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第十二章 有りし世界

第129話 チュートリアル:人魚姫は微笑む

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 まどろむ世界。 

 ここは夢の中。

 湯気なのか、霧なのか、靄なのか。

 白い何かが視界を遮り、見える世界が少ない程、より深く感じ取る事ができる。

 それは乳液色の湯船。

 少し熱い温度の湯。乳液の効能で浸かる肌は瑞々しさを、水が絡むきめ細かさを体現。

 一人分。

 それが張った湯の総量。

 既に一人が入浴済み。

 しかし、ここにもう一人入る事になり、湯が溢れ出る。

 重なる手。絡む脚。体温を感じる接触。

 およそ広いとは言えない湯船。

 その中に無理やり入り込もうとした結果、これでもかと重なる二人。

 くっつく事により圧し潰される豊満。

 掻き分ける水の音。

 髪から滴る水滴の音。

 そして、唇を吸い合い、粘膜が絡み、甘い息が息吹く音。

 吸い。絡み。吸って。絡めて。

 より深く絡む様に。より深く重なる様に。より深く、感じる様に。

 狭い浴槽で繰り広げられる一種の語らい。

 彼は満足感に浸っていた。

 他に何を望むのか、と。

 愛する者がこうして肌を重ね、内なる液を互いに飲み込む。

 瞑る目がたまに開くと濡れていて、絡みなぞると嬌声が浴室に響く。

 その度に小刻みに震える体。それを手で、脚で、重なる胸で、鼓膜の振動で、瞳で、互いの腹部に挟まった反り返る大ぶりな物で――

 唇に当てられたフォークの先の数を言い当てれる程の繊細さで感じる。

 故に満たされる幸福感。

 何物にも代えが効かない二人だけの感度。

 ――このまま湯船が冷たくなるまでここに居たい。こうしていたい。

 その時だった。

 大きく息を吸いたいと離れた彼女。互いの唇からは惜しむ様に液の橋が連なる。

 濡れた瞳に映るのは恍惚とした彼の顔。

 彼の瞳にも蕩け恍惚な表情の彼女が。

 いたずら顔でクスリと笑う。

 絡めた指を誘導される。

 ――触れて欲しい。

 その意志を感じ取った彼は、脱力を以って彼女の柔肌に触れる。

 ――――――ッ

 柔らかな重量感。

 それが最初に思った事だった。

 優しく触る指の形に変形。しかし吸い付く様な柔軟性。

 桃色の敏感な場所を触っていないのにも関わらず嬌声を漏らすこの感度。

 褐色肌とは違う大き目な色の範囲。それを指で一回し。

 不意に中心を掠る様に触れた。

 ――――――ッ

 上半身を、下半身を痙攣させた。

 それは一人では到底味わえない感覚。彼女が初めて味わったパートナーとの蜜だった。

 倒れ込む。

 優しく受け止める。

 熱籠る吐息が首に感じると、もう一度。

 口の液を互いに絡ませた。

 その時、彼に電流走る。

 一番敏感な場所。そこに惜しげなく柔らかな物が触れた。

 嗚咽の様な嬌声が浴室に響く。

 まるで包み込まれるような柔らかさ。温かさ。

 乳液の湯船。彼女の腰がゆっくりと前後に動く。

 動く度に小さな弱点が擦れる。

 動く度に下からの刺激が脳天に走る。

 ――――――ッ

 悲鳴。

 ガクリと力なく倒れる彼女を、彼は微笑みながら抱きしめた。


 修行をしたい。

 ――彼女の言い分はこうだった。

 しかし彼は思った。何も裸で、何もベッドの上で言わなくてもよかったのではと。

 彼女は飢えていた。強くなりたいと飢えていた。

 攻略者の卵である前提に加え、様々な経験、恐怖、敗退。

 その悔しさから来る飢えは、力の渇望となり膨れ上がっていた。

 そして会得した力――仙気。

 スキルとは違う彼女が身に着けた物。

 仙気を会得してるが故にスキルもそれに付随する物が多くなる。

 スキルとは違うがスキルに付属する。この謎は今は置いておくが、仙気を手に入れた彼女の考え。

 それは仙気のグレードアップだった。

 かの師匠は言った。

