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第十一章 本戦

第104話 チュートリアル:空Nコンボ

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《マトリックス避けの態勢から起き上がった花房ああああ!! クゥ^~上賀澄は驚いたのか、俊敏だった脚が止まっているうううう!!》

 J・カビラが実況する様に、口を覆ったフェイスカバー越しだが上賀澄の開いた口が塞がらない。

(どんな体幹してんだよ……!! やっぱ暫定二年最強は伊達じゃないな!!)
「ッ」

 ヒビの入ったバリアを確認する萌を目視した上賀澄。その隙に後方へシュタッとジャンプし距離をとった。

《おっとここで距離をとった上賀澄ぃ。攻めッ毛のある畳みこむような攻撃を止め様子を伺っています! クゥ^~! 隙だらけの花房だが上賀澄、慎重になったか!》

《撒菱と身分身には声を荒げて驚いた様子でしたが、手裏剣と火遁、水遁手裏剣の攻撃には冷静に対処。避けはされたがそのままの勢いで攻めればよかったとお思いでしょう?》

《はい。現在進行形で上賀澄は攻める様子は無いですし》

《第三者視点の俺たちはそう思いますが、いち本人の視点では違います。ほとんど冷静を欠かさず、序盤は小手調べだったが、本腰を入れた攻撃をあまつさえ余裕の表情で対処された……。底の知れないバケモノを見てる気分じゃないですかねー》

 ケラケラと笑う西田メンバー。J・カビラには楽しそうに映るが、西田の脳裏には初めて会ったルーラー、ファントムルーラーと、その類の黄龍仙だった。

 ップハーと缶ビールを景気よく喉に通しカンを机に置いた蓮司。通称萌パパ。
これが欧米流だと大きな手でポップコーンを握りむしゃむしゃと頬張った。

「ンク。後手に後手に回って、なんだか俺らが思ったより萌の奴強そうじゃないかママ! こっから萌の快進撃が始まる! そんな予感がぁ……マ、ママ?」

「……」

 そんないつもの光景を肌で感じていた有栖。通称萌ママだが、パパの声が届いてないのかテレビを見る眼が鋭くなっている。

 また悪い癖がが出てると思ったパパは下唇を突き出して不機嫌を作る。

「……休日なのに仕事モードなのは嫌だなー。もうおあずけしちゃおっかなー」

「――え!? それはダメぇ!」

 夫婦間だけにある謎の合言葉。その言葉の効果はバツグンで、ママの意識を呼び戻した。

「パパ……」

「ママ……」

 抱き合う二人。

 湖○屋――カ○ムーチョ、すっ○ムーチョブランドが誇る馴染みあるキャラクター、ヒーおばあちゃんに加え、いつの間にか生誕していたヒーヒーおばあちゃんも真っ青な口のすぼみ。

「「♡」」

 二人がテレビ画面から目を背けた時だった。

《ッッ~~花房の攻撃ぃいいいいいい!!》

 床を裂きながら上賀澄ターゲットを襲う可視化したオーラの斬撃。テレビに斬撃を映していたカメラが広く見やすい俯瞰視点に。

 場面はいちゃつく夫婦から騒々しい大会へ。

 映像が切り替わった瞬間には回避に成功した上賀澄。だが二度、三度、早くもなく遅くも無いが瞬きは許されない速度。観戦している客は手に汗握り、攻撃を受けている上賀澄は背中にイヤな汗が流れていた。

《放つ斬撃による中距離攻撃もできるのか。超接近戦だけだと思ってたけど、引き出しが多い》

《たまらず回避する上賀澄ぃ! 次の行動は!》

「ッ」

 人差し指と中指を立たせ身に宿るチャクラを操る上賀澄。

(あまりスキルを見せたくは無かったが……!)

 瞬間、上賀澄が握る小太刀に帯電する紫電。

《お》

 それを見た西田メンバーが驚いたと眉毛をハノ字にした。

「雷《遁・紫電斬しでんざん!!」

 腰に掛けてある帯電した小太刀を引き抜き横一閃。

 バリバリと唸る雷撃の斬撃が飛び出し、萌を襲う。

 オーラ剣を床から引き抜き、襲ってくる紫電斬をオーラ剣で斬り相殺。

「ッ!?」

 散らした紫電の残滓が萌の頬、胸部、脚部に当たり、僅かながらダメージを負わせた。

(あーめんどくさい系か)

