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第十四章 氷結界
第144話 チュートリアル:おつかれさん
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「ぐわああああああ!!」
「黒鵜ッ!!」
鞭の様にしなり薙ぎ払ったグングニルの尻尾。それを浴びた烏丸は衝撃に比例して大きく大きく吹き飛んだ。
「――っぐ!?」
激突した氷の柱は大きく瓦解。柱に沿う様に地へと落ちた烏丸。
悲鳴をあげた優星はうなだれた烏丸を見るも、膝を着き立ち上がろうとしている烏丸を見て安堵。敵であるグングニルに敵意を以って睨むのだった。
口元に流れる血を腕でで拭い、持っている剣を氷の地面に突き刺した。
(ダンプカーにでも引かれた気分だ……! グングニルの治癒能力が高すぎる!! インチキ効果もいい加減にしろ!!)
烏丸のスキル――『黒い旋風』は、黒羽の紋章が彫られた剣で攻撃し、与えた攻撃の数だけ"カウンター"が溜り、烏丸の意志一つでカウンターの数に応じた一撃による衝撃が与えれるスキルである。
初撃から数えるカウンターが溜る効果時間は約一時間。カウンターが溜れば溜まるほど、その攻撃力は増す仕様上、攻撃を当てる回転数が必須になる。
「グガアアアア!!」
「ライトニング・インパクト!!」
「アサルト・フィスト!!」
今尚拮抗している様に見えている攻防。息を整えながらこの結果を見る烏丸は、自分の力不足を痛感した。
(攻撃を当て続け、時間いっぱいギリギリまで引っ張った黒い旋風……。過去最高の一撃だったにも関わらず、奴の氷鎧を凹ませただけッ!!)
理想とかけ離れった現実の結果。それを噛み締めながらも、メンバーの様子を確認する。
(俺と同じく息を整えている惹句と流美は共に軽傷。優星と西田メンバーはグングニル相手に健闘している)
惹句のスキル――『バーニング・ソウル』。
悪魔の龍を身に宿し燃ゆる魂の如く龍の力を一部使う事が可能。
大きく体力を消耗するといった高燃費だが、その力たるや、ものの一発のグングニルの右後ろ脚を破壊。治癒力が高いグングニルでさえ破壊された脚をすぐには戻すことは不可能で、巨体の動きを鈍らせることに成功した。
しかし、ここで激怒したグングニルは大きく息を吸った。
間違いなくブレス攻撃。
国連を凍結させたブレスは絶対に貰ってはいけないと優星たちは躍起になって攻撃するも、優星の顎へのフィストでも止められず、遂にはブレスを許してしまう。
壊滅の危機。
ここで惹句、渾身の檄。
――キングは一人! この俺だあああああああああああああ!!!!
バーニングソウルをフル稼働し、悪魔の龍の衝撃波をその身から迸しらせた。
万物を凍結させる息。
悪魔の力を乗せた波動。
爆ぜる様に激突し、衝撃波が押している風に見えた瞬間、勢いは拮抗し、徐々に押されていくのだった。
しかし、ここで流美が動く。
――惹句! その力を高める!!