 内の気を体内で循環させる。それが仙気の質・総量を上げる事が出来る修行方法の一つ。慣れて行けば爪先から体毛の一本までも伝い循環できるようになる。

 しかし、気を溜める。放つ。これはできても循環は難しいのだ。体内の仙気を思う様に操る精神力と繊細さを求められ――

 ―――彼女はいとも容易く成功する。

 明くる日、仙気のレベルアップを図る次なる修行方法を師匠は提示。

 それは生あるもの、生があった物を体内に入れ、栄養を摂取すると同時に生が持つ精を――気を摂取し己の糧とする方法だった。

 己の仙気を操り循環するのとは違い、生の気を抽出し、あまつさえ己の物とする。

 生の精を感じ取る力。抜き出す繊細さ。己の気と混じらせ一体と化す。

 循環するのとは違う別次元の難易度。こればかりは数年数十年の長いスパンが必要――

 ――彼女はいとも容易く成功する。

 これには仙人の師匠も涙目。

 自分のときは苦労したんだとたまらず嫉妬。

 事の経緯を大きく省きながら説明した彼女。

 つまり彼女が言いたいのは。

 ――彼のが欲しい。

 ということ。

 彼が脳内で理解した途端、屈強な肉体がいとも簡単に押し倒される。

 ――いったい何を。

 その言葉を口にする前に彼は感じた。

 頭に電流が走る様な感覚を。

 ――――――ッ

 ぬるりと温かいこう。それに初めて包まれる。

 今まで感じたことの無い快。

 時折カリッと痛みを伴うのは彼女が慣れていない証拠。

 しかし次第に慣れてきたのか後頭部の上下が激しくなり、それに伴い彼もまた、嬌声を漏らす。

 粘液の音が激しく言響く。

 そして。

 ――――――ッ

 果てたのだった。

 いっぱいに膨らむ。

 むせかえる様に吐きそうにもなる。

 しかし、大好きな人のを一滴たりとも漏らすわけにはいかない。

 そう思った彼女は、コクリ、コクリと、幾度かに分けて喉を鳴らした。

 飲み干した瞬間だった。

 意識が反転。

 彼女の明るく陽気な深層心理に、宙を泳ぐ人魚が現れた。

 ――綺麗。

 人魚の姿が。綺麗な笑顔が。優しい思いが。すべてが綺麗だと彼女は感じた。

 人魚は彼女の目の前で泳いで止まり、こう告げた。

 ――彼のこと、ずっと愛してあげて。私が出来なかったこと、アナタならできるわ。

 微笑む人魚は額にキスをし、そのまま何処かへ泳いで行った。

 意識が戻る。

 今のは何だったのかと思考したが、彼が心配そうに彼女を見ていた。

 首を振り問題ないと伝え、彼女は彼の胸を抱く様に肌を重ねた。


「……」

 朝。

 暖房の音で目が覚めた。

 昨日はクリスマスイブ。一線を引いた瀬那との思い出作りは最高のひとときだった。

 横を見ると彼女が静かな寝息をたてている。

「フゥー……」

 天井を仰いで深呼吸。

 昨日はバ○SAGAみたいな感じになった。

 このままどうにかなってしまうんじゃないかと思った。

「――ん」

 不意に隣からシーツの擦れる音と声が聞こえた。

「……ごめん、起こした?」

「ううん。おはよ、萌」

「おはよう……」

 まだ眠たいのか半目な瀬那。こうして隣でいてくれると、本当に幸せに感じる。

「……昨日は凄かったね」

「言い方……。お互いに好きな事したな」

「うん。えへへーいっぱい飲んじゃったー」

「恥ずかしいんだけど……」

 昨日のことを思い出し、赤面した時だった。

「そう言えばぁ、一瞬飛んじゃった時に、綺麗な人魚が泳いできたんだよねー」

「――人魚」

「うん」

 俺の鼓動が早くなった。

「……なんか言ってた?」

「えー気になるぅ? 気になるんだぁー」

「まぁ……」

 どうして彼女が瀬那の中に現れたのか、分からないけど――

「うーん秘密ぅー」

「ええ~」

 瀬那の態度を見るに、俺たちを後押ししたのかも知れない。


「あ!」

「ん?」

「一番搾り頂いていいですか!」

「それビール! キ○ンのCM狙ってる!?」

 服を着ているひと時。
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