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第十一章 本戦

第102話 チュートリアル:カノにゃんVSアサにゃん

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「おめでとさん進太郎。ナイスガッツだった!」

「ありがとう」

 二年Bクラス控室。

『チュートリアル:勝者を出迎えよう!』

 デンデデン♪

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:体力+』

 文字通り勝利の一撃をお見舞いしたその脚で月野は戻り、突き出した俺の拳に同じく拳を合わせて健闘を讃えた。

「まずは一勝、おめでとう月野くん」

「ありがとうございます、先生」

 壁にもたれ掛け腕を組んで出迎えた阿久津先生も称賛を送る。

「それにしても月野くんには驚かされたよ。ロケットパンチからすぐさま装甲を脚に纏ってジャンプ、いや、飛行か。キックも良かった」

「そうそう! ライダーキックもそうだけど、おもむろにジャージを脱ぎだしたのもびっくりしたわー」

「暑かったのもあるが佃に一泡吹かせるのに一役買ってくれた。正直、賭けの部分もあったし……。あのまま立ち止まらずに一歩引いて様子を伺われたらどうなっていたか」

 佃 満はテクニカルに攻め月野は一撃があった。今回は月野が勝ったけど、もう一度戦えばそれこそどう転ぶか分からない……。

 進太郎はそれが分ってるからこそ、今回の勝ちを眉毛が繋がりそうな程に吟味し、喜びを押さえているのだろう。

「勝負は沸騰した蒸気の様なものだ。熱くなれば熱くなるほど精神という沸騰した蒸気が上がる。月野くん。キミが今日の勝ちで満足していたら、俺は教師として叱っていたところだ。どうやらその心配はなさそうだがな」

「中継映像見て興奮しまくってて一番うるさかったの先生だからなぁ」

「ちょっと花房くん!? 今イイ感じな事言ったのにそれ言っちゃうの!?」

「ハハハ! そうなんですか先生」

 控室で先生と二人きりだったけど、進太郎を見守る視線と挙動は本物で、普段はふざけてるけど根はいい人なんだと俺は思った。

「――はじめ

「ん?」

 少し微笑んでいる進太郎が視線を合わせてきた。

「俺はAブロック。お前はBブロック。勝ち進むと優生争いだ」

「……だな」

 そう、俺たちが勝ち進むとガチンコの優勝争いになる。

 友と友がしのぎを削って戦う……。これほど熱い展開はあるだろうか。

「そのためには高い壁である生徒、三年の西園寺と一年の氷室、それかこれから戦う女子のどちらかを撃破しなければならないぞ」

「あのぉ急に現実に引き戻すのやめてもらっていいですかッ」

「なんでひろゆきみたいに言ってるんだ……」

 全然ユーチューブとか見てない感じな人なのにひろゆきは知ってるのね……。

 そんな事を思っていると。

《選手入場ぅッ! クゥ^~!!》

 壁に備え付けられたモニターから楽○カードマンの声が響いて来た。

 青い電撃が西の入場口に集まり、蒸気の向こうから女生徒が歩いて来た。

 歓声が控室のここまでも地鳴りの様に響いている。

 モニターの字幕には、「一年Bクラス 加納 順子」と書かれてある。もちろん現場の大型モニターにもそう映ってあるだろう。

 容姿はと言うと、小柄で目もクリクリ。どう見ても可愛い系でブイブイ言わせてる感じの後輩だ。

 知らんけど。

 注目される事に場慣れしてるのか、声援に応えている。

「俺もこんな感じで登場したのか……」

「客に愛想よく振舞ってる加納ちゃんと違って、お前は終始ぶっきらぼうだったけどな」

「……緊張してたんだ、しかたないだろ」

 モニターから聞こえる声援。地鳴りの様に響いて来る直の声援。それが少し納まると、赤い電撃が東の入場口に集まる。

 同じく蒸気の奥から歩いて来たのは、女性にしては高身長の先輩だった。

 三年Aクラス 朝田 沙織。

 成績優秀。容姿端麗。高身長に加えキリッとした野獣の様な眼つきは間違いなくドMホイホイ。夜になったら鞭持つ女王様待ったなしだ。

 ん? なんでこんなに詳しいのかって?

