様。後に登場する君主を指しているとは言い切れない。
道中、氷結の名を持つモンスターと対峙するも難なく討伐。続く『氷結界の晶龍 ヴリューナク』も難なく討伐。
里内で蜘蛛型のモンスターが大量に出現したが、負傷者を数人と抑え護衛の攻略者がモンスターを討伐。
調査班の報告書によると、寺の様な建造物に石像の様に固まった人間の死体を確認。
※死体の詳細については後述。
再び里内に大型の蜘蛛モンスターが出現。これを顕現したルーラーズの一体――幻霊君主 ティアーウロングが討伐。
撫子が里に帰還し幻霊君主と膠着状態になる。
※幻霊君主は日本人の可能性があり。調査を続行。
同時期に東の龍――『氷結界の轟龍 グングニル』と戦闘する西田 信彦とファイブドラゴンの面々。苦戦の末、突如、幻霊家臣黄龍仙が出現。西田 信彦に槍を貸し出し、辛くもグングニルを討伐。
ここで『氷結界の零龍 トリシュラ』率いるモンスターの集団が強襲。
「……そう。ここで一瞬通信が途切れ、すぐに繋がったものの状況が一変していて訳が分からなかった」
有栖は一旦深呼吸し、ひとまず整理を止める。
「咆哮一つで時間を止める? 馬鹿馬鹿しい」
その他にも、エルドラドたちと敵対関係であるルーラー――『傀儡君主 カルーディ』の出現。『氷結界の里』が出現したすべての元凶と自ら名のった。
そしてトリシュラを封印したもう一体のルーラー――『藍嵐君主 ネクロス』の出現。
藍嵐君主はどうやらティアーウロング、エルドラドと手を組んだルーラーの一体であるとアドバイザーエル氏ことエルドラドが裏で言及。
ティアーウロング、ネクロスの二体でカルーディを倒すも、本体ではないと受け取れる発言。油断はできない。
「……まぁカルーディの事はエルドラドに詳細を聞くとして」
有栖は無造作に置かれたタブレット端末でファイルを開く。
そこに書かれていたのは寺の建造物にあった死体についてだった。
「死後五日と見られていたが調査の結果、封印術にも似た正体不明の術で死後五日と固定されていた形跡が見られる……」
建造物に居た老人の遺体が国連が回収し調査された。
「死亡要因は心臓を抉られたと考えられるが、これも正体不明の術によって明らかではない。絡繰君主カルーディが関わっているとも考えられる……」
現状の判断でしかない憶測交じりの報告。
赤く表示された『心臓』の部分。それをタップすると、画面が切り替わった。
「老人の心臓には『特殊な力』が宿っていたと建造物の文献に書されてあった。正体不明の何者かが老人の心臓を抉り、その心臓を強奪したと見られる、か」
重要かつ短い文。これもカルーディの仕業だと思うのが普通だが、有栖は直感的にカルーディの仕業ではないが、カルーディが関わっていると踏む。
「えーと。ここからは里にあった文献の調査報告ね」
古代の戦いが書かれた文献もあり、有栖は興味深く読んだ。
膨大な量の報告書。
その一端である文献を呼んでいたところ、新しい通知が入る。
何だと思いタップする有栖。
「……寺の地下にあった死体」
ここで老人以外の死体の報告。
「いくつもの死体が積まれた状態で発見。腐乱死体も発見したが、獣による獣害と思われた死因は調査の結果、人為的に殺害されたと思われる。腐乱死体にある歯型を調べたところ人の歯型と判明。――老人の歯型と一致……」
思わず天井を見上げる有栖。数々の報告書を読んだ有栖だが、この先に続く報告を読むのを躊躇った。
「あーキツイのかぁ……。ストレス溜まるぅ……」
有栖は一人で仕事をするとダメダメなところを晒す。それを上司に注意されるも性分だからとキッパリ言い放った。
「久しぶりにダンジョン潜りたいなぁ。冒険したいなぁ」
今の彼女はそんな我儘は通らない。
「――ふぅ。仕事しますかぁ」
まだまだ終わらない報告書の数々。
気を取り直して仕事をするのであった。
有栖は自分の執務室でため息を付き、浮き上がった文字列を払う様な仕草で閉じた。
湯気が上がる砂糖いっぱいのカフェラテを口に含み、少し咀嚼して飲み込んだ。
バイカル湖に出現したダンジョン――『氷結界の里』
緩やかにゲートが閉じる間に様々な調査が行われ、随時更新される調査報告書を読む有栖。
頭痛がするほどの情報量に思わず眉間を押さえる有栖だったが、一旦頭中で整理する事にした。
まず、ダンジョンが現れたのは時間未明のロシア――バイカル湖。
湖水面面積は滋賀県の琵琶湖のおよそ46倍。その湖がダンジョン影響で凍結し、『氷結界の里』の脅威は計らずとも予想が付いた。
ロシア部隊、純血派一派の部隊が調査・攻略に向かうも壊滅的な被害を受け帰還した。
