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第十二章 有りし世界

第118話 チュートリアル:万歳

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 ホワイト・ディビジョン。

 萌の世界ではルーラーズと称された君主の集団。そのトップである虚無君主ヴァニティールーラーが誇る世界。それがホワイト・ディビジョン。
 一応、ダンジョンとしての側面もあるが、今は置いておこう。

 彼女の根城を中心とした街構造で、それぞれ繁華街。住宅地。商業区。諸々が成り立っている。

 巨大な壁を持つ城下町の外は少し冷たい風が吹く広大な平原。そよ風の影響で草草くさぐさが流れる様に揺れ、土にミミズの様な生き物も生息。

 気性の大人しい原生生物も居れば、迎えられた生物も共に共存している。

 四方八方の地平線には塔や小さな城、深緑や桃源、広い海までも存在。それらは白鎧の同胞である各君主ルーラーが構えた彼彼女らの地。

 余りにも規格外の力を有した白鎧のホワイト・ディビジョン。そこには彼らが抱えた世界の住人が住んでいた。

 人が居れば争いが起きる。それは歴史が証明しているが、ことホワイト・ディビジョンに住む者は基本的に争いを好まない。

 自衛ならともかく、もともと争いを嫌う思考の生物。それがカルーディ達の凶刃で絶滅しかけたからこそ、より一層に優しく、手を取り合わないと生きていけないと、より穏やかな生き物と化したのだ。

 故におおらかな性格が多いホワイト・ディビジョンの様々な住人。今日もダンジョン帰りで一杯やろうとする者がわんさか集まる酒場。その一つが萌がいる酒場だった。

 仕える萌と友人のエルドラドに加え、まさかの魂違いの同一人物であった白鎧――ベアトリーチェに仕える細身の鎧を着た家臣ヴァッサル、宰相の四人で異世界の食に舌鼓をしたリャンリャン。

「好☆」

 追加で注文したシュウマイの様な何かが美味く、一口、もう一口と、どの食材を使って作られたのか考えるリャンリャンであった。

(このホワイト・ディビジョンの一つの側面だったリ、白鎧の素顔だったリ、今日は驚かされてばかりだネ☆)

 エルドラドに文句を言う萌を見守りながら、リャンリャンは細い目をしてそっと笑った。

 その時だった。

 ――ッゾ

「――――!!」

 身体の芯から警告を出すような鋭い視線。それを受けたリャンリャンは、出入り口に少し開けた細目を向けた。

「――――」

「……」

 何の変哲もない黒のフードを被った黒コートの人。酔っぱらった二人組の入店を阻まないように、壁に寄りかかりながらジッとリャンリャンを見ていた。

 二人の視線が交差。気付かれた。と言うには程遠いゆっくりとした挙動でその場から黒フードが去る。

「――よう兄ちゃん、新顔か?」

「うお!? なんスか!?」

 獣人が絡んできたと同時に席から静かに立ち上がったリャンリャン。一間遅れて妙な様子に気付いた宰相が立ち上がろうとしたが、アイコンタクトと小さなジェスチャーで大丈夫だと伝えた。

 ぞろぞろと集まって来るのに紛れて音も無くテーブルから去った仙人。

 店の入り口まで移動。去って行った方を見ると、黒コートの端が突き当りを曲がったのを確認。少し駆け足で曲がり角に着くと、今度は夜で賑わう人だかりの中にそれを見た。

 ガヤガヤと様々な種族が行きかう中、人だかりを縫う様に移動。段々と商業区から遠ざかる。

(誘われてるネ……)

 そう思いながらも何度か角を曲がりついて行くリャンリャン。

 創造主、仙人である亮が作った最強の仙機――黄龍仙。

 その体を持っているからこそ感じた。なぜホワイト・ディビジョンでそれを感じたのか。なぜ今のタイミングなのか。
 ただ一つ分かる仙気を感じれば十分。それが右も左も分からないホワイト・ディビジョンでの単独行動をとった理由だった。

