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第十章 対抗戦 予選

第97話 チュートリアル:パパ「ちゃんとゴムするんだぞ」

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「トーナメント出場! おめでとーーーー!!」

「YES!! さすがは俺たちの息子だ! 鼻が高いとはこのことだな!」

 バトルロワイアルを勝ち抜いた次の日の木曜日。時間は朝の八時過ぎだ。

 朝早くに用事があると言って簡単な朝食を作り置きし、我が家の仙人は細い目をさらに細くし笑顔で出掛けた。どこに行くんだと聞いたらナンパと言っていた。正直嘘だろうな。だってあいつ顔はいいケド股間ツルツルだし。ちんちん付いてないし。

 まぁ悪い事はしてないと本心で言ってるので特に咎めはしない。なんかあったら責任取らせるし。

 今日は俺も昼前に所用の用事があるが、朝食を済ませ、サブスクの動画サイトでドラマでも見ながらゆっくりできると思いきや、まさかの突然の来客。

 親が来た。

「OH……息子の晴れ舞台を会場で応援できないのは残念だ……」

「テレビでも放送されるし、ソファーに座って応援しましょ」

「そうだな。隣に母さんもいる事だし、家族そろって応援だ!」

「あなた……」

「母さん……」

「「♡」」

「息子の前でイチャイチャするの止めてもらえるかなぁ!? 恥ずかしいんだけど!!」

 親の仲が良いのは良い事だろうけど、息子の目の前で唇しぼめてキスされるのマジで吐きそうだ。これだけはホントに慣れない。

「息子よ、愛を語るのは良い事だ……」

「なにガーディアンズ・オブ・○ャラクシーのド○ックスみたいな事言ってんだよ!? 朝から胸焼けするわ!?」

 真理を語ったみたいな感じで俺を見るな!

『チュートリアル:胸焼けしよう!』

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:体力+』

 胸焼けのチュートリアルってなんだよ!? そんなのあったのかよ!? 身体に悪いだけやんけ!?

「……そう言えばリャンリャンさんは? 姿を見かけないけど」

 突然母さんがそう問いかけてきた。まぁ居るはずの居候がいなかったら不思議に思うか。

「え? あのせんに――あいつなら朝から用事があるって言ってどっか行った」

「あらそう。……朝ご飯は作ってくれたようね」

 母さんが訝しげな顔をし、台所の流しに目を向けそう言った。

 そして俺はしまった! と嘆いた。

「急がない時は直ぐに食器を洗う……! ちゃんとリャンリャンさんに感謝して洗いなさい」

「うぅ! アライマス……」

 漬け置きして後から洗えばええやろ精神。ぐうたらな俺は一人暮らしでそうやってきたが、母上はそれを良しとしない。躾と言うやつだ。

「ありがとうございます。ありがとうございます……」

 JOY洗剤最強説を謳う(個人的に)俺はもちろんJOYだ。

 食器を洗って手を拭き、視線を感じると母さんが俺を見ていた。

 ……テーブルにはマグカップが二つ。

「……コーヒーのおかわりスか」

「はーいお願いねー!」

「ワカリマシタ」

「さすがは息子だ!」

 インスタントとはいえコーヒーを美味しく飲んでくれるのは嬉しいけど、息子を顎で使うとは……。まるでモンハンで3パーセントの確率の素材がなかなか出ない歯がゆさを想起するけれど、これも親孝行だと自分を納得させる。

 それからと言うもの。

「ちゃんと勉強してるの?」

 とか。

「悪い事はしてないか?」

 とか、放任主義を埋めるが如く質問攻めだ。たまに帰ってくるとコレだから嫌になる。

「瀬那ちゃんとは仲良くしてるの?」

「まぁうん」

はじめ、なんだその曖昧な返事は! 男ならシャキッとしなさい!」

 普通に怒られた。

 昨日は不機嫌な瀬那が帰ったから、曖昧な返答を自然としてしまった。

「それとな」

 まだなんかあるのかよ。

「はいコレ」

「?」

 父さんがまさぐったポケットから何かを握り、俺に手渡してきた。

「ちゃんとゴムするんだぞ」

「変な気まわしてくんな!?」

 連なる包装された未使用なソレ。

「何を言う! 父さんと母さんがお前くらいの歳でどれだけお世話に――」

「聞きたくねえよそんな事ぉ!?」

「まあ! うふ♡ 若気の至りってやつね!」

「若気もクソもあるか!? 現在進行形で続いてんでしょうが!!」

 その証拠にこの寄こしたモノ。開封していない箱じゃなくて包装状態で渡してきた。つまり、ポケットに忍ばせるくらい日常的に使用してるという事だ!

 盛りすぎだろ俺の両親! 岡山の糞土方も糞撒き散らして逃げるレベルだわ!

「「♡」」

「ヤメテクレエエエエ!!」

 精神的ダメージを受けしばらくすると、両親は仕事に行くと言って遅い出勤に出向いた。

 まぁそれなりの地位に居るらしいから出勤時間なんて都合が付くんだろうけど、今はそう。

「あひゃあーー……」

 ソファに深々座り休息をとった。

 俺の精神的ダメージは大きい……。俺が小さい頃からずっとあの調子だからなぁ。仲が良いのはけっこうだが、場所考えずに接吻するのマジで勘弁。あれか? 欧米色に染まってるからか? 

 そんな事を思っていると、ピコンとスマホから着信音。メッセージが届いたようだ。

「……優星さんだ」

 中堅サークル、ファイブドラゴンのリーダーで、髪型があまりにも特徴すぎるお兄さん。戦わなければ生き残れないライダーだったら間違いなくシザースな優星さんだ。

 その内容は……。

《おはよう萌くん。トーナメント出場おめでとう。キミなら絶対に勝ち残れると思っていたよ》

 昨日の夜遅くに速報でトーナメントのニュースがデカデカと掲載。急ごしらえに加え変更の旨、出場者の名簿や簡単なプロフィールが公式サイトにも掲載。
 一応、俺の最初の対戦相手も乗っている。

 まぁそこは今は置いといて、返事を返そう。

《ありがとうございます! けっこう信頼あるんスねw》

《もちろん。あ、萌くんがバトルする日に合わせてチケット取ったから(笑)》

《え、前はチケット取れないって言ってたじゃないスか!? しかも俺が勝ちあがる前提!? ほぼ連日じゃないスかw》

《実はマーメイドレイドの功績が国連から賜ってな。色々貰ったが、その一つとしてトーナメントの都合を回してもらった》

 マジか。セバスチャンから貰ったアーマーと、蟹だと言われた事が嬉しいと言って自慢してたのに、えらい展開だな。

《今日時間あるか? 近況報告と言う名の名目で茶店で一杯》

《ありがたいですけど、俺用事あって》

《……デートか》

《まぁ》

 ちなみに優星さんとアキラさんの仲も健在らしい。

《そういえばファッションセンスに難があると言ってたな》

《これ着てきます。マネキン買いです》

 そう送ってから撮っておいた服を着たマネキンの写真を送った。

《俺からすればまだ地味すぎるぜ! もっと腕にシルバー巻くとかさ! それと――》

 めんどくさい文言が出てきたから適当にあしらって着替える。もちろんシルバーは巻いてない。

 櫛で髪を整えお口にスプレーエチケット。それからスマホをいじる。

《今から出るわー》

《りょ! 私はもうちょっと!》

 機嫌直してくれるかなぁ……。
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