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第十三章 三年になって

第135話 チュートリアル:アクシデント

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「――待ってくれ。アンタたちが来た時にはこうだったのか?」

「さっきも言っただろ。枯れてる! ここで四か所目だぞ……。おかしいだろこんなの!」

 何処までも続く荒野の癒し。

 オアシス。

 砂漠などの乾燥地域やステップ(樹木の無い平原)における緑地。

 泉性(地下水によるもの)だけでなく、河川や雪解け水を水源とするオアシスもあり、そっちの方が大規模なオアシスをだったりする。さらに井戸などによる人工的なオアシスも存在する。

 俺たちの目標はオアシスに湧く水を汲んで持って帰る事だ。

 オアシスに湧く水は特殊な成分らしく、飲む回復薬としても用いられている。実際に売ってるところもあるし。

 モンスターに襲われながらも苦戦する事無く辿り着いたオアシス。

 荒野の中を歩き段々と緑が見え期待感を感じていると、十分な装備を携帯した他の攻略者の人達が何やら騒いでいた。

「どうしたんだ」

 黒鵜さんが攻略者さん達に声を掛け、今に至る。

「他の場所も?」

「ああ。二日かけてぐるりと回ったんだが他の場所もこの有り様だ」

 澄んだ綺麗な水だと事前に聞かされてはいたけど、綺麗どころか濁り、気持ち程度の水しか残っていなかった。緑と分けられた土の層で分かる様に、明らかに泉の水が少ない。

「……どう思う、流美」

「うーん……。どうも何も、そもそも枯れるって事がおかしい。ゲームで言うとセーブポイントみたいなところだよ? ここ。回復できる泉があるのに、それが枯れてるのは明らかにおかしいよ」

「……そもそもの話として、このオアシスに回復の泉が当たり前にあるという前提が間違っている可能性もある。長い周期で見ると、この枯渇はこのダンジョンとしては当然だと。自然の摂理だととも捉えれる」

「現状じゃなんとも言えないね」

 惹句さんが流美さんと相談している。

 さて。この騒動は不透明すぎて確かに問題だけど、いち学生の授業で来ている俺たちにも降りかかる問題。達成の証明として泉の水を汲んで持ち帰らないといけないのに、水そのものが濁ってて証明できなければ達成どころじゃない。

 どうしたものか……。

「――ふぅ。とりあえず集まってくれ」

「集まってますけど」

「動いてないですはい」

「雰囲気的に言ったんだよ!」

 攻略者たちと話を終えた黒鵜さんが招集をかけた。

 モブ太郎くんたちがボケて黒鵜さんがツッコむ。なんだかツッコミ役が板についてそうだ。

「話し合った結果、あっちの人らは別ルートで。俺とバカとアホはこの林の奥にある水源に向かい調査することになった」

「ップ! 惹句、バカでアホだってさ」

「お前もだバカ」

 流美さんが口を隠して笑い、惹句さんがキレてる。

「こういったトラブルを視野に入れ、引率の裁量で目標達成の合否を決めれるわけだが、さっきも言ったように俺たちは調査しに行く」

「……」

「だからここまで辿り着けたって事で目標達成と先生方に報告してもいい。……どうする」

 どうする。

 黒鵜さんが言ったこの一言。俺は解釈した。

 これは試されていると。

「どうするって……」

「なぁ?」

 そう。モブ太郎くんたちが考えてる通り、この場で合格の旨を貰い、来た道を戻ってダンジョンを出るのは一つの選択肢だろう。むしろ学生としてその姿勢が正しいのかも知れない。