流美のスキル――ブレイクリミッター。
触れた相手のスキルの性能をを強制的に数段階上げるスキル。要はバフだと流美は言う。
ブレイクリミッターでバーニング・ソウルの性能が上がり、押し返すまでとはいかずも拮抗に持ち込んだ。この拮抗により氷の柱が何個も生まれ地形を変える。
やがてグングニルの体力が尽きたのかブレス攻撃は止み、全力を注いだ惹句と流美は後方へと下がり態勢を整えるのであった。
「優星……」
十六夜アキラは健闘する優星に対し心配を口にする。それはサークル長を心配していると同時に、恋人としてもその大きな胸で胸騒ぎが収まらない。
アキラのスキルは特殊であり、自爆にも等しい物。故にこの戦いは熾烈を極めれば極める程、優星に何かある前に、と心を決めるも、今の自分の力では足手まといなのだと歯痒い気持ちでいた。
そのアキラの気持ちを知ってか知らずか、優星は攻める。
「ハアアアア!!」
暴れるグングニルの攻撃を避けては攻め、身体能力をフルに使い縫う様に避けては隙あらば攻撃に転じた。
しかし、グングニルの氷鎧を穿つには圧倒的に攻撃力が足らなかった。
ここで優星。西田とアイコンタクトを取る。
「西田メンバー!」
「ッ!!」
一時的に聴力を失った西田は持ち前の戦闘センスで辛くもグングニルにしがみつき、何とか攻撃を続けていた。
読唇術は無いがこの攻め、このタイミング、明らかにここぞとばかりの場面。
西田の覚悟や良し。
対象を見定めた優星。
「スキル――同期!!」
苦楽を共にし、寄り添い、笑い合う。その絆が、結び付く絆の力が強い程、このスキルは強く発揮する。
雷を纏い、両腕には半透明な機械の腕。優星の手には半透明の西田と同じ槍。首には風に靡く半透明のマフラーは必要以上に伸びる。
両者の強化形態を混ざり合わせた姿。爆誕。
「「ハアアアアアアアアアアアアア!!!!」」
「グガアアアアアアアアアアアアア!!!!」
氷結の轟龍に挑むは雷を纏い槍を持つ巨椀の異形の二柱。
槍と尾が激突すれば雷が迸り衝撃波が空を揺らす。
機械の拳と強靭な翼が互いを押しつけあると地面が砕ける。
一撃一撃が必殺の威力。
「まダバだあ゛あ゛ああああ!!」
「うおおおおおおおおお!!」
鬼気迫る両者の怒気。
突いて攻める。
打つように攻める。
貫き打つように攻める。
何故ならば氷鎧を貫き桃色の血が流れたから。
何故ならば氷結の龍が悲鳴をあげているから。
ここで攻めなければいつ攻める。
――時間は待ってくれないのだ。
「グガ□■アア■アア■ア――」
悲鳴にも似たグングニルの咆哮。痛みからの咆哮ではない。弱り切った身体とは言え羽虫共に追い詰められたから。魔神を嚙み殺し、飛来体共を凍結させ遊ぶように踏み潰した圧倒的な愉悦を感じるプライドが許さないから。
到底我慢が効かないと謳うグングニルは、巨体からは信じられないしなやかな動き、執拗なまでの執着と執念が踏みしめる地を揺らし、咆哮が雲を裂き、純粋な殺意を宿す眼がたった二人に注がれる。
「……凄い」
激突する度に、三者の咆哮が鼓膜を震わす度に、呆然とする。
アキラは自然にそう呟いてしまう。目の前に広がる光景は現実ではなくCGを駆使した映画なのではと錯覚してしまう。
「ヨシ!!」
健闘に期待を持つ黒鵜。
「流石だな」
腕を組んで見守る惹句。
「このまま突っ走れ!」
笑顔の流美。
桃色の血を流すグングニル。攻撃が通ればこちらのモノだと心を熱くする四人。
攻撃をする度に歯ぎしりを伴う程に歯を噛み締める龍と二人。
決着は近い。
「「フィストッ!!」」
「ッカッ!?」
機械の拳のフィストは顎を捕らえアッパー。
「――ッ」
グングニル、二乗の衝撃により堪らず上を向き顎が下がった。
――これを待っていた。
(仕留めるッ!!)
(チャンスだッ!!)
雷の速さで上昇した二人。奇しくも空中で背中合わせになり、グングニルを見せうる槍の矛先が重なった。
二人はグングニルの一点を見据え、雷の如くグングニルの柔らかな口内へと落雷。
「「アサルト・インパクトオオオオオオ!!!!」」
雷撃から枝分かれするように二人のマフラーが激しくなびき――
「ッッッ――」
本日最大の一撃がグングニルの顎と重なった。
身を焦がすような衝撃波が生まれ、視界を白く染めた。
――――――キィィィィィィン
音が無い世界。
西田は吹き飛ばされ、自分が倒れている事に気付いた。
視界がぼやける中震える脚、腕を使いゆっくりと膝を着いた。
(どう……なった……?)