 猛火の残滓と違い紫電の残滓にはダメージ判定がある。猛火と紫電同じく攻撃スキルだが、なぜダメージの有無があるか分からない萌。

 考えてもしかたないと思った萌は、再び襲ってくる紫電斬を同じく飛ぶ斬撃で対応。

 したがって――

《斬撃のラッシュラッシュラッシュウウウウウ!! クゥ^~!!》

 バリバリと紫電が弾く音。

 ドワオッとオーラが迸る音。

 雷が会場を暴れ、オーラの余波が髪を撫でる。

《今日一番のド派手な差し合い!! 紫と水色の蛍光色が私たちを包みます!!》

《俺も雷を纏って戦うのは得意ですが、があまり良くないんですよねー》

《燃費?》

《長時間の帯電した身体能力向上や武器への補助は難しいです。ドッと疲れますから。でも上賀澄くんは抜群のチャクラ操作で長時間でも苦じゃないと聞きます》

 上賀澄。萌。距離を測る様共に斬撃を続けている。

《上賀澄! 既に国内外のサークルからオファーが来ているとの噂です!! 有望株クゥ^~!!》

《海外は忍者人気ですからねー》

 クゥ^~クゥ^~うるさいJ・カビラを隣に解説する西田。

(オファーと言えば俺らヤマトサークルも出してるが、それは花房くんに対しても同じだ。調査班としてのオファーだが……)

 西田の後輩、三井の猛烈な推し。事の皮切りは泡沫事件の調査メンバーに抜擢されたのが顛末だ。

 貴重なスキル、次元ポケット。

 その有無は希少で、かつスキルを使用した本人が離れても問題なく使用できる。次元ポケット所有者でも同じ真似ができない器用な萌は、喉から手が出る程欲しい人材なのだ。

 と、当時に西田は、萌に対してこのまま負けて欲しいと思っていた。

《……》

 次元ポケットの有無は公表されているが、類を見ない使用方法は箝口令により黙殺されている状態で出回っていない。

 調査班の一角も務まり攻略班も問題なく務まり、勤勉な姿勢に加え肝も据わっている。
 投げも良し打っても良しの野球界の怪物――二刀流の大谷翔平を彷彿とさせる逸材なのだ。

 ここで西田、椅子を座り直す。

《お》

 忍法・身分身による影分身。それに紫電斬を任せ、数秒と満たない時間に技《スキル》を完成させた。

 左手を制す様に手首を持ち、鷲掴む形の左手から紫電がバリバリと唸りをあげる。

 あまりにも有名な雷。あまりにも有名ないで立ち。

「忍法!! 紫電掌しでんしょう!!」

《千鳥だ!!》
《雷切だな》

 事は一瞬だった。

「行くぞッッ!!」

 バリッ!!

 雷と同じ速度、破壊力。

 紫電を纏った上賀澄は己の必殺技を惜しみなく披露。

 紫電を残して忽然と消えた上賀澄。

「――」

「――」

 真横を映すカメラは捉えた。

 上賀澄の必殺技が萌を貫いたのを。

《――いや! 紫電掌! 寸での所で躱されているううううう!!》

 紫電掌は空を斬り、上賀澄は首元の布を萌に掴まれた。

「なんで――」

 ――避けられた。

 萌はしっかり動きを捉えていた。

「噴ッ!!」

 腕力に任せた背中からの叩きつけ。

「――かはッ」

 背中のバリアにヒビが入り、空中にバウンド。

「ッッ!!」

 バウンドした上賀澄を追う様に萌も小ジャンプ。

 ドゴンッドゴンッ!!

  重く鈍い打撃音が鳴り響く。

《体を捻って二度の蹴りいいいいいい!!》

 地に足のついた萌。そのまま瞬時に滞空する上賀澄を掴み、また腕力に任せて床に叩きつけた。

「っぐは!?」

 威力に床が砕ける。

 再度バウンドする上賀澄。

 そのまま同じく萌はジャンプして攻撃。

 ドゴンッドゴンッ!!

《またも体を捻って二度蹴りいいいいい!!》

 対戦相手のバリアは砕かれる寸前。

 ダメ押しのと言わんばかりにオーラ剣を生成し、大きく振りかぶって――

「ドリャー!!」

「ッッッ~~~!?!?!?」

 特大の一撃。

 それをもろに受けた上賀澄のバリアは悉く破壊された。

「――ックソったれ!!」

 上賀澄 明弘。転送。

 獅童の檄。

「勝者ァ!! 花房 萌え!!」

《決着うううううううう!!》

 吠えるJ・カビラ。

「やったあああああああああ!!」

 瀬那が歓喜を上げ。

「よっしゃああああああああ!!」

 大吾も拳を握って喜び。

 大歓声が沸き起こる。

「忍法マジパネェ。でもまずは一勝だな」

 歓声を浴びながら、萌は入場口の中は去っていった。
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