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第十章 対抗戦 予選

第84話 チュートリアル:エボンの賜物

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 統率なんて投げ捨てて悲鳴の方へ駆ける俺たち。

 お生い茂る森林の中を抜けると開けた場所にでた。

「おおおおおお!!」

 俺たちが見たのは、モブ男くんが右手に短刀を握り、左手で魔法陣を展開して他クラスのチームへと果敢に攻めていた光景だった。

 構えてた俺たちもすぐに戦闘へ――

 しかしモブ男くん一人に対して向こうは複数人、いや複チーム。多勢に無勢。したがって。

「うわあああああ!?」

「モブ男くん!!」

 一人を討ち取りこそしたが、猛反撃に会いバリアが破壊。

「――グットラック」

 彼は泣きそうに笑い、そう言って消える様に退場していった。

 同時にリストバンドに表示される残存チームがB-5、俺たちだけになった。

「……これはマズイな」

 月野の言葉でリストバンドから目を離し見渡すと、ぞろぞろと俺たちを囲む様に他チームが集まっている。

「あっれー? そっちから来てくれたんだぁ! 移動する手間が省けたよぉ!」

「……」

 少し高い声帯が特徴のおかっぱな男子がひょっこり登場。ニコニコと笑顔を振りまえてはいるが、光の無い黒一色の瞳が妙に不気味だ。

「……え、見たことあるけど名前しらん……」

「Dクラスのつくだ みのるだ」

 さすがは優等生の月野。ちゃんと名前知ってた。

「失礼だけどちょっと目怖くない?」

「わかるマン」

「あのーカップルでイチャイチャするのはいいけどぉそれコソコソ話になってないからぁ。けっこう傷つきやすいんだよボク」

 笑顔でそんな事言われても……。

「さて、残存チームの表示やらこの状況で分かると思うけど、この予選でBクラスには大敗してもらおうと思うんだ!」

 佃はケラケラと笑いながらそう言ってきた。周りに居るチームの生徒もニヤニヤしている。

「悪いね! じゃあ一斉攻撃で!」

「――――」

 瞬間、――マジックアロー、ライトニング、鉄扇、投擲爆破……聞こえてきたスキルや技の名称はそれらだけで、それ以上の総攻撃が扇状に広がっていた生徒から飛んできた。

 着弾点である俺たちは爆破の中に消え、広く大きな大きな土煙が発生。

「アハハハハ! 呆気なかったね! ねえみんな!」

 怒涛なまでの攻撃。まさにひとたまりもない。爆風を肌で感じる生徒全員が頬を吊り上げた。

「さあて、こっからは点数稼ぎに――」

 佃が煙に背を向けた時だった。

「――まだそこに居るって!!」

「!?!?」

 佃は二つ驚愕した。

 一つは茂みの中から飛んできた女生徒の登場。

 そして二つ目が――

「直進行軍ンンンンン!!」

 土煙の中から颯爽と出てきた三匹の帝江ていこうを駆る俺たちに驚いた。

「うっそでしょまだ生きてるの!?」

 佃の驚愕した言葉が遠く聞こえた。

「フーーー!!」

 帝江を駆る俺たちは一直線にドルアーガの塔へ向かう。いや、逃げる。

「瀬那マジでナイス!! まさか三匹も呼び出せたなんて!!」

「成長してますから! って言っても今のところ帝江は三匹が限界だけどねー」

「ふわふわだ……」

 オーラを纏った拳で地面を殴打。地面を爆ぜさせ攻撃を防いだ。少し漏れ出した攻撃は片手のオーラ剣を回して相殺。攻撃が止んだ頃合いで月野が速攻をしかける算段だったかが、瀬那の提案で帝江にのって急遽脱出した。

 正直ぶつかり合うよりこうして逃げた方が安全だったのは事実だな。

「フー―!!」

「フー!」

「ッフッフ!!」

 ガチムチ帝江たちが何か言ってるけど何言ってるかわからん。三匹とも声のトーンが違うのな。

「うん、あそこに立ってる塔までダッシュね!」

「いやわかるんかい!? どゆこと!?」

「何となくわかるんだよねぇ。この子たちイイ子だよ?」

「……ふわふわだ」

 顔の無い帝江が声を発するのもおかしいけど、こいつらの言葉がわかる瀬那も驚きだ。つか月野が頬を染めてずっとブツブツ言ってる。ふわふわが大好きなのはわかった。

 と思っていると、月野が正気を取り戻して太い眉毛を近づかせる。

「あのガンギマリな目をしてるのはDクラスの佃。少し離れた場所に居た声高く叫んだメガネ女子がAクラスの吉だ。二人ともクラスでは秀でた生徒の一人。その二が率いるチームともう数チームが結託した様だな」