――――――キィィィィィィン
段々と見えてきた視界。
最初に見えてきたのは人だった。
「――ッ! ――っ!! ――ッ!!」
彼女は乞うように泣いていた。
力なく横たわる男の手を握りながら。
(――不動……)
――ドンッ
「!」
大きな振動が伝わり震源を見る。
「ッ!! ――!!」
勢いを殺した黒鵜が指をさしながら怒鳴っている。
その奥を見ると惹句が駆け、流美が回りこもうとしている。
つまりは戦っている。
「グガアアアア!!」
氷結の龍と。
(あのトカゲ野郎、まだピンピンしてやがるッ!!)
優星が倒れ、同期による同調もグングニルの前には刃が立たなかった。
この絶望的な状況にでも、西田は口元を緩ませる。
(おもしれぇ!! やってやろうじゃねーか!!)
意気揚々と側にある槍の柄を掴んだ西田。
――――――キィィィィィィン
(――――――)
動揺した。
(――折れて……やがる……)
西田の槍は穂先の小さな一部分しか残っておらず、もはや槍と言うには無理がある状態に陥っていた。
西田の槍は撫子が用意した特注の代物。一般的な槍を使うには惜しい存在だと判断し、サークルの戦力増幅と言った形で西田に渡ったものだった。
(……そうか)
頑丈だと言われた槍は西田も気に入り、幾多のダンジョン、幾多のモンスターを倒してきた相棒だった。
驚いた西田だったが、優しい笑顔になり、槍に向けてこう言った。
「――おつかれさん」
この耳が聞こえない状況でちゃんと言えたか定かではない。だが西田は誠心誠意の感謝を伝えたのだった。
そしてそっと柄を地面に置いた。
(ちゃんと持って帰るから待っててくれ。っま、生きてたらだけどな)
心の中で決意をし、西田はグングニルを見据え確かな足取りで立ち向かうのだった。
(今俺ができる事は精々拳に雷を纏わせて殴るくらい。花房くんがオーラを剣にするくらいには、俺も訓練しとくんだった……)
ここに来てサボり気味な訓練を後悔する西田。
動く度に地鳴りを鳴らせるグングニルにどう立ち向かうか、それを考えていた。
その時だった。
――――――ッゾゾゾ
文句を言う黒鵜。ひたすら立ち向かう惹句。駆けまわる流美。泣きじゃくるアキラ。
グングニル。
西田。
この場の全員が感じた悪寒にも似た第六感。
ブレスと衝撃波で生まれた一番高い柱の上に一切の視線が集まった。
「―――」
腕を組んでいた。
漆黒をベースとし金の装飾が散りばめられた鎧。冷たい風が髪を撫で、猛禽類に似た脚は柱のてっぺんに喰い込めせている。
この圧倒的な存在感を出す者。
西田の視界にメッセージ画面が表示される。
『幻霊家臣 黄龍仙』
――何故お前が。
西田の思考はそこで止まる。
突如、黄龍仙が投擲。自分への攻撃と分かるや否や、西田は身構えるが脚が動かなかった。
――殺られる!!