「あの――」

 だけど俺は違う。

「俺も水源の調査について行っていいですか」

 攻略者を名乗りたいなら前へ。

「もちろん皆さんの邪魔にならない様にします! 足手まといにはならない自信があります!」

 授業とは言え予想外のアクシデントが起こったんだ。このまま戻って合格してもいいけど、現役攻略者たちと調査できる経験なんて学生の身分じゃあまりないだろう。

 そういった意味で泡沫事件の経験は大いに経験値となったのが記憶に新しい。

「――ッハハ」

 黒鵜さんが突然小さく笑った。

「優星の言う通りだ。花房くんには度胸と負けん気、ガッツがあるな!」

「優星さんが?」

 どうやら黒鵜さんに俺のことを伝えているらしい。

「ああ! トーナメント出場者でもあるし、手合わせして引き分けたってのも聞いてる。あの蟹頭が嬉しそうに言うもんだから、バカな俺でも試したくなるもんさ!」

 ――どうする。

 やっぱり試されていたのか。俺が優星さんの言った通りの人物像なのか。

「もちろんオッケーだが、酷だけどモブ太郎くんたちは連れていけない。ここから奥はモンスターも凶暴だし、まだ戦える程度の二人にはキツイのが正直だ」

 真剣な眼差しでモブ太郎くんたちにそう言った。

「……悔しいですけど、花房と違って俺らはまだまだってのは分かってるんです。だから素直に戻りたいです」

「俺も同意見です」

 苦虫を噛んだ表情を見せる二人。ついて行きたいけど実力が伴わない。悔しくて堪らないのは噛んだくちびるを見て分かる。

「自身の力量をわかったうえでの撤退は立派な心得だ。無謀にも実力以上の敵に挑み、死んでいく者も後を絶えない」

「その事をわかってるだけでも、君たち二人はよりずっと強くなれるよ。努力次第だけどね」

 惹句さんと流美さんの言葉を聞き、モブ太郎くんたちは表情を明るくした。

 その後、この事を報告に戻る現役攻略者たちと連れ合い、二人は戻って行った。

「♰おい。無論我も同行するぞ♰」

「だろうな」

 ダーク=ノワール。この間じっと腕組みしていただけである。


 オアシスの奥は林が茂っている思いきや、奥に進むにつれ植物が多くなっている。

 話を聞く限り、オアシスの泉の水源は地下水脈から来ていると思いきや、水源と名を打ったそのもので、理屈的にオアシスと繋がって無くても水源という事象だそう。

 そういった物はこのダンジョンに限らず他のダンジョンもといったのが多くあるそうだ。まったく、小学せ……ダンジョンは最高だぜ!

「――ふう! ありがとうよ、花房くん」

「いえ、こういった時くらいしか使わないんで」

 備蓄用に備えてあったミネラルウォーターを受け取り、そのまま次元ポケットに仕舞う。

「マジで次元ポケット便利だよな。本当は水やらなんやら装備を取りに戻ってからじゃないと進めないのに、キミのおかげでどの攻略者よりも進んでる」

「まだまだ水は有るんで、皆さんも喉が渇いたら遠慮せずに言ってください」

「うん。助かるよ」

 進んでから数十分。獣系モンスターから昆虫系モンスターが襲って来たけど、黒鵜さんの剣が裂き、惹句さんの爪と腕に付いてる刃が穿ち、流美さんの未来的な剣がモンスターを倒した。

 モンスターと対峙した時はオーラ剣を構え、ダーク=ノワールは魔法陣を出現させるも一切戦闘はしていない。

 俺がやってることは、次元ポケットに入れておいた備蓄を使っているだけ。ダーク=ノワールに至っては「俺いる?」と何とも言えない表情。まぁマスクしてるから顔は見えない。そういうニュアンスだ。

 次元ポケットに何を入れようか、と考えていると。

「ここだ」

 と、惹句さんの声で立ち止まる。

「……これは」

 黒鵜さんと同じく見上げた俺。

 溜まった水が溢れ下の層に流れると、そこも泉。さらにその泉から水が流れ、また泉。といった幾つもの段階層になっている幻想的な滝が目の前にあった。

 

「実に不可解だな」

「このダンジョンは氷結系のモンスターは現れないのにね」

 今まで遭遇したモンスターは明らかに森や荒野に住んでいそうなモンスターばかり。間違ってもアシカとか白熊が出てくる様なダンジョンじゃない。

 ではこの滝氷化現象は自然に起こったものなのか。

 わからない。

 分からないなりにも、分かった事がある。

「……上の層に何かあるな。昇ってみよう」

 見上げた先には少しだけ霜が積もった洞窟の様なものが。

 そこに行けば何かわかるかもしれない。
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