「ヤバかったー! ついでにCクラスの生徒もチラホラいたよね」

「ジー……」

 ポヨ~ンポヨ~ン……。

「俺らBクラス以外が手を組んだ事になるか……。俺たちがまんまと罠にはまったのは秘匿できる統率と躊躇ない執念の賜物か……。見事だな」

 ブルン、ポヨ~ン。

「きっとめちゃくちゃ練習したんだろうねー。アタシたちが遊んでる間にも。ドンパチ聞こえてたのはモブ子ちゃんたちが戦ってた音だったのかも……」

 ポインポイン~。

「……」

 凄い……。帝江から伝う振動で夢ってああいう風に揺れたり弾んだりするのかぁ。

「――モエ?」

 たまげたなぁ。これもエボンの賜物だな。エボタマエボタマ……。

「ちょっと萌聞いてる!?」

「え、あうん聞いてる聞いてる!!」

 危ない危ない。瀬那のおぱぱーいというシンの毒気にやられるところだった。

「ぅうもー! どんだけおっぱい好きなの!」

「ごめんなさいワッカがティーダだったからつい!」

 瀬那が胸を隠す仕草をした。しかも顔を赤らめて俺を睨んでいる。どうやら既に毒気は回っているようだ。変な言葉を口走ってしまった。

「素敵だね」

 月野が遠くを見ながらなんか言ってる。まるで世界一ピュアなキスを見た後の様な表情だ。

 後ろを見ると木々がどんどん奥へ流れていく。この帝江の速度バカにならない。当然追っ手の気配もない。筋肉帝江たち有能すぎる。こんど一緒に筋トレしよう。

「あ! モンスターだ!」

 瀬那が叫んだ。前方にはクリボーじゃないファンタジーどころのリザードマンが群れを成していた。

 疑似モンスターでも断然クリボーより強いだろうリザードマン。そんなリザードマンを恐れて止まるかと思いきや、帝江たちは止まらなかった。

「「「ッフーーーー!!!」」」

「ギャ――」

 臆せず黒い三連星ばりの突進。モンスターは粉々に砕け俺たちの点数になった。

 正直モン○ンのブルファンゴを想起させた。あいつらタイミングずらしてハメてくるからなマジで。

「見えて来たぞ」

 森から姿を現したのは大きなレンガ造りの塔。もといドルアーガの塔だ。

「高いなぁ」

「東京タワーくらいあるんじゃない?」

「無いと思うぞ」

 帝江が緩やかに停止し、降りて塔の木製の厳重な門を調べてみた。手で触れてみるとデジタルな文字が浮かび上がり、『耐久値/100%』と表示された。

「どうやら壊して入るみたいだ」

「じゃあ、えい!」

 俺たちは門から少し離れ、瀬那が爆炎符を放った。

 門に当たり爆ぜる火球。

 『耐久値/99』と表示された。

「1パーセントだけぇ……? 自信無くすんですけどー」

「けっこうな威力だったがしぶといな」

 並のモンスターなら一発で屠れる爆炎符でも結果はコレ。いよいよこのドルアーガの塔はスペシャルな気がする。

「俺もチャレンジしよかなー」

 そう言いながら拳を作って門の前へ移動した。二人は様子を伺っている。

 オーラ剣で斬りつけるのもいいけど、一応扉だから手で行こうかな。

「すーっ」

 拳にオーラを纏って体を捻って大きく振りかぶる。

 そして――

「ッ」

 轟っとインパクト。

 衝撃波が辺りを風吹き、『耐久値/0』と表記されたと同時に門そのものが大きく瓦解。塔の中にいたモンスターもろともを巻き込んで向こう側の壁を突き破って森へと消えていった。

 リストバンドに点数が入った音が鳴る。

「♪~」

 口笛ふいて余裕ぶってるけど、内心はオーラと至高肉体を合わせ技は使えると思う俺だった。

「……筋肉モリモリマッチョマンの変態だな」

「キャーーー萌すてきぃいいい! さっすが萌だね!」

 腕を組んで肯定してくれる月野。瀬那は抱き着いて来た。

「よーし」

 さて、中に入って行こうか。
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