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第十一章 本戦

第113話 チュートリアル:必要な存在

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 絶対零度――アブソルートゼロ

 それが彼、氷室 雹くんが持つこの世に二つと確認されていないスキルだ。

 アブソルートゼロ発動中、氷室くんの半径一メートルの空間は彼の意志一つで、空気を構成する窒素、酸素に加え、アルゴンに塵等を文字通り氷結することが可能。

 故に、第二試合で闘ったアサにゃ……朝田センパイは足元から氷結され降参を示した。後のインタビューで、"彼の領域が思ったよりも広く、踏み込みすぎた"と語った。

 そう、朝田センパイは氷室くんのスキルの効果範囲を熟知していたけどそれは過去のデータに過ぎず、効果範囲は拡大。結果的に敗北。

 彼の成長と共にアブソルートゼロの範囲は少しずつ広がっているとの結論に至る。

 それに氷室くんのスキルは応用力があり、空気中を凍らせ剣や手斧、槍と言った多種にわたる氷結武器を生成可能。そして俺がオーラ剣で飛ぶ斬撃を出せる様に、氷室くんは飛ぶ氷の斬撃を繰り出せる。

 しかしその斬撃は飛距離が短く、初速から減速していき、最終的には気体へ戻る。じゃあそれを見越して中距離から遠距離攻撃を選択すれば大丈夫と思ったそこのあなた☆

《残ね~ん! 攻撃が外れたあああああ!!》

 それが通用するのは今だけ。彼の力は昨日より強くなっている。飛距離が問題の氷の斬撃も、近接武器も、効果範囲も、某シモンのドリルが一回転するくらいの成長速度で強くなる。

 弱点として相手を凍らせる技と抜刀状態はいづれか一つしかできない。今のところは。

 でも成長しきってない今なら相手できると思ったそこのあなた☆

 俺もそう思ってた。

《あーっと! ここで氷の斬撃が肩に掠りバリアにダメージが入った!!》

 西園寺センパイみたいに相手してる方は氷室くんの成長速度を感じなければこうしてダメージを負う。

《……飛距離と斬撃の広さが増した? 始まった時よりも……》

 つうかさぁ、氷室くんも例に漏れず、なんで氷系のキャラって強くてイケメンでカッコいいんだよ……。アレか? フツメンとブサメンへの当てつけか? 世界が決める氷系のキャラは美男美女限定なのかよ。

 それにセンパイの刀剣乱舞ソードゥズ・ダンスってスキルなんだよ。ショートソードから大剣まで瞬時に操って氷の剣と鍔迫り合い。

「やるな! 氷室くん!」

「まだまだイケますよ」

 なーんて言っちゃってんだろなぁ。イケメンがイケメンの顔に急接近したからほら、少なくない腐女子のおねえさん達が雄叫びと言う悲鳴をあげる始末。

 BLか? BLなのか? 西園寺×氷室のBLか? どっちが受けで攻めなんだよ。まぁどっちにしろけつあな確定だわ。

「……」

 現場の空気を肌で感じるために入場口で腕組みしながら鑑賞。振り切る剛剣が剣先が床を裂き、氷の剣が空気中の水分を凍らせ辺りを冷やす。ガキンッ! と両者の剣が火花と氷を散らせ、その度にオーディエンスの歓声が沸く。

「方や三年の最強。方や一年の最強。どうだ花房くん、決勝戦に上がると二人のどちらかとやり合う事になるけどぉ、今の彼等を見て勝てる見込みはあるか?」

 俺と同じく腕を組んでいる阿久津先生が俺に質問を投げ掛けてきた。イカス男感ある斜め四十五度の顔の角度で向けないで欲しいものだ。ちゃんと決まってて悔しいから殴りたくなる。