 年上好きの俺に抜かりはない! 俺の性癖SかMかはその都度その場合に変わるのだ。
 例えば年上お姉さんの蠱惑的な表情画像がSNSで流れてきたら俺はMに。同年代と後輩の可愛い系画像が流れてきたらSに。こんな感じだ。

 おっと! 勘違いを招く前に言っておくと、俺はシャーロックホームズすらめんどくさがって鼻くそ飛ばす程のバカらしい"トランスジェンダー問題"とは一切の無関係だと覚えて欲しい。

 セクシュアル・フルイディティと言う、周りの責にして性自認と趣向を変える訳の分からんモノとは断じて違う。

 我が父上なら、「男女なんてちんちん付いてるか付いてないかだけだ!!」と豪語するだろう。まぁ豪語なんて必要ないんだが……。

 話は大幅にズレたが、要は朝田先輩ステキ! という事だ。

 まぁこんな事瀬那に言えば間違いなく殴られるけど。

「――はじめええええええええええ!!」

 獅童さん――レフェリーの声と共にバトルが始まった。

 互いにジャージ姿。各々の武器を装備しての開始。

《――静かですね。先ほどの一回戦目と違って静かな立ち上がりです! クゥ^~緊張感!》

《月野くんと佃くんは予選からの因縁があったようで、仕掛けるのは早かったんだと思います。むしろ睨み合うこれが正常……。一挙手一投足を瞬きせずに見ているんですよ》

 実況と解説の言う通り様子を伺う二人。だが、少しずつ円を描く様にじりじり近づいている。

 歓声がワーワーとうるさいだけだが、俺は疑問に思っていた。

(二人とも……ケモ耳付いてる……)

 と。

 俺の考えを代弁する様に西田メンバーが解説してくれる。

《プロフィールでも書いてますが、加納さんと朝田さん、二人ともスキル・オーバーソウルを所持しています》

《クゥ^~オーバーソウル? 詳しくお願いします!》

《原生生物から異界の生物、その魂を身に宿し身体能力を劇的に上げるスキルです。人間離れした機動力を獲得できますが、扱いは難しいと聞きます》

《加納の耳はネコでしょうか! それと朝田の耳は……イヌですね!》

《まぁ……はい》

 機械じみたエレクトリックなネコミミが付いてる加納ちゃん。その武器は両腕に装備されたかぎ爪だ。アップにされた顔に映る瞳は細く、猫目になっている。

「ニャッ! ニャニャッ!!」

 ――ワアアアアア!!

 パッションピンクが冴える様なカノにゃんの仕草に、野太い男の歓声が轟く。

(((可愛い……!)))

 控室でシンクロする俺たち。

《かわいいですねークゥ^~!》

《チヤホヤされるの慣れてそうですねー》

 楽○カードマンも同じ気持ちだったけど、西田メンバーの棒読みが半端ない。明らかにあざとい系は苦手なトーンだ。

 モニターが次に映したのは朝田センパイだ。同じく獣の瞳になっているが、厳つさが段違いだ。狼に睨まれてる感覚に似てる。

 ちなみに狼に睨まれたことは無い。ニュアンスが伝わればいいと思う。

《加納さんのオーバーソウルはキャットと判明してるんですが、朝田さんのオーバーソウルは未公開ですねー。……俺のカンだとそうだなぁ――》

《――朝田が動いたッッ!!》

 事態は秒で動く。

 モニターに映ったのは姿がブレるセンパイ。すぐさま俯瞰《ふかん》視点に切り替わるが、背中を映しながら両手から攻撃スキルのエフェクトを出すセンパイ。コウハイのカノにゃんは目をグルグルと回しながら倒れバリアが割れる。

 あの一瞬で、勝負が決まった。

「勝負ありいいいいいい!! 勝者! 朝田 沙織いいいいい!!」

 ワーワーと歓声が轟く。

《――幻獣の類なんじゃ……あれ?》

《け、決ちゃクゥ^~~~~!! 勝負は一瞬で決まったあああああ!!》

 センパイはスキルのケモ耳を消し、ブレないキリッとした表情で大歓声の中を後にした。

「……次は萌か。いよいよだな」

「ついに来たか。ってか進太郎の時は十五分くらいかかってたのに三分も無いとか決着つくの早すぎだろ!」

「それ程実力に差があったという事だな」

 ツッコむ俺に優しい眼差しを向けてくる進太郎と阿久津先生。

「先輩が相手でも同じ攻略者卵なんだ。萌なら勝てるさ」

「ありでーす」

 拳を合わせて会釈。

「花房くん」

「先生……」

 真剣な眼差しで俺を見る先生。どこからどう見ても威厳ある教師の顔だ。

「上賀澄くんは実力のある三年生だ。もちろん俺は花房くんが負けるとは思ってない。が、一つの油断が足元を掬う事になる……。キミは自慢の生徒なんだ、ベストを尽くして戦って来てくれ!」

「先生……」

 俺の肩を両手で掴んで安心させてくれる。

「……本当は?」

「負けたら人権ナシ! 勝利以外の報告は一切受け付けないからぁ!! 俺のボーナスのために馬車馬になって働け!! だから!!」

「――!」

 バシッと背中を手のひらで叩かれる。

「楽しんで来い!」

「……ッハハ、じゃっ、行ってきます!」

 気合いと根性を注入され、俺はスタッフの後について行く。

 このトーナメント。優勝しか狙いません!

 ちなみに。

「イテテ……」

 背中は普通に痛かった。
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