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第十三章 三年になって

第137話 チュートリアル:BAR

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「で? ダンジョンに潜る授業はどうだったんだ? 噂じゃアクシデントがあったって」

「どうも何もそのままだって。合格貰うための水が無くて、引率の攻略者と一緒に調査しに行ったんだよ」

 ダンジョンに潜ってから翌日。

 今はお昼休みで食堂にて大吾、進太郎、ダーク=ノワールの四人で昨日のダンジョンの話をしている。ちなみに瀬那は女子グループでワイワイと盛り上がっている。

「俺と大吾の方はアクシデントどころか順調すぎる程だった」

「いいじゃん。アクシデントなんて起こらないに越したことないって」

 このダンジョンに潜って課題をする授業は、しばらく続く予定。その初っ端にアクシデント。大吾と進太郎の班は恙なく捌いたそう。

「♰まさか洞窟の奥に氷結――」

「おい! ッシ! だろ」

「え、あ、そうだった。ン゛ン゛、そうだった♰」

 一応アクシデントの原因であったモンスター――氷結の怪鳥の事は阿久津先生から箝口令が出ている。理由は分からないけど、ただのアクシデントじゃないのは先生の雰囲気で分かった。まぁ相変わらずやる気無さそうだったけど。

「……そっか。じゃあこの話はこれで終わり! 引率の攻略者の話しようぜー」

 察した大吾が無理やり話題を変えた。なかなか気の利く男だ。やっぱイケメンはチゲーわ。

「こっちの人らはアレだな。五人兄弟だった」

「五人も居もいたのか」

「しかも驚く事なかれ! 驚異の五つ子だ!!」

「五つ子!?」

 五人兄弟って聞いてまず思ったのが親御さん頑張ったなという感想。そして五つ子と聞かされ、俺はさらに驚愕。お母さん頑張ったな。

「しかも長男から末っ子までそれぞれパーソナルカラーだった。赤から始まってピンクで終わる」

「そう! それと醸し出す昭和感! なんだろうなぁあの空気感は」

 それってもう実質おそ松くんじゃん。その昔に放送されたって言う昼ドラマの「大好き!五つ子」しか俺にはわからん。

「それと、次男の人が大吾と声が似ていた」

「らしいんだけど、俺はさっぱりでなぁ」

「うん。何となく想像がつく」

 あと長男の人は不倫しそうだな。俺の毒電波受信乳首がそう言ってるから間違いない。

「萌ちゃんたちはどうなんだよ」

「……ビーエフとリゾネーターとティージーだった」

「……は?」

 俺の率直な言葉が分からないのか、大吾がきょとんとしている。

「だよな、戸島」

「♰そうだな。BFとリゾネーターとTGだった♰」

「……」

 ダーク=ノワールは俺と同意見。つかもうこれ以上の分かりやすい説明が無い。

 そんな事を思っていると、進太郎が眉毛をハノ字にし優しい目で俺たちを見た。

「言えないからってわざわざ頭文字を使わなくてもいい。……大変だったんだな」

「別に言えない訳じゃねーから!?」

 そんなこんなで休憩が終わり、授業再開。

 放課後、大吾と進太郎、戸島がまたバトルをしに行くと言い出した。

「ごめん。用事あんだわ」

 そう言って俺は断った。

 帰宅し、軽くシャワーを浴びて黒のジャージに着替える。

「よし」

 着替え終わった俺はリャンリャンの部屋へ。

 コンコンと二回ノックし、ドアを開けて部屋に入った。

 テレビも無く椅子も無く、ただベッドが一つだけあるなんとも殺風景な部屋。そのベッドの上でリャンリャンが座禅を組んでいた。

「仙人みたいだな」

「仙人だからネ☆」

 もともと目が細くて目を瞑っているのか開いているのかわからん。その状態でリャンリャンの身体から滲み出る可視化した力――仙気。
 どうやら瀬那も習った仙気の循環をしてるのだろうか。