腕をクロスし苦し紛れの防御。
投擲が激突し、西田の頬を地面の片と冷たい風が撫でた。
(――生きてる――ッな)
痛みは感じない。
しかし、クロスした腕を解くと、西田は目の前のモノに釘付けとなる。
「我が主が貴様に都合を付けろとの達し」
渦巻く様な形状。帯電する雷が大気を焦がす。
「貴様は屠れるか。氷結の名を持つ轟龍を」
西田は見る。地面に突き刺さる三又の槍を。
『深海王の槍 トライデント』
人魚姫が残した武器。
ここにあり。
「黒鵜ッ!!」
鞭の様にしなり薙ぎ払ったグングニルの尻尾。それを浴びた烏丸は衝撃に比例して大きく大きく吹き飛んだ。
「――っぐ!?」
激突した氷の柱は大きく瓦解。柱に沿う様に地へと落ちた烏丸。
悲鳴をあげた優星はうなだれた烏丸を見るも、膝を着き立ち上がろうとしている烏丸を見て安堵。敵であるグングニルに敵意を以って睨むのだった。
口元に流れる血を腕でで拭い、持っている剣を氷の地面に突き刺した。
(ダンプカーにでも引かれた気分だ……! グングニルの治癒能力が高すぎる!! インチキ効果もいい加減にしろ!!)
烏丸のスキル――『黒い旋風』は、黒羽の紋章が彫られた剣で攻撃し、与えた攻撃の数だけ"カウンター"が溜り、烏丸の意志一つでカウンターの数に応じた一撃による衝撃が与えれるスキルである。
初撃から数えるカウンターが溜る効果時間は約一時間。カウンターが溜れば溜まるほど、その攻撃力は増す仕様上、攻撃を当てる回転数が必須になる。
「グガアアアア!!」
「ライトニング・インパクト!!」
「アサルト・フィスト!!」
今尚拮抗している様に見えている攻防。息を整えながらこの結果を見る烏丸は、自分の力不足を痛感した。
(攻撃を当て続け、時間いっぱいギリギリまで引っ張った黒い旋風……。過去最高の一撃だったにも関わらず、奴の氷鎧を凹ませただけッ!!)
理想とかけ離れった現実の結果。それを噛み締めながらも、メンバーの様子を確認する。
(俺と同じく息を整えている惹句と流美は共に軽傷。優星と西田メンバーはグングニル相手に健闘している)
惹句のスキル――『バーニング・ソウル』。
悪魔の龍を身に宿し燃ゆる魂の如く龍の力を一部使う事が可能。
大きく体力を消耗するといった高燃費だが、その力たるや、ものの一発のグングニルの右後ろ脚を破壊。治癒力が高いグングニルでさえ破壊された脚をすぐには戻すことは不可能で、巨体の動きを鈍らせることに成功した。
しかし、ここで激怒したグングニルは大きく息を吸った。
間違いなくブレス攻撃。
国連を凍結させたブレスは絶対に貰ってはいけないと優星たちは躍起になって攻撃するも、優星の顎へのフィストでも止められず、遂にはブレスを許してしまう。
壊滅の危機。
ここで惹句、渾身の檄。
――キングは一人! この俺だあああああああああああああ!!!!
バーニングソウルをフル稼働し、悪魔の龍の衝撃波をその身から迸しらせた。
万物を凍結させる息。
悪魔の力を乗せた波動。
爆ぜる様に激突し、衝撃波が押している風に見えた瞬間、勢いは拮抗し、徐々に押されていくのだった。
しかし、ここで流美が動く。
――惹句! その力を高める!!