「西園寺センパイの闘い方は二回戦目で見せた刀剣乱舞ソードゥズ・ダンスを発動しながらも、宙に発現する大剣を使わずの闘いかた……」

 両手持ちの大剣が縦に振られ床が割れる。

「二回戦目とは違い攻め方の手札を見せて闘う氷室くん……。彼の絶対零度アブソルートゼロは俺に影を落とすのに違いありませんね……」

「……そうか」

 俺の答えに真顔で答えた先生。その眼は真っ直ぐ二人の闘いを見つめた。

「花房くん……」

「……はい」

「君が言った言葉、ほとんど西田メンバーの受け売りじゃん……」

「……ウス」

 そう。俺が今言った言葉は実況席で小金稼ぎに来ている人、ヤマトサークルの隊長、西田メンバーの受け売りだったりする。ところどころ変えてるけど。

 さて、真面目に考えるか。

「うーん。アブソルートゼロの効果範囲に入るとマズイのは当然ですけど、俺ってどつきあいが好きなんでメッチャ致命的ですよねー」

 実況のJ・カビラが攻防を熱況。

「じゃあ斬撃による攻撃と剣の投擲で攻めるか?」

「その戦法もケースバイケースでやりますけど、チクチク攻めて勝ったとしても、アブソルートゼロに挑まなかった腰抜けって世論に評価されますよ……」

 解説の西田メンバーが流れを解く。

「いや世論て例えが……。金食い虫の政治家じゃないんだし、そこは大丈夫――」

「SNSのせいでお前らは他人をバカにしても顔面を殴られない環境に慣れすぎているってマイク・タイソンも言ってたでしょぉ? 先生、世論を舐めちゃダメです。あいつらはいけしゃあしゃあとコンクリートに着いたガムにまで批判してくる様なレベルなんです……!」

「お、おおう……?」

 俺は知ってる。某掲示板で俺のバトルが盛り上がってるのを。感じるんだ、画面の向こうで今か今かと荒さがししてる連中のことが!

:草
:wwww

 ……なんか今その予兆が毒電波として俺のアンテナ乳首が受信した。

「まあオーラ纏ってれば接近しても大丈夫でしょ! 凍らない凍らない!」

「……それほどオーラのレベルに自信があるのか。……花房くんなら体が凍っても力技で抜け出せそうだしな」

 誉め言葉として受け取っておこうと思うけど、前述のとおり、超絶クールイケメンの氷室くんは今日より昨日より強くなる。どこまで力任せに戦えるかだな。

 俺と先生が駄弁ってる間にも、氷の棘が凍った床から突き出して攻撃したり氷の刃が飛び出したり、剣の一振りでそれらを両断したりと忙しなく場面が変わっていく。

「西園寺にはどう闘う? まさかまた力によるごり押しとかじゃないだろなー」

「いやまあ――え……?」

 驚いた俺は言葉を切った。

 氷の塊を出されたセンパイがそれを容赦なく斬った途端、白い冷気が氷の塊から噴出。瞬く間、隠す様に二人を包んだ冷気が惑うオーディエンスの声と共に晴れて行った。

 そして俺は驚いた。

 氷室くんの姿が、氷の騎士と言っても過言ではない鋭利で氷、透明感あるアーマーを纏っていたからだ。

「このままじゃ埒が明かない。……奥の手を使わせてもらいます……!」

 俺にも聞こえた氷室くんの覚悟。

 ――――きゃあああああああああああああああああああああああ!!!!