有栖の悩みの種である純血派のやり取りと国連とロシア情勢のくだりは置いておく。
ロシアと国連の部隊が壊滅し諸国たちが尻込みする中、日本が誇るサークル――大和 撫子率いるヤマトサークルが声をあげた。氷結モンスターと交戦経験がある実力派のサークル――ファイブドラゴンも特例で参戦。
以降は二つのサークルがダンジョン攻略として『氷結界の里』に入った。
「ふぅ……砂糖入れすぎちゃったかなぁ」
調査班は里の調査に乗り出し、作戦通り大和 撫子・西田 信彦・ファイブドラゴンの面々で一体ずつ確実に倒すはずが、急遽作戦変更。大和 撫子は単身西の龍へと向かい、西田 信彦とファイブドラゴンの面々は予定通り東の龍へ進行。
※ここで大和 撫子は何者かの視線を感じた模様。後に登場する君主を指しているとは言い切れない。
道中、氷結の名を持つモンスターと対峙するも難なく討伐。続く『氷結界の晶龍 ヴリューナク』も難なく討伐。
里内で蜘蛛型のモンスターが大量に出現したが、負傷者を数人と抑え護衛の攻略者がモンスターを討伐。
調査班の報告書によると、寺の様な建造物に石像の様に固まった人間の死体を確認。
※死体の詳細については後述。
再び里内に大型の蜘蛛モンスターが出現。これを顕現したルーラーズの一体――幻霊君主 ティアーウロングが討伐。
撫子が里に帰還し幻霊君主と膠着状態になる。
※幻霊君主は日本人の可能性があり。調査を続行。
同時期に東の龍――『氷結界の轟龍 グングニル』と戦闘する西田 信彦とファイブドラゴンの面々。苦戦の末、突如、幻霊家臣黄龍仙が出現。西田 信彦に槍を貸し出し、辛くもグングニルを討伐。
ここで『氷結界の零龍 トリシュラ』率いるモンスターの集団が強襲。
「……そう。ここで一瞬通信が途切れ、すぐに繋がったものの状況が一変していて訳が分からなかった」
有栖は一旦深呼吸し、ひとまず整理を止める。
「咆哮一つで時間を止める? 馬鹿馬鹿しい」
その他にも、エルドラドたちと敵対関係であるルーラー――『傀儡君主 カルーディ』の出現。『氷結界の里』が出現したすべての元凶と自ら名のった。
そしてトリシュラを封印したもう一体のルーラー――『藍嵐君主 ネクロス』の出現。
藍嵐君主はどうやらティアーウロング、エルドラドと手を組んだルーラーの一体であるとアドバイザーエル氏ことエルドラドが裏で言及。
ティアーウロング、ネクロスの二体でカルーディを倒すも、本体ではないと受け取れる発言。油断はできない。
「……まぁカルーディの事はエルドラドに詳細を聞くとして」
有栖は無造作に置かれたタブレット端末でファイルを開く。
そこに書かれていたのは寺の建造物にあった死体についてだった。
「死後五日と見られていたが調査の結果、封印術にも似た正体不明の術で死後五日と固定されていた形跡が見られる……」
建造物に居た老人の遺体が国連が回収し調査された。
「死亡要因は心臓を抉られたと考えられるが、これも正体不明の術によって明らかではない。絡繰君主カルーディが関わっているとも考えられる……」
現状の判断でしかない憶測交じりの報告。
赤く表示された『心臓』の部分。それをタップすると、画面が切り替わった。
「老人の心臓には『特殊な力』が宿っていたと建造物の文献に書されてあった。正体不明の何者かが老人の心臓を抉り、その心臓を強奪したと見られる、か」
重要かつ短い文。これもカルーディの仕業だと思うのが普通だが、有栖は直感的にカルーディの仕業ではないが、カルーディが関わっていると踏む。
「えーと。ここからは里にあった文献の調査報告ね」
古代の戦いが書かれた文献もあり、有栖は興味深く読んだ。
膨大な量の報告書。
その一端である文献を呼んでいたところ、新しい通知が入る。
何だと思いタップする有栖。
「……寺の地下にあった死体」
ここで老人以外の死体の報告。
「いくつもの死体が積まれた状態で発見。腐乱死体も発見したが、獣による獣害と思われた死因は調査の結果、人為的に殺害されたと思われる。腐乱死体にある歯型を調べたところ人の歯型と判明。――老人の歯型と一致……」
思わず天井を見上げる有栖。数々の報告書を読んだ有栖だが、この先に続く報告を読むのを躊躇った。
「あーキツイのかぁ……。ストレス溜まるぅ……」
有栖は一人で仕事をするとダメダメなところを晒す。それを上司に注意されるも性分だからとキッパリ言い放った。
「久しぶりにダンジョン潜りたいなぁ。冒険したいなぁ」
今の彼女はそんな我儘は通らない。
「――ふぅ。仕事しますかぁ」
まだまだ終わらない報告書の数々。
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