流美のスキル――ブレイクリミッター。
触れた相手のスキルの性能をを強制的に数段階上げるスキル。要はバフだと流美は言う。
ブレイクリミッターでバーニング・ソウルの性能が上がり、押し返すまでとはいかずも拮抗に持ち込んだ。この拮抗により氷の柱が何個も生まれ地形を変える。
やがてグングニルの体力が尽きたのかブレス攻撃は止み、全力を注いだ惹句と流美は後方へと下がり態勢を整えるのであった。
「優星……」
十六夜アキラは健闘する優星に対し心配を口にする。それはサークル長を心配していると同時に、恋人としてもその大きな胸で胸騒ぎが収まらない。
アキラのスキルは特殊であり、自爆にも等しい物。故にこの戦いは熾烈を極めれば極める程、優星に何かある前に、と心を決めるも、今の自分の力では足手まといなのだと歯痒い気持ちでいた。
そのアキラの気持ちを知ってか知らずか、優星は攻める。
「ハアアアア!!」
暴れるグングニルの攻撃を避けては攻め、身体能力をフルに使い縫う様に避けては隙あらば攻撃に転じた。
しかし、グングニルの氷鎧を穿つには圧倒的に攻撃力が足らなかった。
ここで優星。西田とアイコンタクトを取る。
「西田メンバー!」
「ッ!!」
一時的に聴力を失った西田は持ち前の戦闘センスで辛くもグングニルにしがみつき、何とか攻撃を続けていた。
読唇術は無いがこの攻め、このタイミング、明らかにここぞとばかりの場面。
西田の覚悟や良し。
対象を見定めた優星。
「スキル――同期!!」
苦楽を共にし、寄り添い、笑い合う。その絆が、結び付く絆の力が強い程、このスキルは強く発揮する。
雷を纏い、両腕には半透明な機械の腕。優星の手には半透明の西田と同じ槍。首には風に靡く半透明のマフラーは必要以上に伸びる。
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「「ハアアアアアアアアアアアアア!!!!」」
「グガアアアアアアアアアアアアア!!!!」
氷結の轟龍に挑むは雷を纏い槍を持つ巨椀の異形の二柱。
槍と尾が激突すれば雷が迸り衝撃波が空を揺らす。
機械の拳と強靭な翼が互いを押しつけあると地面が砕ける。
一撃一撃が必殺の威力。
「まダバだあ゛あ゛ああああ!!」
「うおおおおおおおおお!!」
鬼気迫る両者の怒気。
突いて攻める。
打つように攻める。
貫き打つように攻める。
何故ならば氷鎧を貫き桃色の血が流れたから。
何故ならば氷結の龍が悲鳴をあげているから。
ここで攻めなければいつ攻める。
――時間は待ってくれないのだ。
「グガ□■アア■アア■ア――」
悲鳴にも似たグングニルの咆哮。痛みからの咆哮ではない。弱り切った身体とは言え羽虫共に追い詰められたから。魔神を嚙み殺し、飛来体共を凍結させ遊ぶように踏み潰した圧倒的な愉悦を感じるプライドが許さないから。
到底我慢が効かないと謳うグングニルは、巨体からは信じられないしなやかな動き、執拗なまでの執着と執念が踏みしめる地を揺らし、咆哮が雲を裂き、純粋な殺意を宿す眼がたった二人に注がれる。
「……凄い」
激突する度に、三者の咆哮が鼓膜を震わす度に、呆然とする。
アキラは自然にそう呟いてしまう。目の前に広がる光景は現実ではなくCGを駆使した映画なのではと錯覚してしまう。
「ヨシ!!」
健闘に期待を持つ黒鵜。
「流石だな」
腕を組んで見守る惹句。
「このまま突っ走れ!」
笑顔の流美。
桃色の血を流すグングニル。攻撃が通ればこちらのモノだと心を熱くする四人。
攻撃をする度に歯ぎしりを伴う程に歯を噛み締める龍と二人。
決着は近い。
「「フィストッ!!」」
「ッカッ!?」
機械の拳のフィストは顎を捕らえアッパー。
「――ッ」
グングニル、二乗の衝撃により堪らず上を向き顎が下がった。
――これを待っていた。
(仕留めるッ!!)
(チャンスだッ!!)
雷の速さで上昇した二人。奇しくも空中で背中合わせになり、グングニルを見せうる槍の矛先が重なった。
二人はグングニルの一点を見据え、雷の如くグングニルの柔らかな口内へと落雷。
「「アサルト・インパクトオオオオオオ!!!!」」
雷撃から枝分かれするように二人のマフラーが激しくなびき――
「ッッッ――」
本日最大の一撃がグングニルの顎と重なった。
身を焦がすような衝撃波が生まれ、視界を白く染めた。
――――――キィィィィィィン
音が無い世界。
西田は吹き飛ばされ、自分が倒れている事に気付いた。
視界がぼやける中震える脚、腕を使いゆっくりと膝を着いた。
(どう……なった……?)