 荘厳そうごん矍鑠かくしゃくたる彼の氷鎧の姿に女性たちは大いに発狂。まるで真の卍解が解放された状態の大人日番谷〇獅郎みたいな面持ちだ。実際カッコいい。

「――――へぇえ……」

 実力に自信があるのかそれともイケメン具合では勝ってるからなのか、驚きはしたものの西園寺センパイは余裕の笑みを浮かべている。

「――」

 速攻をしかける氷室くん。

 冷静なセンパイは氷剣の攻撃を避けたけど、斬った軌道に遅れて刺々しい氷が出現。

「ッ!?」

 しかも軌道の氷が爆ぜる様に爆発。無数の氷棘がセンパイを襲うも大剣を盾にして辛くも防いだ。

 あわや棘地獄にダメージを受けそうになった先輩は一息つきたい所だろうけど、それを許さないのは無論の氷室くん。

氷斬グラスラッシュ――」

 氷剣による飛ぶ斬撃。

 鎧を纏いパワーアップしたのか初速が加速し、軌跡を凍結させながら相手を襲った。

「砕くよ!」

 大剣がグラスラッシュをバリバリと砕くが、余裕のあった先輩の表情が一瞬曇る。

「――!」

 幾度となく砕いて来た氷は飛散して露と消えていった。でも先輩の視線に釣られてよく見ると、大剣の一部が凍結。しかもバリバリと唸って氷が侵食している。

「ッハ!」

 このままじゃマズイと判断した西園寺センパイ。体を捻って手放す様に大剣を投擲。大車輪と化した大剣は真っ直ぐ氷室くんに目掛けるが、彼から二メートルくらいの所で氷の壁が冷気を帯びて出現。

 ザクッと刃が氷に阻まれ、そのまま氷に侵食された。

氷靴グラスヒール――――」

 氷室が右足でトンと床を蹴ると、そのつま先から霜が広がり追随して氷も広がる。そこから氷の棘がザクザクと音を立ててセンパイを襲う。

「――」

 たまらす避けに走るセンパイ。剣を出して追ってくる棘を払うけど、剣先から氷が侵食してくるもんだからすぐに手放した。

 回避して、回避して、避けて避けて。

「マズいな」

「ヤバイっすね」

 俺と先生は同じことを思った。

《ああっと!! 囲う様に氷の壁が出来上がってしまったあああああ!! もう逃げ場がないいいいいい!!》

《氷室くんの作戦が成せた様子ですね》

 そして俺含むオーディエンスが一斉に空中を見た。そして冷気を感じたのか、西園寺センパイも己の頭上を仰ぐ。

「―――やるね」

 大きな大きな氷の塊がそこには鎮座。

「――氷塊グラスブロック!!」

 一瞬音を無くした世界。センパイを飲み込んだ塊が着弾すると、悲鳴にも似た氷の音が響いた。

 ッボフ――!!

 直後に冷気がそこから漏れ出し、一瞬のうちにバトルフィールドと会場を冷気の蒸気が満たした。

《も、ものすごい攻撃ィ!! 冷気で二人が見えません!!》

 ――――ガキィィィィ!!

《……攻撃の音……!?》

 冷気が俺の肌を撫でる。霧が濃くて隣の先生がぼやけて見える。その状態が数秒続き、次第に霧がかった冷気が晴れていく。

 そして俺は驚く様に目を見開いた。

「……な、なんで」

 氷の鎧がドロドロに溶けた氷室くんは、溶けゆく鎧の手の平を見つめて呆然。

「神剣――フェニックスブレード――」

 氷室くんの背後に居る西園寺センパイの右手には、刀身に焔を纏う剣が握られていた。

「出すつもりは無かった……。これを引き出した氷室くんは誇っていいよ」

 さすがのセンパイもバリアのダメージが見て取れる。でも微動だに動かない二人。口を動かして何か話しているようだ。ここからじゃ聞こえない。

「――君は世界に必要とされている存在の一人だ。……無論、僕もその一人だけどね」

「必要と……された存在……?」

「ああ。近いうちに訪れる厄災。その時、キミはどう立ち向かうかな」

「……なんの話を――――」

 氷室くんが振り向こうとした瞬間、背中を一閃したセンパイ。

 バリアが砕た。

「勝者あああああ!! 西園寺 L 颯ええええええええ!!」

 大歓声。

 イケメンVSイケメンの勝敗は、イケメンに軍配が上がった。
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