「……アイヤー」

 黒フードが入って行った大きなレンガ造りの倉庫。まわりは人の気配も無い倉庫群。なんとも絵に描いたような寂れた倉庫だとリャンリャンは思った。

 ギギィ

 倉庫のドアを開け中へ入る。

 埃が舞って使われていない倉庫だとすぐに分かる。そして暗がりの中に、光る二つ眼。

「……你是谁(あなたは誰)?」

 普通の声のトーンで問うたリャンリャン。相手は睨むだけで微動だにしない。

「……私はりゃ――」

 数秒も無言が続いた頃にリャンリャンが自己紹介をしようとした瞬間――

「――――」

「ッ!!」

 黒フードが物凄いスピードで迫り、可視化した力場を手のひらに纏い、貫き手で攻撃をくりだしてくた。

 しかしそこは流石のリャンリャン。驚きはしたものの、腕を交差する事で貫き手の軌道をずらした。

 睨む眼光。読み解こうとする細目。互いの視線が同じく交差。

 もう片方の手で同じく貫き手を作りリャンリャンの胸部へ攻撃。

 身体を横にして避ける。

 貫き手で伸びきった腕に触れたリャンリャン。

「――」

 伸びきった勢いをそのまま利用し黒フードのバランスを崩しにかかるも、倒れ込む様に上半身と下半身を捻った態勢の黒フードの足技が顔面を捕らえた。

「っと」

 バシンッ!!

 と力を纏ったつま先を掴む手に強烈な打撃音が鳴り響き、衝撃波が倉庫のレンガを揺らす。

「――打」

 手のひらから力塊が発射。顔面を狙ったそれを首を傾けて避けると、後ろの方でレンガが破壊された音と崩壊する音が聞こえる。

「……」

 掴んでいたつま先をあえて離したリャンリャン。

 それにあやかる様に跳躍して距離をとる黒フード。

「ッ破!!」

 瓦解する床、衝撃波を発生させる突撃。拳に力を纏わせ、リャンリャンに繰り出した。

 しかし先ほどの足技が掴まれたと同じく拳も掴まれ大きな音がなる。それが二撃、三撃、六撃とバンバン連打される。

「破々々々々々々!!!!」

「……」

 腕の付け根がブレる程の高速連打の打撃。

 それをすべて手で受け止めるリャンリャン。

 この光景を見る者は誰もが思う事だろう。力の差が歴然だと。

 一流のアスリートや一瞬一瞬の動きを正確に把握し続ける瞬間視を必要とするプロボクサーですら追えないほどの攻防。そこに人智ではない力も乗っている事も加味すれば、黒フードの力量は十二分に脅威。

 しかし、こと相対するは謎の拳法――機仙拳を習得し、あまつさえ仙人まで上り詰めたリャンリャン。あまりにも幻霊家臣ファントムヴァッサルが強すぎたのだ。

 何度も打ち続けた拳。

 それが等々に止まると、身を引いた黒フードが唐突に膝を着き、頭を垂れ、右手で拳を作り左手でそれを握った。

万歳ワンスイ(バンザイ)!! この時を待ちわびてました……!!」

(女人的声音(女性の声)……)

 細目を少し見開くリャンリャン。

「……仙気を纏い、機仙拳が一つ、機仙連弾拳を使う貴女は何者だイ……?」

 そう告げられた黒フード。おもむろに、待ってましたと言わんばかりに特徴であるフードを脱いだ。

「――」

 黒髪。

 後ろに結ばれたポニーテール。

 そして機械的に整った顔立ち。

「――老師。私は、亮が創った護衛の一対。機体ベース雀王仙。名は、ホンです……」


「――て事があったから連れてきたヨ☆」

「いやまったく入ってこないんだが!?!?」

 おもわずツッコむ萌。

「大哥ッ!! 万歳ワンスイ!!」

「あの靴脱いでもらっていいスか!? 今日掃除当番だから汚さないでください!!」

 萌、動揺する。
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