――――――キィィィィィィン
段々と見えてきた視界。
最初に見えてきたのは人だった。
「――ッ! ――っ!! ――ッ!!」
彼女は乞うように泣いていた。
力なく横たわる男の手を握りながら。
(――不動……)
――ドンッ
「!」
大きな振動が伝わり震源を見る。
「ッ!! ――!!」
勢いを殺した黒鵜が指をさしながら怒鳴っている。
その奥を見ると惹句が駆け、流美が回りこもうとしている。
つまりは戦っている。
「グガアアアア!!」
氷結の龍と。
(あのトカゲ野郎、まだピンピンしてやがるッ!!)
優星が倒れ、同期による同調もグングニルの前には刃が立たなかった。
この絶望的な状況にでも、西田は口元を緩ませる。
(おもしれぇ!! やってやろうじゃねーか!!)
意気揚々と側にある槍の柄を掴んだ西田。
――――――キィィィィィィン
(――――――)
動揺した。
(――折れて……やがる……)
西田の槍は穂先の小さな一部分しか残っておらず、もはや槍と言うには無理がある状態に陥っていた。
西田の槍は撫子が用意した特注の代物。一般的な槍を使うには惜しい存在だと判断し、サークルの戦力増幅と言った形で西田に渡ったものだった。
(……そうか)
頑丈だと言われた槍は西田も気に入り、幾多のダンジョン、幾多のモンスターを倒してきた相棒だった。
驚いた西田だったが、優しい笑顔になり、槍に向けてこう言った。
「――おつかれさん」
この耳が聞こえない状況でちゃんと言えたか定かではない。だが西田は誠心誠意の感謝を伝えたのだった。
そしてそっと柄を地面に置いた。
(ちゃんと持って帰るから待っててくれ。っま、生きてたらだけどな)
心の中で決意をし、西田はグングニルを見据え確かな足取りで立ち向かうのだった。
(今俺ができる事は精々拳に雷を纏わせて殴るくらい。花房くんがオーラを剣にするくらいには、俺も訓練しとくんだった……)
ここに来てサボり気味な訓練を後悔する西田。
動く度に地鳴りを鳴らせるグングニルにどう立ち向かうか、それを考えていた。
その時だった。
――――――ッゾゾゾ
文句を言う黒鵜。ひたすら立ち向かう惹句。駆けまわる流美。泣きじゃくるアキラ。
グングニル。
西田。
この場の全員が感じた悪寒にも似た第六感。
ブレスと衝撃波で生まれた一番高い柱の上に一切の視線が集まった。
「―――」
腕を組んでいた。
漆黒をベースとし金の装飾が散りばめられた鎧。冷たい風が髪を撫で、猛禽類に似た脚は柱のてっぺんに喰い込めせている。
この圧倒的な存在感を出す者。
西田の視界にメッセージ画面が表示される。
『幻霊家臣 黄龍仙』
――何故お前が。
西田の思考はそこで止まる。
突如、黄龍仙が投擲。自分への攻撃と分かるや否や、西田は身構えるが脚が動かなかった。
――殺られる!!
腕をクロスし苦し紛れの防御。
投擲が激突し、西田の頬を地面の片と冷たい風が撫でた。
(――生きてる――ッな)
痛みは感じない。
しかし、クロスした腕を解くと、西田は目の前のモノに釘付けとなる。
「我が主が貴様に都合を付けろとの達し」
渦巻く様な形状。帯電する雷が大気を焦がす。
「貴様は屠れるか。氷結の名を持つ轟龍を」
西田は見る。地面に突き刺さる三又の槍を。
『深海王の槍 トライデント』
人魚姫が残した武器。
ここにあり。
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『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
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