「今から行くけど、お前もくるか?」

「もちろんサ☆」

 正直リャンリャンと街を歩くと悪目立ちするから考え物だ。だって中華風礼服着こなして後ろ付いてくるもんだからな。しかも細目イケメンのせいで女性の視線を釘付けにしてるし……。

「もうちょっと離れて歩けよ」

「ダメ☆ 私は大哥の家臣だからネ☆」

「そう言うところ律儀なんだから……」

 まぁリャンリャンへの信頼度は家族同然だからな。正直リャンリャンの朝食無しの生活は考えられないほどだ。

「……んー」

 繁華街の端の入り組んだ路地。そこを進んでいくと、途中で地下へと続く階段がある。

 そこを降りていくと、あった。

『BAR~黄金の風~』

「ジョ○ョかよ」

 しかも五部。

 BARの店名は扉の左にある。大理石っぽいのにわざわざ彫ってるのがみそなのかもしれない。

 扉自体は木製で小さなすりガラスがはめ込まれている。上には小さな鈴が付いているのはご愛嬌か。

 時間は夜の八時頃。

 この少し薄暗い廊下。俺みたいな学生には似つかわくないのは重々承知だけど、俺はここに用がある。というか、呼ばれた。

「よし」

 意を決して扉を開け、店内へいざ突入。

「いらっしゃいませ……」

 人生初BARを期待する初っ端、耳障りの良いイケメンボイスが俺を出迎えてくれた。

『チュートリアル:BARに入ろう』

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:魅+』

「めっちゃ様になっててスゲーカッコいい」

「ありがとうございます。ここでの私はサイと名乗っております故、どうぞ、そうお呼びください」

 頭を軽く下げ余裕のある表情をしたのはこのBARを切り盛りするテンダー――虚無家臣の宰相だ。グラスを拭いている仕草が映画のソレ。

 濃い青色の生地のシャツにテンダーってわかる服……カマーベストだったかな。首元のボタンをあえて外し、少し開放的な首元がどことなくセクシーに見える。ちなみに俺はホモじゃない。

 店内はシックな青色を基本としている様で、所々に金色の装飾が施されている。店内の明るさも明るすぎず暗すぎずのいい塩梅。当然他の店は知らないけど、そこそこ広いと思う。

 客層はどうだろうか。

 まずはカウンターに二人。一人は青い髪の毛のおにいさん。

 透明感のある真っ青なカクテルを一口だけ飲んだおにいさん。

「こちら、『静寂』でございます……」

 俺の視線に気が付いたバーテンダーのサイが、カクテルの名前を教えてくれた。

「……いい名だ。ラムベースか」

「はい。カラメルを焦がしたような苦みと甘み、そして鼻腔をくすぐる甘い香りが特徴です」

 なんか知らんけど大人の世界って感じがする……。

「――ンク」

 おにいさんの正体はルーラーのネクロスさんだ。赤髪のフリードさんに突っかかってるイメージだけど、飲んでいる『静寂』がそうさせるのか今はクールな印象を受ける。

 カウンターにもう一人居るのは女性。

「まあ、サイったら美味しいお酒作れるのねぇ」

「お褒めに預かり光栄です……」

 ピンクの髪、濃いピンクのドレスを着た女性。自己主張の激しい胸部をカウンターに乗せている姿はどこか俺の彼女を彷彿とさせる。

「こちら、『ピュアラブ』でございます……」

 ルーラーであるヴェーラさんが飲んでいるカクテル、ピュアラブ。

 色味はジンジャーエールっぽいけど。

「ライムとジンジャーエールの爽やかさ、フランボワーズの甘酸っぱさの風味が特徴的です。初恋のときめきを思い出してはいかがと……」

「んー美味しいけど恋ってした事ないからぁ~。……宰相が恋人になってくれる?」

「お戯れを。大変光栄ですが、死んでしまいます」

「あらそう? 残念♡」

 こ、ここでも大人の雰囲気が……。

「おうティアーウロング! 突っ立ってないでこっちに座れよ!」

「フリードさん。じゃあお言葉に甘えて」

 ソファ席に座ると思いのほか柔らかくて驚いた。フカフカだ。

「宰相は何でもできる奴だな。俺の家臣ヴァッサルにくら替えしないか?」

「嬉しい限りですがそれは出来ません。私はあくまでも虚無家臣なので」

「まぁ分かってたけどよ! ンク」

 机に置いてある赤いカクテルを飲むフリードさん。

「そちらはベルモッドカシスでございます。カシスの甘酸っぱい味わい、ベルモットの香草、薬草が持つスパイシーな風味と程よく溶け合い、甘口ではあるがさっぱりと頂くことができます」

