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第十四章 氷結界

第139話 チュートリアル:前触れ

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「ここがダンジョン『氷結界の里』の集落か……」

 優星が呟く。

 本日未明。

 大和 撫子率いるヤマトサークルと不動 優星率いるファイブドラゴン。足並みを揃えて里の集落に到着した。

 全員が戦闘用の装備をしており、極寒の寒さをヤマトサークルが魔法で緩和している。

「雪に埋もれて崩壊してるけど、この水晶に似た氷は……」

「龍の攻撃だろうな。……凄まじいものだ」

 手の平サイズもあれば人の大きさから三メートル級のものまである氷塊。鏡の様に見る者を映す透明度とは裏腹に、家屋を突き破り、山を抉り、地面に突き刺さる程の威力だと恐ろしさも見せる。

「調査班は里を調査しろ。国連やロシアの情報を鵜呑みにするな。私たちの調査で事に当たれ」

 サークル長、撫子の号令と共に三井筆頭の調査班が蜘蛛の子の様に散らばる。

「流石のヤマトサークルだ。調査班も国連に引けを取らない装備と迅速さだ」

 雪の性質、家屋の計測や木材の質、土から大気、穿った氷塊までテキパキと解析する調査班に、優星は関心を述べた。

「しっかし寂れた里だこと。ヤバそうな風習とかあったりして」

「食人とか?」

「お前らは漫画の見過ぎだ」

 黒のライダースーツの様な装備の烏丸が冗談めいて言った話を、胸部装甲が付いたライダースーツを着る青野が乗っかり、白を基本としたライダースーツにグレーのライン、白のコートを羽織る後須がツッコんだ。

「……チームファイブドラゴンはみんなライダースーツなのかよ」

 青を基本にオレンジも混ざる優星のライダースーツ。赤を基本とし黒も入ったアキラのライダースーツ。両方を見て西田メンバーが問いかけた。

 ちなみに西田はいつもの軽装だった。

「そうだ。元々バイク乗りの仲間で、この姿が一番しっくりくるんだ」

「動きにくくないか」

「伸縮性もあり衝撃に強い特注の素材だ。と言っても、最初のダンジョンで倒したドラゴンからドロップした素材だがな」

「あ、僕はドラゴンじゃなかったけどね」

 最初のダンジョンとは、萌や大吾と同じくスキルを開花するための、攻略者として覚醒するダンジョンである。

 バイク仲間の彼彼女らは数奇な運命なのか、ドラゴンと対峙し見事勝利。唯一無二のドロップアイテムを取得し、今に至る。

 青野だけはドラゴンではなく機械生命体だった模様。

「――俺らの隊は調査班の護衛だ! 敵が二体の龍だけとは限らん! 十分警戒しろ!」

「――俺たちは三井について行くぞ! 採取用のカプセルを忘れるな!」

「――こっちの家に何かあるぞ! 急いでくれ!」

 それぞれの部隊長が動き部下と共に行動している。

 優星たちはプロ集団の動きに驚き、西田はいつもの事だとつまらない表情。

 さあ俺たちはも動くぞと待機を解こうとしたその時、西田はサークル長である撫子を見ていた。

 撫子は西の方角を見つめている。

「……」

(マジかよ。サークル長がああやって警戒を露にしてるのはヤバい事がおこる前触れなんだよなぁ。本当に勘弁してくれ……)

 撫子が冷たい空気を纏う時に限ってアクシデントが起こる。と、西田は嫌な顔をする。

 その時だった。

「信彦。作戦変更だ」

「はいなんでしょうか~」

 撫子が無表情で声を掛ける。

「お前はファイブドラゴンと東へ行け。私は西へ行く」

「……わかりました」

 無表情の撫子。その旨を聞いた西田は緩んだ表情を捨て去り、一言で了承した。

「……嫌な視線を感じる。気を抜くなよ」

「はい……」

 スタスタと一人西へ向かう撫子。ただならぬ冷たい雰囲気と圧を感じる後姿を見て、何事かと優星が西田に詰め寄る。

「な、撫子さんはいったい……」

 作戦では実力のある撫子と西田、ファイブドラゴンの面々、少数精鋭で東のグングニルを撃破し、それから西のヴリューナクを倒す算段だった。なのに関わらず、謎の行動をとる撫子に優星は動揺した。

「覚悟しろ不動。サークル長がマジな時はヤバイ事が起きる前触れだ」

「……そうか」

 優星たちとすれ違い東に向かいながら言った。

「西はサークル長に任せて、俺たちは東の龍を討つ」

「西田メンバー、撫子さんは一人で大丈夫なの?」

「大丈夫だ。……俺たちが居ちゃ本気に成れない」

「……そうか」

 アキラの当然の質問に淡々と答えた西田。優星は少し遅れて首を縦に振ったが――

(範囲攻撃だから本気になれないのか、本気を出すには西田メンバー含む俺たちじゃ足手まといだからなのか……。真意は分からないが、いずれにしても撫子さんの力は常軌を逸しているという事か……)

 日本最強の女。伊達ではない生きる伝説に優星は内心は葛藤に苛まれていた。

 それからは小休憩を挟むも移動し、雪道で足場の悪い低山を昇る西田不動一行。

 ――緊張感。

 頂上に近づくにつれ心臓の鼓動が早くなり、背中にジワリと汗もかく。国連の部隊をほぼ壊滅させた弩級のモンスター。正真正銘、命の危機も危ぶまれる。

「っはっはっはークソ。緊張して息が乱れやがる!」

 白い吐息を大きく出した烏丸は苛立ちを隠さず吐露。

「それ体力ないだけじゃない?」

「もっとコーヒーを飲め」

「体力無いのは認めるがコーヒーは絶対関係ないだろ!?」

 三人のやり取りが張り詰めた空気をほぐす。

 優星は口元が緩み、アキラはやれやれと首を振る。

「ッハハ。不動たちはいつもこんな感じなのか? なんだか大学生の時を思い出す」

 似た様な出来事を思い出し笑う西田メンバー。得物の槍を肩に引っ提げてファイブドラゴンに問いかけた。

「どんな時でも俺らは自然体なんだ」

「そうそう! 混沌渦巻くこの現代社会を精一杯生きた結果、自然体が一番なんだって気付いたんだ」

 笑顔の烏丸はそう言った。

「でも自重もしないとね。いい大人なんだし」

「キングは一人! この俺だあああああああ!!」

「アハハ! 言ったそばからじゃんか惹句!」

 気付けば笑顔に溢れていた一行。

 まるで命の危機を感じさせない空気を作る。

 しかし低山の峰が見えると、一歩進めば手にはトゲの突いたメリケンサックが生成。

 雪を踏みしめば棘の着いた鞭を手に取り、一息を吸えば黒羽の刻印をした剣を装備。

 目を瞑って両腕に武器を生成し、微笑みながら未来的な剣を携える。

 横一列。

 頂上に足を運ぶ頃には既に戦闘形態だった。

 そして鎮座している。巨大な敵。そいつは広い広い峰の中心で寛いでいた。

 巨大。それは一目見ればわかる。

 どっしりとした四つ足は巨木と見間違う程で、透明度の高い爪は見るからに鋭利。

 もう片方の龍と系譜が似ている水晶の様な体は如何にも強固。背中には翼が生え飛行が可能だと分かる。

 そして胴体の中心から翼含む全身にかけて赤く太い脈の様なものが広がり、口からもその一端が炎の様に漏れている。

『氷結界の轟龍 グングニル』

「ガアアアアア■■■」

 待っていましたと言わんばかりに衝撃波を生む咆哮が人間の肉体を振動させ震わす。

 選ばれし六人は意を決した。

 必ず、この龍を屠ると。
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