「へー」

 これでも興味はある。何なら漢たるもの、一度はBARのテンダーになってカッコよくキメたい思いあるし。

 ほら、想像してみよう。

「こちら、セックスオンザビーチです」

「キャー素敵! 抱いて!」

 もうこれ。これ。

 テンダーの俺がカッコよくドレス姿の瀬那に酒を提供。もうカクテルを混ぜるシェイカーを振るのと一緒に腰まで振ってる始末。

 銀○マの近藤さんと同じ要領だぞおい。

「チュー」

 隣の席でルーラーのガスタくんがストローで何か飲んでる。

「抹茶オレです」

「お、美味しいー」

 ショタショタのガスタくん。かわいい。

「ッカアアアア!! やっぱビールが最高だよなあ!!」

 ガンッと勢いよく置いた黄金のグラス。隣の席で見慣れた奴がビールをあおっていた。みんな人間体の中、見知った奴が居て悔しくも安心した。

「ティアーウロング様。お飲み物はいかがいたしましょうか」

「俺の奢りだから好きなの頼めよー」

「じゃあオレンジジュースで」

「承りました」

「じゃあ私はコレ☆」

「承りました」

 こんな店で頼むドリンクなんて高いだろと身構えたけど、エルドラドが奢ってくれるなら安心だ。

 リャンリャンもドリンクを頼み、隣に座ってタブレットを開いた。

「で? ここに呼びだしたのは開店祝いでもするのか?」

「そうしたいのはやまやまだが、実は耳に入れて欲しい話がある」

「……それここで言う必要性ある? 俺ん家でいいじゃん」

「これだからガキんちょはぁ。こうした雰囲気の中で伝えるのが、最高にイケてるだろ」

「わかる」

 刑事ドラマとか海外ドラマとか、大人のディープな雰囲気で話絵が最高にカッコいい。このおっさん分かってるな。

「昨日の授業でトラブったろ。滝が凍ったって」

「耳が早いな。どこ情報だよ……」

 この酒飲みの情報網がマジで謎過ぎる。

「氷結モンスター。いや、。それらに心当たりがある」

「氷結界……?」

 ――なにそれ。

 そう言いだそうとした時。

「大哥、大変だヨ☆」

 ウキウキ気分で大変だとは意味不明。リャンリャンがタブレットを見せて来た。

《――繰り返します。ロシア南東部にある観光名所、バイカル湖が凍結したとの情報が入りました。情報によりますと、凍結したバイカル湖にダンジョンへ続く巨大なゲートが出現している模様です。近隣に住む住民は避難――》

 物々しい雰囲気でニュースを読むキャスター。事態の重さを物語る。

 このニュースを聞き、真っ先に思い出したのは去年の夏の泡沫事件。それと同等のヤバさも感じ、同時に昨日倒した氷結怪鳥も脳裏に過る。

「あ~あ。来ちゃったか」

「なんか知ってんのかエルドラド!」

「今日はそれの事話したかったんだが、ゲートが現れたなら悠長なこと言ってられんな――ンク、っぷはー!」

 言葉とは裏腹に呑気にビールを飲むエルドラド。俺の焦りが面白いのか、実に良い笑顔だ。

 その時だった。

「サイ。良いカクテルだった」

「お褒めに預かり嬉しく思います」

 唐突にカウンターから席を外したネクロスさん。整った綺麗な横顔、見せる背中はどこか冷淡さを感じる。

 青い空間が開き、彼はその中へ消えていった。

「っま! 国連も動くし大丈夫っしょ!」

 一抹の不安を覚えながら、サイに差し出されたオレンジジュースを飲むのだった。
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